超えられない壁   作:食べきりサイズ

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#14 デート

 

 

「あれ。和樹君。いらっしゃい。そうかそうか。今日の遊び相手は和樹君だったか。」

 

 

 

 

予定していた時間よりも少し早く着いてしまったので家の前で待っていると穂乃果さんに声をかけられた。顔には薄っすらと汗をかいていて息も上がっている。

 

 

 

 

 

「あ、穂乃果さん。おはようございます。朝練ですか?」

 

 

「うん。今日は一日休みなんだけど目が覚めちゃったし、じっとしてられなくってね。それより、二人でお出かけってことはデートだよね?二人はいつから付き合ってるの?オープンキャンパスの時はそんな風に見えなかったから最近?どうなの?」

 

 

「お姉ちゃんうるさいし、声がでかい。家の中まで聞こえてるよ。」

 

 

 

 

穂乃果さんからの圧力に圧倒され後ずさりしそうになったところで家の中から高坂さんが出てきた。着替えも終わっていて、後はバックなりリュックを持ってくればすぐにでも出かけられそうな感じはしたがまだ少し時間がかかるということで家の中に通された。

 

 

しばらくするとシャワーを浴び終え部屋着に着替えた穂乃果さんが麦茶を持ってきてくれた。先ほど穂乃果さんからデートだよね?と言われてしまったため、意識しないようにしていた感覚が戻ってきてしまった。好きな女の子と一日中一緒に居られるのだからこっちからしたらデート以外のなにものでもない。

 

 

 

 

「和樹くん。今日のデート、雪穂は相当楽しみにしてたと思うよ。朝だっていつもより早く起きてきたってお母さん言ってたし昨日の夜もやけにテンション高かったんだから。」

 

 

 

 

高坂さんに聞こえないように小声で話しているつもりなのだろうが後半になるにつれ普通の声量に戻ってしまっていた。

 

 

 

 

「まぁそういう事だから今日は雪穂のこと、よろしくね。」

 

 

「待たせちゃってごめんね。それと、私はお姉ちゃんみたいに他の人のことを振り回したりしないから平気です。」

 

 

「うわっ雪穂居たの?っていうか……かわいいね。」

 

 

 

 

準備を終えた高坂さんが居間に戻ってきてその姿を見た時には俺も穂乃果さんと同じことを思った。薄くではあるがお化粧をしていて学校や集まって勉強会をするときの高坂さんとは全く違った顔をしていた。夏休みになってもほぼ毎日のように顔を見ているのでお化粧をしているのがすぐに分かった。顔だけではなく雰囲気も大人びて見える。

 

 

【惚れ直し】をした。

 

 

 

 

「じゃあ三嶋君、行こっか。お姉ちゃん。今日は店番よろしくね。」

 

 

「いつも雪穂に任せっきりだし今日くらい任せて。二人とも楽しんできてね。行ってらっしゃい。」

 

 

 

 

家を出てからしばらく経ったが隣を歩いている高坂さんを意識してしまい上手く話をすることができずにいた。幸い、高坂さんの方から話を振ってくれているので黙ったまま歩く時間はかなり少なく済んでいる。なんだか自分ばかり意識してしまっていて高坂さんに申し訳ないがそれほど今日の高坂さんは魅力的だ。

 

 

 

 

「なんだか私たちの格好。ペアルック…みたいだね。」

 

 

「そうだね。しかも、そう言われると意識しちゃうよ。」

 

 

 

 

俺は黒で無地のVネックTシャツにデニム生地のハーフパンツ。高坂さんは黒で英語の文章がプリントされているTシャツにホットパンツという格好なので、はたから見れば仲の良いカップルがペアルックでお出かけしているように見えてしまっても仕方ないという感じだ。

 

 

それはそうと今はどこに向かって歩いているのだろう。方向的に駅に向かって歩いているみたいだ。今日の予定は高坂さんがある程度考えているらしく、任せてくれと言われたので大人しく従うことにしているが行き先くらいは聞いておきたい。

 

 

 

 

「高坂さん。今ってどこに向かってるのかな。時間も時間だしご飯が食べられるお店?」

 

