超えられない壁   作:食べきりサイズ

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#17 修学旅行

 

 

 

 

 

 

「全員に栞は届いたかな?じゃあ今日はこれに沿って説明します。」

 

 

 

 

九月もあっという間に下旬になり少しずつ秋の空気を感じられるようになった頃、午後の授業の時間を全て使って来週に控えいる修学旅行についての説明が始まった。普段の授業の時は殺伐とした空気が漂っている教室もこの修学旅行と晩秋に行われる文化祭の話になると雰囲気がガラッと変わり賑やかな声があちこちから聞こえる。ちなみに隣の絢瀬さんはクラスでも一、二を争うくらいのはしゃぎ具合で前の席の高坂さんの椅子を前後に揺らしたりしている。

 

 

 

 

「亜里沙、うるさい!」

 

 

「だって修学旅行だよ?楽しみじゃん!あ、そうだ雪穂。奈良の鹿公園にはヤギがいっぱいいるんでしょ?餌とかあげられるのかな?」

 

 

「鹿公園じゃなくて奈良公園だし、いっぱいいるのはヤギじゃなくて鹿だよ。」

 

 

 

 

今みたいな会話を聞けたのは久しぶりのような気がした。最近は二人の間でも少し重い空気が漂っていて前みたいに絢瀬さんがはしゃぎ高坂さんが抑えるという絡みが少なくなっていた。それでもやっぱり二人にはこのくらい賑やかな方が似合っている。

 

 

今年の修学旅行の行き先は京都と奈良。京都は父さんの単身赴任先で、綺麗な街並みや美味しい食べ物についてなど何度か聞いたことがあるので行けるのが楽しみだ。

 

 

全体の流れや宿泊するホテルの場所などの説明が終わった後、自由行動の時間の際に共に行動することになっている班員で集まって細かいスケジュールや移動手段、予想される費用などの確認作業を行う時間になった。俺と同じ班の人達が席の周りに集まってきて、近くにある机の向きを変え六つの机をくっつけた。俺の班は男女共に三人ずつの六人組で組まれていてもちろん高坂さんと絢瀬さんも同じ班。もう一人の女の子は工藤美香さんといって、二人とは仲が良く、高坂さんとは一年生の時からずっと同じクラスらしい。俺以外の男子二人は小学生の時からの友達で中学二年生の時も同じクラスだった。

 

 

班決めの際、前々から決まっていた男子二人が俺のところに来た。隣には高坂さんと絢瀬さんと工藤さんが居て、全員が去年からのクラスメイトということもあり、すんなりと同じ班になる事になった。後から聞いた話だと工藤さんは現在俺の右隣に座っている奴のことが好きらしく、今回の修学旅行で距離を縮めたいそうだ。ちなみに当の本人は工藤さんのことが最近気になりだしたと言っていたので旅行中にカップルになれるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ雪穂?美香ちゃんはやっぱり修学旅行中に告白するのかな?」

 

 

「うーん。どうなんだろう。修学旅行中か文化祭の時にはしたいって言ってたけどね。」

 

 

 

 

今日は久しぶりに絢瀬さんが高坂さんの家に行くという事で三人で帰っている。今日は金曜日で明日は休みなので絢瀬さんは今夜このままお泊まりをするらしい。たまには息抜きをしたいと二人とも言っていたし修学旅行や来月に控えている文化祭など楽しみな行事が立て続けに行われるので話しが盛り上がりそうだ。それにしても、三年生の秋に修学旅行と文化祭を両方やるのは学校としてどうかと思う。

 

 

そして二人にはもう一つ大きな楽しみがある。それは音ノ木坂学院高校の文化祭。

 

 

