「絵里さん怒ってるかな?思い返すと随分酷いことを言っちゃった気がする。」
「そうかなー?私はあれで良かったなって思ったよ。私は何しに行ったんだか分からなかったけどね。」
高坂さんは苦笑いをしていた。俺と絢瀬さんが感想を伝えた後すぐにお開きになったので二人で並んで帰っている。結局、高坂さんの感想を伝えずに終わってしまったが彼女の場合は言葉より態度で示したので答えは明白だった。
「それにしてもあんなに怒った亜里沙は初めて見たよ。三嶋君なんてもう少しで縁切られそうになってたもんね。」
今度は苦笑いではなく普通に笑いながら言っていたがこっちとしては全く笑えない状況だったので思い出すだけでもゾッとする。
「あの時の絢瀬さん…………怖かった。」
そう言うと高坂さんはさっきより大きな声で笑う。
完全に他人行儀だ。
「でもそれだけ亜里沙にとっては大きな問題なんだよ。それに今日改めて思ったんだけど亜里沙は三嶋君をかなり頼りにしてるよ。三嶋君もそう感じたでしょ?だからこれからも亜里沙をちゃんと支えてあげてね。」
「もちろん!高坂さんも何かあったら相談してよ。」
「…………うん。あ、またお店の前まで来てお母さんに見つかると面倒だから今日はここまででいいよ!また明日ね。」
「分かった!じゃあね」
「二人とも昨日はありがとう。それと三嶋君には酷いこと言っちゃったよね。ごめんなさい!」
次の日学校へ行くと絢瀬さんが頭を下げながらお礼と謝罪をしてきた。俺としては問題が解決したわけではないのでもう少し軽い感じで言ってきてほしかったが彼女なりの誠意を伝えたかったのだろう。絢瀬さんに言われたことは気にしていなかったため謝られても困る。というか女の子に頭を下げさせてしまっているため周りからの視線の方が気になってしまった。
「いやいや、絢瀬さん頭を上げて!あれに関しては俺に原因があるわけだし絢瀬さんにあんな事言わせちゃった俺の方こそ謝りたいよ。ごめんね。」
「怒ってない?本当に怒ってない?また相談とかしてもいいの?」
「もちろん!友達なんだしどんどん頼ってよ。」
内心、絢瀬さんの方が怒ってるのかもと思っていたが安心した。高坂さんも同じことを思っていたのだろう、目が合った後表情が柔らかくなった。
「亜里沙。あれから絵里さんの様子はどうなの?」
あれから数日後の昼休み、俺と高坂さんで話し合い絵里さんの様子を聞いてみることにした。
聞くところによるとμ’sはオープンスクールでライブをやるのでダンス指導を頼まれ、その依頼を受けているとのことだった。絵里さんは昔、バレエをやっていて大きな大会で何度も入賞をしたことがあるそうでかなりの実力者らしい。
「本当はお姉ちゃんもスクールアイドルに興味があるんだと思う。」
それには同感だ。興味がなかったらダンス指導なんか絶対にしないだろう。ただ、立場上今さらスクールアイドルやりますなんて言えるはずない。自分から言えないのであれば周りの人たちが強引にでも引っ張っていくのも手段としてあると思う。つまり現行のμ’sメンバー、高坂さんのお姉さん達次第ということになりそうだ。
うちのお姉ちゃんならそういう手段もやりかねない、と高坂さんは目をそらしながら言っていた。そういうことなら期待しても良いかもしれない。近いうちに絢瀬さんの悩みが解消される気がした。
「以上でホームルームを終了します。暗くなるのが遅くなったとはいえいつまでも遊んでないで早めに帰って勉強してくださいね。それと三嶋君は帰らずにこのまま進路指導室にきてください。」
「三嶋君ドンマイ!じゃあお先!」
「頑張ってねー!」
せっかく帰れると思ったのに……
「失礼します。あの……話というのは」
「急にごめんなさいね。要件はもちろん進路についてなんだけど、三嶋君は前に出した進路希望調査表に書いた高校に本気で行きたいと思ってるの?」
三者面談の前に書いた紙にとりあえずという形で書いた高校は家から少し遠い所にある進学校で、面談の際にも確認されたが強い希望を持って書いたわけではない。その事は先生と母さんにも伝えて母さんも了解してくれた。
あれからというもの進路に関してはあまり考えていなかったため本気で行きたいとは思っていなかった。
「いえ、面談でも言った通り自分自身まだ決めかねているところがあるのでそこまで深く考えてはいないですけど。それがどうかしたんですか?」
