ガンゲイル・オンライン 戦場に散るロマン 作:Bishop1911
目隠しされた状態で
触れたウサギの方が断然怖い。
クエストを受注した俺たちは、夕方になって
陽が傾き始めた薄暗い住宅街を進んでいた。
「カトラス、何か居るか?」
「んー…今の所は何も。」
普段は…いや、語弊があるな。
リアルでは四六時中眠そうなカトラスが目を凝らして索敵して居る。
今の所は反応が無いと言うから何も居ないんだろうけど、
もしも…なんてことが起こりうるのがVRゲームだとトードに聞いたことのある俺は、
ライフルを腰だめの状態で構えて家々の窓を警戒する。
ちなみに3人のステータスだが、
俺(ショウ)はDEX(器用さ)重視のマークスマン。
スキルは銃の改造が可能になるガンスミスとトラップの設置、解除、探知関連を進めている。
カトラスはAGI(敏捷性)重視で
スキルは索敵スキルや近接格闘術のスキルを進めているらしい。
さしずめアサシンとでも言おうか。
得物もその名に恥じず、音の小さい、もしくは無音の物が多い。
そしてトードはカトラスと一緒で
ALOからのコンバートしてきたSTR重視のガンナーだ。
LMGの両手持ちなんて馬鹿なことをしているが、
弾代が気になり始めたのか
最近はピンチのときにしか両手持ちはしない。
スキルは「トゥーハンド」とかいうのを進めているらしい。
本人曰く、2丁持ち用のスキルだとか。
「ストップ。」
先頭でポイントマンを勤めるカトラスが何かを見つけたのか、P90を構える。
トードもそれにならってハンヴィーを盾にカトラスを援護できるようXM8を構え、
俺は後方警戒のために2人の反対側を向く。
「どうしたカトラス?全裸の美女でも居たか?」
「トードのは無視。何か居たのか?」
「なんか居る。…道路を渡ってる。」
「どんな見た目だ?」
いつも通りキャラのブレないトードが冗談を飛ばすが一蹴して質問する。
「うーん…モノアイ付きのミニせんしゃ?」
「は?」
モノアイという聞きなれない単語が
入ったこともあって俺は理解するのに時間がかかるが、
トードの方は即理解したようだった。
「あー、なるほどねぇ。わかりやすい。」
「ちょっとトード、後方警戒交代しろ。」
「あいよー。」
トードと場所を交代し、カトラスの言う『モノアイ付きのミニせんしゃ』なるものを探す。
だが答えはすぐに見つかった。
俺の視線の先で道路を横断するそれはラジコン戦車のような見た目で、
砲塔部分にM240B汎用機関銃と
M203グレネードランチャー4丁が搭載され、
不気味に赤く光るセンサーカメラが周囲を警戒している。
「なんかかわいいなぁ。」
「いや、あれはやばいぞ。正面からじゃ勝てない。」
「どして?」
7.62×51mmNATO弾を毎分950発、
40×43mm擲弾その他各種弾頭を4発撃つことができるこの殺人マシーン。
現実世界でこいつに遭遇したらビビって若かりし頃の家康公よろしく
脱糞しながら逃亡するレベルだ。
だが幸いなことにこのGGO内では一切の排泄が行われない。
「とにかく火力が違うんだ。」
「だいじょうぶだってぇー」
「トード、本当にか?」
「あぁ、ねずみっ娘から買った情報だ。
それとあいつのセンサーは探知範囲が狭いらしいぞ。」
「なるほど、それなら…カトラスが囮で、
トードと俺が支援。俺は位置を変える。」
「ラジャっ!」
「まぁ王道だな。」
車の陰にトードとカトラスを残して道路から出ると、
左側の白い民家のドアに張り付く。
視界の隅にHMD(ヘッドマウントディスプレイ)のように
映る各種情報の中にはクエストの制限時間と
敵の数が表示されている。
戦闘ドローン 0/1
歩兵 0/18
つまり一個分隊ほどの戦力がこの居住区に隠れている。