ラブライブ!出場に向け着実に順位を上げてきたμ'sは現在、出場圏内の二十位に位置しており今回の文化祭でさらなる人気を集め少しでも順位を上げたいそうだ。心配なのは天気と最近オーバーワーク気味の穂乃果さんの体調。全体練習が終わった後も自主練で走り込みやダンスの練習を行なっているみたいで明らかに無理をしているように見えると高坂さんから聞いた。ただ、逆を言えば周りが見えなくなってしまうほどラブライブ!出場を目指しているという事だし、出場できればそれだけで学校の名前が全国に知れ渡り廃校を阻止できるかもしれないので高坂さんもそこまで強くは注意できないらしい。高坂さん自身、頑張っている穂乃果さんとμ'sを応援したい気持ちと妹として姉を心配している気持ちが混ざってしまっていてどうしていいのか分からないと言っていた。俺は家の用事があり文化祭には行けないので動画がアップされるのを楽しみに待つ事にしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんがライブ中に倒れて病院に運ばれた。」

 

 

 

 

文化祭当日の夜、高坂さんから穂乃果さんがライブ中に倒れたとの連絡が入った。原因は過労による体調不良。ライブを中止にした後すぐに病院で点滴を打ってもらい現在は家で寝ていて二、三日目家でゆっくりと休んでいれば回復するらしい。ラブライブ!出場が決まるかもしれないくらい大事なライブだっただけにμ'sメンバーだけでなく高坂さんや絢瀬さんもショックを受けているに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「高坂さんおはよう。穂乃果さんの具合はどう?」

 

 

「おはよう。今日はちょっと早いんだね。まだ熱があるし体がかなり怠いって言ってたよ。」

 

 

 

 

前より登校時間を早め、朝学習をしている高坂さんに声をかけ穂乃果さんの具合を聞いた。心なしか声のトーンが少し低く落ち込んでいる様に見える。それは後から来た絢瀬さんも同じで結局一日中静かなままだった。

 

 

次の日、絢瀬さんの提案で穂乃果さんのお見舞いに行くことになった。もう熱は下がりだいぶ体調は回復したみたいだが咳が出ているので大事を取って今日まで休むことになっている。そして穂乃果さん達μ'sに一つ大きな問題が発生してしまっている。ラブライブ!に出場するために体調を崩してまで活動するのは勉強が本業である学生にとって決していい事ではなく、無理をし過ぎだと絵里さんが理事長から注意を受けたらしい。確かに今回の件に関しては無理をしたのかもしれないが部活動をする上で無理をする事なんていくらでもあると思う。俺自身が部活動をやっているわけでないが身近にいる妹の雫を見ていればよく分かる。その事自体に問題は無いのだが倒れた時が文化祭中のステージ。さらには雨の中行われたライブという事で多くの人の目に留まってしまったことが問題視されている。

 

 

学校が終わり穂乃果さんのお見舞いをした後、一階の居間で話をしていると絵里さん、希ちゃん、矢澤さん、の三年生三人とことりちゃんと園田さんの二人が家の中に入ってきた。玄関の外からは別の人の声が聞こえるので一年生の三人も来ているのだろう。絵里さん達は険しい顔をしながらすぐに二階へ上がってしまったので話をするタイミングを逃してしまった。

 

 

 

 

「なんだか表情が暗かったね。ただ単にお姉ちゃんのお見舞いに来ただけじゃないよね。あれ。」

 

 

「そうだね。お姉ちゃん、μ'sに入る前みたいに難しそうな顔してたし。」

 

 

 

 

そんな表情をしてしまうくらい何かあったに違いないし考えられる要因は文化祭での一件しかないと思う。お見舞いのついでにその内容を穂乃果さんに伝えに来たのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「亜里沙。私達はもう帰るけど亜里沙はどうする?私と一緒に帰る?」

 

 

「うん。たまには一緒に帰りたい!」

 

 

 

 

穂乃果さんの部屋に向かって行ってから三十分が過ぎようとしていたところで絵里さん達三年生組が降りて来た。絵里さん達の姿しか見えなかったのでことりちゃんと園田さんはまだ部屋に居るのだろう。絢瀬さんも帰るので俺も荷物を持ち、外に出ると高坂さんはメンバーの人達にお礼を言うため一緒に外に出て来た。

 

 

 

 

「ずいぶん深刻そうな顔してたけど何かあったの?」

 

