艦隊これくしょん外伝 壊れた懐中時計   作:焼き鳥タレ派

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第13話:崩れ行く心

鉄骨の和傘を差し、裸足で砂浜に立ち、彼女は海を眺めていた。

はるか向こうに広がる水平線、太陽できらめく大海原。今日も海は凪いでいた。

物思いに耽る大和に俺はゆっくりと近づく。気配に近づき彼女が振り向く。

俺は立ち止まり、大和に告げた。

 

「……ただいま」

「提督!!」

 

その一言で彼女は全てを察し、和傘を振り捨てて走ってきた。

駆け寄ってきた大和を俺は思い切り抱きしめた。

 

「やったよ、みんな生きて勝利してくれた。大和、君の力あってのことだ」

「……私は、私は、提督が約束通り帰ってきてくれて、それだけで満足です」

「ありがとう。俺達は歴史に勝てる、みんなが証明してくれた。

俺はもう自信を持って作戦を決行に移せる」

「ぐすっ……教えてくれませんか?“涙なき世界”へみんなを導く、貴方のお考えを」

「ああ。これがみんなを理想郷へ導く鍵だ」

 

俺は大和に、思いつきから生まれた唯一の手段。この次元に“ずれ”どころではなく、

巨大な穴を開け、新世界へ皆を導く方法について説明した。

しかし、徐々に彼女の顔が険しくなる。

 

「そんな!それじゃ提督は消滅してしまうじゃないですか!言ったじゃないですか!

特攻なんてしちゃいけない、繰り返しちゃいけないって!」

「俺は死なない!」

「……!」

「新世界の扉が開けば、向こうでまた会えるんだよ!

もしかしたら知らない者同士になっているかもしれない、でも、きっとまた巡り会える。

俺達がこうして世界を越えて出会えたように!俺は、そう信じてる」

「でも……私いやです。提督と他人同士になるなんて……」

「そうなると決まったわけじゃないさ。ひょっとすると鎮守府は大きな会社になってて、

君はそこで働く敏腕ビジネスウーマンになってる、ってことも考えられるんだぞ?

そうなると……俺は社長だな。ほっほっほ、苦しゅうない。なんてな」

 

俺はわざとおどけてみる。

 

「……もう、提督ったら。いつも肝心な時に冗談ばっかり」

「こりゃもう癖だな。どうしようもない。初めて君に出会ったときもそうだったっけ」

「出会っていきなり“ラムネくれ”なんて考えられないですよ、普通!」

「まぁ、それは勘弁してくれよ。あの後ごちそうしたじゃないか。焼き飯5人前~」

「もう、提督のいじわる!」

「アハハハ……」

「ぷっ、くふふふ……」

 

俺達はしばらく笑いあった。心の底から。希望に満ちた笑い。

ひとしきり笑った後、俺はポケットから銀の懐中時計を取り出し、彼女に別れを告げる。

 

「……じゃあ、俺はもう行くよ」

「作戦の成功を祈っています。必ず理想郷で会いましょうね」

「ああ、約束する。それまでは、お別れだ」

「私もさよならは言いません。また今度」

 

そして俺は銀時計を高く掲げ、竜頭を押した。今度は安全に遡行する必要がある。

これまでの経験で身についた勘で時の流れに身を委ねる。

精神と肉体が分離されようとも不思議な現象に流されるまま、時の終着点、

俺が銀時計を拾った日にたどり着くのを待つ。そして、分離した心と身体が

再び一体になった時、何かが、パリン!と壊れるような音がした。

今は考えないようにしよう。精神を無駄に使ってはならない。

そして遡行が終わると俺は鎮守府の門の前にいた。

 

「ううっ!」

 

俺は思わず膝を付く。大和の前では我慢していたが、

2年以上の時間遡行は確実に俺の精神にダメージを与えていた。頭痛がひどい。

とりあえず執務室に戻って休もう。

 

 

 

 

 

「ああ……」

 

俺は執務室に戻ると、力なく椅子にだらんと腰掛けた。

俺は重い手で電話の受話器を取り、三日月の電波通信機の暗証番号を押した。

 