 

「あ、ごめんね。実はちょっと原宿方面に行きたいから電車で移動したいの。」

 

 

「そっか。分かった。」

 

 

 

 

原宿駅を降りると人で溢れかえっていた。人混みがあまり好きな方ではないというか人酔いしやすい体質なので今からあの集団の中に行くと思うと気が気ではなくなってしまった。おまけにこの暑さなので体調が悪くなる気しかしなかったがせっかく高坂さんが考えてくれたプランを崩すわけにはいかないと思い決意を固める。

 

 

 

 

「うーわ。スゴい人だね。人酔いしちゃいそうだし、あの中に入ってまで買い物とかはしたくないな。」

 

 

なんだか今の言い方からすると別の場所に行くように聞こえる。友達と遊ぶにしても普段からこういう場所に来るわけではないのでこの周辺に何があるのかなんてさっぱり分からない。

 

 

 

 

「三嶋君。行くよ。」

 

 

 

 

どうしていいのか分からなく立ち尽くしていると右手方向に居た高坂さんに声をかけられた。言われるがまま高坂さんの後をついて行く。駅から少し離れると人混みがなくなりだいぶ快適になった。周りを見回すと自分の背の何倍もの木が生い茂り、道幅全体に日陰を作り出している。

 

 

深呼吸をして一息ついたところで急に音ノ木坂のオープンキャンパスの日に少し遠くから夏空を見上げている高坂さんの写真を撮ったことを思い出した。あの写真は今でもたまに見返す時があり、自分の中では完璧な構図で撮れた奇跡の一枚だと思っている。あの時より距離は近いがもう一度高坂さんのことを撮ろうと思い立ち止まった。俺が木々や葉を見上げていた間に高坂さんは少し前に行っていて俺と同じように深呼吸をしているようだった。あの様子なら写真を撮ってもバレないだろう。むしろああした自然体の姿を撮りたかったので好都合だ。怪しまれないよう靴紐を結ぶそぶりを見せるためにしゃがみこみ、携帯を構える。

 

 

前回と同様に高坂さんを画面の中央下に入れ、風に揺れている木や所々から見える夏空がしっかりと分かるような構図にした。モデルになっている高坂さんは前を向いているが手を後ろで組んでいて、まるで撮られているのが分かっているかのようなくらいベストな立ち姿をしていた。今回も良い写真が撮れた。

 

 

満足のいく一枚が撮れたので小走りで高坂さんの横に戻り再び歩き出した。道の途中途中には大人が三、四人座れる程度のベンチが置いてあり子供と一緒にお散歩でもしているであろう家族や老夫婦、大きくて高そうなカメラを首から下げている外国人。色々な人がベンチに腰掛けこの空間を楽しんでいるように見える。

 

 

 

 

「よし?この辺でいいかな。」

 

 

 

 

少し開けた場所まで歩き、大きな木の下まで来たところで高坂さんが立ち止まる。背負っていたリュックからレジャーシートを取り出しそれを広げた。家を出てからかなりの距離を歩いていたので疲れてしまったのだろうか。

 

 

 

 

「ほら。三嶋君もおいでよ。……実はね、今日お弁当を作ってきたから食べてもらいたいの。」

 

 

「え?お弁当?高坂さんが作ってくれたの?」

 

 

「そうだよ。外食もいいけど、どこも混んでるだろうし外で待たされてる間に体調が悪くなっちゃったら嫌だなって思って。それに、いつも三嶋君に作ってもらっちゃってるからお礼も兼ねてたまには私が作ってもいいかなって思って。三嶋君みたいに美味しくできてる保証はできないけど。」

 

 

 

 

少し照れた表情で上目遣いをしてくる高坂さんはとても可愛らしかった。まさか高坂さんが作ってきてくれているなんて微塵にも思ってなかったから嬉しくてたまらない。今、自分の顔が緩んでいないか心配になるがそれが自分でも分からないくらい嬉しかった。

 

 

家を出てくるときに穂乃果さんが言っていたのはこの事かな。

 

 

 

 

「お礼だなんてしてくれなくてもいいのに。でも、ありがとね。嬉しいよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー美味しかった。ごちそうさまでした。」