 

「あ、かず君。…まぁ大した事やないんやけど、ことりちゃんのお母さんからちょっとお叱りを受けちゃったんよ。」

 

 

「大した事でしょ。ラブライブ!の出場を辞退したんだから。」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、高坂さんと絢瀬さんになぜμ'sが大会を辞退しなければならなかったのか詳しく話を聞いた。文化祭での一件がOBの人を含めた学校関係者の大人達に知られてしまい理事長や先生達の元に抗議や問い合わせの連絡がかなりの数入ったそうだ。生徒会長である絵里さんは理事長に呼ばれ今回の件に関して全てが伝えられたそうだがメンバーには一部の事しか伝えてないとの事。同じグループで活動していたにも関わらず穂乃果さんに無理をさせてしまった自分達に一番の問題があると考えた絵里さんは穂乃果さんを除く七人のメンバーに大会へのエントリーを辞退するのはどうかと話を持ち掛け、話し合いの結果として辞退する事になった。

 

 

事後報告という形でこの件を知らされた穂乃果さんは夕飯も食べずに一晩中泣いていたそうだ。今朝は学校に行くため時間通りに起きてきたらしいが妹の高坂さんでさえ今までに見たことのないくらい目を腫らしていたという。

 

 

大会に出場すれば知名度が上がり、入学希望者が増えれば廃校を阻止できると考えていただけに今回の一件で今後の活動に何らかの影響が出てしまうのではないかと二人とも気にしている。

 

 

 

 

「まぁ活動停止とかっていうわけじゃないんだろうし、ライブもまた見れるよ。」

 

 

「そう…だよね。」

 

 

「三人ともおはよう。何だか表情が暗いけどちょっといいかな?」

 

 

 

 

三人が同時に俯きかけたところで工藤さんに声をかけられた。朝学習をする為に早目に来ている高坂さんに合わせて登校したため教室には他の生徒は誰も居なく、それを狙ってこの時間に来たという本人の言葉からして明日から始まる修学旅行についての話だろうとすぐに分かった。高坂さんと絢瀬さんに何か相談があるだろうし俺が居ると話をしにくいだろうと思い席を立とうとすると工藤さんに止められた。なんでも俺にも協力して欲しい事があるそうだ。

 

 

工藤さんはやはりこの修学旅行中に告白をするらしい。二日目は一日中班で自由行動する日になっていてその日の夕方に告白したいそうだ。俺らに協力してもらいたい事というのは凄くシンプルで、二人きりになる時間を作って欲しいとのことだった。幸い、男子側は三人がそれぞれの女子に気があるため各々が二人きりになるのは簡単だと思う。ただ工藤さん達を自然な流れで二人きりにできるかどうかご不安な所だがその辺は俺たち三人が協力してやるしかない。

 

 

この話をしている最中の工藤さんはずっと顔を赤くしていて、高坂さんや絢瀬さんにからかわれる度に照れながら笑っていた。まさに恋する乙女だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人とも…ちょっといいかな?あのさ……もう気づいてると思うし、すげー恥ずかしいんだけど工藤さんにこ、こ、告白されて……付き合う事になった。」

 

 

 

 

二日目の自由行動を終え、ホテルに戻って来るとすぐに報告を受けた。

 

 

自由行動の最後の計画として京都駅内で各々がお土産を買うという事になっていた。明日の最終日にも駅で自由行動を取れる時間があるが全クラスが一斉にお店を回るとなるとゆっくり買い物が出来ないのではないかという事とホテルが駅から近いので帰りやすいという意見が一致して決まった。

 

 

最初は男女がそれぞれ別行動を取っていたが買い物を終えて合流した後、駅の展望デッキのような場所に移動し二人が備え付けてある双眼鏡を覗いている間に他の四人が違う場所に移動して二人きりにすることに成功。その後はベンチに座り少し話をした後に工藤さんの方から告白したとのことだ。再度合流した時に工藤さんが小さくVサインをしたので結果はその場で分かったが実際に友達の口から付き合う事になったと聞いた時は自分のことのように嬉しかった。おそらく男子部屋以上に女子部屋の方は盛り上がっているに違いない。

