六月
外を見ると雨が降っている
これで三日連続の雨だ
「絢瀬さんが居ないと少し寂しいね」
昨日と今日は絢瀬さんが風邪で学校を休んでいた
去年もこの時期、つまり梅雨入りするのと同時に風邪を引いて休んでいだ気がする
「たまにはいいんじゃないかな。休み時間も静かに過ごせるし」
この日最後の授業の準備をしながらそう答えた高坂さんの表情は言葉とは裏腹に少し暗かった。……高坂さんは嘘がヘタなのかな?
いつも休み時間になると駆け寄ってくる友達が今日はいないのだから寂しくないわけがない。
最近仲良くなった俺が寂しいと思うのだから高坂さんもきっとそうだ。
「一緒にお見舞いにでも行こうか!」
「え?でも風邪引いてるのにいきなり行っちゃったら迷惑なんじゃないかな?」
「それなら大丈夫だよ!さっき絢瀬さんから連絡があって、熱も下がったし平気だって!家に一人でいてもつまらないって!」
「そうなんだ。良かった。」
そう言って安心する高坂さん
すごく心配していたんだなって誰が見ても分かるくらいホッとしている様子だ
「そういえば亜里沙と連絡先交換してたなんて知らなかった」
「あぁこれは俺が絢瀬さんにお願いして教えてもらったんだよ」
「私にはそんなこと言ってきたこと無いのに?」
「え?だって高坂さんとメールで連絡するようなことってないでしょ?だから必要ないかなって思って。」
二人の間に訪れたしばしの沈黙
不思議と嫌な予感がした
「あっそうですか!はいはい分かりました!そうですよね。私も三嶋君とは学校以外で話すことなんて無いし、必要ないよね。」
このツンツンした態度と彼女が醸し出している雰囲気
身に覚えがある。怖いやつだ。
「なんか、怒らせちゃった?ごめんね?」
「怒ってない。知らない。話しかけないで。」
「はい。すみません。」
今回は自分が原因だとハッキリ分かったから素直に反省しなくてはいけない。
でも、その態度を怒ってないのだとしたら高坂さんは怒ったらどうなってしまうのだろうと思いながら最後の授業を終えた
「高坂さん!待って!」
ホームルームが終わりみんながぞろぞろと帰るなか俺は高坂さんを呼び止めた
「絢瀬さんのお見舞い行こうと思うんだけど一緒に行こうよ。」
「いいよ。」
あれから態度は相変わらずだが一緒にお見舞いへ行くことになった
いくら熱が下がったとはいえ心配なのであろう。口にはしないが高坂さんの優しく友達思いな気持ちが伝わってくる。
昇降口で靴を履き替え、傘を取ろうとする
「私の傘が無い」
おい。だれだ。まさに今、機嫌の悪い高坂さんの傘を持って行った奴。頼むから引き返して黙って傘だけ置いていけ。
わざわざ引き返してくる奴が他人の傘なんて持って行くはずがないよな、と諦めがついたところで俺は自分の傘を手に取った
「あの、嫌じゃなければ一緒に入る?」
「え」
「でもそれって相合傘ってこと?私が三嶋くんと?」
「嫌ならこの傘貸すよ。俺は走って帰ればいいし」
「とにかく高坂さんが濡れて帰るのだけはしてほしくないんだ。高坂さんまで風邪引かれたら困るし!」
「でも、亜里沙のお見舞いはどうするの?」
「俺に急用ができたって言えば平気じゃないかな?」
「三嶋君は知らないかもしれないけど、亜里沙ってけっこう根に持つタイプだよ。今日みたいに一回決めた事を断るなら尚更ね。」
「え!そうなの?それは参ったなー」
「だから……その………一緒に行ってあげてもいいよ…………」
「俺と一緒の傘に入ることになっちゃうよ?」
「そ、それでもいいって言ってるの!ほら、早く行くよ!」
そういうわけで二人で一つの傘に入って絢瀬さんの家に向かった。
この時の高坂さんは少し顔を赤く染めて隣を歩いていた
もしかして少し熱でもあるのだろうか
絢瀬さんの家に着き、インターホンを押すと金髪で髪の長い女性が出てきた。
「絵里さんお久しぶりです。急な訪問で申し訳ありません」
「いいのよ。雨の中わざわざありがとね。あら、あなたが三嶋君?」
「え、あ、はい。あや……亜里沙さんのクラスメイトの三嶋です。いつも亜里沙さんには仲良くしてもらってます。」
「そんなに緊張しなくてもいいのよ。あなたの事は亜里沙からよく聞いてるから。さ、入りなさい」
「お邪魔します。」
「絢瀬さんのお姉さん凄く美人だったね。緊張しちゃって上手く話せなかったよ」
「私も初めて会った時は緊張したし、あんな綺麗な人と話す機会なんて滅多にないから仕方ないんじゃないかな」
雨が止み、少し暗くなった道を二人で歩いていた
肝心の絢瀬さんはすっかり元気になっていて明日には学校に来れるそうなので楽しみにしていた。よっぽど学校が好きなのであろう。
「そういえば高坂さんの家ってどの辺なの?」
「私の家、穂むらっていう和菓子屋さんなの。分かるかな?」
「分かるよ!あのお店の穂むらまんじゅう大好きだし!」
「そうなんだ!ありがとう!えへへ」
高坂さんは少し照れ臭そうに笑った。お父さんが作った和菓子が褒められたのだから嬉しいのだろう。でもこれはお世辞でもなく本心だ。
小さい頃からおやつによく出ていたし、今でも食べたくなる時がある。
「ちょうどいいから高坂さんを送るついでに家にお土産でも買って行こうかな。」
「うん。ありがとう。」
高坂さんの機嫌も戻っていたので、良かったと安心し高坂さんの家に向かう。