艦隊これくしょん外伝 壊れた懐中時計   作:焼き鳥タレ派

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第2話:無限回廊の始まり

1巡目

 

俺は手に入れた、神の御業に等しい力を。いや、天が告げているのだ!

彼女らを縛る忌まわしき負の連鎖を断ち切れと、お前の力で成して見よと!

……しかし実際何をすればいい?しばらくは収まらなかった興奮も、

現実問題に向き合ううち徐々に引いてきた。このまま簡素な執務室の椅子に座していても、

いずれ訪れる悲劇をまた繰り返すだけだ。まずはそもそもこの戦いが始まった……

 

「……とく、提督!聞いてるんですか?」

「ん?ああ、悪い悪い。少しぼーっとしてたよ、はは」

「“はは”じゃないでしょ、もう。一応最初から報告しますね。

10:00、第四駆逐艦隊が南方海域にて敵艦隊と交戦、撃破。物資の鹵獲に成功し……」

 

やはり繰り返している。この報告も約三ヶ月前のものと一言一句違わない。

間違いなく俺は時間遡行の力を手に入れた。これを活かすも殺すも俺次第。

三日月を退室させた俺は思案に戻る。まずは基本に立ち返ろう。

そもそもこの戦いは、突如現れた深海棲艦なる怪物の侵攻により、

人類が地球上から制海権を失った事が発端だ。そこに現れたのが艦娘達。

特殊な艤装を装備し、自由に海を駆け抜ける彼女達が深海棲艦を駆逐し、

人類はわずかながら母なる海を取り戻した。だが、海軍の調査や艦娘が戦いで得た情報から、

その深海棲艦の正体は戦いで命を落とした艦娘の転生体であることがわかったのだ。

なんという皮肉だろう。では、この鶏と卵の関係はいつ、どのようにして

生まれたのだろうか。わからない。情報が必要だ。俺は別棟の図書館に向かった。

 

 

 

少し埃っぽい図書館に着いた俺は、早速三桁の番号とカテゴリーが記された書架を

探して回った。『戦記』の書架を見つけた俺はめぼしい本を探してみる。

『対深海棲艦戦闘記録』違う。戦果じゃない。俺が欲しいのは根本的な何かだ。

『艦娘の建艦方針手引書』惜しいが違う気がする。生まれる前が知りたいのだ。

 

「あら~、提督。読書の気分ですか?」

 

俺が多くの本の前でうんうん唸っていると、龍田さんがのんびりとした声を掛けてきた。

いつの間にか気を張り詰めていたので少しほっとした。

 

「ああ、うん。ちょっと深海棲艦の生体について調べようと思ってるんだ」

「勉強熱心なんですね~。それじゃあ、これなんかどうかしら」

 

博識な彼女は書架から迷わず一冊の本を取り出した。『深海棲艦の起源と歴史』

ドンピシャだった。

 

「ありがとう!参考になりそうだよ、早速借りてくる!」

「どういたしまして~」

 

龍田さんに礼を言い、カウンターで手続きを済ませると、急いで執務室に戻り

分厚い本を開いた。目次を見ると『深海棲艦出現確認地点』。

そのものズバリのページがあった。はやる気持ちを抑えてページをめくると、

そこには不気味な光景が広がっていた。深海に朽ち果てた“艦”らしきものが

沈んでいる様子が写真に収められていた。折れ曲がり、もはや使い物にならないが、

かつて三連装砲だったであろう兵装からも、それが軍艦であったことが窺える。

確かに深海棲艦が現れるまでは各国もこういう軍艦を保有していたが、

この劣化の進み具合と奴らの出現時期を考えると辻褄が合わない。古すぎるのだ。

また袋小路に入る。やはり書物の情報だけでは不十分か……。

俺はついに艦隊を動かすことに決めた。

 

 

 

「いいか吹雪、夕立。今回の目的はあくまで調査でお前達は潜水部隊の命綱だ。

避けられる戦闘は避けて、接敵したら迷わず撤退。いいな?」

「了解です。でも提督、深海に一体何があるというんですか?

駆逐二、潜水三の編成はいつもと違うような……」

「資材確保の遠征なら、もっと効率いい編成あるっぽい」

「ぶーたれるんじゃありません!えーとこれはだな……。温故知新というやつだ。

みんなも海底に沈んだ艦艇らしきものがあることは知ってるよな?