 

 

 

 

「そっか!良かったな!」

 

 

「あーいいなー羨ましいよ。俺も工藤さんや絢瀬さんみたいに可愛い彼女欲しいよ。」

 

 

 

 

ついさっき買ったばかりの八つ橋の詰め合わせをテーブルの上に広げすごい勢いで食べているのは三年生になってからずっと絢瀬さんに片思い中でこの修学旅行中も猛アタックをしているが全くそういう目で見られていない男。俺ら三人の中で最も騒がしい奴でだいたい何かをする時に言い出すのはこいつ。何処と無く穂乃果さんの性格に似ていると高坂さんが言っていた。そしてそれは絢瀬さんも似ている所なので気が合うと言えるが似たような性格な為、一緒にはしゃげる友達としてしか見られていないような気がするし本人も薄々気づいているようにも感じる。

 

 

すると、可愛い彼女が欲しいという話の中に高坂さんの名前が出てないことに気が付き嫌な気持ちになった。

 

 

 

「おい!高坂さんのことを忘れるなよ!」

 

 

「忘れてないけど、高坂さんはもうお前にぞっこんだから他の奴が割って入る余地なんか無いんだよ。」

 

 

「確かにそうだな。っていうか、そんなこと言われなくても分かってんだろ?和樹も早く告白しろよ。」

 

 

 

 

この二人には高坂さんとの間に何かある度に相談や話をしている為、お互いの家に行き来している事や喧嘩した時の話も全部知っている。夏休み中に二人で出掛けた時の事を話した後、告白を煽るような事を言って来るようになったので少しだけ鬱陶しいと思う時もある。だけど二人はいつでも真剣に話を聞いてくれる。誰かを好きになった事が無い俺からすればとても心強い友達だ。

 

 

その二人は普通は気になっていない男の為に弁当なんか作らないしそもそも遊びに誘わない、高坂さんもきっと告白されるのを待っていると言い張る。

 

 

 

 

「告白なんてしないよ。今みたいに楽しく過ごせるだけでいいんだよ、俺は。」

 

 

「そんなこと言ってると高坂さんの気持ちが変わって誰かに取られちゃうかもしれないぞ?二学期に入ってから高坂さんが告白されてるの二回も見たし。」

 

 

「俺も一回見たよ。」

 

 

 

 

音ノ木坂中学の体育館の裏は車も通らない程道幅が狭く人通りも少ないため告白する場所に選ぶ生徒が多い。この二人の通学路は体育館の裏の道を通る為、同級生に限らず他の学年の子達の告白現場も頻繁に見かけるそうだ。見ると言ってもフェンスと木の間から少しだけ見えるくらいで立ち止まって凝視しない限り誰なのかも分からない。おまけに距離もある為声も聞こえない。そうなると二人が高坂さんを見かけたというのも本当かどうか疑うところもあるが高坂さんらしき人影を見かけた際には良く見える場所まで移動して本人かどうかを確認しているらしい。高坂さんだけではなく自分達が知っている人を見かけた時も同じ事をやっているそうだ。

 

 

 

 

「さて、そろそろ飯の時間だし行くか。」

 

 

 

 

今日は一日中歩き回っていたので足がパンパンだ。すぐにでもベットに横になりたい気持ちを抑え、椅子から立ち上がる。ご飯は朝夜共にバイキング方式になっていて全クラスが大きな一部屋に集まって食事をする。班ごとにテーブルが用意されており俺らの班の席には女子三人が着席していた。食事中は付き合う事になった二人の話題で盛り上がり過ぎてしまい食べ終えた頃には他の班すら居なくなっていた。それでも話し足りないらしく、消灯時間になるまで女子部屋に集まる事になった。

 

 

部屋に戻り入浴や自分の荷物を整理した後、一つ上の階の女子部屋に向かう。階段を上り終えると絢瀬さんが待っていた。先生達の見回りの時間ではないが見つかると面倒な事になりそうなので様子を見た来たらしい。絢瀬さんの案内で女子部屋に入ると高坂さんと工藤さんが部屋の奥から出てきた。