 

 

「いえいえ。けっこう量あったのに全部食べちゃったね。」

 

 

「そうかな?ちょうど良かったよ。」

 

 

 

 

母さんと自分以外の誰かが作った料理なんて滅多に食べられないから本当に美味しく感じた。おかずを食べる毎に高坂さんに味は平気かどうか聞かれたがそんな心配なんて必要のないくらい美味しかった。

 

 

 

 

「なーんかこうやって勉強から離れてゆっくりできるのなんてスゴい久しぶりな感じするなー。」

 

 

 

 

おかずの入っていたタッパーを片付け終えた後シートの上に寝っ転がりながら両手を伸ばし、大きく伸びをしていた。それに習うように俺も高坂さんに並ぶように横になった。

 

 

 

 

 

「そうだね。高坂さんは今も家に居る間はお店のお手伝いか勉強してるの?」

 

 

「そうだよ?前はお姉ちゃんと分担してやってたんだけど最近はほら、スクールアイドルに夢中だしさ。家に居る時間も少ないからその代わりに私が手伝ってるって感じだよ。」

 

 

「勉強もやってるみたいだし大変じゃない?」

 

 

「うーん。お店の手伝いは小学生の時からお姉ちゃんとずっと一緒にやってたからそれが普通になってるんだ。勉強は…まぁそこまで悪い成績じゃないから何とかなるよ。」

 

 

 

 

そこまで悪くないと言ってはいるが全体の成績を見れば上位だし、俺がこう言うと嫌らしく聞こえるかもしれないが高坂さんの言う通り悪くはないと思う。ただもう少し上位に上がりたいだとかもっと点数を取りたいといった欲が高坂さんには全く感じられないし本人もあまり望んでないように見える。それならばどうしてこんなにもしっかりとやっているのだろう。

 

 

 

 

「あのさ、あんまり高望みしてないのに人並みに勉強するのはどうしてなの?」

 

 

「だって点数悪いと補習とかあるから嫌なんだもん。それにお姉ちゃんみたいに勉強しろとか言われたくないし。」

 

 

 

 

高坂さんのお母さんって勉強とかのことに関してはあんまり言わなそうなイメージがあったので意外だ。ただ、穂乃果さんが勉強しろって言われてる姿は簡単にできてしまう。

 

 

 

 

「それもそうだね。でも高坂さんの成績ならお母さんに何か言われる心配はないね。」

 

 

「え?あぁお姉ちゃんに勉強しろっていつも言ってるのは海未ちゃんだよ。お母さんが言う前に海未ちゃんが言ってくれるからお母さんは言わなくて済んでるだ。」

 

 

 

 

少し笑いながらそう教えてくれた。詳しく聞くと穂乃果さんが思いつきの行動で二人を振り回し園田さんは高坂さんの面倒を見る係、そしてその二人を優しく見守りつつ園田さんを説得することりちゃん。高坂さんが物心ついた時には今のような関係性がすでに完成されていたらしい。すると、高坂さんは体を起こし少し寂しそうな顔をした。

 

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

「いや。お姉ちゃん達三人は小さい頃から一緒にいたけど私にはそういう幼馴染はいなかったから羨ましいなって。」

 

 

「…その気持ちは分かるよ。俺も周りにいた友達はみんな引っ越しちゃったからね。」

 

 

 

 

俺も体を起こしてその勢いのまま立ち上がる。携帯で時間を確認するともうすぐ十四時になるところだった。

 

 

 

 

「じゃあ次の所に行きますか。」

 

 

 

 

レジャーシートを片付け終え、リュックを背負った高坂さんと並んで再び歩き出した。もう一度駅に行くらしいがこの公園は敷地が広いのでお散歩がてら違うルートで駅に向かった。

 

 

舗装されている道が二つに分かれていて外周側を歩けばこの広い公園を一周ぐるっとできるのだろうが高坂さんはその道を選ばずにもう片方の道、つまり公園の中へと続いている道を選んだ。駅から公園に向かって来る時のような歩道の幅は無く壁のように積まれている石も無いこの道は四方を木で囲まれていてとても幻想的な空間だった。