そこにある資料になりそうなものをできるだけ持ち帰ってほしい」

「いわゆる……サルベージ?」

「そう、それU-511!さすがみんなのお姉さん的存在!」

「Danke…」

「ニムも頑張っちゃうから!期待しててよね、提督!」

「それじゃ、行ってくるでち。ゴーヤ、潜りまーす!」

「みんな気をつけてなー!」

 

艤装で身を固めた艦娘達が、各々出撃ドックの『出撃』パネルを踏み一気に加速。

大海原へ旅立っていった。めぼしいものが見つかるといいが。いや、そうでなくては困る。

彼女たちにとってはこの美しい母なる海も、一つ誤れば巨大な棺桶に姿を変える

魔の領域なのだ。一日も早く、この無意味なループを断ち切らなければ。

俺は決意を新たにした。

 

 

 

どこかの次元のとある場所、時間が意味をなさないところに“そこ”はあった。

洋館の大ホール中央に広い真紅のカーペットが敷かれており、

それを挟むように大勢の者たちが整列していた。

カーペットの先には大きなデスクと革張りの椅子があり、何者かが腰掛けている。

皆、制服のような物を身にまとっていたが、制服というにはほとんど統一されておらず、

マントを着る者、帽子が二つに尖っている者、短いケープを羽織るもの、多種多様であった。

共通しているのは紺色と、どこかしらに時計の歯車があしらわれている

という点だけであった。

 

今、デスクの人物の前にダブルのスーツを来た大柄な男が立たされており、その周りを、

歯車の模様がデザインされたシルクハットを被った少女がゆっくりと歩いている。

紺のブレザーに赤いスカート。両方のブロンドを縦にカールした可憐な少女だった。

そんな彼女が男に質問をぶつける。

 

「……貴方、時計はどうなさったのかしら」

「も、申し訳ありません次長!いつの間にかポケットに綻びた穴が……」

「ど・こ・に・あるのか聞いていますの」

 

顔は笑っているが、不気味な凄みを効かせて怒りを露わにする少女。

少女が大男を詰問する奇妙な構図。

 

「紛失致しました……」

「はぁ、貴方この1年、この次元の暦ですけど、この1年で時計の紛失は何度目かしら?」

「3回……であります」

「我々の時計が局長直々の賜り物だということは理解していらっしゃるかしら?」

「ええ、それはもちろん……!!」

「だったらこの体たらくは何ですの!?」

 

少女が男にステッキを突きつける。今度は笑っておらず、怒りに顔を歪ませていた。

 

「一度目は酒に酔って置き忘れ、二度目は鞄ごと置き引きに遭い、三度目は?

ポケットに穴が開いてたと。前から考えていたのですけど、貴方、

この仕事に向いていらっしゃらないんじゃないかしら。記憶を消去して

どこか適度に文明のある惑星に放置したほうがお互いのためかもしれませんわね」

「そ、それだけはお許しを!必ず探し出しますのでそれだけは……」

「お心当たりはあって?」

「それは……様々な宇宙空間の時間運行を点検しておりました故、少しばかりお時間が……」

「もういいですわ。貴方、少し頭を冷やされたほうがいいみたいですわね。氷河期辺りで」

「お待ち下さい、今一度、今一度機会を!」

 

少女は男の懇願を無視して内ポケットから純金のミニッツリピーターを取り出した。

竜頭を押すと、リン、リン、リン、リン……聴くものを惹きつける規則正しい美しい音色が

ホールに響く。すると同時に、背後から見えない何かに掴まれるような感覚が男を襲った。

そして次の瞬間、スルッっと音もなく男が次元に開いた点に吸い込まれた。

悲鳴を上げる間すらなかった。

 

「ハハハ、相変わらず君は手厳しいなぁ」

 

デスクに座って口の前で手を組む男が笑った。逆光でその顔は見えない。

 

「当然の報いですわ。それに私たちに“死”の概念はありませんし、

これくらいでちょうど良いかと」

「しかし困ったなぁ。いくら低スペックとは言え、あれが普通の人間の手に渡ると

色々とあれだし」

「私にお任せくださいまし。やたら行動範囲だけは広かった、

あれの道順をトレースするのは私の時計でなければ無理かと」

「助かるよ。有能な部下がいると実に助かる」

「勿体なきお言葉」

 

少女はスカートの両端を摘んで軽く腰を下げた。

 

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