 

 

 

 

「いらっしゃい。ちゃんと先生にバレずに来れるか心配だったよ。」

 

 

 

 

薄手のパーカーを羽織った高坂さんはお風呂上がりということもありとてもいい匂いがした。ボディークリームのような物を塗っているのだろう。

 

 

消灯時間までの一時間半、話の話題はずっと恋愛関係の話で前半は付き合う事になった二人にいつ頃から好きでどんな所が好きなのかなどの質問攻め。後半はトランプなどで遊んで過ごし、最後に最終日の予定を確認して解散となった。

 

 

部屋に戻るとそれぞれのベットに倒れこむかのように横になった。疲れたのは俺だけではなく他の二人も同じ。朝から夜まで元気に歩き回って遊び、美味しい物を食べ、帰ってきてからもはしゃいだ。女子達三人も含め全員体力の限界だろう。特に絢瀬さんは最後の方はほとんど目が開いてなかったのではないかと思うくらい眠そうだった。高坂さんも何度かあくびをしていて眠そうにしていた。あくびしてるとこ見られるの恥ずかしいからそんなに見ないでよ、と小さな声で怒られもしたけれどそんな顔も可愛かった。

 

 

そろそろ起きているのも限界なので部屋の電気を消す。他の二人はベットに横になってすぐに寝息を立てながら気持ち良さそうに寝ている。明日の起床時間にアラームが鳴るようにセットして携帯を置こうとした時、グループチャットの方に高坂さんから連絡が入った。内容を確認すると何か用事があったわけではなく今日一日の中で撮った写真が何枚も送られてきているだけ。こんなにも撮ったのかと思うほど数が多いがどの写真を見てもみんながみんな楽しそうな顔をしている。送られてきた写真は自分が写っていない物も含め全て保存し高坂さんにお礼の一言を送った。すると今度は個人的に高坂さんからメッセージが届いた。

 

 

 

 

【 まだ起きてる? 】

 

 

【 うん。どうしたの? 】

 

 

【 何となく起きてるかなって思って。】

【 返事返ってきたの三嶋君だけだし。】

 

 

 

 

その後は昨日と今日の旅行の感想や先程まで集まっていた時の面白かった話などをメッセージで送り合うのが続いた。ここまで会話が長引くとは思っていなかったし、楽しいというのも影響して目が覚めてきてしまった。ベットから出て椅子に座りながら外を眺める。黄色とも白とも言える光に照らされた京都駅や街灯。知らない街の夜景を上から眺める事なんて滅多にないのでしばらく見惚れていると今度は高坂さんから電話がかかってきた。

 

 

 

 

「もしもし。今度はどうしたの?」

 

 

『あ、いや。また特に用事があるってわけじゃないんだ。……ねぇ三嶋君。外の景色って見た?』

 

 

「……うん。今ちょうど見てたところ。綺麗だよね。」

 

 

 

 

その瞬間高坂さんも今、俺と同じ様にベットから出て外を眺めている。部屋の関係上、窓があるのが逆方向なので見ている景色は違うが同じ行動をして同じ様に見惚れているに違いない。

 

 

 

 

「こっちの部屋からはライトアップされてる駅とかが見えるんだよ。」

 

 

『そうなんだ。……ねぇ。部屋行っちゃダメ…かな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ。意外とキレイにしてるんだね。」

 

 

「俺ももう少し散らかるんじゃないかなって思ってたんだけどね。」

 

 

 

 

本当に高坂さんが男部屋に来た。まず部屋の中を見て一言感想を呟く。他の男部屋は知らないが俺たちの部屋はどちらかというと各個人の荷物がキチンと整理されている様に感じる。俺は自分の部屋の片付けや掃除は全て自分ですると決めていて荷物をまとめたり服をたたむのは慣れている。他の二人は自分でやっているのかは分からないが昔から遊びに行ってもいつも部屋はキレイだった。もしかすると三人全員がキレイ好きなのかもしれない。

