超えられない壁   作:食べきりサイズ

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#4 悩み

 

 

「今度は絢瀬さんが隣かー。」

 

「へへ。よろしくね三嶋君。」

 

 

 

 

梅雨が明けるのと同時に席替えがあり、廊下側の一番後ろへ机を移動させるとすでに絢瀬さんが待っていた。高坂さんの次は絢瀬さんが隣になったので楽しみなのだが絢瀬さんの一つ前の席から視線を感じる。

 

 

それは俺に想いを寄せている女の子が向けるような優しい眼差しではなく、まるで何かを牽制するような視線。

 

 

 

 

「今度は亜里沙が隣で良かったね。」

 

 

 

 

と、目を細めながら言ってきたのは高坂さんだ。

 

 

 

「う、うん。でも高坂さんも近くて良かったよ。」

 

 

「ふーん。本当かな? あ、亜里沙!勉強で分からない所あったら三嶋君に聞きなよ!」

 

 

「うん!分かった!でも、雪穂はそれでもいいの?」

 

 

「……え、なんで?私より三嶋君の方が勉強出来るし分かりやすく教えてくれると思うからそうしなよ。」

 

 

「そういう事だから亜里沙のことよろしくね、三嶋君!」

 

 

「うん。上手く教えられるか分からないけど任せてよ」

 

 

 

 

仲良し二人組が近くにいるので毎日憂鬱だった授業も少しは楽しくなるだろうし、休み時間になればまた二人の会話も聞ける。三年生になってから毎日のように二人の会話を聞いているからそれを聞くのが日課になりつつある。だが最近はこっちにも話を振ってくれるようになったので三人で話すことが多くなり、前より二人とも仲良くなれているので嬉しかった。

 

 

 

 

「絢瀬さん。さっきは何であんなこと聞いたの?」

 

 

「何でもないよ。私が少し気になったから聞いただけ。」

 

 

「そっか!というわけだから、よろしくね絢瀬さん!」

 

 

「こちらこそよろしくお願いします。三嶋先生!」

 

 

 

 

そんなことを言いながら二人で笑っていると先ほどより殺気が増した目をして高坂さんがこっちを見ていた。

 

 

楽しく……………なるといいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「暑いねーーー」

 

 

「暑いねーーー」

 

 

「「暑いねーーーーー」」

 

 

 

 

いつも休み時間になると隣の席から楽しそうな会話が聞こえてくるのだが最近はその回数が減ってしまった。少し寂しいが二人が揃ってこう言ってしまうのは仕方ない事だと思う。

 

 

 

 

「今年の夏は例年より暑いらしいよ。」

 

 

 

すると二人はあからさまに嫌な表情をした。

 

 

 

 

「それ毎年言ってない?まだ梅雨が明けたばっかりでこんなに暑いのにこれ以上暑くなったらすぐ熱中症になっちゃうよ!早く家に帰ってクーラーの効いた部屋でゴロゴロしながらアイス食べたい!」

 

 

「雪穂。そんな事してたらまた太っちゃうよ?」

 

 

 

 

ガタッ!!!

 

 

 

 

「ちょっ!亜里沙!またって何?またって!ていうか亜里沙から見ても私って太ったように見える?」

 

 

「そんなことより夏休み中は向こうに帰ろうかなー」

 

 

「ねぇ亜里沙!聞いてる?そんなことっていくら何でもヒドイよ!ねぇ、私って太った?」

 

 

 

 

高坂さんは椅子から勢いよく立ち上がり血相を変えて絢瀬さんに言い寄っていた。

 

 

当の絢瀬さんは机に覆いかぶさるようにして、どうしようかなーと何か考え事をしていたため高坂さんの話なんてこれっぽっちも聞いてない様子。

 

 

 

 

いくら仲のいい友達だとはいえスタイルに関しては簡単に突っ込むのは難しいのではないのかと思っていたが絢瀬さんにはそういう概念が通用しないのだろう。

 

 

