ガンゲイル・オンライン 戦場に散るロマン 作:Bishop1911
翌日、12月30日。
約束通り1万円、GGO内で言う100万クレジットを
課金によって手に入れた俺たちは、
各自自分のプレイスタイルに合わせて
装備を揃えるということで別れた。
「…とは言ったものの…。」
どうすればいいかわからない。
大通りを歩けば規模の大きい大手の
外資系スーパーを思わせる大きな店舗が
口を大きく開いており、
クリスマスや年末年始の影響で
GGOを始めたニュービー同志諸君が
次々と飲み込まれて行く。
入り口の上にはホログラム広告で
やれ年末特価だやれ在庫処分だと宣伝しているのだが、
いざ入ってみれば並んでいるのは
大抵がM16やM4A1を代表とする
AR15系ライフルの仲間たちだったり、
AKMやAK74から派生したAKファミリーと
その一味だったりと、どれも似たり寄ったりで
いまいちピンとこない。
まぁ聞くところによると、
ここは復活地点に最も近い初心者向けの
総合ショップだというから、
誰もが見たことのあるAR15シリーズや
AKシリーズの方が売り上げが伸びるのだろう。
俺もステータスは100万クレジットのお陰で
中堅プレイヤー並みだが、
実際問題中身は初心者だしここは無難に
M4A1でも買おうかと思ったが、
それでは面白みが無い。
「なんかなぁー…100万クレジットもあるのに
普通の銃買っても…ねぇ…」
誰にでも無く自分にそう問いかけるほど
”普通“ではない事を望んでいる俺は
同じような銃ばかりが
展示されている壁面の前で回れ右すると、
もっと自分の心、魂、そしてロマンを刺激する
銃を求めて店の外に出た。
そして超絶美人なバニーガール風NPCに
『またお越しくださーい!』と見送られた俺の目に
ふと1つの看板が目に留まった。
電光掲示板やホログラム広告がほとんどの中で、
唯一と言っていいその金属板で作られた看板に
刻み込まれた
『弾薬から不動産までなんでも売買』
という謳い文句と、『ロス商会』という店名には
「へぇ〜…『なんでも』…か…」
俺の好奇心を大いに惹きつけた。
俺は早速マップを開いて
ロス商会の名前を検索にかけると、
現在地の店からかなり離れた
SBCグロッケンの外れの路地に
その店を示すピンが立てられた。
「遠過ぎだろ…」
看板の雰囲気をみればなんとなく理解できたが、
それにしても遠い。
だがどんなに長い道のりでも
最初の一歩を踏み出さなければ
それは後退と変わりない。
俺はロマン求めて一歩踏み出した。
1時間とそこそこの時間が経過。
ようやく辿り着いた路地は、
一言で言い表すならば貧民街とでも言うべきか。
グロッケン中心部に立ち並ぶメタリックな質感の
高層建築物と違ってコンクリート製の建物が多いが、
どちらかといえばこちらの方が
現実世界に近いため、
人通りが少ないことも重なって
どこか落ち着いた空気が流れている。
マップを拡大してさらに細かくピンの周囲の地形と
実際に見る景色を比較していると、
背後からトントンと肩を叩かれた。
「ちょっとアンタ、道案内は必要かい?」
「あ、はい…えっと…、ロス商会ってとこを
探してて…って……はい?」
離島&田舎住まいの住民性とでも言うべきか、
見知らぬ人へのペラッペラに薄い警戒心のせいで
アッサリと行き先を喋った俺は
呆けたような表情で
話しかけてきた女性を見上げた。
艶のない紺色の生地で作られた
深いスリット入りのチャイナドレスを
着こなすその女性は、
まるでバラを思い起こさせるような
背中まで伸びる美しい赤毛を掻き上げる。
「それなら知ってるよ。着いて来な。」
知らない人なのにホイホイ着いていった俺は
誰かに襲われたりする事も無く、
グロッケンのいたる所に点在すると言われる
地下迷宮の入り口へ突き落とされる事も無く、
ゲームの中の世界にしてはかなりすんなりと
目的地まで案内してもらえた。
