今回は雪穂目線でのお話です。
『亜里沙との出会いがきっかけで変わりつつある和樹と雪穂の関係性』
今までの物語に沿って書きました。
最後まで読んでいただければ幸いです。
亜里沙がロシアに帰ると決めた次の日、大事な話があるということで亜里沙は私の家に来ている。当の私はというと亜里沙が来るほんの数分前まで店番をやっていて疲れたのでベッドに横になっていた。いつもと違って少し真剣な表情をして座っているので亜里沙が話し始めるのをじっと待つことにする。大事な話というくらいなのだから、なかなか切り出すタイミングが掴めないのかもしれない。そう思った矢先、亜里沙が勢いよく近づいて来て私の右手を握ってきた。
「え?ちょっ。何?どうしたの亜里沙?」
「いい?雪穂。私がロシアに帰ってる間に三嶋君とデートしてきなさい。いいね?」
「………え!?ななな何を急に。どうしたの?なんで?」
亜里沙は私の目を真っ直ぐ見つめ両手で私の右手を握っていた。こんな亜里沙はなかなか見れないし、珍しいからこそ本気で言っているのだとすぐに分かった。それでも唐突すぎる言葉に気持ちの整理というか理解が追いついていないので亜里沙を落ち着かせることにした。
「亜里沙、ちょっと待って。お願い。とりあえず手が痛いから力入れて握るのはやめてくれないかな。」
「あ、ごめんごめん。」
ベッドに身を乗り出していた亜里沙をちゃんと床に座らせ私も体を起こし、亜里沙の方を向いた。
「それで?なんで急にそんなこと言い出したの?」
「雪穂って三嶋君のことが大好きだよね?それなのにずっと行動しないし近づこうとしないでしょ?だから、そろそろ本格的にアプローチしていかないと誰かに取られちゃうって思って。」
「だ、大好きなんで言わないでよ。普通に好きでいいじゃん。」
クーラーが効いていてついさっきまで涼しかったのに急に体全体が暑くなるのが分かった。特に顔なんて熱があるのではないかと思うくらい暑くなっていた。
「あのね。この前、三嶋君の家で勉強合宿やった時に雫ちゃんの部屋でずっとお喋りしてたよね?ちょっと雪穂がトイレに行ってる時に雫ちゃんに聞いたんだけど三嶋君、かなり女子から人気らしいよ。」
「運動部とかに入ってるわけじゃないから特別目立ってるって感じじゃないけど背だって高いし顔も整ってる方だよね?実際、私もそう思う。しかも頭も良い。おまけに誰にだって優しく接してくれる。雫ちゃんの話だと二年生の間では一番人気らしいよ。しょっちゅう連絡先教えてだの彼女はいるのか、とか聞かれるって言ってたし。だから雪穂には逃して欲しくないっていうかなんて言うか……とにかく、三嶋君の隣には雪穂が似合うし、雪穂の隣には三嶋君が一番似合ってると思うの。」
「んー。なんて言えば上手く伝わるか分からないけど、雪穂はもっと三嶋君にアタックするべきなの。」
いつもなら亜里沙が無茶苦茶な事を言うのでその暴走を止めるのが私の役割だと思っていたし、これからもずっとそうなのだろうと思う。だが、今の会話で私は一回も発言出来ていない。というか亜里沙に圧倒されてしまった。
確かに私は三嶋君のことが好きだし、側に居たいと思っている。
だって……ずっと…見てきたから。
小学校も一緒だったのに今まではずっと違うクラスで話したことなんて一回もなかった。だから必然的に話もしないし挨拶だってしない。廊下ですれ違っても何もない。それでも目に付いてしまうことが不思議で仕方なかった。彼には私が引き込まれる何かがあったのだ。
初めて同じクラスになったのは中学二年生の時。春休みが明け、二年生として初めて登校して自分のクラスを確認していると自分の名前よりも先に三嶋君の名前を見つけた。その後、自分の名前を探していたが三嶋君のクラスに名前があって欲しいと思う自分がいることに気が付き、同じクラスだった時は少しだけ嬉しかった。
