円筒状のポットの中、緩衝材の水が満たされていく。
電動駆動鎧を着ていると言っても自分の周りを水が覆っていく光景にどことなく不安を覚える。
まぁ、今からやることに比べれば微々たるものだが。
コロコロと口の中で飴を遊ばせる。
『こちら管制塔。コード・ラプラス、聞こえますか?』
電動駆動鎧の無線からオペレーターの通信が聞こえる。
『はい。意識はありますね。それでは最後の確認をしますのでそのまま待機してください』
ぶつり。と無線が切れる。
報酬はたんまり貰った。やるべきこともやった。故に悔いはない。
此処から先は未知の体験である。
何故なら今から未来に飛ぶのだから。
原理は詳しく聞かされていない。
いや、聞かされたとしても学の無い俺には一ミリも理解できない話なのだろうから聞く気がなかったという方が正しい。
さて、世界が大戦争をして早十五年。
人類にとって多くの時間と資源を無駄にした戦いだった。
もう、どの国も戦えない。
もう、どの人も戦う気力すらない。
ギリギリの状態で保たれている平和。
正に人類は断崖絶壁に立たされている状態なのだ。
当然、前に進めば落ちるのだ。故に後ろに進めばいい。
だが、もしも。万が一にも一歩、前に進めば?
そんな『もしも』の可能性を消す為の実験。
確実な未来を、人類生存を観測するための実験なのだ。
『ラプラス、最終チェック完了しました。これより貴方に与えられた使命を確認します』
ああ。
『貴方の使命は?』
未来の技術、未来の生活を現在に持ち帰る事。
『失敗は?』
許されない。
『OK。念のため武装以外にも酸素タンクやバッテリーの予備を積んでいます。携行武器は新型のショットガンです。六発既に装填済みですのでお間違え無く。またこちらも予備と特殊弾頭を二発支給しておきます』
了解。これより最終状態に入る、通信終了。
今度はこちらから通信を切る。
それと同時に飴をかみ砕く。
中から苦い液体が口の中を蹂躙する。
そして、それを感じた瞬間、凄まじい眠気に襲われた。
夢と現を彷徨いながら何かのスイッチを押してしまう。
曖昧だが先程のオペレーターの声が聞こえる。
どうやら通信回線か秘匿回線のどちらかを開いてしまった様だ。
『・・・・、・・・・・・。・・・・!!・・・・・・・!』
がやがやと何を言っているか分からない。だが、聞きたくない言葉を聞いた。
『失敗』
それを聞き、ああ、やっぱりなと思いながら意識は暗闇へと沈んでいくのだった。
「・・・ん」
目が覚めると電動駆動鎧はスリープ状態になっていた。
自身の覚醒は良好。
まぁ、失敗したのだから覚醒しても面倒ごとしかないので喜べないが。
さて、どの辺境な世界に飛ばされたのか。
メインを起動させ流れる様にサブを起動。
さっそく、データが現在の位置を教えてくれる。
さて、俺の現在地は、空中か。成程、空中ね。
「・・・え?空中!?」
なんでいきなりこんなことに!?しかもどっかの街の上空じゃないか!
ええい、取りあえずバックパックにパラシュートがあったはずだ。
パラシュート起動!
『高さが足りません。パラシュートは開けません』
ガッデム!!
つまりこのまま自由落下してくださいって言うわけか!
くそ、他の手は・・・!
『落下まで十秒』
じ、時間が少ないイイ!?
『さん、に、いち』
な、南無三!?
『着地』
蓮太郎side
それは延珠と買い物に出かけた帰り道のことだった。
「誰かそいつを捕まえてくれ!!」
「なんだ?」
「はぁ、はぁ、はぁ!!」
人の往来がある商店街で大声を出しながら叫ぶ二人の男。
そして、それから逃げる様に走るボロボロな少女を。
(外周区の子ども!?)
