高坂さんのことが好き
希ちゃんに伝えて以来、今まで以上に高坂さんのことを目で追ってしまっているし、授業中は黒板を見ようとすると高坂さんが視界に必ず入ってしまうので見つめてしまう時もあった。絢瀬さんも混ぜて三人での会話なら自然とできるが二人きりで話す機会になると変に緊張をしてしまっている。どうしたの、と聞かれる時もあるので誤魔化すのも大変だ。
「えーと、明日から夏休みですが皆さん受験生という自覚をしっかりと持って有意義な時間を過ごしてください。それと三嶋君は帰る前に職員室に寄ってください。それでは皆さん、さようなら。」
……………またか
毎日大人しく過ごしている方なので悪さをしたわけでもないので進路について話があるのだろう。
「三嶋君。少し相談があるから職員室での用事が終わったらまた教室に戻ってきてくれないかな?雪穂と一緒に待ってるから。」
「? うん。分かったよ。」
絢瀬さんは随分深刻そうな顔をしていた。あんな顔は絵里さんの一件以来だし、そもそも絢瀬さんはあまり考え事をするようなタイプではないのでよっぽど重要なことなのだろう。
「失礼します。あの……俺何かしましたっけ?呼び出されるような事はしてないと思うんですけど。」
「ごめんなさいね。まぁあらかた予想はついてると思うけど進路の事よ。私や進路指導の先生も三嶋君には早目に進学先を決めてもらいたいって思ってるのよ。まだ七月だし夏休み中にもオープンキャンパスがあって他の高校を見に行く機会があるから今すぐにとは言わないわ。ただ休み中には二校程度に絞っておいてもらいたいの。」
夏休み中にもオープンキャンパスはあるし予定としてはあと二校行く予定になっている。ただ休み中に絞っておいてもらいたいって言われてもな。
「どうして俺にだけそんなこと言うんですか?こう言っちゃうと他の人にはアレですけど、俺は選択肢が多い方だと思ってます。それに、性格的にそんなにスパッと決められないんでそんなこと言われても困ります。」
「そうよね。これは先生側からの勝手な要望なんだけど、三嶋君がもしも音ノ木坂の特待試験を受けるってなった時に早目に教えてくれればこちらも準備がしやすいのよ。音ノ木坂にとって特待試験は初めてになるから対策を立てるのに色々時間がかかりそうで。」
そういうことか。まだ廃校の件がどうなるか分からないし決まってから試験内容が中学側に知らされてそれから準備となると相当急ぎになるから十分な対策も取らない。そうなると生徒側にも焦りが出る危険があるな。
「話の流れはなんとなく分かりました。俺も出来るだけ早目に決めたいんで休み中には絞ってきます。じゃあ失礼します。」
職員室を出るとほとんどの生徒が帰ったため廊下はかなり静かになっていて上の階から吹奏楽部の音がよく聞こえる。休みに入ってすぐにコンクールらしいので最後の仕上げに入っていると雫から聞いた。
教室に近づくと二人の話し声が聞こえる。内容的に勉強でもしていて高坂さんが絢瀬さんに教えているのだろう。
「三嶋君おかえり。早速なんだけど私達に勉強を教えて欲しい!」
「え?いいけど教室でやるの?暑くない?」
「暑いけど、お昼過ぎでまだ外は暑いから出たくないしファミレスとかだと食べ物の誘惑に負けちゃって集中できないからここでいいんだって。」
うちわをパタパタと扇ぎながら説明する高坂さんとすでに真剣な顔で勉強をしている絢瀬さん。いつもなら逆の立場なのでこういう状況は新鮮だ。
「図書室はダメなの?あそこなら冷房も効いてるし静かだから良いと思うんだけど。」
「図書室は他の子達もいっぱいいて質問とかする時の話し声が邪魔になっちゃうんじゃないかって、まぁ亜里沙がそこまで言うなら仕方ないよ。こんな感じだし今更何言っても聞かないだろうから。」
本当は涼しい図書室に行きたい。言葉には出さなかったが高坂さんの表情からはその気持ちが溢れ出ている。
「さてと、三嶋君が来てくれたから私も勉強しようかな。三嶋君は私と亜里沙が分からない所の解説をお願いね。」
「うん、分かった。」
この言葉を最後に三人とも無言で勉強を進める。時々、絢瀬さんが質問してくるくらいで他の会話は一切しない。
「んー疲れたー!ちょっと休憩。」
「そうだね!私も疲れたよー。」
