「亜里沙!亜里沙!まだ初日なんだしそんなに無理しなくてもいいから今日は寝ようよ。」
「ん……海未さん……の………好きな…教科を……教えてください。」
勉強会初日の夜。時間が午前一時を回ったところで絢瀬さんが限界を迎えてしまった。その証拠に寝ぼけていて園田さんの名前が出てきてしまっている。二十二時から勉強を始めたが昼間も勉強、家に来てからは雫の相手をしたりお皿洗いをしたりなど忙しい一日だったので疲れているのは当然だ。高坂さんも半分くらいは目を閉じてしまっている。
「高坂さんの言う通りだね。まだ初日だしそんなに焦っても仕方ないよ。それじゃあ今日はお開きにして寝ようか。布団は出しておいたからこれ使って。俺は父さんの部屋で寝るから。」
「え?……そう………なんだ。じゃ、じゃあ私がベッド借りちゃっても……いいの?」
どうしてそこで許可を求めてきたんだろう。もちろんいいに決まってるけど毎日自分が寝ているベッドに高坂さんが寝るって考えたら急に気まずくなるというか変に緊張してきてしまった。
「う……うん…高坂さんが……嫌じゃ…なければ………」
「嫌じゃ…ないよ。………あ、でも亜里沙を先に寝かせないと布団を敷くスペースが無いな。」
「そっか!じゃあ絢瀬さんがベッドだね。早速、移動させちゃおうか。」
さすが高坂さん。寝ぼけていても周りがよく見えている。すでに気持ち良さそうに寝ている絢瀬さんの隣に腰を下ろし持ち上げようとすると。
「あ!ちょっ!ちょっと待って!亜里沙は私が運ぶよ!っていうか起こしてちゃんと自分で移動させるから!」
絢瀬さんをベッドに運ぶため抱っこをしようとするとさっきまで眠そうにしていた高坂さんが血相を変えて止めに入る。その勢いのまま絢瀬さんの背中付近を軽く叩いて起こしベッドへと案内した。
二人が勉強していたテーブルを部屋の端に移動させ高坂さんの分の布団を敷き終えると高坂さんはすぐに横になり静かに寝息を立て始めた。冷え過ぎないようにエアコンの温度を少し上げて電気を消そうとすると高坂さんの寝顔が視界に入ってきた。
「……………寝顔も……可愛いな……」
「……もう寝てるよな?………ゆ……雪穂……ちゃん…おやすみ。」
想像以上に恥ずかしかった。しかも高坂さんは寝ているというのに。この感じだと面と向かって名前を呼ぶなんて到底できそうにないと思い小さなため息をつく。最後にもう一度部屋を見渡して電気を消し一階に降りた。
「………ばか………起きてるよ………」
合宿二日目、この日は三人で夏休みの予定を立てることにした。まずは各々予定のある日を確認する。予定がない日は優先的に集まってその都度、勉強会を開くことになった。勉強会の場所は基本的に俺の家か絢瀬さんの家で行うらしいが絢瀬さんの予定表を見て一つ気になることがあった。
「絢瀬さん。八月中旬の一週間がクエスチョンマークで埋まってるんだけどこれってどういう意味?」
「あぁそれ?その一週間の間、向こうに帰ろうか迷ってるの。」
向こうというのは他でもなくロシアのことだろう。
「去年までは毎年お姉ちゃんと一緒に帰ってたんだけど、お姉ちゃんは今年帰りそうにないし、私も私で勉強しなきゃいけないからさ。」
絵里さんが行くなら迷わず行っていただろうし両親やおばあちゃんも二人に会うのを楽しみにしているはず。それに絢瀬さん本人も家族に会いたがっているように見える。迷うことなんて無いとは思うんだけどな。
「それに、もしかしたらこうやって三人で集まったり遊んだりするのって今年が最後の可能性があるし。何度も言うようだけど私は雪穂と三嶋君と一緒に音ノ木坂に行きたい!……けど二人には二人の考えがあるから……」
「…亜里沙。」
絢瀬さんらしい悩みだった。確かに別の高校に進んでしまうとこうして三人が毎日顔を合わせ楽しく過ごせるのも残り半年程で年明けから春先までは遊ぶことすらできなくなってしまう可能性もあるわけだからもっと短いのかもしれない。
「だからね、勉強会っていう名目を付けてでもこうやって集まりたかったの。私にとって二人はかけがえのない親友だから。」