ホームルームが始まるチャイムが鳴ったので席に着く。私は窓側の列で後ろから二番目という絶好の位置。一番前の席が一つ空いていたが誰の席かも分からないので気にしないことにした。それよりも廊下側に視線を移して三嶋君の席を探す。一番遠い列の真ん中に三嶋君の姿があり、少し気怠そうに頬杖を付いている。まだ春休みの気分が抜けていないのがあからさまに出ているし、私もその気持ちは分かる。と、その時、三嶋君が急にこちらを向いてしまったため目が合ってしまう。瞬時に目をそらし何事も無かったかのように前を向いたがかなり動揺してしまった。
新しい担任からの挨拶や今日のスケジュールを聞いた後、一人の女の子が教室に案内され入ってきた。金よりも少し暗いクリーム色をした長い髪、目の悪い私が遠くから見ても分かるくらい綺麗な水色の瞳。美少女という言葉がピッタリと似合いそうな子。先生が紹介したその子の名前は
『絢瀬亜里沙』
誰が見ても分かるくらい緊張をしているその子は小さくお辞儀をして自己紹介を始めた。
「はじめまして。私は絢瀬亜里沙…です。よろしくお願いします。」
まだ片言の日本語で挨拶をした絢瀬さんは最後にもう一度お辞儀をして一つだけ空いていた席に座った。どこの国の血が入っているかは分からなかったが明らかに純日本人ではないことは分かる。急な転校生、おまけに美少女ということもあり教室中がざわざわと騒がしくなる。特に男子。
「絢瀬さんってあんまり話さないっていうか静かな子だよね。」
「ね。せっかく話しかけても全然話してくれないし。」
次の授業の準備をしていると近くの席の子達の会話が聞こえてきた。絢瀬さんが転校して数日が経ち、各々が新しいクラスに慣れてきたが絢瀬さんだけは未だ馴染めずにいた。休み時間になると毎日のように男女問わず絢瀬さんの元へ集まり声を掛けている。もちろん私も何度も行った。だが絢瀬さんは会話らしい会話はしてくれなくて相槌や返事を返す程度しかしてくれない。
「雪穂ー。今日みっちゃんの家に集まるんだけど来れる?」
「あー……。誘ってくれるのはありがたいんだけど今日は店番しなきゃいけないんだ。また今度ね。ごめんね。」
「オッケー。じゃあ気をつけて帰ってね。バイバイ。」
今日はお姉ちゃんの番なので本当は店番なんてない。今日は放課後にこれだけは必ずやってから帰ろうと決めていた事がある。忘れ物が無いかを確認してから席を立ち、同じように帰り支度をしている絢瀬さんの元へと歩み寄る。
「絢瀬さん。一緒に帰ろう。」
「え?」
先ほどの会話を聞いていたのだろか声を掛けられた絢瀬さんは凄く驚いている。
「でもさっき、お友達からの遊びを断わった。」
「あぁあれね。店番っていうのは建前で本当は絢瀬さんと一緒に帰ってみたかったんだよ。ほら。学校だとゆっくり話せないしどうしても人が集まって来ちゃうから。」
「建前って何?お寿司を作る人?」
「それは板前さんね。遊びの誘いを断りやすくするための理由って言えば分かるかな?っていうかよくその言い回しを知ってるね。じゃあ行こっか。」
絢瀬さんの家がどちらにあるかは分からなかったのでとりあえず絢瀬さんに着いて行きながら家へと向かった。
「へぇ。絢瀬さんもお姉さんが居て音ノ木坂に通ってるんだ。実は私のお姉ちゃんも今年音ノ木坂に入学したんだよ。こんな偶然あるんだね。」
「じゃあお姉ちゃんの一つ年下なんだね。音ノ木坂の制服って可愛いから人気あるのかな?」
「んー。どうなんだろう。私のお姉ちゃんは制服の事なんて一回も言ってなかったけど。…それより絢瀬さん、普通に話せるんだね。」
「元々ロシアで一緒に住んでたお祖母様が日本人でこっちに来る前から日本語の練習はしてたの。でも聞き取りの方はまだ慣れなくて、学校みたいに大勢に囲まれちゃうと緊張しちゃうし早口で言われちゃうから聞き取れないんだ。」
確かに、慣れていない言葉の聞き取りは難しいと思う。おまけに何人にも声を掛けられたらどの質問に答えていいのか分からないし理解するにも時間がかかってしまう。学校であんまり話さないのはこういう理由があったんだ。
「それならさ、それをみんなにちゃんと伝えた方がいいよ。言うのが怖かったら私が言ってあげるし、側にいるよ。」
「本当に?それじゃあ私の友達になってくれる?」
【友達になってくれる?】なんて言われたのは初めてかもしれない。友達って一緒に遊んだり話をしているうちになるものだと思ってたからこうやってストレートに言われると少し照れてしまう。それでも目をキラキラさせ、期待の眼差しを向けている絢瀬さんを見るとなんだか笑えてくる。