 

 

 

 

「この公園に来たかった理由はね、こういう落ち着いた雰囲気の所でただゆっくりと歩いてみたかったからなんだ。リラックスできたりするのかって思って。」

 

 

 

短い髪を風になびかせ少し遠くを見つめながら高坂さんが口を開いた。

 

 

 

 

「そっか。でもそういう気持ち分かるよ。音ノ木坂って秋葉原に近いからビルが多いしそれなりに人が多いからね。なんとなく落ち着かない街っていうか。」

 

 

「三嶋君なら分かってくれると思ってた。ありがとう。」

 

 

 

 

この会話を最後に公園を抜けるまで二人は一言も話さずにゆっくりと並んで歩いた。何も話さなくても気まずくなるようなことはなかったのは最後の会話でお互いが同じ事を思えているからという安心感が二人の間にはあったからだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

「電車の中、すごい数の人だったね。私、潰されちゃうかと思った。」

 

 

「お盆休み中に電車なんて乗ったことなかったからこんなに混むとは俺も思ってなかったよ。」

 

 

 

 

原宿駅を降りた時にもかなりの数の人がいたが午後になってさらに増えたのだろう。帰りの電車の中では全く座れず三十分以上も満員電車の中で立ちっぱなし。普段から電車を乗って移動をしているわけではないので満員電車に耐えるのはかなりキツかった。高坂さんも限界だったらしく、最寄りの駅より一つ前で電車を降りて歩いて移動することにした。

 

 

 

 

「なんだか今日は歩いてばっかりだね。ごめんね。」

 

 

「そんなこと気にしなくていいよ。それより次はどこに行くの?」

 

 

「んーとね。ストレスを発散しに行く。」

 

 

「え?」

 

 

 

 

そう言われて着いたのがゲームセンターだった。ストレス発散って言うくらいだし、美味しいデザートを食べたり買い物をして発散すると思っていたのでここに着いた時は驚いた。それに、女子がこういう所に来る時はプリクラを撮りに来るのが主な目的で他の遊びをしているのを見る事は滅多にない。

 

 

……プリクラか………高坂さんと…撮りたい。

 

 

店内に入るとプリクラの機械がずらっと並んでいる方向とは逆に進んで行き、エアーホッケーの機械の前で止まった。

 

 

 

 

「三嶋君。これで勝負しよう。」

 

 

「え?」

 

 

「聞こえなかったの?勝負しようって言ったの。」

 

 

 

 

俺が聞き返したのは店内がうるさくて聞こえなかったのではなく、ただ単にエアーホッケーで勝負しようと言われ驚いたからだ。そして極め付けは二人分のお金をすでに入れていてやる気満々で構えている高坂さんの姿。心なしか目つきがいつもより鋭くなっている…気がする。

 

 

 

 

「負けた方がゲーム代を払う。それと、勝った方は一つだけ言うことを聞いてもらえる。それだけ。じゃあ始めるよ。」

 

 

「え。ちょっ。ちょっと待ってよ。」

 

 

 

 

いくつか質問というか条件を確認したかったが高坂さんはなりふり構わずパックを打ち込んできた。しかもめちゃくちゃ早い。目は追いつくが手が追いつかず自分のポケットに入ってしまった。

 

 

 

 

「イエーイ。先制したー。」

 

 

「ごめん。本当に待って。」

 

 

 

 

得点を奪われた側、すなわち俺の方に次のパックが出てきたのでしっかりと止めて高坂さんに質問をする。

 

 

 

 

「負けた方がゲーム代を払うのはいいとして、一つだけ言うことを聞いてもらうっていうのはどういうこと?例えばどういう事?」

 

 

「なんでもいいんだよ。例えばそうだねー。ジュース買ってとかアイス食べたいとか。あとはー。あっ!」

 

 

「よし。これで同点だね。勝負はこれからだよ。」

 

 

 

 

かなりせこいと自分でも思ったが、高坂さんが考えている間にパックを打ってポケットに入れた。これで得点は同点。ここからが本当の勝負だと思った。

 

 

 

 

