やりたい事、好きな事に対しては周りが見えなくなってしまうほど真っ直ぐに進んで行く絢瀬さん。そんな絢瀬さんを一番近くで支えながら自分も目一杯楽しんでいる高坂さん。
そんな二人の姿を見ているのが楽しくて、好きで仕方なかった。
ーーー今の関係を壊したくないーーー
こう言うしかなかった。それでもこの気持ちは確かなことであって決して嘘をついているわけではない。そもそも高坂さんが何故こんなことを聞いてきたかも分からないし、もし本当に絢瀬さんのことが好きだったとしても二人との関係性を考えて同じ答えを出していたはず。
「「はぁ」」
明らかに自分ではない声のため息が聞こえた。この公園に来た時は俺と高坂さん以外に誰も居なかったはずだが今のはハッキリと聞こえた。そう思い辺りを見回すと右隣のブランコに音乃木坂高校の制服を着た人が座って居た。
髪がとても長く、綺麗なグレー色。μ’sのPVを見たことがあったので一目ですぐに誰だか分かった。
「南ことりさん………ですよね?」
「え!……はい、そうですけど。前にどこかでお会いしましたか?」
「いえ。映像では何回か見ましたけどご本人に会うのは初めてです。」
「そっかぁ!じゃあμ’sのファンなのかな?」
「友達の影響で見たことがあるだけなのでファンっていうほどのものでもないです。」
「それでも見てくれたなんて嬉しいよ。ありがとう。」
かわいいな。
そうか。天使というのはこういう人のことを表しているのか。
人の声や表情だけでこんなにも癒されることなんて今まで経験したことはなかったし、この先もないなんて思っていたがそんなことはなかった。
「いえいえ。でもどうしてこんな所に居るんですか?」
「この公園はね、悩み事があったりして一人になりたいなって思う時に必ず来る場所なの。今日はバイト先でちょっと失敗しちゃったから反省の意味も込めて気分転換に寄ってみたんだ。」
「そう……なんですか。」
会話が途切れ、しばらくするとすぐに高坂さんとの事を思い出してしまう。自分では納得して答えたはずなのに何かが胸に引っかかっている。誰かに相談したいがこの話の関係者である絢瀬さんに言えるわけもなく友達にもあまり知られたくない内容なので話す気にもならない。自分で解決するしかないのか。
「君はどうしてここに居たの?どう見ても悩みがあるような顔をしているんだけど嫌じゃなければ私に教えてくれないかな?」
相手としてはちょうど良いとは思ったが、高坂さんのお姉さんと南さんと園田さんという人は幼馴染で仲がとても良いそうだ。実際に、μ’sを作ったのもこの三人だと絢瀬さんから聞いたことがある。そうだとすると高坂さんのことも必ず知っているはずだし相談をすればお姉さんに情報が流れてしまう危険性も無くはないということになる。やはり自分でどうにかするしかない。
「どうしてもダメ……かな?でも凄く辛そうな顔してるし。…お願い!」
その顔はズルい。そんな顔でお願いされたら断ろうにも断れない。まぁ名前は伏せておけば平気だろう。
「三年生になってから女の子二人組と仲良くなったんです。細かい説明は省きますが今日、片方の女の子からもう一人の女の子のことが好きなのかって聞かれたんです。」
「きゃー!私そういう話大好きだから詳しく聞きたいな!」
「それは勘弁してください。……好きかどうかの質問に対してハッキリとは答えませんでした。ただ、今の三人の関係を壊したくなくてこれからも仲良くやっていきたいと伝えました。もちろん、本当に思っていることを伝えたし、自分の中ではこれで良かったと思っているはずなのに何かが引っかかっていてモヤモヤしているんです。」
「それに、その女の子が何故こんな質問をしたのかが分からないんです。」
「うーんとごめん。名前聞いてなかったね。」
「あ、三嶋です。三嶋和樹です。」
「ありがとう。和樹くんは三人の関係性を無視して考えた時にもう一人の女の子のことを好きだなとか付き会いたいとかって思ったことはないの?」
絢瀬さんと付き合う?俺が?
全く考えたことも無かったし考えたところで全く想像ができない。つまりはそういうことなのだろう。
「好きとか付き合いたいなって思ったことなんて一度もありません。」
「そうなんだ。でも聞いてきた女の子は和樹君の様子を近くで見てて、そうなんじゃないかなって思って聞いてきたってことだと思うな。そうじゃなかったらリスクを冒してまで聞くことではないと思うから。」
高坂さんには俺が絢瀬さんに惚れている様に見えている?
