艦隊これくしょん外伝 壊れた懐中時計   作:焼き鳥タレ派

17 / 18
最終話:ララバイ・オブ・ユー

西暦2147年。

雪の降る街。明るい光の灯る高層ビル群が立ち並ぶ。建物の向こうを眺めると、

そのビルをも遥かに凌ぐ、まさに天を衝かんばかりの摩天楼が見える。

厚着をした人々が楽しそうに行き交う。

 

どんな世界であろうと戦争が文明の進歩を促すものだ。しかし、この世界は、

教科書にほんの2,3行で紹介されるほどの戦しか経験してこなかったため、

ゆっくりとした発展の道を歩んでおり、

現在の文明レベルは“破滅した世界”でいう2016年に達したところである。

 

今はクリスマスシーズン。皆、この街の賑わいを思い思いに楽しんでいる。

共通しているのは、誰もが笑顔だということ。

 

 

恋人と腕を組む者。

 

「龍田さん、このカフェに入らないかい?極厚パンケーキが美味しいって有名なんだ」

「フフ、天龍ちゃんには内緒にしてね。あの娘すぐすねるから」

「わかってるよ。じゃあ、行こうか」

 

 

友人達とウィンドウショッピングを楽しむ者。

 

「見て見て夕雲ちゃん!この雪だるまパン、チョー可愛いよ!」

「私はこっちのサンタさんが好き……秋雲ちゃんそっくり」

「えー!私のどこがヒゲおじさんなのよ!三日月ちゃんどう思う?」

「どっちって言われても……わ、私はこっちのトナカイさんがいいなーなんて……」

「あ、うまく逃げたわね~」

「このぽっちゃりしてるところとか、ウフフ……」

「言ったなこのー!」

 

 

将来に向け勉学に励む者。

 

「お姉様、急いでください!もうすぐ予備校の時間です!」

「霧ちゃん待って欲しいヨ……全速力で走ってアイムタイアード……」

「お姉様が電車を間違えるからですよ!何が“私がみんなをエスコートするヨー”ですか!」

「ハルちゃん、もういいじゃないですか、不可抗力ということで……今日、サボっちゃいませんか?」

「一家の次女ともあろう人が何を言っているのですか!神都大学の入試は来月なのですよ!」

 

 

華々しい人生を歩む者達。

 

“みなさんロープの後ろに下がってくださーい。録音、録画はご遠慮くださーい!”

“さぁ、いよいよ日米同時公開が来月に迫る、

大作アクションムービー《桜吹雪とグレネード》、主演のお二人のご入場です。

どうぞお越しください!”

 

“やっぱり艶やかだわ大和様……”

“女でも惚れちゃうわ。デイビッド様と釣り合うのはやっぱり大和様だけね!”

 

“それでは、さっそくですが、まずはデイビッド・j・カーネルさんから

一言お願いします!”

「Ms.Yamato is so mysterious and...(同時通訳)大和さんはとても神秘的で美しい、

今まで共演した中で最も魅力的な女性です。

彼女のお陰でとても素晴らしい作品に仕上がりました」

“では、共演の大和さんからもお願いします!”

「この作品は私が出演した中でも一番の自信作ですが、

それはデイビッドさんの熱演やスタッフの皆さんの努力あってのことです。

ぜひ観に来てくださいね!」

 

 

ビルの壁面に取り付けられた巨大モニターにCMが流れる。

 

<やほー!みんなのアイドル、那珂ちゃんだよ!元気かなー!?

私達のニューシングル、“ラブリィ☆ASROC!!”が、12月21日に発売だよ!

初回限定盤には、私達のブロマイドカードが入ってるよ!

レア・ホロもあるからよろしくねー!君のハートを、どこまでも……>

 

“うひょ~サンタコスの那珂ちゃんマジ天使すぐる!吾輩はCD10枚買うでござるよ!”

“チッチッチ、甘い、甘すぎるぜ鈴木氏~。男なら貯金はたいてCD100枚一点買いだろ~?

