そして、先に謝ります、才人ファンの人ごめんなさい、今回かなりキツい話になってますが彼に対して一切悪意はありません。
ルイズが才人との同行を決めると、才人は旅装束も兼ねている戦闘服を着て、ルイズには防寒用に持っているコートを着せる。
才人の戦闘服はいわゆる防弾素材と厚い綿を詰めたカーキ色のもので、荒野ではある程度の迷彩効果を期待できる。
ルイズに渡したコートはヤオ・グアイと呼ばれる放射能によって突然変異した熊の毛皮をなめして作られており、こちらも高い防弾性を持っている。
しかしこれらはあくまで気休めだ。
至近距離ならば貫通することはあるし、直撃すれば当たった衝撃で骨が折れることもある。
着替えを終えた二人は河岸のキャンプをたたむと、荷物はテントなどをまとめた大きなバッグと、『鉄の馬』のようなものだけになった。
馬と言っても馬の形をしているわけではない。
見た目は鞍とあぶみのようなものがついているため、乗り物だというのはルイズにもわかる。
乗り物だとしたらまたがるようにして乗るような形状であるのだが、どうやって動かすのかまったくわからないのだ。
まず、この馬のようなものは縦長で、縦並びの車輪が二つしかついていない。
またがって、『つっかい棒』のようなものを外せば倒れてしまうだろう。
「(何なのよ、コレ?)」
ルイズが『鉄の馬』を眺めている間に、才人はバッグを担ぎ、ルイズの隣に立った。
「運転、頼めるか?」
「うんてん?」
「何だ?バイク、乗ったことねぇのか?」
才人は、鉄の馬の前で戸惑うルイズにそう尋ねる。
「そ、そうなのよ、わたしがいたところは、馬を使ってたから、ばいくに乗る人は少なかったの!」
「馬ってオマエ、よくあんな大食いの猛獣を・・・」
才人がそう言うと、二人は顔を見合わせた。
ルイズからすれば、デスクローを狩るような才人が馬を『猛獣』という理由がわからないのだ。
たしかに馬は足の力が強く、蹴られるなどすれば死ぬか大ケガをするし、足を踏まれれば複雑骨折は免れないが、それらに気をつければおとなしい家畜である。
これに対し才人は、ルイズがデスクローより一回り小さいくらいの大きな馬に、籠を背負わせて乗っているのを連想したのだ。
州の馬はゾウほどの大きさで、気性も荒く、希にではあるが襲ってきたデスクローを蹴り殺してしまうこともある。
家畜化も難しく、騎乗するのは大変危険で、使役するとすれば荷運びか、荒くれ者の頭領が己の力を誇示するために乗るくらいである。
「まぁ、乗れねぇならこっち頼めるか?」
ズシッと、かついでいたバッグを降ろす才人。
ルイズは才人がしていたようにバッグの紐に腕を通し、担ぎ上げようとするが、びくともしない。
「グギギギギ・・・ぷはぁ、ムリよ、コレわたしの倍ぐらいあるわよ!?」
「オマエ、100キロもあんのか?」
「な!?そんなに重いわけないでしょ!!だいたい、そんなに重かったらわたしの5倍近いじゃない!?持てるわけないわよ!!」
「ジョークだ、80キロってとこだよ。ま、ダメ元だったし仕方ねぇか。」
才人はあらためて自分が荷物を背負うとルイズを自分の前に乗せ、後ろから抱きつくような形で馬なら手綱にあたるであろう部分を握る。
「おっといけねぇ。コレ、かぶれ。それとこれも巻いとけ。」
才人はずっと手に持っていたメガネのついた兜をルイズにかぶせ、盗賊が顔を隠すように布を巻かせ、自分も兜についているようなメガネをかけて口もとに布を巻く。
「何よコレ?息苦しいわね。」
「贅沢いうなよ、他にねぇんだからよ。」
才人はそう言うと、手綱のような部分をひねり、バイクはブォン、ブオンと猛獣のような雄叫びをあげた。
「しっかりつかまっとけよ。」