「あはははは。絢瀬さん面白いね。もっと早くこうしておけば良かった。」
「ん?私、何か変なことでも言ったかな?じゃあ私とは友達になってくれないの?」
「ううん。変じゃないし気にしないで。それに友達っていうのは確認しなくても自然となってるものだし、こうして一緒に帰ってるんだから私達はもう友達だよ。」
すると絢瀬さんの表情がさらに、ぱあっと明るくなった。
「そうなの?じゃあ私達はもう友達だね。これからよろしくね。……それじゃあ友達になったし、名前で呼んでもいいかな?仲の良い友達はみんな名前で呼び合うってお姉ちゃんに教えてもらったんだけど。」
「ずいぶん偏った知識だと思うけど、いいよ。じゃあよろしくね。亜里沙。」
「嬉しい。こちらこそよろしくね。雪穂。」
この日を境に亜里沙はクラス中の子達とも仲良く話せるようになり、あっという間に新しい学校に馴染んでいった。亜里沙と一緒に過ごせばきっと楽しくなる。亜里沙の眩しいくらいの笑顔を見て私はそう思った。
季節があっという間に過ぎ夏の暑さが終わりに近づいてきた九月のある日、数学の教科担当の先生が私用で急に帰ってしまい自習になった。その時間は体育館を使って授業をしているクラスが無いということで私たちのクラスだけでバスケットをやることになり、体育館へ移動する。
普段の体育の授業は男女が別々で行なっているのでこういうのは新鮮だったし楽しみだった。バスケ部や野球部に所属している子達が率先してチーム分けや時間の配分、道具の準備なんかを全てこなしてくれた。一組六人のチームが四つに分けられたのでメンバーを確認すると亜里沙と三嶋君が同じチームに居た。亜里沙は元々運動神経が良く、特にバスケットに関しては経験者だと間違えられるほどの腕前で亜里沙が同じチームに居てくれるだけで精神的にもかなり頼りになる。
「高坂さん、よろしく。頑張ろうね。」
亜里沙から渡されたビブスを着ようとしていたところ三嶋君に声をかけられたので少し見上げながら答えた。
「三嶋君、背が大きいからパスしやすそうだね。私にボールが回ってきたらパス出すね。」
「うん。分かった。」
試合が始まりると私が思っていた以上にみんなが本気でやっていたので明らかに場違いな気がした。亜里沙もだんだんと熱が入ってきて目が本気になっている。私はみんなについて行くのがやっとでパスをもらってもすぐに他の子に渡してしまう。幸い私がボールを持つと亜里沙や三嶋君が必ず近くに寄ってきてくれるのでパスが出しやすかった。
一試合目は相手にバスケ部の子が居たのも影響して負けてしまった。亜里沙はすごく悔しそうにしていたが私は亜里沙のように熱が入っていなかったのでそこまで悔しくもなかった。コートを出て、危なくないように隅っこに移動すると三嶋君が同じチームの子と一緒にこちらに来て近くに座った。
「絢瀬さんバスケ上手いね。経験者かと思ってどんどんパス出しちゃったよ。」
「そんなことないよ。シュートだってたまたま入っただけだし。」
たまたま?短い試合時間の中で三本もシュートを決めた人の言う台詞ではない。あと一年早く、つまり私達が中学入学と同時に転校して来ていたら亜里沙はバスケ部に入っていたに違いないだろう。ちなみに私はシュートすら打っていない。どちらかと言うと私がパスを出した子がシュートを決めてくれた方が嬉しかったので完全にそう言う立場の人間なんだなと思った。
「高坂さん、バスケは嫌い?」
亜里沙達の会話をぼーっと聞いていたので三嶋君が私の隣に移動していたことに気がつかなかったので少し驚いた。
「え?そんなことないよ。ただ、人には向き不向きってあるでしょ?それにいつもと違って男子もいるから迫力があってちょっと怖いなって思って。でもちゃんと楽しめてるよ。」
「そっか。それなら良かった。次は勝ちたいね。」
「うん。亜里沙に頑張ってもらわないと。」
そんな会話をしていると試合が終わり、また私達のチームの試合が始まった。三嶋君の言う通り、せっかくの試合なのでどうせなら一回くらいは勝ちたい。