絢瀬さんの一言で高坂さんと俺もペンを置く。時計を見てみるとすでに十四時を過ぎていた。そういえば、午前中に学校が終わったからまだお昼ご飯を食べていない。
「二人ともお昼食べてないけどお腹空かない?」
「あ!そういえば食べてないしそう言われるとお腹空いてきた!じゃあ雪穂ん家行こっか。」
「…………うん。でも他の選択肢は無かったの?」
「え?無いよ?ダメなの?」
「いや、いいんだけどね。いいんだけどよくないっていうか……もういいや!じゃあ行くよ」
高坂さんの言いたいことは何となく分かるけど途中で考えるのが嫌になったのだろうな。
「さて。お二人さん。何か食べたい物はありますか?できる限りリクエストには応えるつもりなので教えてください。」
「んー時間も中途半端だから軽めな物がいいな。そういえば冷蔵庫の中に冷やし中華の素があったからそれがいいな!トッピングで使えそうな物もあると思うし。」
「はーい!さんせーい!」
「かしこましました。それではしばらくお待ちください。」
高坂さんの家に向かっている途中で俺が料理ができることを絢瀬さんに知られてしまい必然的に俺が作る流れになってしまった。二人とも集中して勉強していたから動きたくないのだろう。現にリビングではアイスを食べながらμ’sのライブ映像を見てくつろぐ二人の姿があった。
「ねぇ三嶋君の家に泊まりに行きたいんだけどダメかな?」
「「え!?」」
お昼を食べ、洗い物を済ませてからリビングに行くと絢瀬さんから突拍子も無いことを言われた。当然のことだが俺と高坂さんは同じ反応をする。
「あああ絢瀬さん?ななな何で俺の家に?」
「そそそうだよ亜里沙。どどどどうして亜里沙が三嶋君の家に泊まりに行くの?」
「え?明日から夏休みだし勉強合宿でもしたいなって。もちろん雪穂も一緒だよ!お姉ちゃん達はμ’sの練習とかあるから私達は家に一人になっちゃうでしょ?まぁ雪穂はお店にお母さんとかいるけどさ。勉強するにしたって家で一人で勉強してて分かんなくなったからっていちいち三嶋君に連絡してたら迷惑だし。………ダメ……かな?」
今に始まった事ではないが絢瀬さんは発言に対しての理由が後付けになる癖がある。俺も含めてだが高坂さんが絢瀬さんに振り回されてしまっているのはこういうのが原因だと思う。
「あぁ、そういうことね。三嶋君と三嶋君のお母さん達がいいならいいけど、私は店番とかあると思うからたまに帰ってこなきゃだめかな。」
「ウチは平気だと思うよ。今、母さんに聞いてみるよ。」
絶対に歓迎されるに決まっている。雫は絢瀬さんとも仲良くなりたいって言ってたし絢瀬さんは雫のピアノも聞きたがっている。おまけに母さんも二人に会いたがっているので断る理由などあるはずない。
「もしもし母さん?急で悪いんだけど今日から高坂さんと絢瀬さんがウチでしばらく勉強合宿をしたいらしいんだけど都合とか平気かな?」
『本当に?ぜひ連れてらっしゃい!じゃあ今日は盛大に二人の歓迎会をしなきゃダメね!雫からもさっき帰るって連絡があったからお母さんと二人で準備して待ってるわ。』
「分かった。じゃあまた後で。」
「歓迎するって。」
「やったー!ねぇねぇ雪穂!雫ちゃんのピアノ聞けるかな?三嶋君のお母さんに会えるのも楽しみだなー。あ、じゃあ私は一回帰って荷物用意してくるね。じゃあまた。」
一気にテンションが上がって早口で喋ったと思ったら次はバタバタと足音を立てながら出て行ってしまった。
「はぁ。どうして亜里沙はいつも急に思いつくんだろう。それと本当に平気だった?私達に気を使って本当のこと言ってないとかじゃないよね?」
「え?歓迎するって言ってたのは本当だよ?それでもまだ疑ってるなら実際に母さんに会えば分かるよ。」
そして恐らく、しばらくの間は俺の肩身が狭くなるはず。
「そっか。でも私も楽しみだよ!じゃあ私もお母さんに伝えてお泊まりの準備してくるからちょっと待ってて。」
しばらく一人の時間が続きそうなのでつけっぱなしになっていたパソコンでオープンキャンパスに行くことになっている二つの学校を調べてみた。一つは前からとりあえず目を付けておいた学校で距離は遠いが校舎がお洒落な高校、もう一つは文武両道で有名な男子校。どちらも卒業後の進学率が良く有名大学の指定校推薦枠も備えている。