「こう?」
ルイズは才人の言うとおり、バイクの鞍をももでしっかりはさみ、手でつかむ。
「よし・・・いくぜえええぇぇぇ!!!」
ブオオオォォン!!と、バイクが爆音をあげると馬など比ではない速度でバイクが走り始めた。
「イヤアアアァァァ!!!」
「やっぱタンデムだと動かしにきぃな。」
「な、何なのよ、コレ!?速すぎるわよ!?」
「馬だって速いやつならこのくれぇ出るだろ?」
才人の言う馬は先述のとおり象ほどもある馬だが、その中には競走馬並の動きができるまま大型化したような個体もおり、そういった馬ならばバイクと並走も可能であるが、ハルケギニアでそのような速度を出せるのはドラゴンくらいのものである。
ルイズは今まで体験したこともない速度で走っているのだ。
「ちょっと、もうちょっとゆっくり走ってええぇぇ!!」
「そうもいかねぇんだ、このあたりはキャンプ張るのも危ねぇんだよ。」
ルイズは今になって、メガネのようなものがついた丸い兜をかぶせられた理由がわかった。
風を切って走るバイクに、いろいろなものが飛んでくる・・・というよりは、風で舞っているものにぶつかっていっているのだ。
同じ理由で口元にも盗賊のように布を巻いているのである。
「ヒャッハアアアァァァ!!!」
運転に慣れてきた才人はスピードを上げながら雄叫びをあげる。
「お、お願いだから、もっとゆっくり・・・」
叫ぶ気力もなくしたルイズが、蚊(州のではない)の鳴くような声で抗議するが才人には聞こえていなかった。
「えぐっ・・・グスッ・・・」
「悪かったよ、バイク乗るとテンション上がっちまってな。」
日が傾き、一泊するのにちょうどいい廃屋を見つけた才人が少し離れた場所にバイクを止めると、すでにルイズは泣きだしてしまっていた。
「二度とのりたくない・・・」
「なら、明日は歩くか?」
才人がそう言うと、ルイズは目を見開く。
「や、ヤダ、置いてかないでよ!!」
「違う、違う!町まであと少しだから、歩きでも大丈夫ってこったよ。」
勘違いしたルイズが抱きつきながら懇願するのをなだめた才人は、ルイズに小さな銃を渡す。
「こいつはこの引鉄引きゃあ撃てるようにしてある。万一の時は使え。」
そう言って才人は廃墟をじっとにらむ。
「どうしたの?」
「中をクリアリングしてくる。」
「くりありんぐ?」
「危険がねぇか確認してくるってこった。ここで少し待ってろ。」
才人はそう言ってあらためて廃墟に向かおうとして立ち止まり、振り返る。
「・・・ルイズ、念のためだけどよ、あの廃墟に入って、ゆっくり1000数えてもオレが戻らなかったらその銃だけ持ってこの道をまっすぐ走れ。うまくいきゃ、俺の町につく。」
「な、何をバカなこと言ってんのよ!?」
「念のためだよ。それと、もしそれを撃たなきゃならねぇなら躊躇なく撃て。相手が泣いて命乞いしようと容赦すんな。この二つだけは守ってくれよ。」
才人が言い残した言葉の意味がルイズにはわからなかった。
仮に廃墟の中に猛獣がいたとしても才人ならばどうにでもできそうであるし、猛獣が泣いて命乞いなどするはずがない。
しかしルイズは深く考えずにうなずき、才人は周囲を警戒しながら廃墟に入っていく。
「い~ち、に~い、さ~ん・・・」
才人を見送ったルイズは、彼の指示通り、時間を数え始めた。
「・・・よんひゃくきゅうじゅうは~ち、よんひゃくきゅうじゅうきゅ~、ごひゃ~く・・・」
半分を数え終わり、ルイズの心に不安の影がさしはじめる。
廃墟からは特に音がしたりはしない。
才人はショットガンと荷物を置いていったため、彼が持っている武器はマグナムとナタだけである。
「(まさか・・・何かあったんじゃ!?)」