そんでメンバーのブロマイドカード即コンプでウハウハ!これぞ男のロマンっしょ常考”

 

 

そして、深海棲艦の名で呼ばれていた者。

 

「ママ!ゼロ、レップウ、カッテ!」

 

色白の少女が、おもちゃ屋のショーウィンドウの向こうに並ぶ、

戦闘機のプラモデルを指差す。

 

「ダメ、クリスマスマデ、ガマンシナサイ」

 

これまた色白で、足元まで届きそうな白いロングヘアの女性が答える。

身体の色に合わせた白のタートルネックのセーターが似合う、

おっとりした感じの背の高い女性。

 

「おやあ、1階の北方さんじゃない。こんにちは」

 

偶然通りかかった“コーポ渦潮”の大家が彼女らに話しかける。

 

「ア……オオヤサン、コンニチハ」

「本当外人さんなのに日本語が上手だねえ」

「ド、ドウモ……」

「バーチャン、ゼロ、レップウ、カッテ!」

「コラ、ヤメナサイ」

「ほほほ、玩具は無理だけど、帰ったらお菓子をあげようね」

「ヤッタ!」

「スミマセン……」

 

 

 

 

 

そんな大都会の真ん中に広い公園があり、ベンチの一つに男が座っている。

何かの制服だったであろう、汚れきったボロボロの服に身を包み、どこかから拾ってきた

古い毛布にくるまって寒さを凌いでいる。そんな男の前をビジネスマンや観光客、

そして、艦娘だった少女達が見て見ぬふりをして通り過ぎる。

 

 

こんにちは ぼくは えっと なまえを わすれました。

ぼくは ばかなので ことばが わかりません。 この こうえんに すんでいます。

 

 

男はゴミ箱から拾った食べかけのおにぎりをかじる。

 

 

ぼくは おにぎりが だいすきです。 なかみは おかかが すきです。

 

 

おにぎりを食べ終えると、途端に通行人の動きが止まった。

いや、車、野良犬、信号機、あらゆるものが空間ごと固定された。

つまり、時間が止まったのだ。しかし男はそんな超常現象を気にも留めず、

ただぼんやりと前を見つめるだけだった。彼にシルクハットの少女が近づき、前に立つと、

ステッキで男を指した。勝ち誇った笑みを浮かべているが、目の下には隈が浮かんでいる。

 

「あー……」

 

 

だれか きました おおきな ぼうしの おんなのこです

 

 

「ア、ハハ……アハハハハ!!無様ねえ!ノロマねえ!次元の穴が閉じる瞬間、

自分だけ足を挟まれて?新次元から旧次元の異物と認識されてこの有様!

この世界に旧世界の人間の居場所はないわよ!何度生まれ変わろうと、

新世界からはじき出されるお前は何者にもなれず、浮浪者として生きていくしかない!

超大型時間遡行で廃人になったお前は、人間になった艦娘共が

人生を謳歌するのを見ているだけ!アハ、アハハハ!アハハハハ!」

 

狂ったような笑い声を上げるシルクハットの少女。

だが、男はただ虚ろな視線を少女に向けるだけだ。

 

 

そうだ ぼくは ひとつだけ ことばを しっています はなしてみよう

 

 

「……ざまあ、みやがれ」

「!?……こ、こいつ!」

 

少女の顔がみるみる憤怒の形相に歪んでいく。

 

 

きゅうに おんなのこが おこりました きっと まほうの ことばです

 

 

「お前の……お前のせいだあぁ!!お前のせいで、もう私は、局長の、

……パパの一番じゃない!」

 

 

 

 

 

“……おい、遊びすぎなんだよ、お前。誰が宇宙狂わせるまで時計使わせろと言った!!”

“申し訳ありません局長!申し訳ございません!!”

“しかも貴重な局員3人も殺しやがって……てめえ何をぼさっとしてたコラァ!”

 

これまでの柔らかい口調から一転、ドスの利いた声で叱責する局長。

シルクハットの少女は平身低頭で頭を下げ続ける。

 

“申し訳ありません、彼らは時計ですぐ生き返らせますので……”

“もう手遅れだよ!再構築された宇宙では彼らの存在は消えている!

どうやって時の管理者補充するつもりだ?”