将来の事を考えれば夏休み中に見学に行く二校のどちらかに進学すれば安心できる部分もあるとは思うがそうなると必然的に高坂さんと絢瀬さんの二人とは離れてしまう。最近は二人とあまり疎遠になりたくないなという思いが強くなってきていて音ノ木坂に進学してもいいと本気で考えるようになってきている。あとは高坂さん次第という部分も多少ある。
「あら三嶋君。こんにちは。随分難しそうな顔してたけどどうかした?」
「あ、いえいえ。何でもないです。」
声をかけられるまで高坂さんのお母さんが部屋に入ってきたことすら気づかなかったし、そんな表情を見られてしまい恥ずかしくなった。
「それと急に泊まりに行くなんて言ってたけどお家の方は平気なの?」
「はい。さっき親に聞いたら歓迎するって言ってましたよ。というか逆に俺の家に泊まりに行くっていう方が問題なんじゃないかなって思うんですけど。」
「そうかしら?亜里沙ちゃんも一緒だし勉強会だからこっちも喜んで送り出すわよ。それに三嶋君のお家なら安心できるしね。」
「そう……ですか。」
「あの子、三年生になって少し経ったくらいから家に帰ってくると1日のことをすごく楽しそうに話すようになったのよ。穂乃果とは違って元々大人しいというか冷静なタイプだと思うの。でもあの子がニコニコしながら話すものだからよっぽど今の環境が楽しいのね。だから二人には感謝してるし三嶋君になら雪穂のことも任せられるわ。」
「任せるってそんな。僕にはまだ早いというか自信が無いというか。」
「あらあら。そんな深い意味で言ったわけじゃないのにそんなに赤くなってたら三嶋君の気持ちなんてすぐに分かってしまうわよ。でもこれからも雪穂のことよろしくね。」
よりにもよって高坂さんのお母さんに自分の気持ちを知られてしまった。当のお母さんはというと口元を隠し抑え気味に笑っている。その様子を見る限りもしかしたらカマをかけられたのかもしれない。
「そういえば三嶋君はどこの高校に行くつもりなのかしら。この前は音ノ木坂のオープンキャンパスに行って特進クラスの説明を聞いてきたって雪穂から聞いたけど。」
「そうなんです。元々進学校に行こうと思ってたんですけど、地元の高校に特進クラスが設立されるなら説明だけでも聞いておこうかなって思って。それにμ’sのライブも見てみたかったですし。」
「それで、どうだったの?私としては雪穂も三嶋君も音ノ木坂に進学して亜里沙ちゃんと三人で高校生活を送れるのが理想なんだけどね。」
「音ノ木坂の特進クラスなら近いし条件も良いのかなって思いました。できれば俺もこのまま三人で仲良くしていきたいですけど高坂さんの反応がイマイチなんで。」
そうなのよねー。と少し困ったような表情をしてたところで厨房にいるお父さんから呼ばれ、お母さんは部屋を出て行った。それと入れ違いで高坂さんが準備を終えて部屋に入ってくる。
「お母さんが難しそうな顔したまま厨房に向かったけど何話してたの?」
進路の話とだけ伝えた。お母さんの言う通り高坂さんはいつも冷静で落ち着いているという印象がある。高坂さんも自分なりに楽しんでいるとは思うが絢瀬さんのテンションが高いからか二人の間にはどこか温度差を感じてしまうことがある。その高坂さんが笑顔で学校での出来事を話しているなんて俺にも絢瀬さんにも知られたくないはずだから高坂さんの家での様子を聞いたとは言わなかった。
「お邪魔します。初めまして。絢瀬亜里沙です。今日からよろしくお願いします。」
「高坂雪穂です。急にお願いしてしまってすみません。よろしくお願いします。」
「いらっしゃい。和樹の母です。あなた達のことは雫からよく聞いてるわ。こんなに可愛い二人が仲良くしてくれてるなんて和樹は幸せ者ね。」
「雪穂ちゃん、絢瀬先輩、いらっしゃい勉強も程々に私とも遊んでくださいね。」
家に着いて玄関に入ると母さんと雫が走って出迎えに来た。二人とも相当楽しみだったみたいで特に母さんは勉強会という本来の目的なんかそっちのけという感じだ。
絢瀬さんは雫のピアノが聴きたいということで雫の手を引っ張りながらリビングへと入って行く。勉強会の場所を俺の家にしようと決めたのもピアノが聴きたかったからと言っていたくらいだから早く聴きたいのだろう。
「とりあえず夕飯まではゆっくりして勉強は食べ終わってからって感じでいいよね?」