「はい、三日月です。どうなさいましたか、提督」

「どうもこうもねえよ、頭が痛くて仕方がない。頭痛薬を持ってきてくれ」

「わかりました。大丈夫ですか?あと、私も提督に用事があったのですぐ行きます」

「ああ、早くしろ」

 

ガチャンと乱暴に受話器を下ろす。10分ほどで三日月が薬箱を持って来た。

 

「失礼します、お薬をお持ちしました」

「遅いぞ!頭が割れそうなんだ、もっと急げ!」

「も、申し訳ありません、提督。早速頭痛薬を……」

「よこせ」

 

俺は三日月から薬をひったくる。成人2錠。口に放り込むが水がない。

使えないな、イライラする!まったく気の利かないやつだ。ごくりと錠剤を飲み込む。

 

「……あの、提督、電話でもお話しましたが、一つ要件が」

「手短に」

「はい、先月の作戦で戦死したあの娘の四十九日がもうすぐなんです。

提督に弔電を書いて頂ければと……」

「先月?……ああ、お前代わりに書いといてくれ」

「へ?」

「へ?じゃない。秘書なんだろう、提督の代わりにそれくらいの雑用はやっておけ」

「そんな……!配属されたばかりで一生懸命だったあの娘の法要なんですよ!?

提督もすごく悲しんで!」

「大声を出すな!頭が痛いと言っただろう!病人働かせる気か?

他に要件がないなら下がりたまえ!」

「……失礼、します」

 

畜生、薬はまだ効かない。ああ、無性に腹が立つ。

使えない秘書艦だ、この忌々しい頭痛で苦しんでる時に雑用持ってきやがって。

 

 

 

なんで?どうしてですか提督?あんな怖い人じゃなかったのに……

それに、あの娘の法要を、“雑用”だなんて!

提督も、荷が重い作戦を与えたと随分ご自分を責めていらしたのに……

いや、きっと頭痛のせいよね。頭痛って酷い時は本当に苦しいもん。

提督だって辛い時は辛いんだ。明日にはきっといつもの提督に戻ってくださいます、

きっと……

 

 

 

くそ、俺は何を言っていたんだ!!あの娘の弔電を雑用などと!

……頭痛が幾分和らいだ俺は冷静さを取り戻していた。

きっと2年以上に渡る時間遡行の直後で精神が不安定になっていたんだろう。

明日、三日月に謝ってあの娘の弔電を書かなければ。そうだ。この3ヶ月は静養に努めよう。

決行はいつでもできる。心の力を蓄えよう。

俺は鞄を持って、まだ頭痛が残る頭に気を遣い、ゆっくりとした足取りで家路に付いた。

 

そんな提督の姿を本館の屋上からシルクハットの少女が眺めていた。

 

「アハハハ!とうとう、とうとう終わりが始まりましたわ!

“良心”が崩壊寸前までひび割れてる!さぁ、物語もいよいよクライマックス。

どんな結末になるのかお楽しみ!」

 

 

 

翌日。出勤した俺は門を通り抜け、執務室に向かう。

だが、頭痛が完全に消えたわけではない。脳の芯がうずくような感覚が消えない。

まぁ、昨日のような激しい頭痛ではないから気にしなければ済む程度だが。

今日から仕事は控えめにして、定時退勤を心がけ、早めに睡眠を取り、静養を心がけるのだ。

……何のためだ?何に備えて?そんな大きな仕事あったっけ。

 

「提督、おはようございます!」

 

いかん、まただ!気にはなっていたが、何かがおかしい。

脳から大事なものが抜け落ちたような気がする。記憶?か何かだろうか。

 

「提督?どうかなさいましたか?」

 

そうだ、思い出した!俺は時間遡行の力でみんなを新世界へ導くために戦っているんだ。

くそ、たかが2年の遡行でこの有様じゃあ、今の段階では作戦決行は無理だ。

 

「なんですか?時間なんとかや新世界って……」

 

その為の静養だ、疲弊した精神を休める為、あの世界への扉を開く為だ!