まさに他力本願万歳だ。
「ここがロス商会。
そしてアタシが店主のローズさ。」
立ち止まって振り返った女性は
秘密の隠れ家の入り口のような雰囲気を
醸し出す地下室への階段を指し示すと、
サラッと自己紹介を交えた。
「え……っと…」
「しっかし珍しいねぇ、
ウチの店に用があるプレイヤーが居るなんて。」
そりゃあんな地味な看板に加えて
入り口がこんな隠れ家じみた場所なんだから
プレイヤーの目に留まる確率はゼロが
小数点の後ろに何個付くか分かったもんじゃない。
「まぁ、いいさ。外でいくら喋ったって
お互いに一銭の得も無いんだから
さっさと中に入りなよ。」
「は、はい…」
見えない糸に引き寄せられるように
店へ続く階段を降りた俺は、
ローズさんに続いて自動ドアから店内に入った。
店内の照明はGGOの建物では珍しく裸電球で
賄われており、
薄暗い店内はどこか秘密の会合場所のような
空気に覆われていた。
壁際に目をやると、
見覚えのあるがどこか形が違う銃や、
見たこともない形の銃、
そもそも銃なのかすら怪しいものが
ガンラックで壁から吊るされ、
各ガンラックの上から室内の雰囲気を
乱さない程度の小さな明かりが灯されている。
ローズさんは銃がかけてある壁の
反対側を占拠するバーカウンターに入り、
「今日は休みだったけど、
こうしてアンタと会ったのもなんかの縁。
アタシが軽く紹介するから
わからないことは何でも聞くといいさ。」
「すみません…、ありがとうございます。」
「まずは…そうさね…、
アンタ、銃についてどのくらい知ってるのさ?」
俺は沢山の銃が並ぶ四方の壁を
記憶の中の画像と照らし合わせてみても
見覚えのある銃はほとんど無い。
「…知ってる銃は無いです。」
「へぇ〜、ならアタシが適当に選んでいくよ。」
ローズさんは奥の赤い壁に向かって
おもむろに一丁のライフルを掴み上げて
俺の方に放り投げた。
「うわっ、ちょっとっ!!」
慌てて落下地点に滑り込んだ俺は、
これまで使っていたサブマシンガンや
光学銃とは比較にならないほど
ズッシリとした感覚に僅かながら興奮を覚えた。
「AK…47?
いや、でも47は樹脂パーツなんて無いし…
AKMとはハイダーの形が…」
「なんだ、47とMの違いが分かんのかい?」
ローズさんはわざとらしく
驚いたような表情を浮かべるが、
俺に言わせてみれば正規品のAK47とAKMを
見分けるなんて朝飯前だ。
「流石にわかりますけどコレは…」
「AK104。」
「はい?」
ポツリと呟かれた初耳の名前に俺は
間抜けな声を出して答える。
「でもAKって74Mが最後なんじゃ…」
おぼろげな知識で答えながら
腕の中の黒く無骨なライフルに目を落とすと
ローズさんの声がダメ出しを運んでくる。
「その知識じゃアンタもまだまださね。
104はAK100シリーズの1つで
初代AK47と同じ7.62×39mm弾を使うカービンさ。
まぁ、基本は変わらないから
ある程度の知識があるなら使い易いはずさ。」
「うーん……」
いまいちピンとこない俺が眉間にシワを寄せて
唸っていると、
ローズさんは俺の腕からAK104を取り上げた。
「えっ…」
きっとオモチャを取り上げられた子どものような
顔をした俺をローズさんは見下ろし、
真剣な眼差しを向けてくる。
「いいかい?いくらここがゲームの中でも
武器は命を預けるもんだ。
少しでも納得がいかないんなら
徹底的に悩んで結論を出すべきなのさ。
わかったかい?」
「…はい。」
知り合って間もない赤の他人のために
ここまで真剣に考えてくれる…
母性本能溢れるローズさんの対応に、
何も教えてくれないNPCやど素人のトードしか
アテのないGGOというゲームの中で
こんな体験をできると思ってなかった俺の目尻には
嬉しさのあまり薄っすらと涙が浮かんでいた。
「ほら、わかったら次行くよ!
…ってアンタなんで泣いてんのさ!?」
「いや…、なんかもう嬉しくて…!」