「うん。昼間も学校でやってたし夜からでいいと思うし肝心の亜里沙があんな感じだから……ね。」
言い終えた後、はぁ。と一つため息をつきながらリビングに入るとすでにピアノの前に座っている雫とその近くで何故か正座をしている絢瀬さんの姿があり俺と高坂さんもその隣に並び正座をする。
「こうやってお兄ちゃん達三人が揃った前で弾く機会があるだろうと思って自分なりにアレンジして練習してた曲があるから今日はそれを聞いてほしいな。」
ふぅ。と一息ついたところで演奏が始まる。雫が弾きだしたのはμ’sがまだ三人だった頃、講堂にて行われたファーストライブの時の曲。
「亜里沙………これ………μ’sのSTART:DASH!!……だよね?」
「うん。………………すごいね………」
いつもは大袈裟なくらい大きいリアクションをする絢瀬さんも驚きを隠せず、口が開いてしまっている。
部活もコンクール前で忙しいというのにピアノを弾く時間なんてあるとは思えない。しかもピアノ用にアレンジをしてとなるとかなり時間が必要になるはず。ピアノ経験者の人は少し練習すればできてしまうということはあるとは思うが、アレンジの具合からすると相当練習をしないと弾けなそうなくらい凄かった。
「ふぅ。感想は次の曲を聴いてから教えてね。じゃあいくよ。」
一曲目が終わり、三人で拍手をしているとすぐに次の曲を弾きだした。次の曲もμ’sの曲。
【僕らのLIVE 君とのLIFE】
ファーストライブは別としてμ’sにとってはとても大切で本当のスタートの曲。ファーストライブを特別扱いするのはメンバー全員が同じ意見で、全ての始まりが講堂でのファーストライブだったから。聞いた話だとライブを見に来ていたのは数えられる程度だったが、今のメンバーは全員か偶然にもファーストライブの会場にいたらしい。
そのファーストライブを除いて考えると必然的にこの曲が一番大切になるということだった。あんなに楽しく踊れたのは生まれて初めて、と笑顔で教えてくれた絵里さんの笑顔は今でも鮮明に覚えている。
曲が終わり、自然と拍手をする。気が付くと母さんも一緒に聞いていたみたいで俺らと同じように拍手をしていた。
「雫!凄いよ!本当に凄い!μ’sのみんなにも聞いてほしいくらい。というか録音して家でも聴きたいくらいだよ!」
「雫ちゃん。やっぱり雫ちゃんのピアノ凄いよ!」
演奏が終わると二人とも立ち上がり、雫の横に並んで褒めていた。理由は分からないが絢瀬さんは握手をしていた。
「雫。こんなのいつ練習してたんだ?俺は全然気づかなかったんだけど。」
「テスト期間中にお兄ちゃんが帰ってくる前とかお兄ちゃんが出かけて帰りが遅かった時とかだよ。せっかくならお兄ちゃんもびっくりさせようと思って。それと、またこうやって楽しくピアノが弾けるようになれたのはお兄ちゃんと雪穂ちゃんのおかげだから、今日のサプライズはお礼も兼ねてってことで。」
こんなにいい妹はどこを探してもいないだろうなと思った。
「そういえば雫ちゃん。雪穂のことは名前で呼ぶのに私のことはまだ絢瀬先輩って呼んでるよね?それだと雪穂と差がある感じするから私のことも名前で呼んでよ!それと私達には敬語なんて使わなくていいから。」
「うん。分かった!ありがとう。亜里沙ちゃん。」
元々、雫は二人と仲良くしたいと言っていたし敬語を使わなくて済むなら一気に距離が近づく感じがする。雫がお礼を言った後、絢瀬さんと高坂さんが雫を挟むような感じで抱きしめていて雫も嬉しそうな顔をしているので見ていてとても微笑ましかった。
「雫があんなに嬉しそうな顔をしたのは久しぶりね。こうして見てると本当の姉妹みたいね。」
隣にいる母さんもにこやかな表情で三人の様子を見ていた。
「いつか雪穂ちゃんが本当のお姉ちゃんになったら雫も喜ぶわね。もちろんお母さんも嬉しいけど。」
「なっ何言ってんだよ!冗談でも言っていいことと悪いことがあるだろ。」
「あらあら。和樹って隠し事ができないタイプよね。じゃあそろそろ夕飯の支度でもしようかしら。」
母さんはふふっと小さく笑いながら台所へ向かって行った。母さんの言う通り俺は隠し事が上手くできるタイプではない。すぐに表情に出てしまうという決定的な弱点があり、簡単に克服できることではないので嘘がつけない。現に自分で鏡を見なくても顔が赤くなっているのが分かるくらいだ。