「それに私が落ちちゃったら元も子もないからね。」
最後は舌を出してこう付け加えた。暗くなってしまった雰囲気を少しでも戻そうと絢瀬さんなりに考えた結果なのだろう。
「あ、お母さんから電話だ。ちょっと出てくるね。」
話題が変わろうとしていたところで高坂さんの携帯が鳴ったので部屋を出て行き絢瀬さんと二人きりになった。絢瀬さんは先ほどのような暗い表情はしておらずμ’sの曲を鼻歌で歌いながら三人の予定表をまとめている。
「雪穂、お母さんから電話って言ってたよね?何かあったのかな?」
「うーん。この時間にかけてくるってことはお店のことじゃないかな?」
「雪穂が居ないから言うけど、私たまに雪穂のことが心配になるの。」
絢瀬さんはまた少し暗い表情に変わり話を始めた。今日の絢瀬さんはいつもらしくない重い話が多い日みたいだ。
「どうして?」
「去年、私がこっちに来てからずっと雪穂と一緒にいるでしょ?勉強してお店のお手伝いして私の面倒も見てくれてるから雪穂は自分の時間がないんじゃないかって。私に気を使ってお姉ちゃんみたいに素直に言いたいこと言えないんじゃないかって。」
高坂さんの気持ちを聞いたことはないが側で見ている限り無理をしているようには見えないし、そうだとしたらここまでずっと一緒にいるわけがない。
「絢瀬さんは高坂さんのことをそういう風に見てたの?そうだとしたらそれは絶対に間違ってるよ。絢瀬さんには振り回される事が多いけど一緒にいれて毎日が楽しいって言ってた。それに、その事が迷惑だとも思ってないはずだよ。そうじゃなかったらこうして集まってもないと思う。」
「そう……なのかな。いつも私ばっかり喋ってて雪穂はあんまり自分の話をしないから不安で。」
「そう言われれば高坂さんってあんまり自分の話はしないね。」
思い返せば確かに高坂さんは自分の事はあまり話さないタイプかもしれない。強いて言うならば進路の事と絢瀬さんに対する思いくらいしか教えてくれない。だが、進路の事になるとまだ迷っているの一点張り。本当に迷っているのかもしれないがはっきりとした理由を説明するわけではないので何を迷っているのかも分からない。絢瀬さんに関しては、何をするか分からないから放っておかないという思いが強いようだ。それでも嫌々面倒を見ているようには見えないし一緒に居て楽しいから側にいると本人は言っていたし、絢瀬さんもそれは聞いたことがある。それさえも疑ってしまっているのだろう。
「二人ともごめん!今日、急に店番しなくちゃいけなくなっちゃった。」
電話を終えた高坂さんが駆け足で階段を上がってきて部屋に戻ってきた。高坂さんのお母さんが元々入っていた予定を忘れてしまっていたため店番を代わってくれという内容だったらしい。
「午前中だけって言ってたし、開店の準備は終わってるからやる事はほとんど無いんだけどお父さん一人だと大変だからちょっと行ってくるね。終わったらまた連絡する。」
「分かったよ。雪穂、急いで事故とかに合わないようにね。」
「うん。ありがとう。」
「高坂さん!い……行ってらっしゃい。」
「うん。………行ってきます。」
最後に声をかける前に昨日の夜のことを思い出してしまい急に恥ずかしくなってしまった。きっと顔も赤くなっているだろうし心なしか高坂さんも赤くなっているように見えた。両手で顔を隠した後、絢瀬さんがニヤニヤしながらこちらを見ていることに気が付いた。
「ねぇ三嶋君?さっきの二人の間は何?ねぇねぇ?雪穂と何かあったの?」
両手をテーブルに置き、身を乗り出してグイグイと近づいてきたので寄ってきた分後ろに下がってしまう。絢瀬さんは先ほどの様な暗い表情などまるでなかったかの様に目をキラキラというかギラギラさせていた。
「な、何もないよ。どうしたの急に。それより喉乾いたから飲み物持ってく……」
あまり話したくない内容なのでとりあえず逃げる様に立ち上がると絢瀬さんに力強く腕を掴まれた。その上にかなり怖い表情をしている。無駄な抵抗はやめた方がいいと直感で感じたため一度あげた腰をまた下ろした。
