それゆえ、某所ローカルなオリキャラが出てきますが知らなくても特に問題はないつくりになっております。
みなさんこんにちは! 東美帆です!
初めての方ははじめまして! 久しぶりの方はお久しぶりです!
今、私はとある戦車道用の演習場に来ています。なぜ来ているかと言うと、今日は全国大会で勝った学校の代表が、なんとプロリーグの選手と一緒に戦う権利を与えられたからなんです!
正直とても緊張しています……。
「……うう」
だってほら、今こうしてお茶を飲もうとしている手がプルプルと震えているんですから。
普通のプロリーグの選手だったら楽しみというだけでここまで緊張しなかったかもしれません。
ですが、今回一緒になる選手は、現在私が所属している大洗のOGであり、かなりの活躍をなされている名選手です。
そんな方に会う訳ですから、一体どんな評価を下されるのか、ということを考えると緊張もするというものです。自分の母校の今の隊長ですから、きっと厳しい評価が待っているに違いありません。
私って、自分にあんまり自信がないんです。
人に話すと意外と言われます。
副隊長の鈴《すず》に話したら、それはもう驚かれました。
『えっ!? ほえー知らんかったぜ、いっつも堂々とやってるもんだからさぁ』
だそうです。
でも私は、結構な怖がりなんです。
隊長という責務ある立場ゆえ、周囲を不安にさせないように頑張っていますが、私は常に自分の中の不安と戦っています。
ノリに乗れればそうでもないんですが、やはりそうそう乗れることって少ないんです。
戦車道を本格的に始めた時期も遅いですし、本当に私が隊長でいいのかと思うときもあります。
そんな私が、隊長として恐れずに指揮をできる理由は――
コンコン。
おや? 誰か来たようですね。
まだ約束の時間ではないはずですが……。
「はい、今出ます」
私は椅子から立ち上がり、扉に向かいます。そして、我ながら雑に扉を開けました。
すると、そこにいたのは――
「どうも、美帆。調子はどう?」
「エっ、エエエエエっ、エリカさん!?」
そこにいたのはなんと、私が心から愛してやまない逸見エリカさんじゃないですか!
エリカさんは私と一緒に暮らしている、私の同居人です。
その同居の理由は説明すると長いのですが……簡単に言えば、私はエリカさんに恋していて、それでエリカさんが私の気持ちに答えてくれたからなんですね。
そのときは本当に嬉しかったです。その嬉しさを語るにはとても言葉が足りません。何せ、私の初恋、しかも同性に対する恋が実ったのですから。
その話は置いておくとして、私は今とても驚きを隠せません。
どうして、こんなところにエリカさんが!?
その驚きで、私はいっぱいです。
「どっ、どどどどうしてこんなところに!?」
「どうしてって、様子を見に来たのよ。緊張しているんじゃないかなと思ってね」
なんて嬉しい気遣いなんでしょう。エリカさんにそう思ってもらえるだけで私は幸せです。
「でも、ここまで来るの大変だったんじゃないですか? 大洗から結構距離がある場所なのに……」
エリカさんは、とある事情から失明してしまい目が見えません。
どうやら私の姿だけは見えるようなのですが……これについては、本当に奇跡のような出来事であり、お医者さんの先生も分からないと言っていました。
とにかく、エリカさんは遠出するのにもかなり苦労するはずなんです。それなのに、こうして私の目の前に来てくれたことが本当に嬉しいことであり、そして心配になることでもあります。
「大丈夫よ。これでも人生の半分近くはこの目で生活しているのよ? ちょっとやそっとの遠出くらい、なんともないわ」
エリカさんはそう言って私に力こぶを見せてくれました。
ですが、やはりここにやってくるのに苦労しただろうことは想像に難くありません。
「……まあ実は、沙織に助けて貰ったんだけどね」
なるほど。
武部沙織さん。エリカさんの親友の一人で、私もかなり良くして貰っている大洗のOGの一人です。
その沙織さんが手助けしてくれたのなら、ここまで来れたのも納得というものです。
でも、やはり。
「それでも……やっぱり大変だったんじゃ……」
私はつい俯いてしまいます。
さっきは嬉しさと驚きでいっぱいでしたが、今は申し訳ない気持ちでいっぱいです。
エリカさんは言っていました。私が緊張しているんじゃないかと。
エリカさんは私の心をたまに私以上に理解してくれます。
その結果、エリカさんまで不安にさせてしまったということです。
自分の心の弱さが情けないです。
「……すいません」
私はエリカさんに謝ります。
つい、口からこぼれた言葉でした。
すると、エリカさんは私が謝罪の言葉をこぼしてすぐ、私の頭を撫で始めました!
「えっ、えええ!?」
私は動揺します。エリカさんに撫でて貰えるのはとても幸せですが、突然撫でられると困惑もします!