よし、今日の仕事は早めに切り上げて休もう。ああ、そうしよう。

 

「行っちゃった……ひどくお疲れみたいだけど、私、どうすればいいの?」

 

バタン!執務室のドアが閉じられる。三日月に気付かず提督は行ってしまった。

ただ立ち尽くす三日月。彼自身は気づいていなかったが、その目に生気は宿っておらず、

何かの命令に従って動くロボットのように意思が感じられなかった。

そして、それからというもの、提督は人が変わった。

 

「もう5時か。よし、俺は帰る。三日月。この書類、明日までにまとめといてくれ」

「え、こんなに!?」

 

デスクには山と積まれたファイルの山が。

 

「ああ。もう定時だし、そもそもこんなの提督の仕事じゃない。じゃあ、頼んだぞ」

「お疲れ、さまでした……どうしよう、徹夜だよこんなの」

 

 

 

艦娘と積極的に交流しようともしなくなった。

 

「提督!北部の海域に遠征に行っていた部隊が帰還しましたよ!迎えに行きましょうよ!」

「何故だ。彼女らは自分の仕事をした。それだけだろう」

「何故って……いつものことじゃないですか。

みんな過酷な遠征でも提督が労ってくれると疲れを忘れるって……」

「知らん。回収できた物資だけ報告してくれ。我が鎮守府の財政は厳しい。

補給物資以上の成果を上げて貰わなくては困る」

「……」

 

 

 

失われた“優しさ”

 

“痛い、痛いよ……”

“だめだ、今の私達じゃ、あの旗艦に勝てない……”

“お願い、誰かお風呂に連れてって……足が痛くて動けないの……”

 

「提督、アルフォンシーノ方面へ出撃した空母部隊ですが、敵艦隊の猛攻に攻略を断念。

撤退致しました」

「……成功するまで帰ってくるなと伝えろ」

「え……今何と?」

「出撃は遠足じゃねえんだぞ!ただでさえ大飯食らいの空母を

わざわざ遠くまで動かした結果が“撤退しました”だ?損害がいくらになると思ってる!

弾薬だけ補給して再出撃させろ、今すぐにだ!!」

 

報告書を持つ三日月の手が震える。そして彼女がこれまで抱えてきた感情が爆発した。

パン!三日月は報告書を床に叩きつけた。

 

「何の真似だ……」

「提督、最近の貴方はお変わりになってしまいました……一体何があったのですか!?」

「……何もない。俺はいつもどおりだ!」

「隠さないでください!みんな心配しています!私達も力になりますから、

お願いだから私達も頼ってください!」

「必要ない。下がりたまえ」

「私達じゃ頼りないですか?どうにもならないことなんですか!?」

「……同じことを、二度言わせるな!」

「申し訳ありません。失礼致します……」

 

三日月は散らばった報告書を拾い上げ、寂しげに執務室から出ていった。

室内に静寂が降りる。

 

「俺は……休むんだ。休まなきゃいけないんだ。みんなの新世界のために……」

 

 

 

そして、提督の帰還から3ヶ月後

 

「ごめんなさい夕雲ちゃん!許して……許して!

私が、ちゃんと私が後ろ見てなかったから……うわああああ!!」

 

母港で泣き崩れる秋雲。何度も見てきた同じ結末。早くも三日月が報告にやってきた。

 

「提督、もうご存知かとは思いますが……」

 

“私が殺したんだああ!!”

 

鎮守府に響く秋雲の悲鳴。三日月は重い口を開こうとした。

だが、わかりきったことを今更聞く必要はない。

 

「ああ。夕雲轟沈、だろう。わかっている」

「!?……それだけ、ですか?」

「どうした、報告はそれだけか。なら下がってよし」

「……失礼します!」

 

一瞬軽蔑するように俺を睨み、三日月は執務室を出ていった。この視線にもとうに慣れた。

だが問題はない。こんなことにはならない。全ての悲劇は起こらない。

そう、涙なき世界の為に。ここ3ヶ月でだいぶ精神は落ち着いてきたような気がする。

何か抜け落ちた感覚は消えないが。念のためもう一度3ヶ月休むか。

1回の遡行なら大して負荷は感じなくなった。

 

リン、リン、リン、リン……

 

シルクハットだ!どこかで小さな音が鳴っている。だがどうでもいい。

どうせ時間遡行すればさよならだ。俺はポケットから銀の懐中時計を取り出し、

竜頭を押……そうとした。だが、指が動かない。

 

「ごめんあそばせ」

 

シルクハットがドアを開けて入ってきた。俺の指だけが時間停止されているのか!