だが内容を考えると本当の事を絢瀬さんに伝えてしまってもいいのだろうか
。
【どっちが本命なの?】
希ちゃんに言われた言葉が脳裏に浮かんだ。俺は高坂さんのことが好きだけど二人がどう思っているのかなんて聞いた事はないしそもそも聞く手段もない。もし仮に絢瀬さんが俺に好意を持ってくれているとするならば今ここで自分の気持ちを素直に話すべきではないと思う。
「ん?どうしたの?座り直したんだから教えてくれるってことだよね?」
とりあえず今は自分の気持ちを教えるのではなく昨晩あったことを話そう。
「昨日の夜、雪穂ちゃんおやすみって本人に言ってみたんだ。も、もちろん本人が寝てるのを確認してから言ったから高坂さんには聞かれてないと思うんだけど、さっきは咄嗟にこのことを思い出しちゃって恥ずかしくなっちゃったんだよ。」
「へぇー。そっかそっかー。じゃあ一歩前進って感じだね!めでたしめでたし。」
「え?どういうこと?」
「ん?だって好きな子の名前が呼べたんだから一歩前進でしょ?」
何故高坂さんのことが好きなのがバレているのか気になって仕方なかった。いつも一緒に居るのだから気づかれてしまう可能性は十分にあるはずだが人目の付く場所では意識しない様にしてきたつもりだ。
「どどどどうしてそれを知ってるの?」
もしかしたら絢瀬さんも周りのことが見えてない様で見えているのかも。それに、こういう話をしてくれるという事は絢瀬さんは俺のことをただの友達として見てくれているということなのかもしれない。
「昨日、雫ちゃんに聞いたの!」
敵は身内にありとはまさにこういう事か。それにしてもあいつはデリカシーが無さ過ぎる。
「昨日?絢瀬さんと雫が二人きりになってた時間なんてあったっけ?」
「雪穂が髪の毛を乾かしてる時に雫の部屋に行って聞いたの!あ、でもね雫ちゃん最初は全然教えてくれなくて、知らないとしか言わなかったの。きっと三嶋君が口止めしてたんだね。」
「そりゃそうでしょ!そうでもしないとホイホイ言いそうだからさ。」
「でもね、コンクールが終わったらお出かけとかお泊まり会するって約束したらすぐ教えてくれたよ。」
俺の言いつけを守ってくれていることを知って少しだけ感動していたのだが……あのポンコツめ。
「それってよく考えたらコンクールは何も関係ないよね。はぁ。まぁいいや。絢瀬さんにバレちゃったらややこしくなるのかなって心配してたんだけどその感じだと平気そうだね。」
「どうして私が知るとややこしくなるの?」
「いや、だって俺の気持ちを知った上で三人で一緒に居ると気使わせちゃったりするのかなって思って。」
「そんなこと心配してたんだ。私、そんなに器用なことできないし二人がお互いのことをどう思っているとしても三人で一緒に居るって決めてるから。」
ふふん、とドヤ顔を決めている絢瀬さんを見て少し笑ってしまう。絢瀬さんには敵わないという意味も込めて。
二人の仲だから当然恋バナもするだろうしお互いの気になっている人くらいは十分知っているはずだ。俺も二人が気になっている人は知りたいが教えてくれそうにはないので聞くのを諦めているが、せめてタイプくらいは教えてもらいたい。
「あ、ちなみに私は好きな人いないよ。それと、一緒に居て楽しい人がタイプかな。」
自然な流れで聞きたいことが聞けた。高坂さんともこういう話をすればさりげなく教えてくれるかもしれないが、好きな人がいるとするなら気にはなるけど聞きたくない気もする。
「一つ聞きたかったんだけど、俺って高坂さんと話してる時どんな感じ?」
「んー他の人と同じように接しているように見えてたけど最近は雪穂とお喋りしてる時は幸せそうな顔してる時が多いかな。雫ちゃんも同じこと言ってたよ!」
「最近?それっていつくらいからか覚えてる?」
「……音ノ木坂のオープンキャンパスが終わった辺りからかな。」
