艦隊これくしょん外伝 壊れた懐中時計   作:焼き鳥タレ派

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第3話:ほつれだした糸

2巡目

 

……見つからない。

 

「……いいか吹雪、夕立。今回の目的はあくまで調査。潜水部隊を守れ。

余計な戦闘はするな。いいな?」

「了解です。でも提督、深海に一体何があるというんですか?

駆逐二、潜水三の編成はいつもと違うような……」

「資材確保の遠征なら、もっと効率いい編成あるっぽい」

「軍事機密だ、いいから行け!」

 

なんの進展も無い苛立ちから、つい声を荒らげてしまった。“1巡目”で、

あれから他の任務の合間を見つけては何度もサルベージを試みたが、

どの海域でも目立った成果は得られなかった。

錆の塊と化した軍艦には藻とフジツボ、粉々に砕けた備品の類しかなかった。

 

「あ……すまない。みんな、とにかく気をつけて行ってきてくれ」

「わ、わかりました。吹雪、出ます!」

 

他の艦娘達も次々と出撃し、最後に残ったU-511が話しかけてきた。

 

「Admiral…」

「どうした、U-511」

「貴方、ひどく疲れた顔してる。自分の心配もしてね」

「え……?」

 

言い残すと彼女も海へ飛び出していった。思わず頬に手を当てる。後で鏡を見てみよう。

執務室に戻った俺は机に広げた海図を眺める。

そして半透明な六角形で細かく区切られた海域を赤で塗りつぶす。

何も見つからなかった、いわばハズレ。

1巡目で塗りつぶしたところも時間遡行でやり直しになったので少々面倒だが仕方がない。

何もない海域を浮かび上がらせることで何か発見があるかもしれない。

俺は色鉛筆で丁寧に六角形に色付けしていった。

 

“貴方、ひどく疲れた顔してる。自分の心配もしてね”

 

ふと、U-511の言葉を思い出す……これが終わったら少し早めに休もう。

きっと俺の計画は長くなる。こんなところでへばってはいられない。

よし、気合い入れるぞ!俺は自分に活を入れた。

 

 

 

4巡目

 

うんざりだ!1年かかってこのザマか!!

 

“私が殺したんだああ!!”

 

母港から秋雲の悲鳴が聞こえる。俺は耳を塞いで机に頭を伏せた。

嫌なことに夕雲の死がタイムリミット、つまり時間遡行の合図となった。

俺が懐中時計を拾ってからちょうど三ヶ月に彼女は死ぬ。連続して遡行することも考えたが、

時計の使用は極力必要最小限に抑えたかった。

時間遡行の際の精神をかき回されるような感覚は、

俺の心をガリガリと削っていくような気もするし、この時計、竜頭の柱がなんだか頼りない。

何かのはずみで折れたりしたら俺の戦いはご破算だ。

 

コンコンコン……

 

ドアがノックされる。三日月だ。わかっている。

 

「……入ってくれ」

「失礼します。もうご存知かとは思いますが……」

「ああ、聞いたよ……助けられなかった」

「提督のせいじゃありません!戦場では状況は目まぐるしく変わります!

それを読み切るなんて誰にも……」

「いいんだ。もう一度、次こそは……」

「提督?」

 

俺はポケットから懐中時計を取り出し、竜頭を押そうとした。が、大事なことを忘れていた。

潜水部隊の帰還がちょうど今日だった。俺は執務室へ出て母港へ向かう。

秋雲はもういなかった。友人に付き添われて宿舎に戻ったらしい。

 

「ただいまー今回の遠征はちょっと疲れたっぽい~」

「あ、提督!吹雪、遠征任務を完了し、ただいま帰還しました!」

 

地面でへばる夕立とは対称的に、律儀に敬礼をする吹雪。

 

「ご苦労だった。それで?何か見つかったのか!」

 

今度こそはと何度も裏切られてきた期待を込めて吹雪に問う。

 

「それが「じゃ~んこれ見て提督!」」

 

吹雪に割り込んで伊58が飛び出してきた。そして両手に黒い物を乗せて差し出してきた。

 

「今回もガラクタばっかりだったけど、おっきなウニがいたんでち!提督にあげるでち。

最近元気ないからこれ食べて元気出して欲しいでち!」

「……ふふ」

「提督?」

「ふ、ふふ、ふざけるなあぁ!」

 

パシィ!

 

気づいたら伊58の手を払っていた。せっかくのウニは海に落ちてしまった。

 

「!?」

「お前達は任務を舐めてるのか!何度“成果なし”を繰り返せば気が済む!?

俺を太平洋全域の調査が終わるまで待たせる気か!」

 

彼女達に非はない。遠征で何かが見つかる保証など最初から無い。

わかっていても止まらない、止められない。エゴをむき出しにして艦娘達を怒鳴る。

 

「遠征任務もタダじゃないんだぞ!お前達が手ぶらで帰ろうが燃料弾薬は消えていく!