 

「お前……何のつもりだ。なぜ今更時間遡行を邪魔する!」

「ちょっとした仕返し、といったところかしら」

「仕返しだ?」

「貴方がMI攻略を成功させて、死ぬはずだった5人を生還させたせいで、

歴史の並びが、ほ~んのごく僅かですけどずれてしまいましたの。

正常な時の運行を管理する我々にとっては見過ごせない事態。

おかげで局長からお叱りを受けてしまいましたわ……この屈辱が貴方に解って!?」

 

激怒するシルクハット。いい気味だ。

 

「そりゃ愉快だ。いっそ死刑になりゃ笑えたのに」

「だから私も愉快な思いをさせてもらうことにしましたわ」

「一応聞いてやるから話してみろよ」

「ちょっとしたショーを見物しに来ましたの。主演にいなくなられては困りますから

貴方の時計は止めさせてもらっていますわ」

「ショーだと?」

「ふふ……」

 

シルクハットが金時計の竜頭を押す。再び規則正しい音色が響く。

すると夕暮れ時があっという間に夜に変わり、奴が時刻を確認した。

 

「さぁ、開演の時間ですわ。皆さんどうぞお入りになって」

 

ドアが開き、三日月を始めとした艦娘達がぞろぞろと執務室が入ってきた。

皆、厳しい目、悲しげな目、哀れむ目、様々な視線を俺に向ける。

 

「おい、シルクハット。どういうことだ。お前らもなんだ、一体何の用だ」

 

シルクハットは何も答えず、代わりに天龍が進み出て、俺の胸ぐらをつかんだ。

 

「……この野郎、一人で馬鹿なことしてんじゃねえよ!」

「何を言っている。手を離せ」

「そんなに心がボロボロになるまで……!オレ達がいつそんなことしてくれって頼んだ!!」

「!?……貴様ぁ!」

 

俺はシルクハットを睨みつける。奴はどこ吹く風といった感じで無視する。

 

「私はただ?貴方の功績を皆さんにお伝えしただけですわ。

MI奪還作戦の功績とその過程について」

「こいつ……!」

「お前の相手はオレだろうが!」

「話すことはない!ただ部下の死を避けようとすることの何がいけない!?」

「お前提督のくせに部下の気持ちもわかんねえのかよ!見ろよこいつらを!

助けを求めてるように見えるか?自分のせいでお前がボロボロになってるって、

泣いてるやつもいるんだぞ!」

 

俺は艦娘達を見回す。人だかりの中からすすり泣く声が聞こえる。MI攻略に参加した三隈だ。

 

「ううっ……その子から聞きました。一度目は私のせいで加賀さんが死んじゃったって。

そのせいで提督が時間を遡って私達を勝たせてくれたって。

でも!もう、こんなことは止めてください!私達の代わりに、

提督が死んじゃうじゃないですか……うう、ああああ!!」

「違う、違うぞ三隈!俺は死ぬためじゃない。生きるために戦ってきた。俺達みんなで生き残る、そのための戦いだったんだ!」

 

わかってくれ三隈。俺は三隈の両肩に手を当て、彼女に戦いの意味を説く。

だが再び天龍が俺の肩を掴み、強引に自分に向き合わせる。

 

「これ以上余計な真似すんじゃねえ!何が“涙なき世界”だ!

こんなに部下を泣かせてヨロヨロになってるやつに何ができる!」

「黙れ!お前に何がわかる!歴史に身を任せていたら、

お前達は永遠に無為に殺し、殺されなければならないんだぞ!」

「提督、それは私達が力不足だということですか」

 

今度は金剛が前に出た。真剣な口調で俺に問う。

 

「そんなレベルの問題じゃない。俺はこの目で見たんだ。

この世界は無数の定められた時間で構成されている。その定めに死を運命づけられた者は

必ず死を遂げる。確かに俺は2年後にMIを攻略し、赤城達を生還させた。

だが、それも束の間。歴史は彼女達の生を許さない。必ずいつか報復してくる!」

「そう……でも提督、忘れないで。愛する人が傷つくくらいなら、

滅びの運命を受け入れる者もいるってことを」

「ぐっ……俺は、お前達を……失いたくない……!」

 

