第十四話 雪山の頂上にて
自然界において強さが関わる一つとして、【体の大きさ】というのがある。
体が大きければ攻撃の範囲と威力がぐんと上がり、また相手にかけるプレッシャーも膨れ上がるだろう。
その巨大な身体についてだが、最も相応しいモンスターは巨獣【ガムート】であろう。
極寒という厳しい環境の元で暮らす牙獣種系草食モンスターであるが、牙、頭部、鼻、脚の全てが巨大であり、見るものを圧倒する。
大人しいものの、一度怒りを買えば飛竜に匹敵する程の強さと凶暴さを持ちいるとされている。
……そんなガムートであるが、一つの悩みがある。
それは……
ーzzz…
自分の身体の上に白く美しい布を纏ったような古龍が寝そべっているからだ。
勿論、正体はあのアマツマガツチである。
今現在いるのは極寒の地で有名なフラヒヤ山脈の一つの山、通称【雪山】の山頂であるためかガムートの毛皮の暖かさに惹かれ、ここに居座っているようだ。
だが、今のガムートはやや機嫌が悪い。
何せ、雪を毛布代わりにして睡眠しているところ、ブランゴ三匹が自分の腹下を洞窟だと間違い、睡眠を邪魔されたからだ。
かと言って、アマツマガツチを振り落とす動作はしない。
少し邪魔という認識だけで危害を加えないつもりだと理解しているのか、振り落とすどころかガン無視である。
……危害を加えるつもりがないというよりもアマツマガツチが寝ている時点で敵意がない気もするが……。
そんな最中、ガムートは歩みを進め……しばらく進んだ後、足を止めた。
そして長い鼻を伸ばし、周囲を警戒する。
野生の勘なのだろうか、何かの気配を察知したようだ。
ーその直後、それは空から飛び出してきた。
舞い降りた、というよりも飛び出すと言った表現が正しい。
その飛び出した者はガムートの背に乗り、その強靭な顎でガムートの胴体を容赦なく噛む。
だが先程言った通り、ガムートの身体の全身が分厚い毛皮に覆われているため、噛み砕くことが出来ない。
そのせいか、襲い掛かってきた者が何としてでも噛み砕こうと必死に顎を挟む。
だがガムートも黙っておらず、長い鼻を後ろに回し、その者の胴体を巻き付け、地面に叩き落とす。
同時に背に乗ってたアマツマガツチが落下し、そのまま滑ってしまい、頭から雪山へとズボッとハマる。
それを他所にガムートは突然襲ってきた者を睨み付ける。
その者の姿は四肢で退化した翼を持ち、全身を覆うオレンジ色と青い模様。
そして最大の特徴が【顎】と【前足】である。
大きく、岩ですら噛み砕きそうな顎であり、前足は後ろ足と比べ異常なまで巨大化し、その先には鋭い爪が立ち並ぶ。
その者がガムートを見ると上体を起こし、轟音のような咆哮を放つ。
その咆哮により、衝撃波が地を走り、周囲に舞っていた粉雪が吹き飛んだ。
その者の名は轟竜【ティガレックス】。
ハンターの間から【絶対強者 】と知られているモンスターである。
……そのモンスターの隣には雪に埋もれてる事に気付き、ジタバタしているアマツマガツチと「なんだこいつ?」と言わんばかりにガン見しまくってるブランゴ達がいるが、二頭は無視している。
先に動いたのはティガレックス。
その強靭に発達した前足を大きく使い、ガムート目掛けて一直線に突進。
対してガムートは避ける動作をせず、ドッシリと身構える。
避けるつもりは無いみたいだ。
そしてティガレックスとガムートの距離が縮まった瞬間、ガムートが動いた。
鼻を天高く上にあげ、振り下ろした。
振り下ろされた鼻はそのままティガレックスに直撃。
粉雪が舞うと共にティガレックスは下敷きになる。
この時、衝撃にビックリしたブランゴ達は退散。
アマツマガツチは未だにジタバタしている。