ルイズは廃墟に駆け込もうとして思いとどまる。
もし何かあったとして、ルイズが行ってどうにかなるものではない。
仕方なくルイズは数を数えるのに集中する。
ルイズが『600』を数えたとき、奇妙な集団が近づいてきた。
男女混ざった10人ほどの集団で、『馬も繋げずに走る大きな馬車』に乗った彼らは、才人が入っていった廃墟の前に馬車を止めると、入り口の前で何やら相談し始め、それが終わると二手に別れる。
大部分は武器を構えて廃墟の中に入ったが、四人ほどルイズの方に向かってきている。
動物の革で作られた戦闘服の上に、いつぞやの盗賊のような鎧をまとって銃を持った女ばかりの集団だ。
ルイズは彼女たちを見て体が震える。
生きてきた世界が違うというのが、比喩も実際のところも含めて正しい表現だ。
顔にはいくつもの傷、体格もルイズよりはるかに大きく、体つきは隣室のツェルプストーのような男を誘うものとは無縁、かといってルイズのような幼児体型というわけでもない、暴力のために練り上げられた凶悪さを服や鎧の上からでも感じさせるのだ。
「かくれんぼは終わりだ、出てきな!」
威圧するような声が響き、次にパラパラパラと、ルイズが隠れている岩影や、他にも隠れられそうな場所の近くに銃弾が飛んでくる。
「ま、待って、撃たないで!」
ルイズがそう言うと、女達はルイズの隠れている岩以外の、朽木や岩などの影を確認しながらルイズのいる岩影にたどりつく。
「・・・なんだ、売女か。」
「ち、違うわ、行商よ。」
「スゲェかっこした行商だねぇ、何を売ってるんだぃ?」
ルイズはコートを着ているが、大きすぎて前がきちんとあわされておらず、下に着ている破られた、見ようによっては扇情的な服が見えている。
女達はルイズに尋ねながらも突きつけた銃を外さない。
「(逃げなきゃ・・・でも、どこへ?どうやって?)」
銃を持った四人に囲まれたルイズはあることを再び認識したのであった。
才人に会って麻痺していたが、この『州』でもっとも恐ろしい生物は人間である。
才人はこの時のことを言っていたのだ。
「み、水を売ってるのよ。」
「そぉかい?なら、アタイらにも売ってくんないかい?お代はアンタの命だよ!!」
この言葉でルイズは、彼女たちを含む先の馬車に乗った集団が盗賊だと理解した。
どうすればいいかは才人に教わっている。
「(撃たなきゃ・・・殺される!!)」
ルイズは横に置いていたショットガンを見て、手に持っている銃を強く握る。
しかし、それを撃つことができない。
撃とうとした瞬間殺されるのでないかということより、ルイズは銃を撃った結果起こることを恐れたのである。
「(こんなの人に撃ったら死んじゃうわよ!!)」
この世界に来たときと同じだ。
人を殺すことを、たとえそれが自分に危害を加えようとしているとしても、命を奪うのをためらってしまっているのだ。
「・・・にしても、えらくゴツいイチモツもってんな、そいつが客がこねぇ時の相手ってかい?」
盗賊の一人が下品な笑いと共にショットガンをみやる。
「こ、これは連れのよ!」
「連れねぇ、そいつならとっくにくたばってることだろうよ!」
ルイズはそれを聞き、途中で数を数えるのを忘れていたのを思い出した。
ちなみに、何事もなく数えていたとすれば、今は『750』である。
「(そんなはずないわ!あのサイトが殺されるなんてありえないわよ!!)」
ルイズは盗賊にそう言って反論しようとしたが、それより早く四発の轟音が響いた。
四人の盗賊は頭から赤い花を咲かせると地面に倒れ、大地を汚していく。
ルイズが銃声のした方に振り向くと、そこには才人が立っていた。
体は血にまみれ、マグナムに弾を込め直して脇のカバンにそれをしまった才人はルイズを平手打ちした。
