インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

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十二話「武神、来る」

 4月の中頃も過ぎた頃、放課後のIS学園の入り口に立つ少女があった。

「はあ~、ここがそうか」

 小柄の体に大きなボストンバッグを背負う少女は、間の伸びた声で言う。髪は左右を高い位置で結び髪は黒、その顔立ちは日本人……否、中国人のそれだった。そして何より他者の目を引くのはその小柄ながらもすらりと伸びた足であろう。御御足を呼ぶに相応しいその脚線美は、彼女の最大の自慢で、武器であった。

「そんで受付はっと……」

 彼女はスカートのポケットから紙を取り出す「本校舎一階総合事務所」……だからそれがどこにあるのかを知りたいのだが。少女は再び紙をポケットに突っ込む。まあいい。誰かに聞けばいいだろう。彼女は行き当たりばったりな性格であった。だが、それで失敗した事は少ないのでこれで良いとも思っている。

 

 彼女は生粋の中国人だが、日本は第二の故郷であり、思い出の地であり、因縁の場所だ。『人に歴史あり』と言ったのは一体誰であったか。

「案内できそうな人は……」

 彼女は歩き出して人を探す。生徒の影はまばらに見えるが、時間帯からか部活動の準備で忙しそうで声をかけるにはやや躊躇う。いかにも手すきな人間がいると助かるのだが。

「お困りかな? お嬢さん」

 ふと男の声。鈴が振り返ると、そこには男がいた。やや肥満気味な年五十代と言ったところか。言ってはなんだが、なんだか女尊男卑な今の世の中を生きづらそうな人だ。が、人の見た目は注意深く見て判断しろと少女はよく師である祖父に言われていた。そしてこの男には得も言えぬ鋭さがあるのを既に少女は見抜いていた。

「おっちゃん、ここの人?」

「そうではないが、詳しくはある。ここにはよく来るのでね」

「じゃあちょっと聞きたいんだけど、本校舎一階総合事務所ってどこ?」

 少女は素直に尋ねる。矛盾する事を考えてるが、この男は警戒する必要はあるが怪しくはない。

「本校舎の総合事務所? すると第三アリーナの向こう側だな。道はわかりやすいが、少し距離がある。案内しようか?」

「あ、じゃあお願い」

 

 男と隣り合って、少女は歩き出す。

「ここの制服ではないようだが、もしや転校生か?」

「ま、その通り。ちょっと本国でいろいろ手間取ってね。おっちゃんは企業とかの人?」

「当たらずとも遠からずだな。この学園の支援をしている」

 男の声は、ふんぞり返るでも媚びるでもなく明朗だ。少女は短い人生ながらにモノをいろいろと知っている。故に男も女もピンキリだという事はよく理解しているが、この男は見た目によらず強かだ。

 

「ちょっと、そこのあなた」

 その二人に、強い口調で呼び止めるような声がかかった。自分か? と少女がその方を見ると、この学園の制服を着た少女がいた。ブロンドの髪から西洋系だろうか。生徒はこちらに近づくと、侮蔑の目で男を見る。ああ、そっちか。と少女が思っていると、生徒はいきなり男を罵り始めた。

「ここはあなたのような男が来るような場所じゃないわ。さっさと出て行ってもらえらない? 警備員を呼ぶわよ」

「いや、私は……」

 男が反論しようとして、口をつぐむ。この手の女は反論してもヒステリックにキレるだけだ。警備員を呼ばれようが犯罪者だと叫ばれようが、処理に困るのは警備員と警察のほうだろう。余計な仕事を増やすために男はここに来た訳ではない。どうせ毎度の事だと男は心中でため息をついて謝罪し道を戻ろうとするが、それを少女が止めた。

「このおっちゃん。知らないけどここの関係者みたいよ。それに私、今おっちゃんに道案内してもらってるの。いきなりその言い方。良くないんじゃない?」

「なに? あんた。こんなおっさんを庇うの?」

「庇うも何も……変な奴ね。善意の人間を警備員に突き出す学則でもここあるの? だったらちょっと引くんだけど」

 少女は何言ってんだこいつ。みたいな顔をして不思議そうに生徒を見る。その顔と言葉が、生徒の逆鱗に触れたらしい。彼女は二人を見下す。

「あんたも見れば制服着てないし、二人揃って不法侵入者ね。人を呼ぶわ」

「はあ?」

 