だが、驚く事にティガレックスは怯む様子がない。
四肢に力を込め、ジャンプした。
そのジャンプした衝撃により、鼻が弾かれ、ティガレックスは自由の身となったと共に再びガムートの肩に飛び付き、噛み砕く。
ガムートは地鳴りを鳴らしつつ暴れ出し、それを必死にしがみつき攻撃を仕掛けるティガレックス。
……そして今度はブランゴ達の親分である雪獅子【ドドブランゴ】にガン見されるアマツマガツチ。
そうこうしてるうちに戦いが動いた。
噛み砕く事が無意味だと悟ったティガレックスはその場から後退、距離を取る。
距離を取られ、やや遅れてガムートは頭に地面を付け、突進を仕掛ける。
その突進はまるで雪崩のような突進である。
だが、それでボーッとするティガレックスではない。
前足を大きく引き、地面を付けてそのまま地面を抉りながら前へと伸ばす。
その途端、大きな岩が三つ飛び出し、ガムートを襲う。
だが、ガムートからすればその岩もまた小石同然。
直撃したが、岩は呆気なく砕け散るだけでガムートの突進は止まらなかった。
それを見たティガレックスは仕方ないとばかりにバックジャンプをして再び距離を取る。
が、ふと隣を見ると未だにバタバタしてるアマツマガツチが視界に映る。
それと同時にドドブランゴは「あ、やべ」的な感覚でその場から撤退。
そして視界を前に戻すとガムートが接近してくる。
距離を取っても無駄だと理解し、再びジャンプする。
それと同時にガムートの突進は途絶え、前方に大きな衝撃波が走る。
……その衝撃により、アマツマガツチは脱出したが、ぐでりと伸びている。
それを他所に二頭の戦いは激しさを増していた。
ティガレックスは再びガムートの身体に乗り、ガムートはティガレックスを振り落とそうと鼻を激しく揺らす。
……そしてアマツマガツチは初めて見るのであろう、雪山草をジト目。
噛むことが不可能だと分かったティガレックスはその強靭な腕で叩き付ける。
今度は潰す作戦らしい。
だが、許さんとばかり、またガムートはティガレックスを巻き付ける……。
その時を待っていたと言わんばかりにティガレックスはガムートの鼻を思い切り噛む。
歯応えがあったのか、ガムートは悲鳴に近い咆哮を上げ、ティガレックスごと鼻を大きく揺らす。
確かに、ガムートの全身は外敵から、また極寒から身を守るため分厚い毛皮に包まれているが限度がある。
鼻が柔らかい理由としては食事をするため、雪山草を掴みやすいようにするため、また雪山草を掘り出しやすいようにするため柔らかいのだ。
だが、それが仇となり弱点となっている。
そしていつしか、ティガレックスは振り落とされ、地面に叩き付けられる前に前足でバランスを取り、着地する。
着地した後、ガムートは荒い息を吐きながら大きな咆哮を放つ。
ティガレックス程の音量ではないが、その巨体故か大音量である。
そしてガムートは前足を上げ、後ろ足でバランスを取りつつ上体を起こす。
一気に踏み潰す気だ。
流石にヤバイと思ったティガレックスはバックステップをして距離を空ける……のだが
ーっ!!
ここでティガレックスは気付く。
後ろが断崖絶壁になっていた。
いくら飛竜でも落ちたら命を落としかねない程の高さだ。
そして前方を見れば巨大な壁のように立ち塞がるガムート。
なのでティガレックスに打つ手がない。
ードゴォンッ!!!
地が割れ、轟音が轟く。
ガムートがただ上体を起こして振り下ろしただけでこの威力だ。
ガムートの足元には下敷きになっているティガレックスが……
……耐え抜いている。
自分を支える強靭な四肢で無理矢理持ち上げている。
そしてティガレックスに変化が起きた。
前足と頭に血管が浮かび上がり、目が血走る。
ーゴオォォォォォォォッ!!!!