「……もう、馬鹿ね」
エリカさんは私に笑いかけて言います。
「私はね、あなたのためなら少しぐらいの苦労なんてまったく気にしないのよ。あなたはまだまだ子供なんだから、そんなことを気にしなくていいの」
「は、はい……」
エリカさんの手はとても暖かかったです。
そう、この温もりです。
この温もりに包まれていると、私はとっても落ち着いた気分になるんです。
エリカさんは常に私の味方でいてくれます。そりゃ、たまに喧嘩することだってあります。でも、やっぱりエリカさんは私を後押ししてくれるんです。
私が恐れに打ち勝って堂々と戦車の指揮をできるのも、エリカさんのおかげです。
私の戦車道はエリカさんの戦車道です。
そのエリカさんの戦車道が、どうして負けることがあるでしょうか。
そう考えるだけで、私の心は自信で溢れます。私だけの指揮なら不安でいっぱいです。でも、私にはエリカさんがついています。私の背後には、エリカさんがいます。私の戦車道は、エリカさんの戦車道の証明です。
ですから、負けません。負けるわけにはいけません。負けるはずがありません。
「あなたはね、とっても頑張っている子よ。その頑張りが認められて、今こうしてこの舞台に立とうとしているの。それを、あなたは誇りに思っていいわ」
「エリカさん……」
「ふふっ、そんな顔しないの。ほら、笑って笑って」
エリカさんはそう言うと、私の頬を握ってぎゅっと引っ張り、無理矢理私を笑顔にしました。
「えっ、えりかひゃん! くすぐったいれひゅ!」
「ふふっ、ほらほら、笑う笑う」
「わかりまひは! わかりまひはから!」
私がそう言うと、エリカさんはぱっと私の頬から手を離しました。
私は頬をさすりながらも、微笑みます。
「うん、いい顔じゃない」
「……はい、エリカさんに勇気づけて貰ったら、なんだか勇気が出てきました」
本当に、心の奥底から温かいものが湧いてくる感じがします。
今なら、自信をもってあの人と会うことができそうです。
「ふふっ、良かったわ。それじゃあ、最後に試合が上手く行くようにおまじない、かけてあげる」
「おまじない、ですか?」
一体何でしょう?
そう思い私がぽかんとしていると――
「んっ」
「っ!? ~~~~っ!」
なんと、エリカさんが、エリカさんが私にキスをしてくれました!
そっと触れるようなフレンチなキスでしたが、口と口、マウストゥマウスのキスです!
あっ、あわわわわわわわわ!
体がどんどんと真っ赤になっていくのを感じます!
だって、こんなの不意打ちですよ!?
いえ、確かに普段からキスはしてるんです。これまで累計すると結構な回数になるんじゃないですかね。で、でも、それはお互い気持ちが高まって、そういう雰囲気の中しているから大丈夫なことであって、つまり何が言いたいかと言うとこういう不意打ちには私、まったく慣れておりません!
そのせいで、もう頭が爆発してしまいそうです!
あっ、なんだか足元がふらついて……。
「ちょっ、美帆大丈夫!?」
私が前方に倒れ込みそうになったところを、エリカさんがキャッチしてくれました。
ただ、胸で受け止められたせいで、エリカさんの柔らかな胸の感触が当たり、私は再び赤くなります。
「ううっ、ずるいですよこんなの……」
私はエリカさんの胸の中で言います。
「何がずるいよ。いつもしていることでしょ?」
「そうですけどー! それはそうですけどー!」
私の抗議はエリカさんに届きません。いや、届いてはいるんですが、多分スルーされています。
うう、やっぱりエリカさんはずるいです。これが大人の余裕という奴なんでしょうか。
私はエリカさんに支えられながら、しっかりと足に力を入れます。
うん。ちゃんと立てましたね。
「それじゃあ、私はそろそろお邪魔になるから、試合を沙織と一緒に観客席で聞いているわね。頑張ってね、美帆」
「は、はい!」
エリカさんは立ち直した私の肩を両手でぽんぽんと叩くと、白杖をつきながら私の部屋から離れていきました。
後ろ姿までエリカさんは優雅です。
その後ろ姿を見送っていると――
「えっと……東美帆選手?」
私の背後から声がかけられました。私は振り返ります。そこにいたのは、白髪のポニーテールを揺らし、キリリと鋭い目が印象的な人でした。
「あっ、愛澤こころさん!」
そこにいたのは、私がこれから一緒に戦う、プロチームの選手、愛澤こころ選手でした。
「こころでいいよ。あなたが東選手……だよね?」
「はっ、はいっ!」
私はこころさんに敬礼します。
すると、こころさんは私のことを頭からつま先までじっくりと見ていました。
「ふぅん……そこまで似てるってわけでもないんだね」
「え?」
「いいや、なんでもない。噂は聞いてる。いい選手なんだってね。今日は楽しみにしてるよ」
「はい! ありがとうございます!」
「それより、さっきの人って……」
こころさんが私の後ろを見るように頭を動かします。こころさんは恐らくエリカさんのことを言っているんでしょう。だから、私は、自信をもって、笑顔でこう言いました。
「はい……あの人は、逸見エリカさんは、私の最高のパートナーです!」