「痛っ。」
試合の途中で足を挫いてしまい派手に転んでしまった。幸い手をついたから転んだので顔は痛めなかったが足はかなり痛み、立ち上がることができなかった。試合は一旦中断になりクラスメイトが私の元へと駆け寄ってくる。
「雪穂!大丈夫?」
誰よりも一番早く私の元へ来たのは亜里沙だった。血相を変えて走り寄って来て私が立てないのに気が付き涙目になってしまっている。
「大丈夫だよ亜里沙。挫いた直後だから力が入らないだけ。」
「それでも心配だよ。保険室行く?」
「これくらいなら大丈夫だとおも」
「立てないのに大丈夫なわけないよ。」
少し強い口調で私と亜里沙の会話を遮ったのは三嶋君だった。私達はもちろんクラスのみんなも三嶋君がこんなに大きな声を出すのを初めて見たので驚いて固まってしまう。すると三嶋君が私の横に背中を向けて座った。どうやらおんぶをして保険室まで運んでくれるらしいがさっきよりは痛みは引いていた。
「三嶋君、本当に大丈夫だよ。自分で歩いて行くから。」
「だったら無理矢理にでも連れて行くよ。」
先ほどと同じ口調で話す三嶋君は座り込む私を抱き上げた。一瞬で持ち上げられてしまったので理解するのに時間がかかったがお姫様抱っこをされていることに気が付き恥ずかしくなってしまった。他の子達に変な意味で騒がれると思ったがみんなも心配してくれているみたいで不安そうにこちらを見ていた。
体育館を出て保険室に着くまでの間と湿布を貼ってもらい包帯を巻いてもらっている間、私は三嶋君の顔が見れなかった。決して軽くはない私を保険室まで運んでくれる力があることにびっくりして男らしい所を見せてくれたと思えば今度は優しく治療をしてくれている。この時、今まで感じたことない気持ちが自分の中で湧き上がってくるのが分かった。
「よし。これでいいかな。高坂さん、包帯キツくない?」
「う、うん。大丈夫。……ありがとう。」
「どういたしまして。あ、そういえば捻挫って癖になるって聞いたことあるからちゃんと治してね。」
治療も終わったので片足で立ち上がろうとするとバランスを崩してしまい、倒れそうになったところで三嶋君が抱き上げるような格好で受け止められた。三嶋君の右手が私の左手を掴み、三嶋君の左手は私の腰へと回されていた。私の右手は三嶋君のジャージの袖の部分を握っていて体全体が三嶋君に包まれているような格好になってしまった。
三嶋君の心臓の音が聞こえる。少しずつ早くなっているのが分かったところで我に返りすぐに離れた。気がつけば三嶋君よりも私の方の脈の方が早かった。
「ご、ごめん。……ありがとう。」
「大丈夫?まだ痛むだろうから残りの時間は保険室に居た方がいいよ。」
「うん、そうする。」
また椅子に座ったところで廊下の方から誰かが走ってくる音が聞こえる。相当な勢いで近づいてくるのですぐに亜里沙だと分かった。おそらく、試合が終わったのだろう。
「雪穂!大丈夫?」
息を切らしながら私の目の前まで走って来てしゃがみ込み、包帯が巻かれた足を見た。
「三嶋君が湿布を貼ってくれて包帯まで巻いてくれたから平気だよ!心配させちゃってごめんね。」
「良かったー。三嶋君、ありがとう。」
亜里沙が三嶋君の手を握り何度もお礼を言っていた。その様子を見る限り相当心配をさせてしまって申し訳なかったなと思うと同時に、ここまで心配してくれる人がいてくれて嬉しかった。
でもそれ以上に亜里沙が三嶋君の手を握っているのを見てモヤモヤしている自分がいることに気が付いた。
年が明け早くも一ヶ月が過ぎた二月、クラスでインフルエンザが流行して半分以上が休みだったので学級閉鎖となった。幸い、私達は何ともなく元気なので早く帰れることが嬉しかった。亜里沙は学校が楽しいらしく学級閉鎖の知らせを聞いた時は一人で落ち込んでいた。ちなみにこの時落ち込んでいたのは亜里沙だけだった。
家に帰ってもつまらないということなのでとりあえず私の家に来た。今は居間のコタツに入りながらミカンを食べ、お茶を飲みながらダラダラしている。ここで年明け前からずっと気になっていたことを亜里沙に問いかけて見た。
「ねぇ、亜里沙。亜里沙って三嶋君のことどう思ってるの?」