そう言われると自分でも思い当たる節があった。絵里さんにお呼ばれして家に行った帰りに希ちゃんに聞かれ初めて自分の気持ちを言葉にした時からだろう。絢瀬さんでも気がつく位態度に出てしまっているとするなら高坂さんにも気がつかれてしまっている可能性もなきにしもあらずだ。
「この事について高坂さんって何か言ってた?」
「特に何も言ってないよ。ただ、最近の雪穂も三嶋君と話してる時は私には見せない表情してる。雪穂も少しずつ変わってきてるのかもね。だから頑張って!私は三嶋君の恋を応援するよ。」
高坂さんの気持ちも知っているであろう絢瀬さんに応援されるっていうことに少し違和感を感じたがせっかくの好意を無駄にするわけにはいかない。
ただ、今現在の状況だと絢瀬さんは二人の板挟みになってしまっている。正直に言って受験勉強が一番必要なのは絢瀬さんだ。俺個人の問題を解決するために絢瀬さんに相談するのはやめておこう。
………そうなると相談相手はやっぱりあの人になるな。
「突撃!隣の受験生ーー!」
「わ!」
高坂さんが帰ってきた後、三人でお昼ご飯を食べ、これから勉強を始めようと準備をしていると部活から帰ってきた雫が勢いよく部屋へと入ってきた。俺は雫が来たことよりも、驚いて声を出した絢瀬さんの声にびっくりした。制服姿を見る限り、帰ってきてから着替えもせずにそのままこの部屋に向かってきたのだろう。
「びっくりしたー。練習お疲れ様。雫ちゃん。」
「ありがとう雪穂ちゃん。今日はコンクール前日だから練習終わるの早かったの。」
「そうだったんだ!私と亜里沙も明日は観に行くから楽しみにしてるね。」
明日は雫の所属する吹奏楽部のコンクールの日だ。お昼ご飯を食べている時に母さんに言われるまで忘れていたが明日は元々三人とも予定が無かったし、高坂さんと絢瀬さんの二人も吹部に友達がいるので四人で観に行くことになった。
音ノ木坂中学は全国大会への代表権を何度も獲得している吹奏楽部の強豪校で去年も代表に選ばれていた。中学生へと上がる時、二つの小学校の生徒が一校に集まるようになっていて、両校ともマーチングクラブがあるため経験者が多いことが強豪校になる主な要因で雫は中学一年の時に始めたのだが二年生になる前には小学生の時からの経験者と同等の演奏ができていたと高坂さんは聞いたらしい。
雫がやっているのはトロンボーンという金管楽器。本当は木管楽器のクラリネットがやりたかったのだが競争率が高いうえに木管楽器なので外で練習できず、家以外での自主練をする場所が無かったからという理由で諦めたらしい。校内であれば場所なんていくらでもあるとは思ったがこの前のピアノの件の様に努力している姿はあまり見せたくないタイプなのかもしれない。実際に吹部に入部して以来、家で練習している姿は数回しか見ていない。二十時過ぎに帰って来る時が多く、友達と長話をしていたと本人は言うが楽器を持って帰って来ているということはどこかで練習してから帰ってきてるに違いない。
ーーーこれより全国大会へ出場する代表校の発表に移ります。
音ノ木坂中学校は午後の部で金賞を獲得。午前の部で金賞だった学校を合わせ六校の内、四校が全国大会へ出場できる。代表校が発表される毎に歓声が湧き上がり、しばらくするとまた静まり返る。発表中、高坂さんと絢瀬さんは手を握り合い音ノ木坂が呼ばれるのを祈る様に待っていた。演奏の順番からして音ノ木坂が呼ばれるのは最後の可能性が高かったがその名前が呼ばれることはなかった。
表彰式が全て終わり、ホールから出て来た部員達は顧問の先生の元へと集まり話を聞いる。俺たち三人は少し離れた場所から見ていて、確認できた三年生は全員、そして下級生もかなりの数の子が泣いていた。雫は声こそ出してはいないものの何度もタオルで目を拭くのが確認できた。初めてコンクールメンバーに選ばれたことによるプレッシャーや当日の緊張、さらにはこの結果による悔しさなど色々な感情が混ざっていて気持ちの整理が追いついていない様にも見えた。
「全国大会……行けなかったね。」
「………うん。雫ちゃん悔しそうだったね。」