二人には平等に接しているつもりだが、自分でも気づかないくらい無意識のうちにそんな態度を取っていたのだろうか。
「好きな人のことって無意識のうちに目で追ってたり、態度に出ちゃうこともあるらしいから近くで見てて分かる人には分かるのかもね。でも、それだけその女の子も和樹君のことを見ているってことにもなるかな。」
高坂さんは気の利く優しい人だ。自分のことよりまずは相手のことを考えて行動しているから、それだけ周りを見ているということになる。そうしているうちに気づいたのかもしれない。
「自分の気持ちがハッキリとしないなら少しだけその女の子のことを今までより意識してみるのもいいかもよ?」
「そう…なんですかね。でも今はあまり考えたくありません。せっかく話を聞いてくれたのにこんなこと言ってしまってごめんなさい。」
「いいのいいの!考え方なんて人それぞれだと思うし。じゃあ私はそろそろ帰るよ!時間も遅くなってきたし和樹君も早く帰りなよ。またね。」
「はい。ありがとうございました。あ、それから今度のオープンキャンパスでのライブ楽しみにしてます!頑張ってください!」
歩き出した南さんを呼び止める。
ありがとう。頑張るよ!と言いながら胸の前で拳を握り締めた後、手を振ってくれたので恥ずかしかったけど手を振り返した。こうしてめでたく俺は南さんのファンになった。
「お兄ちゃん今日元気無いね。高坂先輩と何かあったの?」
…………なんなんだこの妹は。
家族であり兄と妹という関係ではあるが俺にもプライバシーというものがある。もう少し空気を読んで発言をしてもらいたい。
「あら、ケンカ?ダメよ和樹。女の子を泣かせるなんて。」
ほらこうなる。
「前にも言ったけど高坂さんとはまだそんな関係じゃないから放っておいてよ。母さん、ごちそうさま。それから雫。この後、勉強するからうるさくするなよ。」
「……お母さん。今、お兄ちゃん "まだ" って言ったよね?」
「えぇ言ってたわね。無意識だったみたいだけどそういう時にポロっと出るってことはそういうことなのかもしれないわね。その気持ちに本人が早く気づけるといいんだけど。」
「あ!三嶋君おはよう!」
昇降口で上履きに履き替えていると後ろから絢瀬さんに声をかけられた。
「おはよう絢瀬さん。あれ、今日はいつもと髪型が違うね。ポニーテールなんて初めて見たよ。」
今日の絢瀬さんは髪型をポニーテールにしていた。絵里さんも家にいる時以外はポニーテールにしているらしく、絵里さんに縛ってもらったらしい。
「えへへ。お姉ちゃんの真似してみたんだけどどうかな?似合う?」
「うん!似合ってるよ!髪の毛長いと首元とか暑いって聞いたことあるからちょうどいいと思う。」
「そうなんだよ!でもポニーテールにして学校に来るの初めてだから周りにジロジロみられそうで怖いよ。」
そんな会話をしながら教室へと向かう。高坂さんはいつも早く来ているから今日も先にいるのだろう。変に意識せずに今まで通り話せればいいな。
「相変わらず二人は仲良いね。亜里沙にも男の子の友達ができて安心したよ。」
俺の予想とは反して高坂さんの声が後ろから聞こえた。
「高坂さん……おはよう。今日はいつもより遅いんだね。」
「私だってゆっくり寝てたい時だってあるの。」
なんだか言い方に棘があるなぁ。もしかして昨日の答え方がまずかったのかもしれない。
「おはよう雪穂。見て見て!今日はポニーテールにしてみたの!三嶋君にも褒められちゃった!」
「うん聞いてたよ。絵里さんもだけど亜里沙も似合うよ。さすが姉妹だね。」
「ありがとう!みんなにも見せてくる!」
そう言うと走って行ってしまった。
「…………」
「…………」
「三嶋君。私はこういうところを見てるから昨日みたいなこと聞いたの。」
こういうところ……か。
俺としては友達として絢瀬さんを見たときの普通の感想を伝えただけなのに高坂さんにはそういう風に捉えられてしまうらしい。
「そうだったんだね。全然知らなかったよ。高坂さんは本当に周りが良く見えるんだね。」
「バカにしないで!」
朝ということもあって廊下が静かだったため高坂さんの声はよく響き、他のクラスから不思議そうな目をして廊下に出てくる生徒も何人かいた。それほど大きな声だった。高坂さんは下を向いていたため表情は確認できなかったが肩が小刻みに震えてる。
「ごめん。」
そう言い残し走り出した高坂さんは自分のクラスを通り過ぎ、どこかへ行ってしまった。
「えー高坂さんは体調不良のため帰りました。皆さんも気をつけてくださいね。」