「・・・な、何すんのよ!?」
「こっちのセリフだ、それは!!何してんだ!?言ったろ!?撃たなきゃならねぇならためらわずに撃てってよ!それが何、ペチャクチャくっちゃべってんだよ!?」
「盗賊だってわかってたら構わず撃てたわよ!」
「賊かどうかなんざカンケーねぇ!撃たれる前に撃て!銃向けられる前に撃て!銃構えてりゃ撃て!銃持ってりゃ撃て!どうせこんなトコうろついてる連中なんざロクデナシ共だ、ぶっ殺して構わねぇ!!ただそんだけだ!何がムズカシーんだ!?」
一気にまくし立てる才人に、ルイズは言葉を失った。
彼女は才人に一つ、大きな誤解をしていたのだ。
このような荒廃した世界で、どこの誰かもわからない、なんの力も持たない者を助ける高潔な人間だと思っていた。
しかし、才人も盗賊達と同じ穴のムジナだったのである。
なぜルイズによくするのかは彼女にはわからないが、彼女を何かしらひいきしているだけなのだ。
「・・・ったく、念のため残しといてよかったな。来いよ、あの中は掃除しておいた。」
ルイズは才人にも大きな不信感を持ってしまったが、ここで『ハイ、サヨナラ!』してしまえば、才人の町にもおそらく入れない。
そのまま野垂れ死ぬのがオチである。
そもそものところ、もしそうしたとすれば才人は迷わず彼女を後ろから撃ち殺すだろうともルイズは考える。
才人についていく以外、生き残る方法がないのだ。
ルイズはバイクを手で押して歩く才人に続いて廃墟に入り、すぐさま踵を返して外で嘔吐した。
中は血と元は人間であった肉塊の海だったのだ。
全て肉厚の刃物で惨殺され、人の原型をとどめている者がほとんどいない。
頭をかち割られていたり、腕を失って首の動脈を切られていたり、首を切り落とされていたり、足を切り落とされていたりと、スプラッタな部屋を見てルイズは耐えられなくなったのである。
「心配ねぇよ、上の、親分格連中の部屋はキレイなモンだからよ。」
「そ、そういう問題じゃないわよ!アンタは平気なの!?こんな死体の山上で寝るなんて!!」
これに才人は首をかしげる。
「何言ってんだ?今さら、死体の山とか?」
「・・・どういうことよ?」
また、ルイズがこの世界について知らないことがからんでいるのだ。
「常識だろ?200年くれぇ前か、世界中を巻き込んだ戦争があったんだぜ?どこもここも死体の山の上じゃねぇか。」
「世界中?」
ルイズの頭の中では、ハルケギニアで行われるような、魔法を使えぬ平民の傭兵が隊伍を組んで剣戟を交え、火打石銃の銃火が飛び交い、メイジの貴族が幻獣にまたがり貴族同士の一騎討ちをする戦争が、ハルケギニア中、それもエルフまでまざって戦っている光景が流れた。
「あの放射能をばらまく爆弾を何万発も撃ち合って、昔の世界はたった一日で焼け野原になったってよ。ここ、『アーソー台地』だって、戦争前はデケェ山だったらしいけど、一発で山が消しとんでこんなになったらしいぜ?」
「一発!?山が!?」
ルイズの知る爆弾というと黒色火薬を使った爆弾で、鉱山などの発破採掘、古い建物の破壊、あまり一般的ではないが、魚を衝撃で殺して捕る『発破漁』に使われる。
そして戦争で使うとなるとただの手投げ爆弾で、馬や幻獣を驚かすくらいにしか使えない。
そんな爆弾がたった一発で山を吹き飛ばしたなど、想像もつかないのである。
その上、猛毒をばらまき、200年も水を汚しているなど、彼女の常識では考えられないのだ。
「まさか、知らねぇなんてことねぇよな?」
才人がルイズにそう尋ねるが、ルイズは何も答えない。
彼女の頭の中で戦争をしていたハルケギニアは、才人の話ででてきた、『一発で大きな山を吹き飛ばし、200年も猛毒を残す爆弾』で死の荒野に変わってしまったのだ。