「いくらなんでも今のは酷いと思うなー。まぁでもまだ同点だからこれからだね。」

 

 

 

 

不意打ちをしてしまったから怒るかなって思ったが笑顔で許してくれた。俺も友達とよくやるし、なにより男として負けられないのでそれなりに本気でやることにした。

 

 

 

 

「良い勝負だったね三嶋君。それにしても喉乾いたなー。」

 

 

「……何飲むの?」

 

 

 

 

勝負はものの数分。高坂さんの圧勝で終わった。おそらくエアーホッケーの大会があるとするなら相当良い成績が残せるのではないかと思えるくらい強かった。

 

 

 

 

「どうしてそんなに強いの?もしかしてよくやるの?」

 

 

「お姉ちゃん達とよくやってたんだ。お姉ちゃんと勝負する時は店番と家の手伝いを賭けてたし、ことりちゃんとはお菓子を賭けて。海未ちゃんに勝てたらお姉ちゃんが一週間店番と家の手伝いをやってもらうっていう条件でね。」

 

 

「園田さんは負けても何も害はないんだね。」

 

 

「そうなの。でもね、海未ちゃんかなりの負けず嫌いだから最初は手加減してても最後は本気になっちゃうの。だから一回も勝ったことないよ。ことりちゃんは勝っても負けてもお菓子を作ってくれるんだ。お姉ちゃんとは五分五分って感じだね。」

 

 

 

 

高坂さんが勝てない園田さんって……。その勝負を見てみたい気もする。

 

 

 

 

「絢瀬さんとはやらないの?」

 

 

「やるけど亜里沙は弱いよ。三嶋君でも勝てるくらい。」

 

 

 

 

どさくさに紛れて俺も弱いと言われているみたいだったがあれだけの負け方をしてはそう言われても仕方ない。

 

 

 

 

「だから亜里沙とやる時は左手でやるの。それでちょうど良いくらい。あと、エアーホッケーをやってる時の亜里沙、すごい楽しそうだからその姿を見るのも楽しいんだ。」

 

 

「じゃあ絢瀬さんが帰ってきたらまた三人で来ようよ。それよりも次は太鼓の達人で勝負しようよ。次は俺が勝ってお願いこと聞いてもらうから。」

 

 

「いいね。じゃあ勝負の条件はさっきと同じね。」

 

 

 

 

勝負は三曲プレイをして二勝した方の勝ちという条件だったが見事三連勝をした。どうせなら高難易度にしようということになり一番難しいのをやったが二人とも手と目が追いつかず、ぎゃーぎゃーと騒ぎながらやっていたのでかなりうるさかったと思う。その中での勝利だったのであまり達成感が無いが勝ちは勝ちなのでお願いをしてみることにした。

 

 

 

 

「お願いってなんでもいいんだよね?」

 

 

「相手が出来そうなことだったらね。それで、三嶋君は私にどうして欲しいの?ジュース?それともアイス?私もアイス食べたいかも。」

 

 

「……あれ。高坂さんとあれを撮りたい。」

 

 

 

 

そう言いながら指を差す。差した先には何台も並んで置いてあるプリクラ機。高坂さんと勝負して勝てたらプリクラを撮ってもらいたいと最初から言うつもりだった。せっかくのお出かけだし、少し化粧をしている高坂さんの姿なんて滅多に見れないと思ったし何より記念として形に残る物が欲しかった。

 

 

 

 

「え?プリクラ?三嶋君と私で?」

 

 

 

 

予想もしていない事を言われて高坂さんもかなり驚いている様子だった。もしかしたら俺とは嫌だったのかもしれない。

 

 

 

 

「いやだったらいいよ。大人しくアイス買ってもらうから。」

 

 

「い…嫌じゃないよ。それに言うことを聞くって言い出したのは私だし、勝負に負けたのも私だから。三嶋君が撮りたいって言うなら撮るしかないよ。」

 

 

「そっか。じゃあ行こう。」

 

 

 

 

自分で言い出していざ撮るとなったら急に緊張してきた。それにさっきまで楽しい雰囲気で話をしていたのに何とも微妙な雰囲気になってしまった。

 