もちろん俺がこれから入るこの民家も例外では無いはずだ。
俺は周囲を警戒しつつもメニュー画面を開き、
得物のLE-901-16sの5.56×45mmNATO弾仕様
アッパーレシーバーをストレージから取り出した。
トップレールにはACOGサイト、
ハンドガードには7.62mm用レシーバーと同じ
AN/PEQ-15というレーザーライトモジュールや、
あの『モノアイ付きのミニせんしゃ』こと
戦闘ドローンにも搭載されているM203グレネードランチャーだ。
素早くマガジンを外して抜弾し、
テイクダウンして7.62×51mmNATO弾仕様のアッパーレシーバーと交換、
5.56mm用のアダプターを装着して組み立て直す。
するとさっきまではバトルライフルだったものが
グレネードランチャー付きのアサルトライフルに変わった。
もちろんこんなことを戦場でやるのは自殺行為だし、
同じGGOプレイヤーからも愚考扱いされかねないが、
俺が大金叩いてまでこんなマイナー武器を買った理由は、
他でもない簡単な口径変更が可能だからだ。
SCARシリーズやMASADAを選ぶという手段もあったが、
敢えて言わせてもらうなら、そう…ロマンだ。
俺は7.62×51mmNATO弾仕様のアッパーレシーバーをストレージに納め、
続いてサプレッサーを実体化させて銃口に取り付けた。
GGOでのサプレッサーは銃声を抑え込んだり、
マズルフラッシュが見えなくなる効果がある一方で
威力減衰や射程距離の短縮などがあり、
サプレッサー自体も高価で劣化する。
スナイパーとして俺が勝手に尊敬しているシノンも
『デメリットが多いから使ってない』の一言だった。
要するに消耗品なのだが、
親父の仕事上、知人が多い俺にはお年玉という武器がある。
まあそんな夢もロマンもないリアルの話はここまでにしておく。
窓の汚れを擦って室内を確認すると、
案の定、敵兵が4人居て、カーソルの色は赤だ。
リビングのソファーでくつろいでいる敵兵に
俺は窓越しにライフルを向けて、狙いを定めると引き金を引いた。
シュパンッという音とともにNPCの敵兵のこめかみに
赤い被弾エフェクトが浮かび崩れ落ちる。
すぐさま2人目に照準を合わせて今度は胸にフルオートで5発撃ち込む。
赤いバレットラインに気づいた敵兵がこちらに銃を向けるが、
ここで敵兵に銃声を出されたらサプレッサーを使った意味がない。
俺は大して狙わずにマガジンに残った残弾を全て室内にばら撒いた。
割れてポリゴンとなって消えた窓ガラスの向こうに、
クエスト中に死亡判定を受けたことを意味する
【Dead】のマーカー4つを確認したおれは、
軋むドアをゆっくりと開けて中に入った。
中は薄暗く埃っぽい。
見ているだけで鼻炎が悪化しそうな室内は、
昔人気だったホラーゲームのバイオハザードを連想する。
最近、アミュスフィア用の新作が発表されたらしく、
興味を惹かれるが、銃を持ったNPC相手に背中に冷たいものを感じるくらいだ。
ホラーゲームなんてやったら心臓が口から飛び出す。
臆病な俺の性格をアミュスフィアもしっかり受信しているようで、
ACOGサイトに表示されるバレットサークルもかなり速い速度で拡大と収縮を繰り返している。
もしもそんな俺がホラーゲームをしたらアミュスフィアの安全装置で
シャットダウンされる前に心臓発作を起こしかねない。
「アミュスフィア使って死んだらシャレになんねえぞ…。」
『ショウ、まだか?』
「ひっ!?」
突然聞こえたトードの声に軽く声が裏返り、
必要以上に自分が緊張していると悟った俺は何度か深呼吸して
通信アイテムのボタンを押す。
「あ、あと3分。
安全確認してトラップ仕掛けるから。」
『あいよ。』
次回
今回の続き