「うーん。実はね音乃木坂学院高校ってあるでしょう?あの学校がね、入学希望者を増やすために来年から共学にすることを検討しているらしいのよ。しかも共学にするだけではなく特進クラスの設立も考えているらしくて、今度のオープンキャンパスで概要が説明されるらしいの。この事が近くの中学校に通達されていて各校の成績優秀者には是非参加してほしいとの連絡がきているの。」
絵里さんはそんな事言ってなかったよな。こんな情報が生徒会に開示されていないわけがない。おそらく通達と同時に知らされたのであろう。
「それで?要件というのは、近くの高校に特進クラスができるから見学に行ったらどうかって話ですよね。」
「物分りが良くて助かるわ。希望している学校だって少し遠いのがネットって言ってたでしょう?見学だけなら行ってみてもいいんじゃないかな?」
「……考えておきます。」
「音ノ木坂…かぁ。」
別に進学校にこだわっているわけではない。進学校に進むって言っておけば先生も両親もある程度は納得してくれるからだ。他の学校に魅力を感じ、行きたいと思うきっかけがあれば迷わずその学校に進学しようとするだろう。音ノ木坂も同じだ。特進クラス何て探せばいくらでも見つかる。アドバンテージがあるとすれば距離が近いということだ。
μ’sのライブもあるし、高坂さんのお姉さんも見てみたいから見学だけでも行ってみようかな。
「俺も音乃木坂のオープンキャンパスに行くことにしたから。」
「「…………え?」」
登校してきてすぐにこう伝えると先に来ていた二人の会話が止まった。
「…………………三嶋君あそこは女子校だよ?分かってるよね?まだ寝ぼけてるの?」
「雪穂!雪穂!どうしよう。三嶋君がおバカさんになっちゃったよ。お姉ちゃんに相談したほうがいいのかな?」
「いや、絵里さんでもどうすることできないよ。それと、ごめん。今ちょっと冷静に判断できないや。」
いきなり過ぎたか……
二人に音ノ木坂が共学になり、特進クラスが設立される可能性があることを伝え状況を落ち着かせる。
「そうならそうとちゃんと説明してから言ってよね!びっくりしたー。あ、もしかして昨日呼び出されたのってその件で話を聞きに行ってたの?」
「そういうこと。まぁどんなものなのか聞いてみるだけだし廃校っていう可能性もまだ残ってるから志望する可能性は低いよ。それより絢瀬さん!絵里さんのこと、良かったね。」
絵里さんがμ’sのメンバーになった。
自分から入りたいと言った可能性は無いに等しいだろうから高坂さんのお姉さん達が上手いこと手招きしたのだろう。何はともあれこれで絢瀬さんの悩みについては一件落着だ。
「うん!大好きなμ’sに大好きなお姉ちゃんが入ってくるなんてこんな幸せなことはないよ!早くライブ見たいなー。」
今まで見てきた中で一番の笑顔。
かわいい
思わず見惚れてしまうほどだった。
「三嶋君。ちょっといいかな」
お昼休み、高坂さんに呼ばれ今日の放課後話したいことがあると言われた
いつもより遠回りをして人気のない公園に向かう。向かっている途中も会話はあまりせずいたので高坂さんがいつもとは違う雰囲気であることはすぐに気づいた。二人はブランコに座り、黙り込んでいたがいい加減この状況が耐えられなくなり口を開いた。
「ブランコなんて久しぶりに
「三嶋君。亜里沙のこと………好きなの?」
急に立ち上がり俺の前に立った高坂さんを見上げた。
「………………好き……なの?」
高坂さんがなぜこんな事を聞いてくるのか理由は分からなかったが意味ならすぐに分かった。絢瀬さんを友達としてではなく異性としてどう思っているのかを知りたいのだろう。
その時の高坂さんの目は数日前に見た絢瀬さんと同じ目をしていた
絵里さんに対して自分の想いをぶつけ絵里さんと向き合おうとしていた目。高坂さんも何かに向き合おうとしている
「どうしてそんなことを聞くの?」
「……いいから答えて」
「……二人とはこれからも仲良くしていきたいしして欲しい。今の関係を大切にしたいんだ。 高坂さんの望んだ答え方ができなくてごめん。でも、これが今の正直な気持ち。」
「………そっか。三嶋君は優しいね。 はは。変なこと聞いちゃってごめんね。そろそろ帰ろっか。」
「俺、母さんから買い物頼まれてたの思い出したからスーパー寄ってから帰るよ。だから先に帰っちゃっていいよ。気をつけてね。」
「分かった!じゃあまた明日ね。」
買い物なんて頼まれてない
ただ単純に高坂さんと帰りたくなかっただけだ
高坂さんの笑顔が頭から離れない
でも
………あんなのは………笑顔とは呼べない。呼びたくない。