いつの間にか目から何かが溢れていた。悲しいのか、辛いのか、

もう自分の感情が何色なのかもわからない。ただただそれを垂れ流していた。

そんな俺の肩に長門が手を置く。

 

「提督……お願いだ。今すぐこの活動を中止してくれ。

貴方が我々を失いたくない気持ちと同じくらい、我々も貴方を失いたくないんだ。

この長門の全てを賭けた、最後の具申だ……!」

「あと一歩、あと一歩なんだぞ!諦めろというのか!皆の死にゆく様を、

座して見ていろというのか!ようやく見つけた理想郷を、諦めろというのか!!」

 

叫ぶように訴える俺を赤城、加賀が説き伏せる。

 

「提督は思い違いをなさっています。私達艦娘は人々を守るために生まれた存在。

誰かを苦しめてまで生き永らえたいと思う者は誰一人としていません」

「貴方のしていることは善意の押し売りです。

この光景を見て、貴方が悲しみを撒き散らしていることがわかりませんか?」

「お前達だって死んで悲しむ者がいるじゃないか!

死んで深海棲艦となって、かつての仲間とまた殺し合いをする!

その悲しみは加賀、お前の方がよく知っているだろう!?」

「それは……」

 

加賀は顔を背ける。僅かな沈黙の後、カタカタと高下駄のような艤装を鳴らしながら

龍驤が俺の前に立った。

 

「なあ提督。未来の提督は、こんな苦しい思いしながら、

ウチらと冗談言ったりケンカしたりしてたんか?

ウチ、提督とはケンカばっかりしてたけど、友達やと思ってた。

友達なら悩んでることも苦しいことも一緒に抱えていくもんなんと違うん?

それともウチら、ただの知り合いでしかなかったん?」

「時には一人で向き合わなければならない壁もある。

大事な友人だからこそ、背負わせたくない荷もあるんだ!」

「そんなん、寂しいやん……」

 

龍驤が今にも泣き出しそうな顔で言う。とうとう堪忍袋の緒が切れた天龍が俺に近づいて、

 

「いい加減目ぇ覚ましやがれ、馬鹿野郎!」

 

ドガッ!俺を思い切り殴った。倒れ込んだデスクが派手に倒れ、周りから悲鳴が上がる。

頭に血が上った俺も口元の血を拭いながら立ち上がり、

 

「この野郎……いちいちうるせえんだよ!!」

 

ドゴォ!加減も忘れて殴り返す。今度は天龍が後ろに倒れる。

 

「天龍ちゃんも提督も止めてください!」

 

龍田の悲鳴も無視し、俺は続ける。

 

「立て。ここでケリをつけるぞ」

「……面白え、人間が艦娘に勝てると思ってんのか」

「ほう……腕一本なくしても砲は撃てるよな」

 

俺は後ろに手を回し、腰に手を、

 

コツン……

 

「……!」

 

その感触で我に返った。フラッシュバックする彼女の顔。

 

「どうした、かかってこいよ!」

「出て行け……」

「あ?」

「提督命令だ、全員今すぐここから出て行け!!」

「な、なんだよ急に……」

 

もう一人になりたい。しかし、大声で叫んだが、天龍を始め、出ていく者は誰もいない。

 

「わかった、もういい。俺が出ていけばいいんだろう……」

「あ……」

 

天龍も振り上げた拳のやり場を失い、他の者もどうしようもなくただ立ち尽くすのみだった。

皆、どうしていいか分からず互いを見やる。その時、

 

バァン!!

 

銃声。

皆、驚き慌てて執務室から飛び出す。俺は開いた窓から夜空に向けて拳銃を撃った。

 

バァン!!

 

さらにもう1発。銃口から硝煙の立ち上る拳銃を構えたままつぶやく。

 

「……歴史なんぞに殺されてたまるか」

 

俺は拳銃をぶら下げたまま、廊下を歩き、階段を降りて本館から出ていった。

 

 

 

廊下の隅で佇むシルクハット。

 

「ふふふ、いい見世物でしたわ。……では、局員の皆さん。そろそろ回収に動いてくださいな」

 

 

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