「え?……どうしたの急に。」
最後の一房を口に運ぼうとしていた手を止め不思議そうにこちらを見た。亜里沙は誰とでも楽しそうに話す。でも三嶋君と話す時は他の人よりも三割増しくらい楽しそうに見えたので三嶋君に気があるんじゃないかと思っている。それに亜里沙が好きって言ったら素直に喜んだり応援したりは出来ないんじゃないかなって思っている部分があるのでどうしても聞いておきたかった。
「いや、亜里沙って三嶋君と話す時はすっごく楽しそうに話すからもしかしたら好きなんじゃないかなって思って。」
「優しくて良い人だと思う。好感は持てるけど恋愛感情として考えた時に私は好きとかそういう感情を持ったことないよ。」
「そっか。」
亜里沙の言う通り三嶋君はみんなに平等に接してくれる良い人だし好感は持てる。だけど私はそれとは違った意味での好感を持っている。バスケの試合中に怪我をして治療をしてもらった後から三嶋君のことを前よりももっと見るようになってしまっているし、話す時も変に意識をしてしまっている。おそらく私は三嶋君に惹かれているし、こんな気持ち初めてだから相談相手が欲しかった。当然、いつも一緒に居る亜里沙が一番だけれどももしも亜里沙も同じ気持ちだとしたら相談が出来ない。怖かったけど亜里沙の気持ちだけは知りたかった。だから好きではないと聞いた時は内心ホッとした。
「あのね、亜里沙ーーーーー」
私が三嶋君に抱いている感情や保険室であった出来事、目で追っていることが増えたことなど今までの事を全て聞いてもらった。亜里沙は真剣な眼差しで、たまにニコニコしながらちゃんと聞いてくれた。
「雪穂。それは恋だね。それ以外の何物でもないよ。」
「……やっぱり…そう……だよね?………あー私三嶋君のこと好きなのかー。」
惹かれている時点で薄々は気づいていたが、他人に言われてこの気持ちが好きだということが分かった。改めて思い返すと今までの行動が全て恥ずかしくなってきて顔だけに留まらず体全体が熱くなってしまった。亜里沙はおめでとう、と言いながら何故か拍手をしている。
「亜里沙ー。これからいっぱい相談しちゃうと思うけど私を見捨てないでね?」
「あはははは。何言ってるの雪穂。そんなの当たり前だよ。雪穂は私の一番大切な友達で親友なんだから。それより、三嶋君のこと頑張ってね。私は雪穂の恋を全力で応援するよ。」
「雪穂雪穂!私達また同じクラスだよ!やったー!」
亜里沙が転校してきてあっという間に一年が過ぎ私達は三年生になった。また同じクラスになれていることを知った亜里沙は私の手を握りながらぴょんぴょんと可愛らしくジャンプしている。私も嬉しかったけれど実はというと亜里沙と同じクラスになるのは春休みに入る前から知っていた。
三月の終業式の前の日に担任の先生に呼び出され、クラスの振り分けについて説明された。転校して来て一年経ったとはいえ三年生になれば行事が沢山ある。修学旅行と三年に一度ある文化祭、そして一番の問題が受験。これだけ行事があらにも関わらず新しいクラスでまた一から友達などを作るのは大変だろうという学年教師達の意見が一致したらしい。
「あ、三嶋君も同じクラスだ。」
「本当?……良かった。」
「あれれ?雪穂?ずいぶん嬉しそうだね。」
「そ、そりゃそうでしょ。っていうか茶化さないで。」
「ふふ。雪穂可愛い。」
からかう亜里沙の手を取りクラスへと向かう。声には出さなかったけれど三嶋君が同じクラスだったということは亜里沙が気付く前に見つけていた。こんなことを亜里沙に言ったら怒られるかもしれないけど亜里沙と同じクラスになるより三嶋君と同じクラスになれたことの方が嬉しかった。
三年生になり二ヶ月が過ぎて本格的に梅雨入りした六月、亜里沙が風邪で学校を休んでいた。去年もこの時期に休んでた気がする。三嶋君の提案で亜里沙のお見舞いに行くことになったが私の傘が盗まれてしまっていて三嶋君の傘に入れてもらい人生で初めての相合傘をしながら家に向かう。少し動くと肩がぶつかるくらい近い距離で歩く。こんなに近くに三嶋君が居るのは去年の秋以来だ。思い返すとあの時怪我をしていなかったら三嶋君のことはただの友達としてしか見ていなかったと思うし、ミカンを食べながらくつろいでいた亜里沙に確認するよりも前からずっと三嶋君のことが好きだったのだ。
