艦隊これくしょん外伝 壊れた懐中時計   作:焼き鳥タレ派

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第6話:闇夜のセントエルモ

7巡目(あまり意味のないこの遡行回数の記録は止めようか検討中だ)

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

頭痛と動悸で呼吸が乱れる。やはり精神的疲労は激しいが、8回に及ぶ時間遡行の中で、

時に身を任せる“コツ”のようなものを掴んだ俺は、今度はゲロをぶちまけることもなく、

遂に2年後から戻ってきた。修復済みの『昭和海戦全記』がある時間に

とどまることも考えたが、それ以前にMIの悲劇を回避する手がかりがないとも限らない。

やはり俺はスタート地点に戻ることを選んだ。

 

「よっこらせ……」

 

おっさんみたいなため息と共に椅子に掛け、背を預ける。流石に疲れた。

あのシルクハットに連れられ2年後で過ごした時間はほんの数日だったが、

いろんなことがありすぎた。

 

「“時間は連続していない”、“歴史は変わらないが世界は変わる”、か……」

 

俺は“こんごう”が残してくれた手がかりらしきキーワードをつぶやいた。

一体何を意味しているのだろう。彼女を思い出した俺は、早速電話で三日月を呼び出し、

潜水部隊に『昭和海戦全記』の回収指示を出すよう命じた。

同時に、回収物はできるだけ使用可能な状態に復元するよう技術部にも手回しをしておいた。

 

 

 

数日後、無事修復された『昭和海戦全記』を持って三日月が執務室にやってきた。

 

「失礼します。提督、技術部からの届け物です。こちらがその資料です」

「待ちかねたぞ!ありがとう三日月!他に報告はないか、ないよな!?」

「え、ええ……そのお届け物だけです」

「そうか、ならもう下がってくれ、ありがとう!」

「失礼します!」

 

急いで三日月から本を受け取った俺はデスクに着く。

ページを開く前に一つ深呼吸して気持ちを落ち着ける。これから仲間たちの最期らしきものを

正視しなければならない。だが、逃げることは許されないのだ。

はじめに、固い表紙を優しくなでる。

 

「こんごう……」

 

少しの間そうしていたが、やはり彼女が現れることはなかった。

 

「彼女は、全ての力を振り絞って希望を残してくれたんだもんな」

 

今度は俺が頑張る番だ。思い切ってパリパリ音を立てる本を開く。

そういえば、重要な手がかりだというのに、まだ赤城達のページしか読んでいなかった。

今回は最後まで読破しなければ。俺は目次を飛ばし、最初のページの一文字目から熟読した。

きっと、たくさんの仲間の最期を知ることになるだろうが、俺は逃げない。

本の冒頭部分では、この書籍の本旨ではない第二次世界大戦の流れについて

ざっと説明がなされていた。そして、“日本海軍所属艦艇”。俺は唾を飲む。

そして思い切ってページをめくった。1ページ目は赤城。これはもう読んだ。

俺が最初に読んだ鋼鉄の艦艇の姿をした赤城。やはり彼女はミッドウェーで、

米軍の急降下爆撃を受け航行不能となり雷撃処分、つまり艦娘で言う死を迎えていた。

“歴史は繰り返す”。何度も聞いた言葉が脳裏をよぎる。

 

「させない……俺がさせない」

 

口をついて独り言が出ていた。そう。この悲劇を繰り返さないために、俺は戦っている。

それが例え悪あがきにしか過ぎないとしても。なおもページをめくり読み進める。

やはりそこにはよく知る艦娘、まだ出会っていない艦娘達の

前世と言える艦艇の結末が記されていた。いつも笑顔で俺を支えてくれる三日月は

輸送作戦中に座礁、米軍機の砲撃を受け沈没。俺に喝を入れてくれた天龍は

パプアニューギニアで米潜水艦の雷撃を受け、撃沈……

 

「この時代の日本は、なんでこんな馬鹿な戦争始めちまったんだ……!」

 

戦闘で沈んだ艦は、ほとんどが米軍との戦闘に破れて散っていった。

悲しみより、ふつふつと怒りが湧き上がってくる。

アメリカ陣営との物量、戦力差が圧倒的なのは開戦前から明らかだったのに。

この戦争の結末が今の艦娘達を縛っている。できるなら当時の大本営に乗り込んで、

責任者を片っ端からぶん殴ってやりたい!……やめろ、頭を冷やせ俺。

そんな無駄なことに頭を使うな。読み解くんだ。

この本から少しでも情報を拾い集める事に集中しろ!俺はその後も『昭和海戦全記』を熟読。

様々な艦の詳細について知ることができた。そして、項目“日本海軍所属艦艇”の

最後の1ページを読み終えた時にはとっくに日が暮れていた。

 