そして考えたことが口をついて出る。
「ねえ、その戦争ってどこが勝ったの?」
「さぁ?オレも詳しくねぇけど、そのころあった国はぜ~んぶ滅んじまったっていうから、勝ったヤツなんざいねぇんじゃねぇか?ま、そんなことより、いいモンがあるんだよ。」
そう言って才人はルイズについて来るよう促し、死体だらけの廃墟に入ると『金属の棺を縦にしたような箱』の前で立ち止まった。
「いいモンってまさか、ミイラとかじゃないわよね?」
「でぇじょーぶだって、まだ生きてるぜ。」
そう言って才人が『棺』を開けると、中には子どもが座っていた。
金属の手枷で『棺』の中を通る棒に戒められている、年のころは10にも満たないであろう、小汚ない少年だ。
ルイズは棺の中を見てそれが金属製のクローゼットのようなものだと理解するが、それ以外は何なのかわからないルイズは目線を合わせて話そうと、彼の前にしゃがみこんだ。
「えっと・・・ボク?こわい人はみ~んなこっちのお兄ちゃんがやっつけて・・・」
「・・・ペッ!!」
ビチャッと、子どもの吐いたツバがルイズの顔にかかった。
「な、何すんのよ!?」
「バ~カ、オレがそんなメンドクセーことするかよ?」
才人は笑いながら続ける。
「コイツはな、連中のガキなんだよ。」
「そういうことは先に言いなさいよ!」
ルイズの抗議を才人は受け流しただひと言、ルイズに命じた。
「始末しろ。」
ルイズは才人の言った言葉の意味が理解できなかった。
いや、彼女も理解はできるのだ、この言葉がハルケギニアと州で違うはずはない。
ただ、頭が理解するのを拒否しているのだ。
「そのハンドガンは引鉄引きゃあ撃てる。外しても問題ねぇ、弾倉一杯、チャンバー合わせて27発、全部外す方が難しいぜ。」
才人はルイズに、この少年を処刑するように言っているのだ。
ルイズだってわかっている、そしてこれが、ハルケギニアでも、戦争で捕虜の処刑というのは新兵がやらされる仕事の一つだというのも知識として知っている。
そして肉食動物が子どもに狩りを教えるために、わざと生きたまま弱らせた獲物を与えて練習させるという話も聞いたことがある。
才人はルイズに、生き残るための『人の殺し方』を教えようとしているのだ。
ルイズは才人の言葉に思考停止して少年の目を見る。
その目は怯えなどない、親を殺した才人『達』に対する復讐心に燃えている。
もし彼を解き放てば、間違いなくルイズ、そして才人を殺そうとするであろう。
ドクン、ドクンと、ルイズの心臓が彼女の耳に鼓動を伝える。
才人に『お礼』をしようとした時とはまったく違う。
彼女は少年に怯えているのだ。
手枷で金属製のクローゼットにつながれ、身動きも取れない少年が、ルイズにはデスクローよりも恐ろしく見えている。
そんな彼女の耳元で彼女の声そっくりの悪魔がささやく。
『どうしたのよ?ちゃっちゃと殺っちゃいなさいよ?』
一瞬で真っ暗な空間に放り出されたルイズは、振り向いて声の主に銃を向けようとしたが叶わない。
なぜなら、銃はすでに『悪魔』にかすめ取られてしまっていたからだ。
『こんなのでアタシが殺せるとか思ってるワケ?アッハハ~!チャンチャラおっかしいわね~!!魔法でも死ななかったアタシに、こんなの通じるとでも?』
「ふ、ふんだ!死に損ないにトドメ刺すには十分よ!!」
『そ~なの?』
そう言って『悪魔』・・・もう一人のルイズは、ルイズに銃を向ける。
「ヒッ!?」
ルイズが目を閉じ、頭を腕でかばいながら顔を背けると、
『ぱぁん!』