「あ」
そして、その子に反応して延珠が声を漏らした。
「っ!・・・あ、あの」
「捕まえたぞ、この泥棒め!!」
「は、離せぇ!」
延珠に気づいた少女は一瞬足を止めてしまった。
そして、此方に話を掛けようとして男に取り押さえられた。
「勝手に商品を盗みやがって!!」
「ち、違う!これはちゃんと…!」
「黙れ、化け物が。貴様ら外周区のゴミ共が金なんて持ってるわけないだろうが!!」
「おい!その子が一体どうして」
慌てて男を止めて事情を聴く。
「盗みをやらかして声をかけた警備員を半殺しにして逃げやがったんだ」
「・・・・・・!!」
それを聞き周りからいろんな人が集まってくる。
「赤目がいる」
「なんで呪われた子供が中に・・・」
「まま~」
「これみちゃいけません。あんな汚らわしい化け物」
それは聞くに堪えない言葉。
嫌悪感、恐怖、憎悪が混じった言葉。
「貴様らは東京エリアのゴミだ」
「ざまぁみろ、ガストレアめ」
「てめぇら赤目が俺の家族を殺しやがったんだ」
「くたばれ」
「死ね、この世からいなくなれ」
もはや、それは少女に向けた言葉ではない。
ガストレアに向けた怨嗟であった。
「・・・・・・!!」
「ッ!」
そして、その少女はあろうことか延珠に手を伸ばした。
助けて、と。
その手を延珠が掴もうとしてとっさに振り払う。
(延珠をまきこむんじゃねぇよ!)
その瞬間、全てに絶望した少女が居た。
「こらぁ!いったい何御騒ぎだ!」
しばらくして警察が現れた。
だが、事情聴取もせず少女を引きずりパトカーに乗せたのだった。
少女side
「この化け物がッ!!」
仕方ないじゃないか。
「店の商品を盗みやがって!!」
仕方ないじゃないか。
「死ね、貴様らは東京エリアのゴミだ」
どうしろっていうのさ?
お金がないのはお前たちのせいだろ?
ガストレアの因子を持っているのだって好きでもったんじゃない。
なのにどうして?
「うぐっ」
警察の車から乱暴に引きずり出される。
「おら、さっさといけ」
「・・・・・・」
「行けって言ってんだろ!!」
「ガッ!!」
背中を蹴られる。
蹴られたくないから先に進んだ。
そして、拳銃を向けられた。
周りには誰もいないしフェンスに囲まれていて逃げ出すことも出来ない。
「ったく。手間かけさせやがる。このゴミが」
「あぐっ!!」
足を撃たれた。
頭の中がちぎれそうなほど痛い。
「ッチ。やっぱりか…」
だが、傷は何事無かったかのように塞がっていく。
ガストレア因子のおかげだ。
「ガハッ!!!?」
次は胸を撃たれた。
痛い、痛い、痛い。
でも、死ねない。
「くそ、これでも死なねぇのか。なら・・・」
チャキッと拳銃が音を立てる。
そして、その銃口は僕の頭に向けられていた。
「これで流石に死ぬだろう」
にやにやと嗤うその顔は醜く歪んでいた。
幾らガストレアウィルスを持っていても何発も撃たれれば死ぬしかない。
何処か冷静な部分がささやいた。
楽になれると。
でも、僕はやっぱりどこにもいない神様に祈った。
(死にたくない。誰か、誰でもいいから助けて!!)
ドゴオオォォン!!!!
「!?」
「え?」
その瞬間、何かが降ってきた。
「な、なんだ?」
それは機械の人形。
前面からコンクリートに叩き付けられてひどいありさまだが其れは人の形をしていた。
『痛ってええぇぇぇぇ!!』
「!?」
「!?」
しゃ、しゃべった?
人形なのに喋った!?
いきなりの絶叫に驚いてしまう。
「ヒィ!」
「あ」
そして、その絶叫に耐え切れなかったのかさっきまで銃を構えていた警察の人は地面を何度も転びながら逃げていった。
『あれ、痛いってことは死んでない?……メイン、サブともに問題なしか。他は・・・』
まるでこちらを気にも留めずぶつぶつと何かいっている。
どうしよう話しかけるべきだろうか?
『う~ん。あーマイクテス、テス。よし大丈夫か。嫌、大丈夫じゃないんだが』
迷っているうちによっこいせと立ち上がる機械の人形。
『ああ、その。言葉通じる?』
その質問にコクリと頷いた。
『えっと、ここらへんで人目のつかない場所とか知ってるかな?』
此方を安心させるためか膝を地面につき視線(?)を合わせる機械の人形。
「・・・知ってる」
『お、それなら案内してくれないか?ああ、無理にはしなくていいから。最悪、指さしてくれれば』
「・・・・・・」
ひとまず外周区行けばいいかな?
「・・・こっち」
僕は機械の人形を外周区に連れていくのだった。
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