インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

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十話「勝負決着」

 セシリアは空中で朦朧とする意識と受けたダメージを確認しながら、一度ビットを全て呼び戻し状態を戻す。レーザーライフルは損傷無し。物理的損害は装甲のみだ。腰のライフルは当然のように無傷。しかしシールドエネルギーは残り41。相手を笑えない数値だ。レーザー兵器で使うエネルギーも考えれば、被弾は一発も許されない。

「褒めて差し上げましょう……」

 セシリアが見下す。その先には、頭をさすりながら立ち上がる一夏。ハイパーセンサーバイザーが少し欠けているが、その姿に戦闘能力の低下はまるで見られない。むしろ覇気は上昇していると見るべきか。

「このブルー・ティアーズを前にして、初見で空中にまで追い込んだのは。更に言えば、私が狙撃の一撃で相手を仕留められなかったのは、貴方が初めてですわ」

「そりゃ光栄だ。勲章もらえるかな」

「私が女王ならば、騎士の称号を与えたでしょうね」

「ありがとよ」

 一夏は答えながら、ダメージ状況を走査する。頭部ハイパーセンサーに若干の支障あり。射撃兵装に影響。絶対防御の発動により身体に異常は無し。機体の戦闘続行は条件限定で可能。重金属粒子群は有効率現在五十二%。威力減衰は有効ながら、無効化は不可。現在の残シールドエネルギーを考えれば、ビットレーザーも十分な脅威。追記すれば、重金属粒子群散布ミサイルは一回分のみ搭載のため、次弾無し。

 

 シールドエネルギーの残量はおそらく互角。武装面ではハイパーセンサーの支障の分こちらが不利。環境は重金属粒子群によりこちらが有利。装甲面ではこちらが頭部ダメージ中に対して、向こうは全体ダメージ中。装甲部分重要度の違いにより甲乙は付けがたし。

 

「私は貴方に敬意を表します。故に」

 セシリアはそこで、レーザーライフル「スターライトⅢ」をクローズ。代わりに右手を前に掲げると光の粒子が舞い新たな武器をコール。その手に握られたのは、近接戦闘用と思わしきショートブレードだった。後付武装なのだろうか。彼女らしくない武器だ。もしくは、狙撃で仕留めた獲物を切り取る刃物。という意味では彼女らしい武器というべきか。セシリアはそのショートブレード「インターセプター」をクルクルと回して構える。同時に、ビット六機全てが再び宙を舞う。

「空中戦闘で、止めを刺しましょう」

 それは狙撃戦に固執していた彼女自身のプライドを捨てる。という意味か。ビットを全機使用する辺り、プライドで実力が抑制されている。という訳でもなさそうだ。ならばと一夏はフワリと浮き上がり、セシリアと同じ目線まで上昇する。そして武器をコール。下部コンテナ左右から柄が突き出され、一夏はそれを抜く。「多機能戦闘用ブレード」刃渡り三尺四寸のそれを一夏は二刀で構える。

 突如訪れる静寂。両者。構えた時点で少しも動こうとはしない。しかし、一夏がここで左手のブレードを滑り落とす。セシリアはそれに無反応。が、次の瞬間一夏はその滑り落ちたブレードをセシリア目掛けて蹴り付け投擲!

 

 セシリアもそれに合わせて一気に動く。蹴り投げられたブレードをビットで落とすと、そのまま攻撃ビット四機を多角機動で一夏に向ける。一夏はセシリアに向かい加速。ビットレーザーを潜り込むように避けながらコンテナのハッチを展開。そこからい出るは無数の刃の柄! 一夏は笑うと、その刃。多機能戦闘用ブレードを回転射出。そして空中を舞うブレードを手で掬うように取って投擲射撃! その投擲はビット、そして当然セシリアも襲う。

 だがセシリアは慌てず動かず自らへの投擲ブレードは防御用ビットで防ぎ、機動回避の神経集中を攻撃ビットに回す。一夏は両手両足を使ったブレード投擲でビットを狙うが、さすがに直線にしか飛ばなければ特別高速という訳でもないブレード投擲がビットに当たるはずもない。

 はずが、一つのブレードがビットに命中。そのまま連続投擲で攻撃ビットの一つが火花を散らして墜落する。この遮二無二見えた投擲は、セシリアのビット行動パターンを読むための捨石だったのだ。一夏は更にもう一つの攻撃ビットもブレード投擲で破壊する。

 

「お見事」

 しかしセシリアに焦りは見えない。むしろ戦いを楽しんでるようにも見えた。それは一夏も一緒だ。無言ではあるが、その表情は笑顔だ。

「ハッ!」

 息を継ぐように、笑うように、気合を入れるように、一夏は叫ぶと、ブレード二本を両手に構えセシリアへと突撃。セシリアはまず右手の一撃を防御ビット二つがかりで防ぎ、左手の一撃を自らのショートブレードで受ける。と同時に、彼女は自らの足で一夏の足を抑える。蹴りを防ぐためだ。

 

 攻撃手段を抑えた。後はビットでとどめを刺す。セシリアが勝利を確信したその時を、一夏は逃さない。コンテナ三番、四番をアームよりパージ。慣性制御より解除。指向性を以って射出。及び一番、二番コンテナアームを限定武装に変更。マニュアル操作を施行。

 

 突如、一夏の背部コンテナの下二つが後ろへと吹き飛ぶ。巨大な質量の塊はそのままビット二つにぶち当たる。破壊とは言わないが、機動バランスを失うビット。だがセシリアがもっとも驚いたのは、残り二つ。上側コンテナの接続アームが伸びると、コンテナ二つが連結。まるで巨大なハンマーのように振りかぶり……