………あのまま保健室行ったのか。
「雪穂、泣いてた。帰るまでずっと。あんな雪穂初めて見たよ。三嶋君、何があったか教えてくれないかな。」
絢瀬さんはあの後すぐに高坂さんの後を追いホームルームが始まる直前まで側に居てくれた。
「ごめん。俺からは何も教えられない。」
絢瀬さんが原因でこんな事になったなんて言えるわけがない。
「分かった。話したくないなら無理にとは言わないよ。でも、泣かせたことに対してはちゃんと雪穂に謝るって約束して。」
「分かった。」
絢瀬さんも少し怒っているようだが親友が泣いていたのだから理由は別として同然のことだろう。ただその理由を知った時に絢瀬さんはどんな反応をするのか気にはなる。
「じゃあ今日の帰りに雪穂の家に行こうか。三嶋君が一緒に行くことは言わないでおくよ。一緒に行くって言うと部屋に入れてくれないかもしれないからね。」
普段はどこか抜けていて天然という印象があるが、こういう時の絢瀬さんは状況をしっかりと把握し機転を利かせられる。絵里さんの時もそうだった。
「そう……かもね。それから、絢瀬さんが高坂さんに話を聞く前に最初は二人きりにしてくれないかな。元はと言えば俺と高坂さんの問題でもあるわけだし。」
こうなってしまったのはあの時、曖昧なことを言って誤魔化してしまったせいだ。今度はしっかりと自分の気持ちに向き合ってはっきりと伝えよう。
「いい?三嶋君。家に入っても挨拶したらダメだからね。三嶋君は礼儀正しいから気にするとは思うけど雪穂に声を聞かれたらアウトなんだから我慢してね。」
顔をズイッと近づけ右手の人差し指を立てながら説明された。
「う、うん分かったよ。」
「よし!じゃあ行こっか!」
「雪穂ー!入るよー。」
部屋からの反応は無かったが絢瀬さんは躊躇なくドアを開ける。中を見るとベッドの上でうずくまり壁側を向いている高坂さんの姿があった。こんな状態の高坂さんになんて声をかけていいか分からない。するといきなり絢瀬さんに背中を押され二歩程度部屋へ入ってしまいその後すぐにドアが閉まってしまった。
確かに二人きりで話をしたいと伝えたがある程度の状況説明をして欲しいので閉められてしまったドアを開けようとしても開かなかった。絢瀬さんが反対側から押さえているのだろうとすぐに分かったので少し力を入れると簡単に開いた。顔半分が見えたところまで開けると睨むとまではいかないが目を細めている絢瀬さんが立っていた。
「三嶋君。二人きりで話したいって言ったのは自分だよ?それにこれは三嶋君と雪穂の問題なんだからしっかり話し合ってこれまで通り仲良しに戻らないとダメだからね。」
「う、うん。分かったよ。」
いつまでもグズっていても仕方ないか。絢瀬さんの言う通りこれは俺と高坂さんの問題なんだし理由が何であろうと高坂さんを泣かせてしまったのは事実。まずは謝って機嫌を直してもらいたいし、泣いてしまった理由も知りたい。
高坂さんが横になっているベッドの前に正座で座り、一度深呼吸をした。
「あの……高坂さん?」
声をかけた瞬間に高坂さんの肩がピクっと動いた。絢瀬さんだと思っていて俺の声が聞こえたのだから驚くのも無理もない。
「今日はごめん。特に悪気があったわけでもないし思ったことを素直に言っただけで高坂さんが怒るとは思ってなかったんだ。それでも泣かせちゃったのに変わりはないから謝りに来た。本当にごめん。」
話しかけている間も高坂さんは姿勢を変えないし、しばらくしても何も反応が無い。このまま無視され続けたら和解すらできないと思っていたが。
「私の方こそごめん。三嶋君に悪気が無かったことは分かってる。それにこれは三嶋君の言動っていうのもあるけど私の気持ちの問題だから気にしないで。あと、私の気持ちが知りたいって思ってもこれ以上深くは聞かないで。それだけはお願い。」
こうは言ってくれたものの姿勢は相変わらず壁の方を向いている。とりあえず怒ってはないみたいなので一安心だ。それでも高坂さんの気持ちが気になって仕方ない。
「いや、高坂さんの気持ちの問題ならなおさら教えてくれなきゃ困るよ。また同じことを、繰り返しちゃうかもしれないし。」
すると急に高坂さんが起き上がりこちらを向いた。
「あのね、話聞いてなかったの?これ以上聞かないでって言ったじゃん。」
目の周りが腫れていてる。それに、顔全体が赤くなっているように見える。
「あ、ごめん。また強く言い過ぎちゃった。……ってそんなジロジロ見ないでよ。だから顔見せたく無かったの。それに今、変に顔が熱いし。」
もしかして本当に体調が悪いのかな?