 

プリクラなんて撮ったことないので何をどう操作すればいいのか全く分からないのでお金を入れた後の操作は高坂さんに全て任せた。高坂さんは慣れた手つきでパネルをタッチしている。準備が終わったらしく高坂さんが横に移動してきた。プリクラということで今までで一番近くに立っているのて少し動くとすぐに体が当たってしまう。身動きが取れなくなってしまった。

 

 

 

 

「そういえば撮る時のポーズとかっていつもはどうしてるの?」

 

 

「亜里沙とかと撮る時はそんなの気にしたことないからどうするって聞かれてもなー。……とりあえずピースとか?あとは機械側からの指示に従ってみるとかでいいんじゃないかな?」

 

 

「ワカッタ。」

 

 

 

 

最後の返答がカタコトになってしまうくらい緊張していた。撮影が始まったのでとりあえずピースのしてみた。高坂さんも同じようにしている。上手く表情を作れているか分からなかったがせっかく高坂さんと取れるのだから何としてでも良い表情になるように頑張った。

 

 

 

 

「はい、これ三嶋君の分ね。」

 

 

「ありがとう。」

 

 

 

 

二人分プリントアウトされた物を半分に切り分けて渡してくれた。最初の一枚目はピースをして撮ったが他の物はどんなポーズをしてどんな顔をしていたのかを全く覚えていなかった。覚えているとすれば二十センチ近くある身長差を埋めるために少し屈んで頭を近づけたくらいだ。渡されたプリクラを見て確認したが緊張のあまりほとんどが引きつった表情をしてしまっていた。高坂さんは笑顔や少し変顔をしていたりしていてとても可愛かった。

 

 

 

 

「あはは。三嶋君、表情硬すぎ。せっかく撮ったのに全然楽しそうじゃないじゃん。」

 

 

「そんなこと言われたって……慣れてないし、まさか本当に撮ってくれるとは思ってなかったから緊張しちゃって。」

 

 

「でも三嶋君が撮りたいって言ったんだよ?次、撮る時はもう少し楽しそうな顔してよね。」

 

 

「練習しておく。」

 

 

「練習って…まぁでもせっかく遊んでたんだし私も撮りたいなって思ってたから嬉しかったよ。」

 

 

「え?そうだったんだ。だったら言ってくれればよかったのに。」

 

 

「そんなこと私から言えるわけないでしょ。三嶋君こういうの苦手だったら嫌だし、それこそ断られたら最悪だし。」

 

 

「高坂さんとだったら喜んで撮るよ。」

 

 

「そ…そっか。じゃあまた今度撮りに来ようよ。」

 

 

「うん…」

 

 

 

 

【また今度】という言葉を聞いて照れ臭くなり下を向いてしまった。高坂さんもそうなのだろうか同じように下を向いている。プリクラを大事に財布にしまい携帯で時計を確認する。時間は十七時。今から帰れば時間的にもちょうど夕飯の時間になるだろう。

 

 

 

 

「高坂さん。今日はそろそろ帰ろうか。」

 

 

「そうだね。」

 

 

 

 

ゲームセンターを出て、まだ外が暑かったことに気がつき少し嫌気がさした。近くにあるUTXの校舎に取り付けられている大きなモニターにはA-RISEのライブ映像が流れている。全国的にも名の通っているスクールアイドルなため知ってる人が多いのだろう。立ち止まってその映像を見ている人が何人もいる。

 

 

帰りの道中では今日一日の感想なんかを言い合いながら歩いていた。昼間に行った公園で見かけた小さい子供やベンチに座っていた老夫婦、写真を撮っていた外国人。お昼を食べる前に歩いていた時は少し距離が空いていたが見ていた人や景色は同じで思い出の共有ができた。他にも電車の中で見たベビーカーに乗っていた赤ちゃんが可愛かったとか、ゲームセンターにいたUFOキャッチャーの達人の話。いつもなら絢瀬さんが率先して話をしているので今日みたいによく話す高坂さんは珍しかったし、どの話をしても楽しそうに喋ってくれたので今日一日楽しめたように見える。

 

 