「やっぱり高坂さんにもそう見えたよね。来年は行って欲しいな…全国。」
最後のミーティングが終わり輪がバラけたので雫に声をかけようとしたが部員同士で泣きあったり後輩が同じパートの先輩の元へと行って声をかけている姿を見ると部外者が入っていける様な雰囲気ではなかったし、保護者達も少し離れたところで集まって何やら話をしている。
「雫ちゃん!今日はお疲れ様!今夜は勉強をしないで雫ちゃんといっぱいお話ししたりするつもりだから楽しもうね。」
母さんから連絡が入り保護者達は集まりがあるらしいので帰るのは遅くなるそうだ。その事を二人に告げると絢瀬さんがお疲れ様会をしようと言い出した。雫の好きな料理をみんなで作りちょっとしたサプライズも仕掛けた。
「びっくりしたー!………雪穂ちゃん、亜里沙ちゃん。ありがとう………うっ……うわーん」
雫は二人の元へと走り、かなりの勢いで抱き着いた。家に帰って来て安心したのか緊張の糸が切れたのか分からないが声を出して泣いてしまっている。
「落ち着いた?」
「うん。ありがとう。ごめんね急に。二人の顔を見たら安心しちゃって」
雫は高坂さんと絢瀬さんの間に座ってしばらく泣いていた。その間、高坂さんが頭を撫で絢瀬さんが手を握るという何とも羨ましい状況であったため俺は不謹慎にもあのポジションを代わってもらいたいなどと思いながら食事の準備を進めた。
「雫、腹減ってるだろ。ご飯にしよう。とりあえず着替えて来い。」
うん。と軽く返事をして自分の部屋へと向かう。それと同時に高坂さんと絢瀬さんも立ち上がりこちらへと移動して来た。
「人前で弱いところを見せるようなタイプじゃないんだけど本人の言うように二人を見て相当安心したんだろうね。ありがとう。」
「ううん。ちょっとびっくりしちゃったけど私と雪穂を見て安心してくれたのは嬉しかったよ。」
「そうだね。私もそう思う。」
二人とも嬉しそうな表情をしているが、いつもとは少し違い、姉のような雰囲気が出ていて大人びて見えた。
「「「ごちそうさまでした」」」
食事中にも関わらずたわいもない会話で盛り上がっていた三人がやっと食べ終える。最後に食べ始めた俺よりも十五分ほど遅れてのことだった。
「じゃあ片付けはお兄ちゃんよろしくね。今夜は雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんは私の部屋で寝るから覗いたりしないでね。」
「分かってる。……あ、それから雫!今日はお疲れさん。良い演奏だったよ。」
ドアノブに手をかける寸前の雫を呼び止め、声をかけた。
「…………うん。ありがとう。」
照れ隠しでもするかのようにそそくさとリビングを出て行く。絢瀬さんがニコニコしながらこちらを見ていたので気が付いた時は照れ臭かった。高坂さんもニコニコしながら三人分の食器をまとめて持って来てくれた。
「二人って本当に仲良しだよね。特に三嶋君なんて雫ちゃんと話してる時はすごい優しい表情してるし仲良しオーラが隠しきれてないよ。」
「………ありがと。…でも……その…そんなに俺のこと見てたの?」
「えっ。ちが、違うよ?何回かしか見てないし、その数回もたまたまだから。」
「そ、そうだよね。でもそんな顔してたなんて知らなかったよ。恥ずかしいな。あ、後はやっておくから高坂さんも雫の部屋に行っちゃっていいよ。」
「そんな。悪いよ。乾燥機に入れるくらい手伝わせて。」
そう言うと慣れた手つきで洗い終わった食器を乾燥機に並べ始めてくれた。高坂さんが俺のことを見てくれていることが分かったので恥ずかしいのと同時に嬉しかった。
「じゃあ俺は寝るよ。高坂さん、絢瀬さんおやすみ。雫、母さんはそろそろ帰ってくると思うけど戸締りと電気の消し忘れには注意しろよ。」
「分かってるって。……今日はありがとね。おやすみ。」
「「おやすみー」」
明日は雫が休みなので三人で出かけるらしい。久しぶりに一人でゆっくり出来そうだ。ベットに横になり部屋を暗くしたところである人から電話がかかってきた。
「はい。もしもしーーーー」