と、もう一人のルイズが口で音を真似し、バカにされたと気づいたルイズが怒鳴り付けようともう一人のルイズをにらむと、彼女は自分のこめかみに銃口を当てていた。
『パァンッ!!』
今度は引鉄が引かれ、もう一人のルイズの頭から黒い血しぶきが吹き出る。
「キャアアアァァァ!!!」
目の前で自分の顔そっくりの『悪魔』の自殺に、ルイズは悲鳴をあげる。
しかしもう一人のルイズは頭から黒い血を流しながらも涼しい顔で、ニヤニヤしながらルイズに歩み寄ってくる。
『ね?効かないでしょ?』
「この・・・!!」
『でもでも、人間殺すには十分なのよ、コレ!』
クルクルと、銃を指で回転させながらもう一人のルイズはそう言った。
「あ、当たり前よ、それで撃たれたら人間なんて簡単に死んじゃうわよ!」
『じゃ、あんな子供一人殺すのなんて簡単よね?』
もう一人のルイズは銃口を自分側に向けて、ルイズの手にグリップを持たせる。
その瞬間、ドクン!!と、ルイズの心臓が強く脈打つ。
『ねぇ、アンタさ、今まで何回お肉を食べた?』
ルイズの迷いを見透したかのようにもう一人のルイズが尋ねると、ルイズは首をかしげる。
「そんなの、いちいち数えてるわけないじゃない。」
『じゃあさ、どうしてお肉を食べるの?』
「そんなの生きるために決まってるじゃないの。食べないと死んじゃうんだから。」
要領を得ないもう一人のルイズの質問に、ルイズは苛立ちを覚え始めた。
しかし、もう一人のルイズはいつもどおりどこ吹く風でケタケタと笑い始める。
『それとおんなじよ!あの子供を殺さないと遅かれ早かれアンタは死んじゃうんだから!!』
「な!?どこが一緒なのよ!?」
『まずさ、あんな抵抗もできない子供すら殺せなかったらサイトは間違いなく愛想尽かしてアンタなんか捨てていくわよね?そうなったらアンタ、野垂れ死にかくて~!!そして、あの子供、アンタも復讐のターゲットにしてるわよ?アタシだったら強そうなサイトより、弱そうなアンタを先に狙うわ、ハイ、死亡かくて~!!』
ルイズは言い返そうとするが、言い返す言葉を思いつかない。
実際、もう一人のルイズが言う通りになるのは明白である。
『それがイヤなら、ちゃっちゃとあんな子供殺して、ケダモノになることね!』
もう一人のルイズは言うだけ言うと姿を消し、いつものように刹那の間しか過ぎてない現実の世界に戻る。
子供はいまだにルイズを強くにらみ、才人が後ろで殺す瞬間を見守っている。
「・・・!!」
ルイズは引鉄に指をかけ、少年の眉間に銃口を向ける。
何も難しいことはない、引鉄を引けば少年は死ぬ。
この場になってルイズは才人の言っていた意味がわかった。
殺されたくなければ殺すしかない、そうやって言うなれば人ならざる者が決める死の采配が自分に降りかからぬようにするのだ。
しかし、銃口が震え、ルイズの目に映る少年の姿がぼやける。
ポトッポトッと、彼女の足元に水滴が落ちる。
ルイズは泣いているのだ。
当然だ、何の抵抗もできない子供に限らず人を殺すなど、ある程度の文明社会で生きている者にできるわけがないのだ。
そしてそれこそが、本来ならば人として当然のことなのである。
「・・・たない・・・」
「・・・ンだよ、殺ンなら殺れよ!コラァ!!」
「わたしは撃たない!!」
ルイズがそう叫ぶと同時に、
『パァン!!』
と、乾いた音が響き、
『カァン!!』
と、金属が割れる音が続く。
銃弾は少年の手枷を撃ち抜き、彼を戒めから解放したのだ。
誰がどう見ても、わざとルイズが少年の手枷を壊したのは明白である。
才人はすばやくマグナムを抜くが、ルイズは少年の盾になり、撃つのをためらう才人に、
「撃たないで!」
と、制止する。
そして彼女は少年に自分が持つ銃を渡した。