おそらく今、私の顔は誰が見てもすぐに分かるくらい赤くなっているだろう。……気づかれてないといいけど。
「実はね亜里沙のお見舞いに向かってる時、三嶋君と相合傘しながら来たの。近すぎて緊張しちゃったよ。」
「じゃあ私に感謝しなきゃねー。」
「それよりも亜里沙!いつの間に三嶋君と連絡先交換してたの?私だってまだなのに。」
「え?まだ知らないの?あはは。雪穂はヘタレさんだね。」
風邪が治りすっかり元気になった亜里沙は制服を着たまま私のベッドの上で携帯をいじっている。すると亜里沙が携帯の画面をこちらに向けて何かを見せてきた。
「雪穂、これ見て。」
「ん?何これ?……あれ?………これ……お姉ちゃん?」
「そうだよ!音ノ木坂でスクールアイドル始めたって言ってたでしょ?これはそのライブ映像だよ!」
「初めて見た。けっこう本格的なんだね。あ、海未ちゃんとことりちゃんもちゃんと映ってるね。でもこれ誰が撮ってくれたの?」
「お姉ちゃんに頼んだの。私すっかりμ’sのファンになっちゃった。特にこの髪の長い人。園田海未さんって人らしいんだけどーーーー」
しばらくの間μ’sの歌やダンス、衣装について熱く語っている亜里沙の相手をしながら何度もライブ映像を見た。動画のコメント欄には【かわいい】や【次のライブも楽しみにしてます。】など多くのコメントが書き込みされていて、この画面に映っているのが本当に私のお姉ちゃんだとは思えないほど別人に見えた。
「私、音ノ木坂に行ってスクールアイドルやろうかな。」
五回目のライブ映像が終わると亜里沙がボソッと呟いた。
私達のお姉ちゃんが通っている音ノ木坂学院高校は生徒数の減少が原因で今年度をもって廃校になるという話が出ている。さらにわざわざ廃校の噂が出ている学校に進学したいという人がいるとは思えないのでほぼ廃校は決まったようなものだと思っている。でもそれを阻止したくて亜里沙のお姉ちゃんは生徒会長、私のお姉ちゃんはスクールアイドルとして何とかして廃校を逃れようと活動している。μ’sがもっと活動範囲を広げて有名になれば亜里沙のようなことを思う人が増えるかもしれない。
私は秋葉原にあるUTXという最近新設された高校に進学するつもりでいる。UTXにはA-RIZEというすでに全国でも有名なスクールアイドルが存在していて年々倍率が上がっているそうだ。もしも音ノ木坂に廃校の話が出ていなかったら私も音ノ木坂に進学していたと思う。
「雪穂も一緒に音ノ木坂に行ってスクールアイドルやろうよ。」
…なんとなくだけど、亜里沙にこう言われるのはある程度予想はしていた。けど今はどちらの返事をするにしろハッキリとは答えられない。
三嶋君と一緒に帰った日に連絡先をやっと交換できた。私としてはその原因が亜里沙のことで二人で相談しようってことだったからちょっと……というかかなり不本意。少しでも期待した私がバカみたい。それに三嶋君は亜里沙に対して他の人とは少し違った対応をするように感じる。今回の事もそうだ。何というか、亜里沙を見ている目が違う気がする。分からない問題や苦手な教科が多い亜里沙に勉強を教えてくれるのは親友の私としても嬉しいけど……席は隣だし、教えている時は物理的な意味で凄く距離が近い。ハッキリ言ってしまえば亜里沙に嫉妬をしているのだ。
部屋の電気を消し目を閉じ、亜里沙と三嶋君が楽しそうに話している姿を思い返す。
亜里沙は三嶋君のことをどう思ってるか今は分からない。もしかしたら気が変わってしまっている可能性だってある。だからこのまま二人の姿を黙って見ているのは嫌。
この時、今回の一件に区切りがついたら三嶋君に亜里沙のことをどう思っているかを聞こうと決心した。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
作成中に薄々感じていましたが一話でキレイにまとめられませんでした。
なので、次も雪穂の話を投稿します。
次回もよろしくお願いします。