そして野太く低い咆哮を放つ。
それは正しく大砲のような……いや、それ以上の大音量である。
これが【轟竜】と呼ばれてる由縁である。
ーっ!!
その轟音に巨体にも関わらず怯むガムート。
それなりの轟音なのだろう、轟竜の名は伊達ではない。
……ただアマツマガツチはポポと遭遇して躊躇なく仕留めてして食しているが……。
そしてティガレックスは怒りに身を任せ怒涛の突進。
一歩一歩前足が地面を付く度、地割れが発生する。
だが、それに似合わぬスピードでガムートに突っ込む。
対してガムートは再び巨体を起こし、ティガレックスを踏み潰そうとする。
……その瞬間、ティガレックスはニヤリと笑った……気がした。
待ってましたと言わんばかり、その場で急ブレーキ。
ブレーキをしても勢いが止まらずやや前進。
けれど、ティガレックスはその勢いを逆利用し高速回転する。
これはティガレックスの技の一つである【回転攻撃】である。
その場で勢いよく回転するのと少し前進してから回転する二パターンあるが、突進した後の回転攻撃は初めて見るだろう。
独楽のように廻るティガレックスの尾がガムートの後ろ足を直撃。
ーベキィッ!!
その途端、嫌な音を立てガムートの後ろ足の甲殻にヒビが入った。
ガムートは堪らずバランスを崩し、転倒。
その隙を見計らい、ティガレックスは飛び乗ろうとする。
……だが、ガムートの最大の弱点であり、最大の武器である長い鼻がそれを許さない。
ガムートは咄嗟の判断により、鼻を雪に突っ込ませ、吸い取る。
その後、飛び掛ってくるティガレックス目掛けて勢いよく雪を発射。
雪玉はティガレックスに直撃し、当たりどころが悪かったのかティガレックスは空中で撃墜され、地に叩き落とされる。
……対してアマツマガツチはポポノタンが気に召されたのかポポを出来るだけ生態環境を崩さない程度で仕留めていた。
ちなみに近くにはポポが逃走した後に出来た足跡に大量の雪山草が現れた。
そうしてるうちに二頭がムクりと起き上がり、睨み付ける。
ガムートは息を荒くさせながら、ティガレックスは般若の顔をしながら睨み付けている。
そろそろケリを付けたいらしく、二頭同時に咆哮を放つ。
ーねぇねぇ
そして互いに衝突する前に間に何かが入ってきた。
その何かによって二頭は足を止め、ガン見する。
何かーアマツマガツチは大量のポポの死体と大量の雪山草の上でクルクル回っていた。
ー……食べる?
どうやらお腹いっぱいらしく、余ったから上げようと提案したらしい。
それを見た二頭は……
ー………………。
さっきの怒りはどこへやら。
二頭揃って真顔である。
多分、ハンターが見たら笑ってしまうほどの真顔だ。
ーに、肉ぅ!!!!
その後、先に動いたのはティガレックス。
自分の好物であるポポの死体を見て大興奮していた。
ポポの死体に向かってダイブ。
ーぶふぇっ!?
その衝撃によりアマツマガツチがゴロンと転がり、勝手に雪だるま状態に……。
ー……。
対するガムートも自然と雪山草に向けて足を運び、食事を開始する。
二頭ともアマツマガツチの提供により争いを忘れ、食事を続けるのであった。
……そのアマツマガツチはというと……まぁ、ゴロゴロ転がってるわけだが。
食後、二頭とも満足したのか争いをやめ、離れ離れに。
雪だるま状態から解放されたアマツマガツチはやはりガムートの温もりが気に入ったらしく、ガムートの背にしがみつく。
こうなるとしばらくはガムートの近くにアマツマガツチがいる……のかもしれない。
ー続くー
すっかりガムートを気に入ってしまったアマツマガツチさん。
さて、雪山篇スタートです。