「道に沿って歩けば、運が良ければどこかの町に着くわ。そして、生きなさい、生き延びなさい。この銃は貸してあげる。いつか返しに来ればいいから。」
「待て、それ、オレの銃・・・」
才人が小声で抗議するが、ルイズは
「アンタ三挺も持ってるんだから一挺くらいいいでしょ!!」
と一蹴し、銃を少年に渡した。
少年は銃を奪い取ると、まずルイズに向ける。
「オイ、ガキ、わかってると思うけどよ、お前がその銃をこの女やオレに撃ったら、容赦しねぇぜ?」
少年もわかっている、今この場では才人はおろか、ルイズを相撃ちに取ることすら不可能であることは。
少年はズボンの後ろにピストルを挟むと立ち上がる。
「テメェら、後悔させてやるからな!ゼッテェ後悔させてやるからな!!!」
「ったく、早く行け!」
才人は少年を追い払うと、ルイズを壁に追いつめるように立ち、このようなことをした理由を問いただそうとした。
「なぁ、何考えてンだ?オレ、始末しろって言ったよな?」
「わかってるわよ。でもね・・・」
ルイズは自分の考えをまとめて、才人に話す。
「わたしは、人でいたいの。」
ルイズが言ったことの意味がわからない才人に構わずルイズは続ける。
「人は自分で考えて決めるから人だって思うの。もし、あの子を撃ったらわたし、こっちでする事は全部あなたのせいにしちゃうと思う。そうなったらもう、わたしは人じゃない。だから・・・」
「代わりに死んでも構わないってか?」
才人は腰を折るように、ルイズの考えを聞いた感想を話す。
ルイズにもわかっている、彼女は才人が助けなければ今日だけで二回、この世界に来てから『運良く助かった』ことも含めればすでに五回以上死んでいる。
それを踏まえた上でルイズは答える。
「死ぬのはイヤよ。でも、誰かに『生かされる』のはもっとイヤ。自分で決めて生きたい。それなら死んじゃっても、誰のせいにもしないでいいから、後悔しないわ。」
ルイズの答えは力強く、才人は目をそらすとルイズに背を向ける。
「なら、好きにしろよ。」
ぶっきらぼうな答えを聞いたルイズは覚悟を決める。
才人にここまで言った以上、一緒に行くのは許されないだろうと。
ルイズは才人に頭を下げると、彼に背を向け、廃墟を出ようとする。
「どこ行くんだ?もう日が暮れちまうぜ?」
廃墟を出ようとしたルイズは急に才人に呼び止められ、驚いて振り向く。
「え・・・だって、好きにしろって・・・」
「オレと同じ空気吸うのもイヤだっつーんなら止めねぇけどよ、このあたりで夜中に出歩くのは自殺行為だぞ?」
才人は廃虚の外、今は出ていった少年も見えなくなり、夕焼けの赤が夜闇の黒に塗り替えられていくのを指す。
「あら?何?あの光・・・」
人型の光が、フラフラと同じような歩き方をする光らない人型を連れて歩いている。才人はルイズに二つ繋がりになった望遠鏡を渡す。
「変な望遠鏡ねぇ、えっと、こう?・・・っ!?ゾ、ゾンビ!?な、何であんなにたくさん!?」
ルイズは光とそれに付き従う者達を見て小さく悲鳴をあげた。
それらは、腐って乾ききった歩く死体だったのである。
そのリーダーのようなものだけは体が光っているのだ。
ハルケギニアでは、うち捨てられ、埋葬されず、偶然にも他の動物に食べられたりしなかった死体が動き始めることがままある。
ルイズ達ハルケギニア人はそれを『悪魔に魂を盗まれた者』と考え、その総称が『ゾンビ』なのだ。
「お前のいたとこじゃゾンビって呼んでたのか?俺達は『グール』って呼ぶけど、それはいいんだどっちでも。200年前の戦争で放射能浴びて死に損なったヤツの成れの果てって話だ。脳ミソだけくたばって、体は食いモン探して動き続けるっつうキメェ奴らだよ。」
才人はそう言って扉を完全に閉めると、閂をかけた。