その表情が三人にバレないうちに自分の部屋へ向かう。階段を登り終え部屋に入ろうとすると絵里さんから電話がかかってきた。絢瀬さんが忘れ物でもしたのだろうか。
『もしもし。和樹君?亜里沙から聞いたんだけど急にお家に泊まり込んじゃって平気なのかしら。』
「平気です。母さんも妹も歓迎してますし、家に居ても勉強が捗らないって言ってましたから。」
『そう。そう言ってくれているのなら安心するわ。和樹君も分かってるとは思うけどあの子、急に変なこと言い出すから振り回しちゃってるわよね。ごめんなさい。」
「そんな事ないですよ。それに俺も出掛けるわけじゃないし家に居ても暇なんで。」
『そうなの?とにかく亜里沙に迷惑はかけないようにとは伝えてあるから平気だとは思うけど何かあったらすぐに連絡してくれていいからね。』
「分かりました。絵里さんは練習とか生徒会とか色々あって大変だと思いますけど頑張ってください。それと、隣にいる希ちゃんにもよろしく言っておいてください。」
『あら。気づいてたの?さっきから代われ代われってうるさいのよ。しかも亜里沙が居ない期間は希がウチに来ることになったの。まぁお互い寂しくなくなるから好都合といったところね。それと、お母様とかいらっしゃるかしら。一言ご挨拶しておきたいのよ。』
「分かりました。今、代わります。」
母さんに電話を渡すため着替えもせずに台所へ向かい母さんに事情を説明して携帯を渡した。相変わらず絵里さんはしっかりしているな。母さんが電話をしている間、料理を代わりにやっていると雫が隣にやってきた。
「お母さん誰と話ししてるの?あれお兄ちゃんの携帯でしょ?あ、美味しい。」
「つまみ食いするな。母さんは絢瀬さんのお姉さんと話してるんだよ。お姉さんが母さんに挨拶したいからって。」
「ふぅん。お姉さんって金髪でスタイルのめちゃくちゃいい人だよね?私も高校生になったらあれくらい成長しないかなー。」
「無理だっ痛!…まだ希望は捨てちゃダメだぞ。」
雫の肘が脇腹にクリーンヒットしほぼ言いかけた言葉を飲み込んだ。まぁこの先のことなんて誰にも分からないし雫にだって微かな希望は残っている…………はず。
まだまだ成長期真っ只中なんだから。と頬を膨らませながらも人数分のお皿やコップの準備をしてくれている。料理はできないがこういう手伝いは小さい頃からやっていたためかなり手際が良かった。
高坂さんと絢瀬さんは二人で一つの椅子に座り、ピアノの連弾をしている。連弾といってもそんなに立派なものではなく、小学生でも簡単に弾けるような曲をかなりゆっくり弾いている。それでも二人はとても楽しそうに弾いていた。
「お兄ちゃん。雪穂ちゃんのこと見過ぎだよ。でもあの二人、ホントに可愛いよね。」
「そんなに見てるか?あんまり意識してないから自分だと分かんないな。」
「好きな人のことを目で追っちゃうのはしょうがないと思うし、私がピアノ弾く前に雪穂ちゃんと二人で話してる時のお兄ちゃんすごく嬉しそうだったよ。」
こいつもこいつで周りをよく見てるし完全に俺が高坂さんのことが好きなのがバレてしまっている。希ちゃんから聞いたりでもしたのだろうか。
「いやいや。すっかり絵里ちゃんと話し込んじゃったわ。それにしてもまだ高校生なのに随分しっかりしているのね。」
携帯を渡してから二十分程経ったところでやっと母さんが戻ってきた。軽く挨拶をした後に絢瀬さんの好きな物や嫌いな物、さらには家の事情の件など色々と話し込んでいたらしい。親元を離れて二人暮らしをしていると聞き、何かあったら頼りなさいと伝えたそうだ。
「あら。もう盛り付けまで済んじゃってるのね。二人ともありがとう。」
「ごちそう様でした。とっても美味しかったです!片付けは私と亜里沙でやりますね。ほら亜里沙、やるよ!」
「うん。お母さん、ごちそう様でした!雪穂と話して決めたんですけど泊まっている間はお皿洗いをやらせてもらいます。」
先に食べ終えた二人は自分の分と空いているお皿を持ち立ち上がる。私も手伝うー。と言いながら雫も後について行った。
「さて!亜里沙。そろそろ始めようか。」
「うん。雪穂、三嶋君。頑張ろうね」
全員お風呂にも入り身支度を済ませたので本来の目的であった勉強会が始まった。