“そ、それは……”

“それに?ざっと見ただけで、太陽系はクォークレベルに分解、

マゼラン星雲では超新星爆発が爆竹みたいに弾けまくり、フェニックス銀河団では

中間質量ブラックホールが暴れまわってる……全部俺に掃除させる気かぁ!!“

 

ガン!と局長がデスクを蹴り上げ、怒声を上げる。

 

“ひっ……!”

“もういい、お前が時計回収すら満足に出来ない無能だということはよくわかった。

ただの局員に降格だ”

“そんな、それだけは、それだけはお許し下さい!どうかわたくしに

名誉回復のチャンスを!”

“駄目な奴は何をやっても駄目、俗語だが言い得て妙だよ”

“お願いします!局長のおそばで仕事がしたいのです!”

“後任は∠∬∂君、君にお願いするよ”

“かしこまりました。局長の為、時の正常な運行の為、全力を尽くします”

 

懇願する少女を局長は一蹴する。

そして少女の後ろから、魔女のように長い紺のローブに身を包み、

時計の歯車をあしらった三角帽子を被った女性が進み出た。

 

“うん、よろしく頼んだよ。おい、君。時計を彼女に渡したまえ。

ヒラの局員が持つものじゃない”

“……!これだけは!どうかこれだけは取り上げないでください。

わたくしの宝物なんです!”

“それは君のものじゃない。私が直々に開発した一点物。

貸与品だということを忘れてもらっちゃ困る。

……ああ君、彼女返す気がないみたいだから回収してくれたまえ”

“はっ”

 

影から紺の防弾ベストを装着した男が現れる。胸にはやはり歯車の紋章が刺繍されている。

男は少女から強引にミニッツリピーターを奪おうとする。

 

“やめて!お願い、これは……パパから貰った大切な!ああっ!”

 

防弾ベストの男は容赦なく力任せに金時計を奪う。そして三角帽子の女性に渡した。

 

“ご苦労様。じゃあ、∠∬∂君。これからの働きに期待しているよ”

“はい、お任せください”

“うう……うあああん!!”

“職場でみっともない泣き方をするんじゃない。……仕方ない、

君には代わりの時計を貸与しよう”

 

再び紺の防弾ベストが現れ、少女に懐中時計を渡した。ブリキ製の玩具と変わらぬ粗末な物。

 

“5秒だけ時間を前後できる。交通事故に遭った時なんかに使いたまえ”

“そんな……わたくしは、これからどうすれば……”

“ああ、そうだな。∠∬∂君の元で下働きをするといい。これからは彼女が上司だ。

精一杯尽くすように”

 

 

 

 

 

「お前のせいで何もかも失った!何が“涙なき世界”だ!私の人生を涙で濡らしておいて!」

 

 

おんなのこは おこって ばかりです こんどは わらって ほしいな

 

 

「う、あ……ざまあ、みやがれ」

「……殺してやる!!」

 

男を殴ろうと少女がステッキを振り上げる。しかし、どこからか女性の声が飛んできた。

 

「ちょっと○△※、何をしているの!いつまで私を待たせるつもり!?」

「も、申し訳ありません、只今!」

 

少女は男のポケットから懐中時計を抜き取ると、もう一度男を睨み、走り去っていった。

直後、時間は運行を取り戻し、何事もなかったように人や車が動き出した。

 

 

いっちゃった あ もうひとつ すてきな ことばが わかります。

なんでかというと みんな えがおだからです。

 

 

「……みんな、おめでとう」

 

 

きょうは たくさん しゃべったので ねむくなって きました。

 

 

かつて誰かだった男は、ゆっくりとベンチに身体を横たえ、目を閉じた。

 

 

おやすみなさい……

 

 

 

 

 

 




これまで長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
“まぁ、こんなもんでしょう”という方、お読み頂き本当にありがとうございました。
もし別作品を書くことがあれば、またご覧いただければ幸いです。
そして、“尻切れとんぼだろう”と思われた方に向け、
最後にエピローグを書いているところです。蛇足と思われる方は無視していただき、
興味のある方はお読みいただければと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。