「まぁ、五感は限りなく弱ぇから爆音立てたり、目の前に出たりしなけりゃ問題ねぇし、昼間はどっか暗ぇとこに引きこもってるみてぇだからやり合うこたぁ少ねぇけどよ、やるとなったら灰になるまで燃やすか、粉々にするつもりでバラさねぇとビビりもしねぇでアタマ数に任せて向かってくる厄介なヤツだ。ヤツらとやり合うってんなら止めねぇぜ?」
「・・・遠慮するわ。」
ルイズもさすがにそのような怪物達と夜通し戦うなど考えたくもなかった。
そして一人で放浪している最中に遭遇しなかったのを、この世界へ飛ばされてから八割型失った信仰心でハルケギニアの神というべき存在、ブリミルに感謝する
「賢明だ。それに、町に連れていくって約束したろ?それくらいは守らせてくれよ。」
才人がそう言ったのに、ルイズはうなずく。
「・・・ってサイト!血、血!!」
ルイズは今さらながらに才人が血まみれなのを思い出す。
「あ、これか?心配すんな、返り血だよ。まぁ、盗賊のアジトなら水の蓄えもあるだろ。こいつらにはもう必要ねぇんだしな。」
そう言いながら才人はルイズの目の前で戦闘服を脱ぎ始める。
「だから少しはデリカシーを・・・」
ルイズはそう言いながら才人に背を向ける。
「これは一人言だけどな・・・正直、お前みたいな考え方ができるのってうらやましいぜ。」
「え!?ひゃん!」
つい振り返ってしまったルイズはパンツ一丁の才人の後ろ姿を見てすぐ背を向ける。
「お、あった。正直、オレだって昔は殺すの嫌だったんだよな。」
ジャバジャバと、才人が頭から水をかぶる音がルイズに聞こえる。
「けど、殺らなきゃ殺られる。いつの間にか考えるのもやめちまってたよ。」
水を浴びる間も才人はルイズに聞こえるように一人言を続ける。
「考えてねぇから決めてもねぇ。そんなのはもう人間じゃねぇ・・・もし、州が一人残らずお前みたいなヤツばっかりになったら・・・」
才人の一人言を聞くルイズは耳まで真っ赤になっている。
「わたしもお水!!」
「てオイ!?」
ルイズは話の腰を折りながら、才人が浴びていた水にコートを脱ぎ捨てて割り込んだ。
太陽熱で蒸留された水を貯めている貯水槽につけられたコックはルイズの頭くらいの高さにあり、潜り込んだだけでルイズは頭から水をかぶることができる。
すでに5日も風呂どころか水もかぶっていないルイズにとってそれは心も洗われるような気分であった。
しかしすぐ、後悔することとなる。
「透けてるぜ。」
「~~~~~!!!!!」
悲鳴をかみ殺したルイズは、主に濡れたブラウスが身体にはりついて透けており、乾くまでの間、つまり一晩中、裸に才人のコート一枚を着るハメになったのであった。
では、前回のクイズの答えを。
州は、日本の九州です。
ここを選んだ理由は、首都圏や中枢部から離れているから、戦争直前の情報がほとんどなくても不自然じゃないからです。
それと、九州ならば行ったことのある場所が多いからイメージしやすいというのも。
設定の捕捉
火の国
州の中心であり、もっとも人口が多い国です。
名前は熊本の旧国名をそのまま使っています。
城郭街という、最終戦争よりはるか昔に建てられた城とその周囲がダイヤモンドシティのようになっていて、街の警察機構『バット隊』が警備しており、物流も盛んでここに住むことが州の人間の憧れです。
アーソー台地
火の国の東にある広大な台地。
猛獣とレイダーの巣とも言われ、隊商が通るのは『どうぞ襲ってください』といっているようなものです。
ですがアーソー台地の反対側は州で唯一、農作物の種を生産することができる『湯の国』があり、才人は危険を犯してここを往復している途中でルイズと出会いました。