でもそんな感じはしないしそうではないのだろう。
だとしたら
「部屋が暑いんじゃないかな?クーラーの温度下げれば?」
「そういうことじゃない!ホントにバカ!もう知らない!」
そう言うと高坂さんは薄いタオルケットを頭までかけてまた壁の方を向いてしまった。
今日は怒らせてばっかりだ。
また反省していると外の方からすごい勢いの足音が近づいてくる。絢瀬さんの急用が何かかな?まぁ一通り話はできたしそろそろ声をかけようと思っていたところばったのでちょうど良かった。
「雪穂!早退したんだって?お母さんから泣いてたって聞いたんだけど何があったの?」
「「「あ」」」
「君……誰?え?雪穂の彼氏?うそ………雪穂……いつの間に。お姉ちゃんはまだ彼氏なんてできたことなかったのに。」
てっきり絢瀬さんだと思っていたため俺と高坂さんは完全に油断していたが入って来たのは高坂さんのお姉さんでμ’sのリーダーをやっている穂乃果さんだった。
「違うのお姉ちゃん!この子は三嶋和樹君っていってクラスメイトなの。だから彼氏でもなんでもないよ。」
「そうだったんだー!なーんだ。びっくりさせないでよね。じゃあ和樹君は雪穂のお見舞いに来てくれたんだね。優しいね。」
心配した顔で入って来たと思ったら男がいることにショックを受け項垂れ、違うと分かった途端に笑顔になった。南さんや高坂さんと比べると落ち着きがない人だし、お姉さんって感じが全然しなかった。
「あ、どうも三嶋和樹です。いつも仲良くさせてもらってます。今度のオープンキャンパスのライブ見に行くんで楽しみにしてます!頑張ってください。」
「そっか!そういえば雪穂平気そうだね。練習休んでまで帰って来たのに心配して損しちゃったよ。」
そういうと穂乃果さんは自分の部屋へと行ってしまった。
「ごめんね。そそっかしい姉で。いつもあんな感じなんだ。」
「それでも高坂さんのことが心配で早く帰って来てくれるなんて妹思いのいいお姉さんだと思うよ。」
「そんなことないよ。練習サボりたかっただけじゃないかな。」
高坂さんはどこか嬉しそうな顔をしていた。穂乃果さんの優しさはちゃんと伝わっているのが分かった。
「じゃあ、ちゃんと謝れたし俺はそろそろ帰るよ。……今日は本当にごめん。明日からも今まで通りよろしくね。」
「もちろん!亜里沙と二人きりの時間も楽しいけど今は三嶋君と一緒に三人で話してる時が一番楽しいから、これからもよろしく。」
「絢瀬さん。話し終わったよ。ちゃんと仲直りできた。」
最後はちゃんと高坂さんの目を見て謝れたからか来た時より気持ちが軽かった。
「そっか。よかったね!それより穂乃果さんの声が聞こえた気がしたんだけど帰って来たのかな?今日も練習だってお姉ちゃん言ってたけど。」
絢瀬さんもホッとした様子だった。
心配かけちゃって悪かったな。今度二人を連れて甘い物でもごちそうしなきゃな。
「帰って来て部屋に入って来たよ。高坂さんのことが心配で早く帰って来たんだって。帰って来たときに姿は見なかったの?」
「うん。見てないよ。もしかしたらお店の方から家に入ったのかもしれないね。それより三嶋君はもう帰るの?」
「うん。ちょっと疲れちゃったから。」
「そっか!じゃあ私は雪穂と話してから帰るからまた明日ね。」
「うん。バイバイ。」
今日中に解決できて良かった。でもよく考えたら俺は今朝、高坂さんを褒めたつもりで言ったんだけどなにがいけなかったのだろう。
ーーー バカにしないで ーーー
バカになんてしてないし高坂さんに対してそんな態度を取ったつもりは今まで一度だってない。もちろん、これからもとらないつもりだが高坂さんにはバカにしてるように見えてしまうのか。それに高坂さんの気持ちってなんだ?
さっぱり分からん。