高坂さんは相当ショックだったのか頭を抱え、近くにいても聞き取れないくらい小声でぶつぶつと言っている。

 

 

そんなことないとは思ったが、ここで俺が何かを発言するのはあまりにも危険だと感じたため何も言わずにいた。

 

 

 

 

「ねぇねぇ三嶋君。」

 

 

ボーッとしながらノートも取らずに前を向いていたら絢瀬さんにこえをかけられた。

 

 

 

 

「ん?どうしたの?何か分からない所でもある?」

 

 

「うん。最近、お姉ちゃんの様子が変なんだけど何で悩んでるのか理由が分からないの。」

 

 

 

 

授業のことじゃないのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近、亜里沙の様子がおかしい。

 

 

二、三日前から高坂さんが心配していた。

 

 

話しかけてもいつも以上に話を聞いていない。しかも相槌や返事も素っ気ないらしく酷い時には質問に対して全く関係のない答えが返ってくることがあるそうだ。

 

 

 

 

『 あのままだと遊ぶ予定も立てられやしないよ。』

 

 

 

 

拗ねたように言っていた高坂さんはとても可愛らしかったの思い出す。

 

 

悩みの原因は絵里さんか。

 

 

「理由かー。俺は絢瀬さんみたいに毎日絵里さんの様子を見てるわけじゃないからね。悩みの原因として考えられるのは廃校の件に関してくらいしか思いつかないよ。」

 

 

「そこまでなら亜里沙も分かるんだけど、その先の理由をお姉ちゃんに聞いても悩みなんてないよって言われちゃって……」

 

 

暗い表情をした絢瀬を心配しながら見ていると今日最後の授業の終了を告げるチャイムが鳴った。

 

 

 

 

「今日は一緒に帰れなくてごめんね雪穂。」

 

 

「分かった!高校まで迎えに行くんでしょ?気をつけてね。」

 

 

「うん。じゃあね!三嶋君もバイバイ!」

 

 

「うん!また明日。」

 

 

 

 

別れを告げると絢瀬さんは小走りで教室を出て行った。

 

 

今日は絵里さんが生徒会の仕事が無く、早めに下校できるため気分転換にと少し寄り道して帰るそうだ。

 

 

 

 

「じゃあ一緒に帰ろうか。少し絢瀬さんの件で高坂さんにも相談したいし。」

 

 

「うん。私も同じ事言おうとしてたからちょうど良かった。」

 

 

 

 

歩き慣れた道を二人は並んで歩いていた。高坂さんと絢瀬さんの二人と仲良くなってから一緒に帰ることが多くなった。絢瀬さんは少し方向が違うが高坂さんの家に遊びに行くことが多いためいつもは三人で帰っている。二人がどこかへ遊びに行く時は一人で帰ったり男友達と遊びに行ったりしている。そのため二人で帰るのは絢瀬さんのお見舞いに行った日以来だ。

 

 

 

「絢瀬さん、けっこう思い詰めた顔してたね。」

 

 

「そうだね。でもきっと絵里さんは生徒会長としてどうやって廃校を阻止したらいいか分からないから悩んでるんだよね?」

 

 

「そうだろうね。でも、そうなると俺らでは手出しできない問題だと思う。」

 

 

 

 

高坂さんは黙っていたが彼女も同じ考えなのだろう。

 

 

在校生ならともかく中学生である俺らが地元の高校なので廃校を阻止したいと行動したところで何も変わらないのは目に見えている。

 

 

二人とも相談したいから一緒に帰ろうと言った割には八方ふさがりな状況なのを再確認してしまっただけであってそれ以上の会話はせずにただ歩くだけだった。

 

 

 

「もう着いちゃったね。」

 

 

「うん。送ってくれてありが

 

 

「高坂さん。連絡先教えてくれないかな?」

 

 

「なななななんで?どどどどうしたの急に!」

 

 

「え、だって絢瀬さんのために俺らで何かできることがないか相談し合いたいなって思ったからだよ?」

 