「んんっ!……ふあ~あ」

 

流石に座りっぱなしで一日中本を読んでいたので、目と肩が疲れた。

伸びをして目頭を抑える。

 

「今日はここまでにするかな、どうしようか」

 

残りのページは全体の10分の1程度。日付が変わる前に読み切れる量だ。

ここまで来て少しだけ残すのも気持ちが悪い。俺は再び本を開き、

栞を挟んだページをめくった。そこには、“これからの艦艇”と書かれたタイトルが。

 

「!?……これからって、つまり…」

 

タイトルだけのページを開くと、やはり、いた。彼女だ。

 

“海上自衛隊所属こんごう型護衛艦1番艦、“こんごう”です“

 

胸が締め付けられる。もちろん姿は鋼鉄の艦だが、確かに彼女はこの艦の艦娘だったのだ。

悠々と海を渡る写真をそっとなでる。

 

「あの髪飾り、彼女の電探だったんだな……」

 

幸薄そうな表情にわずかに浮かんでいた笑みが思い出される。

艦艇“こんごう”の装備と彼女の戦う姿はピタリと符合していた。

“きりしま”“みょうこう”“ちょうかい”。彼女の姉妹艦も紹介されており、

その諸元を見ると、いずれも今の時代では考えられない戦闘能力を

有していることがわかった。

 

「こんな艦があれば、みんなを戦わせずに済むのにな……」

 

実際彼女達は、つい弱気な無いものねだりが出てしまうほど凄まじい能力を持っていた。

嘆息を漏らしながら未来の超技術に目を通していると、やはり1つの疑問が浮かぶ。

“何故同じ海に全く異なる時代の艦が沈んでいるのか”。

答えの出ない問いに思考を巡らせながらページをめくっていると、

『昭和海戦全記』は米軍が開発中の新型イージス艦の紹介で終わっていた。

パン、と俺は分厚い本を閉じる。形のある手がかりはここまで。後は俺次第。

考えろ、考えろ、考えろ。

 

「残りのヒントは……“時間は連続していない”、“歴史は変わらないが世界は変わる”、

どういう意味なんだ!?」

 

提督などという肩書を持ってはいるが、俺は決して人より頭が良いわけではない。

なんで俺がここの提督になれたかというと、前任の提督が急病で退任してしまい、

後任の人事に軍部が困っていたところ、地味な努力で下の方の階級を積み上げていた俺が

お偉いさんの目に留まり、お鉢が回ってきたというわけだ。

……まぁ、そんなことはどうでもいい。分厚い本を丸々一冊読んで頭が熱い。

これ以上無理に脳を酷使してもいいアイデアなど出ないだろう。

今日は『昭和海戦全記』を頭に叩き込んだだけで良しとしよう。

俺はハンガーから上着を取り、家路に着いた。

 

 

 

あれから色々頭をひねったものの、何の答えも出せぬままとうとう3ヶ月が立ってしまった。

だが、俺は3ヶ月のタイムリミットを撤廃することに決めた。

2年後のMIの悲劇ギリギリまで、みっともなく地べたを這い回ってでも、

少しでも手がかりになるものを探すことに決めたのだ。その為には。

 

 

「ごめんなさい夕雲ちゃん!許して……許して!私が、ちゃんと私が

後ろ見てなかったから……うわああああ!!」

 

 

夕雲、秋雲、すまない。……お前達を救うために、俺は、今のお前達を見殺しにする。

何度も繰り返した時間に執務室のドアがノックされる。

 

「入りたまえ」

「失礼します。提督、もうご存知かとは思いますが……」

「わかっている。夕雲轟沈。既に連絡が入っている」

「は、はい。その通りです」

「他に連絡は?」

「いえ、それだけですが……あまり動揺されていないようですので……」

「提督がパニックを起こしていたら鎮守府は立ち行かないだろう。下がりたまえ」

「はい、失礼します……」

 

何か言いたげな表情で三日月は退室した。きっと冷たい奴だと思われたのだろう。構わない。

諦めさえしなければ、彼女とまた会える。その結果と引き換えならば

冷血漢呼ばわり大いに結構。俺はやるべきことをやるだけだ。

秋雲……彼女の心が落ち着いたら夕雲の最期について聞いておかなければ。

作戦結果の報告といえば聞こえはいいが、

 

「ふん、まるで墓荒らしだな」

 

自嘲気味につぶやくと大事なことを思い出した。

 

“彼我の戦力差は、圧倒的……現在の兵装・練度では攻略は不可能と考えられ……”

 

瀕死の長門が持ち帰ってくれた情報。今の俺達では棲姫に勝てない!