 少女は理解できないが、生徒はそのまま携帯端末を取り出す。何か面倒になってきた……よし。ちょっとアレだが、殴って気絶させよう。何。少女の拳は常人に見切れるようなものではないし、加減も心得ている。

 少女は生徒に瞬速で当身を首筋に打とうとするが、その手を止められた……止められた? 自分の拳が? 見ると、自らの腕を握ったのは男だった。そして男は生徒を諭す。

「待ちなさい。彼女は代表候補生だ。こんな事は君のためにもならない」

「!」「!?」

 これには生徒も、そして少女も別の意味で驚く。生徒が少女の方を見る。

「あんたが……?」

「……まあそうだけど。本国から確認。取ろうか?」

 少女は動揺するが、まずは生徒の方を解決しようと考えた。そう言われれば、生徒も黙るしかなかった。代表候補生を冤罪で突き出そうとすれば、事なのは確実だ。

「……それなら早く言ってよ」

 生徒は言い捨てて離れていく。男はホッと一息をついてまた歩き出した。少女は慌ててついていく。

「ありがとう。助けられたな。ああ、道ならもう少しだよ」

「いや、てかおっちゃん。何で私が代表候補生って」

「見て分かった。君からは強者の雰囲気がする。君ほどの逸材を放っておく国もないだろう。だがさっきの拳はいけない。暴力での解決は最終手段だ。暴力は便利がいいからといって、乱用してはいけない」

「……は、はあ。すんません」

 

 少女からすれば、この男のほうがよほど只者じゃない雰囲気になってきたのだが、確かに彼女の拳の実力は足に比べれば数段以上劣るものだ。とはいえ、並大抵の腕で止められないはずだが、彼は簡単に止めてしまった。なんだ、ニンジャなのか? そう少女が考えている内に、男の足は止まる。目の前には大きな建物が見える。

「ああ、ここだよ。後は事務員の人に聞くといい」

「あ、ありがとおっちゃん」

「何。感謝なら私がしたいくらいだ。何か礼が出来ればいいのだが……ああ」

 男はズポンのポケットからケースを取り出すと、そこから一枚紙を取り出し少女に渡す。少女が受け取るとそれは名刺のようだった。日進党衆議院議員・ 神正治(ジン・マサハル)……衆議院議員!? 政治家!? このおっちゃんが!?

「君ほどの子が助けを必要とするかは分からないが、トラブルが起きたら電話してくれたまえ。この国のIS関連では顔が広い。力になろう」

「いやっ、ええ……はあ、どうも……じゃなくて、私、そこまですごいことやってないっていうか、むしろ私が感謝する側なんですけど……」

 彼女らしくもなく、変な敬語が出てしまう。すると、男。神正治は笑う。

「その精神そのものに、私は感謝したのだよ」

「へ?」

「この時代に君のような男女を性別ではなく見れる人間。そんな娘が国家代表候補としてこの学園に来てくれる。それに対しても私は感謝したのだ。まだ、世の中も捨てたもんではないのは分かっているんだがね。どうも歳のせいか、じじ臭い考えになってしまう」

 神妙な顔になる男に、少女は微笑む。

 

「おっちゃん。ありがと」

「? 礼はもういいよ」

「いや、おっちゃんの精神そのものに、私は礼を言ったのよ」

 少女は、「歳だけ取って偉そうにしてる大人」は嫌いだが、「歳と力を兼ね備えた大人」は、無条件で尊敬していた。この男には少しだけ同じ雰囲気を感じる。自分を育ててくれた師と、自分がこの国に戻ってきた最大の理由である思い出の男子に……見た目は全く似てないが。

「……ならば、礼ついでに一つ教えてほしい。君の名を聞きたい」

「名前? ああ、そういや名乗っていなかったはね。私は……」

 彼女は笑顔で答える。

 

凰鈴音(ファン・リンイン)。鈴でいいわ」




酢豚こと凰鈴音登場回。彼女の役回しは箒と被るところもあるので、これからの展開には気をつけないといけないと思っています。
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