 

「そういう事か。あービックリした。」

 

 

何故高坂さんがそこまでびっくりしたのか分からなかったが連絡先を交換する。するとお店のドアが開いて一人の女性が出てきた。

 

 

 

 

「あ、お母さん!ただいま!」

 

 

「おかえり!あら、この子は? ふーん雪穂もなかなかやるわね。お母さん全然気づかなかったわよ。」

 

 

その人は高坂さんのお母さんだった。

なにやらニヤニヤしながら肩をポンポンと叩いていた。

 

 

 

 

「違う違う違う!本当に違うから!ただの友達だから!!」

 

 

 

 

高坂さんは顔を真っ赤にしながら手を顔の前でブンブン振っていた

 

 

 

 

「こんばんは。雪穂さんのクラスメイトの三嶋です!いつも仲良くさせてもらってます!あ、僕ここのお饅頭大好きなので買って帰ります。」

 

 

「ありがとう。良かったら少し上がっていきなさい。今お茶入れるから少し待ってて。」

 

 

 

 

そう言うと半ば強引に居間へと案内される。

 

 

高坂さんの家はお店の裏そして二階が居住スペースになっていて居間にはお店の厨房から餡子の良い匂いが漂っていた。

 

 

雪穂の家に行くとお腹空いちゃう、と絢瀬さんが前に言っていていたがこれだけ良い匂いがするのだから納得できる。

 

 

 

 

「はい。お待ちどうさま。良かったらこれも食べて!じゃあ私はお店に戻るけどゆっくりしていってね」

 

 

 

 

そう言って目の前に出してくれたのは大好きなお饅頭だ

 

 

穂むらというお店のお饅頭、略して [ほむまん] という愛称で地元民に長く愛されている。もちろん地元民だけではなく、遠方からわざわざ買いに来るというお客さんもいるそうだ。

 

 

 

 

「ありがとうございます!いただきます。」

 

 

 

 

夕方ということもありお腹が空いていたので今日食べたほむまんが今までで一番美味しかった気がした。いつ食べても美味しいのだが今日は格別だった。

 

 

 

 

「かなり強引だったよね。ごめん。」

 

 

 

 

二階にある自分の部屋で着替えを終えた高坂さんが申し訳なさそうに謝ってきた。

 

 

 

 

「あははは。そんなことないよ!少しびっくりしたけどね。それより制服以外の高坂さんを初めて見れたから良かったよ。」

 

 

「えっ!あっ!そっか!ど、どう?変じゃないよね?」

 

 

「? うん!普通の部屋着って感じだし変じゃないよ。」

 

 

 

 

そういうところを気にする辺りはやっぱり女の子なんだなと思っていた矢先、二人の携帯が同時に鳴った。

 

 

 

 

《 二人に協力してもらいたいことがあるの! 》

 

 

 

 

連絡の送り主は絢瀬さん。

 

 

高坂さんと絢瀬さんと俺の三人のグループチャットを作り、そこに連絡してきたのだ。

 

 

 

 

《 うん!いいよ!私達に出来ることならなんでも手伝うよ!》

 

 

《 俺も!絢瀬さんのためなら何でもするよ!》

 

 

《 ありがとう!詳しい事は明日話すね♪ 》

 

 

 

 

連絡を返し終えると高坂さんと目が合った。

 

 

 

 

「明日楽しみだね。」

 

 

「亜里沙はけっこう無茶苦茶な事を言う時があるから暴走しないといいけど。」

 

 

「高坂さんが一緒なら平気だよ!じゃあ俺は帰るとするかな。」

 

 

「うん。気をつけてね。」

 

 

 

 

最後にほむまんを買い、お母さんに一言お礼を言ってお店をあとにする。

 

 

早くいつも通りの絢瀬さんに戻ってほしい。改めてそう思いながら家路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はぁ………絢瀬さんのためなら何でもする……………か。」

 

「やっぱり……亜里沙のこと……………」

 

 

 

 

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