もっと強力な艦娘が必要だ。奴らは9ヶ月後にこの鎮守府を襲撃してくる。

前回は“こんごう”が蹴散らしてくれたが、今度は俺達で撃退しなければならない。

俺は工廠に向かった。あちこちで金属音が鳴り響き、アセチレンバーナーの炎が

そこかしこで光る。そんな工廠の一角に艦娘建造工場がある。

応急修理要員のような小人達が忙しく働いている。一人を呼び止め、メモを渡す。

 

「ちょっといいか。艦を新規建造したい。この資材の配合で頼む」

 

ヘルメットをかぶった小人がメモを受け取り、ピッ!と敬礼する。

艦娘が誕生する過程は謎だ。この小人に燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイト、4種の資材を

貯蔵庫から任意の量だけ指定し、あとは完成を待つ。

建造が始まるとシャッターが降ろされるため、中で何が行われているのかわからない。

今回行うのは“大型艦建造”。特に強力な艦が期待できる大規模な艦娘建造だ。

もっとも、消費する資材も膨大な量で、通常の建造と比較にならない。

俺もここに来るまでやっぱり普通の建造にしようか散々悩んだくらいだ。

しかも、必ず戦艦ができる保証はなく、全く見当違いの艦娘になり肩を落とすこともある。

……だが、敵は長門ですら敵わなかった強力な相手。

普通の艦では無駄に犠牲を増やすことにしかならない。

とは言え、戦艦を目指すなら必要な資材の量も莫大になるため、

貧乏所帯の当鎮守府としては、必ず戦艦、もしくは空母が欲しいところだ。

 

「頼むぞ。戦艦、戦艦……よし来た!」

 

シャッター横の時計に残り建造時間が表示される。完成まで8時間。見たこともない長時間!

建造時間が長いほど大型艦の完成が期待できる。

駆逐艦の建造時間が15分程度であることを考えればこの艦の規模の大きさが

予測できるだろう。きっと棲姫と互角に渡り合える艦娘になってくれるに違いない。

……さぁ、もうやることはやった。8時間ここに突っ立っていても仕方ない。

俺は執務室に戻り、デスクに着いた。まだ1日も経ってない今、

秋雲に出撃結果を報告させるのは酷だろう。……ん!?その時、俺の頭に違和感が走った。

夕雲轟沈。その知らせは何度も聞いた。だというのに、なんだ、

この妙に何かが噛み合ってないような感覚が拭えない。

俺は『昭和海戦全記』の夕雲のページを開き、もう一度読んでみる。

 

“駆逐艦夕雲 1943年10月6日 米軍の放った魚雷が命中し沈没”

 

「は!?」

 

思わず素っ頓狂な声が出る。この一文には決定的な矛盾がある。

要するに、何が言いたいかというと、夕雲が沈没したのは……MIの後だ!1年以上も!

確かに『昭和海戦全記』と艦娘の死の状況には微妙な差異はあったが、

こんなドでかい違いはなかった。

 

「おい、どういうことだよこれ!“歴史は繰り返す”んじゃなかったのか?

だったらなんでミッドウェーの前に夕雲が沈むんだ?赤城達はまだ健在だ!」

 

実際今日もすれ違ったし、出撃命令など出していない。

 

“時間は連続していない”

 

「あっ……」

 

またしても“こんごう”が残してくれたヒントが頭をよぎる。

どういうことだ、どういうことだ、つまりあれか?俺達が体験してる“時間”ってのは、

感知できないだけで、バラバラに散らばった、いろんな出来事のポイントを

ジャンプしてるってことなのか?でも、だからって大きな出来事の発生日時が

1年以上も前後するなんておかしいじゃないか。歴史は繰り返してるんだろう?

なんでだ、なんでだ……。俺は頭をコツコツ叩いてみるが答えは出ない。

 

「でも……状況は確かに動いた。もしかしたら、この事実が

歴史への反撃の糸口になるかもしれない!」

 

今まで時間に流されるまま、その時々の出来事に翻弄されるだけだった状況に

初めて変化が訪れた。なにか、こう、歴史のシステムの、ほんの端っこに

指先が触れたような気がする。天恵とも言える閃きに俺は興奮していた。

 

 

 

工廠艦娘建造ドック。

冷たい鋼鉄のベッドで“彼女”は目を覚ました。

まだ意識がぼんやりとしているけど、そう、私は生まれた。

後はあの方が迎えに来てくれるのを待つだけ。両手を閉じたり開いたりしてみる。

うん。身体は問題ない。砲塔を回して、砲身を上下させて見る。

重厚な鋼鉄の兵装がうなりを上げて回転する。よし、もう準備は万全。……さぁ、早く来て。

 

 

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