もちろん俺自身も楽しかった。高坂さんの写真が撮れたり、手作りのお弁当を食べられたり、プリクラも撮れた。正直言って今日は人生で一番幸せを感じた日だった。今日のことは一生忘れられない思い出になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、雪穂。おかえり。和樹君、今日は一日雪穂がお世話になりました。楽しかった?」

 

 

 

 

高坂さんの家の前では割烹着を着た穂乃果さんが水を撒いていた。割烹着を着ている姿は初めて見たがなかなか似合っていて流石和菓子屋の娘だなと思った。そうなると必然的に高坂さんが着ている姿も見て見たくなる。今度こっそり絢瀬さんと来てみようかな。

 

 

 

 

 

「はい。すごい楽しかったです。」

 

 

「だってよー雪穂。良かったねー。」

 

 

「お姉ちゃん余計なこと言わないで。早くお店戻りなよ。」

 

 

 

 

相変わらずのやり取りをした後、桶と椹を穂乃果さんから取り上げ背中を押した。その穂乃果さんは笑いながら手を振っていたので苦笑いをしながら手を振り返した。

 

 

 

 

「どうしてあんなに無神経なのかなー。信じらんない。」

 

 

「ウチにも無神経な妹がいるから高坂さんの気持ち分かるかも。」

 

 

「雫ちゃんはそんな子じゃないでしょ。あんなに可愛い妹のことをそういう風に言うとバチが当たるからやめた方がいいよ。」

 

 

「分かってないよ高坂さん。あいつは二人の前だと猫かぶってるだけなんだ。」

 

 

「それでもいいの。私と亜里沙にとっては可愛い妹なんだから。だからそれ以上雫のことを悪く言うのはダメ。分かった?」

 

 

「う、うん。分かった。」

 

 

「分かればよろしい。」

 

 

「じゃあ俺は帰るよ。今日一日、ありがとね。お弁当もすごく美味しかったし楽しかったよ。」

 

 

「こちらこそ、ありがとう。今度は亜里沙も誘って三人で遊びに行こうね。」

 

 

 

 

最後に軽く手を振り、自分の家へと向かった。

 

 

 

 

「お兄ちゃん。」

 

 

 

 

ちょうど半分くらい歩いた所で背後から雫に声を掛けられた。小さなリュックを背負い、トロンボーンの楽器ケースを肩にかけている。服は制服ではないのでどこかで自主練でもしていたのだろう。

 

 

 

 

「自主練か?」

 

 

「うん。三年生が抜けちゃったから私達二年生が部の中では最上級生でしょ?だから少しでも上手くなって後輩のことを引っ張って行こうってみんなで決めたんだ。…来年は絶対に全国に行きたいから。」

 

 

「そっか。練習するのはいいけど暑いんだしちゃんと水分は取りながらやれよな。」

 

 

「うん。分かってる。そういえば今日はどこ行ってたの?」

 

 

「最近一日使って遊ぶのが減ってたから今日は息抜きしてたんだ。」

 

 

「そうだったんだ。十分成績いいのに無駄に勉強してるもんね。」

 

 

「いいんだよ。雫も来年になれば分かるから。」

 

 

「今はまだ考えたくもないよ。それに私は部活優先にするつもりだし。」

 

 

「まぁいいんじゃないか?頑張れよ。」

 

 

 

 

雫と一緒に帰って来て夕飯や入浴を済ませ、少し早めに自分の部屋に戻る。今日は帰って来てからも勉強はしないと決めていたのでベッドに横になった。部活を引退して暇になってしまった運動部の友達からの遊びの誘いや勉強に煮詰まって息抜きをしたいからどこか出かけようと誘ってくれる友達からの連絡に返事を返した後、今日一日の事を思い返した。

 

 

薄くお化粧をして大人らしくなった高坂さんの顔、わざわざ早起きをして作ってくれたお弁当。ゲームセンターで楽しそうに遊ぶ高坂さん。今日一日で何度も新たな一面を知ることができたし、彼女に対する気持ちがもっと大きくなった。

 

 

最後に今日撮った高坂さんの後ろ姿の写真をじっくりとして目を閉じた。

 

 

 

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