さんざ資材を費やして持ち帰った成果がウニ1匹か!?」

「ご、ごめんでち……」

「待って、ゴーヤは悪くないよ。ちょっと提督の言い草ひどいっぽい!

そりゃ私達はいいよ、成果を出せなかったのは事実だし。

でも、ゴーヤに手を上げたのは謝って!」

「……夕立。いつから提督に具申できるほど偉くなった……」

 

血走った目で夕立を睨む。体内時間で1年。同じ3ヶ月の繰り返し。見えない成果。

繰り返される悲劇。それらでところどころメッキの剥がれた理性から傲慢さが溢れ出す。

 

「ならば私が言いましょう。彼女達に謝罪してください、提督」

 

振り返るといつの間にか厳しい目で俺を見据える艦娘が、腕を組んで立っていた。

屋外に響き渡る怒声を聞きつけた戦艦長門だった。

 

「……優秀なお前まで、こいつらの肩を持つ気か」

「一体何をお考えなのです。司令室まで聞こえるほどの大声で。

成果が保証されている遠征などないことくらいご存知でしょう」

「任務失敗を正当化する気か!貴様ら全員軍法会議に“パァン!”」

 

長門が俺の頬を張った。乾いた音と痛みで頭に上った血が覚めていくような気がした。

 

「上官への暴力、如何様な罰も受けましょう。しかし、彼女達に謝罪してください。

その具申だけは撤回するつもりはありません」

「……いや、いい。俺が悪かった。みんな、伊58、すまなかった。

俺がどうかしていたよ……」

 

俺はボソボソとつぶやくとおぼつかない足取りで立ち去ろうとした。

 

「提督、待ってください!」

「吹雪……」

「提督は何を探していらっしゃるんですか!?こんなに必死になって

ただの歴史資料を探すなんてどう考えてもおかしいです!」

 

頬を何かが伝う。涙ではない。心から剥がれ落ちた何かだった。

 

「みんな、助けたいんだ。それは、本当なんだ……」

 

そして懐中時計を取り出し、竜頭を押した。

 

 

 

5巡目

 

遂にこの日がやってきた!

 

「駆逐艦吹雪、ただいま帰還しました。こちらが今回の回収品です!」

「ふぅ~これでやっと面目立ったっぽいね」

「ユー、頑張った……」

「ゴーヤが一番!MVPだもん!」

「遠征にMVPはないよ、ゴーヤ。それにニムのことも忘れてもらっちゃ困るなぁ~」

「おお……よくやってくれた。みんな、ありがとう、ありがとう……!!」

 

感激の余り全員に握手をして回る。

 

「ふふん。そりゃあ、ニムの水中探信儀にかかれば……ってやだ提督泣いてんの!?」

「これは~……いくらなんでも引くっぽい」

「へへ、うるせえやい……」

 

実際俺は泣いていた。そういえば、最後にプラスの感情を抱いたのが、

ずいぶん昔のことのように感じる。

ガラス製の台には『昭和海戦全記』と記されたびしょ濡れの分厚い本が置かれている。

幸い表紙が頑丈なつくりになっており、焦らず分析室で安全に乾燥させれば

読めるとのことだった。俺は鼻をすすって伊26に尋ねた。

 

「この本、どんな艦に置いてあったんだ?」

「それが見たことのない変な艦でさー」

「変な艦?」

「そう。全体的に角張った感じで、砲が一門しかなかった」

「砲が一門?それでどうやって戦うんだろうか……」

「あと、後甲板に正方形の鉄板がいっぱい並べてあった。

大きさは軽巡クラスだったから輸送艦でもなさそうだったし……う~ん、ニムわかんない!」

「そうか。ありがとう……」

 

一体そんな箸にも棒にもかからなそうな艦が何の為に造られたのだろうか。

 

「はーい!ゴーヤからも質問!」

「どうしたんだい?伊58」

 

4巡目で彼女の真心を踏みにじってしまった罪悪感から、

無意識にいつもより優しく答えていた。

 

「あの本には一体何が書いてあるんでちか?」

「あれかい。実は俺にもまだわからない。でも、きっと役に立つことが書かれているんだ。

みんなを幸せにしてくれるような……」

「うっわ……今日の提督メルヘン入りすぎっぽい。熱ない?」

「はは。本当、変だな俺。ははは」

 

1年以上かけて、彼女達にとっては3ヶ月足らずだが、ようやく掴んだ希望。

心の底から笑う俺を半ば呆れて眺める仲間たち。

長い時間のかかったわずかな一歩だったが、涙なき世界へ近づいた気がした。

そして知ることになる。

 

希望は絶望の裏返しなのだと。

 

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