 

 

携帯のライトで足元を照らしながら窓際に置かれている椅子とテーブルの元へと向かう。俺は先程まで高坂さんと電話していた時に座っていた椅子に座わり、お茶を飲んだ。高坂さんは部屋の奥まで来るとまるで吸い込まれるかの様にカーテンに手をかけ、静かに横にスライドさせた。

 

 

 

 

「うわ。凄いね。」

 

 

 

 

少し眩しいくらいの光が部屋を、高坂さんを照らす。何度も見て来た高坂さんの横顔の中で一番可愛く見えて、気が付くと写真を撮っていた。フラッシュは出さずにあえて背景は暗くし外からの光に照らされた高坂さんの横顔がハッキリと分かるような構図。オープンキャンパスの時といい二人で遊びに行った時といい高坂さんはふとした時に見せる姿や表現はとても中学生とは思えない程大人びて見える。そしてその姿を見る度にどんどん好きになる自分がいる。出来る事ならこれからもずっとそんな姿を一番近くで見たいと撮れたばかりの写真を見て思った。

 

 

 

 

「私ね、本当は三嶋君に言いたい事があったから部屋まで来たの。」

 

 

 

 

窓に優しく手を添えて外の景色を真っ直ぐ見つめながらいつもより少し低い声で話す高坂さん。物音が一つもしないせいで小さな声でもよく聞こえる。

 

 

 

 

「美香を見て思ったんだよね。気持ちを言葉にして伝えるべき人にちゃんと伝えなきゃって。向こうに帰った後でも良かったんだけど今が丁度良いタイミングかなって。」

 

 

 

 

一度深呼吸をしてこちらを向いた高坂さんと目が合った。いつもなら目が合うと恥ずかしくなってしまいすぐに目を逸らしてしまうのだが今だけは違う。高坂さんが何かを伝えようとしてくれているから。

 

 

 

 

「今更なんだけど、一緒に音ノ木坂に行きたいって言ってくれてありがと。凄く嬉しかったよ。」

 

 

 

 

先に目を逸らした高坂さんは少し照れるようにお腹付近の前で手を合わせもじもじしている。お礼を言われただけでも恥ずかしいのにそんな姿を見せられたら照れずにはいられない。今すぐにでも抱き締めてしまいたくなる気持ちを必死に抑え冷静を装った。

 

 

 

 

《 俺は高坂さんと一緒に音ノ木坂に行きたい。》

 

 

 

 

夏休み明けの面談週間が終わった次の週に高坂さんと二人で寄った公園で帰ろうとする高坂さんの腕を咄嗟に掴み、そう告げた。今思い返すと何かを決断するのに時間のかかる俺からすればあり得ない行動だったと思うのだが高坂さんと一緒に進学したいという強い気持ちがあったからこそ言えることが出来た。

 

 

次の日の朝、進路希望調査書に音ノ木坂学院の名前を書いて担任に提出してきたと報告を受けた時は本当に嬉しかった。絢瀬さんは涙を浮かべながら高坂さんに抱きついて喜んでいた。

 

 

 

 

「お礼なんていいって。それに、俺も高坂さんが音ノ木坂に決めたって聞いた時は凄い嬉しかったよ。まだ入学が決まったわけじゃないけど高校生になっても一緒の学校に通えるって思って。」

 

 

「亜里沙なんて泣いてたもんね。……まだ廃校の可能性は残ってるけど私も楽しみだな。さて、そろそろ眠気が限界まで来てるから部屋に戻ろうかな。」

 

 

 

 

時間を確認すると一時を回っていた。今更見回りなどしているとも考えられなかったが念には念を入れるためゆっくり鍵を開けドアを開き、様子を伺う。部屋が暗いため通路を照らしている光が眩しい。眠そうに目を擦る高坂さんを見送り、ベットへ戻る。部屋に着いた高坂さんからのメッセージを確認し、目を閉じて眠りに就いた。

 

 

 

 

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