「!」

 それを後退でかわそうとしたセシリアの手を、一夏の左手がしっかりと握る。セシリアがここで、初めて焦りの表情を出す。

 

 コンテナハンマーの一撃はそのままセシリアを防御ビット毎真上から叩き潰す。シールドエネルギー最後の力が発動し、彼女自身にはノーダメージとなったが、それによって役目を終えたブルー・ティアーズは光の粒子となって消える。ISを失い落ちそうになる彼女を、一夏は握った左手で引き上げる。二重の意味で、一夏は彼女の手を握ったのだ。

 ブザーが鳴り響く。閉幕(フィナーレ)である。

 

「試合終了。勝者『織斑一夏』」 

 

「俺の勝ちだ。セシリア嬢」

「……ふふっ」

 セシリアは言葉を返さなかったが、代わりにこちらが思わずドギマギしてしまうくらいの笑顔で返してくれた。

 

 ある種、最高の返事であった。

 

 

 

「二人共、よくやった」

 ISを解除し、ピットに戻った一夏とセシリアを迎えた千冬姉の第一声がこれだった。時代が時代なら「大義であった」とか言いそうな感じだ。つまりこの言葉は、千冬姉が言う褒め言葉の中では上位三つに数えていいレベルの絶賛である。これには一夏も少したじろぐ。

「あ、ありがとうございます」

「セシリアは状態はどうだ?」

 それ若干スルーするように、千冬姉はセシリアの方を向く。無視っすか。

「問題ありませんわ」

 セシリアは至って普通そうに言う。こう見ると本当にダメージはなさそうだ。

「なら良し。今日は早めに休め」

 そう言って、千冬姉は先にセシリアを返す。彼女は一礼すると、自分側へのピットへと戻っていった。そして千冬姉は再び一夏の方を見る。ちょっと怖い。

「……」

「な、なんでしょうか」

「頭は、頭の怪我は、いけるのか?」

「? ああ、大丈夫。問題ないです」

「そうか……」

 そしてまた黙る。千冬姉もちょっとどう言えばいいのか距離感を掴みかねてる感じだな。実際一夏自身もそうなので無理はないと思うのだが。そうしてると、山田先生と箒がこちらに向かってきた。山田先生は興奮冷めやらぬ。といった感じの表情だ。

 

「織斑君! すごかったですよ! さっきの戦い!」

「あ、ど、どうも」

「いやあ、織斑君の副担任として私、とっても鼻が高いです……あ、でもオルコットさんも素晴らしかったですよね! 偏光射撃の狙撃には感動しちゃいましたよ!」

 やはりビットに偏光機能がついていたのか。思わぬ答え合わせが出来て良かった。

「い、一夏!」

 今度は箒だ。彼女はやや心配気な表情をしていたたが、一夏の顔を見るとキっと表情を引き締める。

「……」

 と思ったが、それはそれで言葉が見つからなかったらしい。なので一夏が言葉を継ぐ。

「情けなくは、なかっただろ?」

「……あ、ああ。そうだな。まあ、合格点でいいだろう」

 箒がふんぞり返るのに、一夏は微笑む。

 

「勝利したとはいえ、これからも気を抜かないことだな。とりあえず、今日は帰って寝ろ」

 千冬姉が言う。確かにその通りだ。実際、頭部の傷は大丈夫であっても無傷ではない。

「帰るぞ」

「あいよ」

 箒に言われて、一夏は寮への道を歩き出す。そこでふと、一夏はこの前自分が言っていた事を思い出す。

 

「そういや話が途切れちまっていたが、お前にISを教える話ってどうなってたっけ」

「ひえ!?」

「また変な声を出す」

「い、いきなり言うからだ!」

「負けたら言いにくい話だったが、一応勝ったしな。前回結局答えを聞けてなかった」

「……一夏は、私にISを教えたいのか? ……わ、私だから?」

「まあ少なくとも、お前以外には二度もわざわざ確認はとらんだろうよ。それに」

「それに?」

「ISに乗ったお前の強さが見たい。ISに乗ったお前の剣が見たい……ISに乗ったお前が見たい。おかしいか?」

 

 純粋な笑顔で、一夏は箒に問う。子供のように無邪気で、修羅のように熱い。箒は、思わず笑ってしまう。

「そんな風に言うと、まるで練習相手が欲しいだけに見えるな」

「だけではないが、そうでもある……怒るか?」

「いや……私も同じだ。今日見て思った。ISに乗った一夏と……銀鋼と戦いたい」

 あの頃のように、世界を知らず、己の強さを研鑽し合った頃のように。

「じゃあ決まりだな」

「い、いやちょっと待て! これではまるで私が教えてもらわなければ相手にならないような言い方ではないか! ……特別、そう。特別だ! 特別に私も初心に帰ってお前と一緒に鍛錬してやる! そういう事だ!」

「はいはい。特別にな」

 特別。を殊更強調された気もする。それは彼女の負けず嫌いな精神が言わせたのか。それとも。

 

(いい夕日だ。身に染みる)

 

 得も言えぬ充実感を感じながら、一夏は寮へと帰っていった。




決着つきました。実際ここはどちらを勝利とするか非常に迷ったのですが、設定上こちらの一夏は自分のISに乗るのも初めてな素人ではないですし、実力伯仲の末紙一重で。という形での勝利となりました。

次回はセシリアの過去回想回となります。

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