インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

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十三話「宴の華」

 

「それじゃあ、改めて……織斑君、クラス代表おめでとー!」『おめでとー!』

 パンパンとクラッカーが鳴る中で、一夏は上機嫌でクラスの女子達にサムズアップを決める。

「ありがとイェイ!」『イェーイ!』

 ノリノリに女子達も返す。一夏は渡されたコーラを一気飲みするとゲップとおくびを出す。普段なら下品と引かれる行為も今は無礼講だ。

「お替り!」

「いい飲みっぷりだねえおりむー。ほらじゃんじゃん飲め~。飲み潰れろ~」

「おお。じゃんじゃか呑むぜ、のほほんさん~」

 一夏がのほほんさんと呼ぶ彼女は正式名……なんだっけ。分からないのでのほほんさんと呼んでいる。制服にしろ私服にしろ袖の大幅に余った服を着てて男の萌えポイントを抑えた少女で、よく着ぐるみを着ている。今は狐と思わしき着ぐるみだ。そののほほんさんが一夏のコップに器用な手つきでコーラをぐびぐびと注ぐ。今は夕食後の自由時間。場所は寮の食堂。クラスのメンバーは景気良く全員出席で各自やいのやいのと飲み物片手に騒いでいる。壁には横断幕がかかっており、「織斑一夏クラス代表就任パーティー」と書かれていた。

 

 一夏は大人数で何かを祝うのが非常に好きだった。一番最近だと確か、IS技研で初めてISの起動に成功した時、技研のみんなで祝ったパーティーであったか。技研テストパイロットという立場のある一夏だが、こういう時に騒がないのは人間として楽しめないと考えていた。

「クラス対抗戦もこれで盛り上がるよねえ」

「そうだよねえ」

 そう言ってる彼女達は確か二組。というか他の組の女子がチラチラと見えて明らかに四、五十人はいる……まあ、今はいいじゃないか。何せ祝い事だ。祝い事は、多くで祝ったほうがいい。祭りと喧嘩は派手に限る。

「楽しそうだな、一夏」

 箒が呆れた顔で言う。

「おお、超楽しい」

 おそらく嫌味を超ご機嫌に返されれば、箒も怒りようがない。

「ふん」

 さすがにそこまで騒ぎに乗りきれない。と言った風だったが、それでも参加してる辺り彼女の協調性を見れる。

 

「はいはーい。新聞部でーす! 話題の一年生織斑一夏君に特別インタビューを行いたいんですが!」

「よっしゃドンと来い」

 おー。と一同盛り上がる。一夏はコーラで酔っているかの如く上機嫌だ。

「あ、私は二年の黛薫子。新聞部副部長なんで、そこんとこよろしく」

 そう言って彼女は名刺を渡してくる。新聞部か。何かいいコネをゲットできた気がする。

「では一夏君。代表になった意気込みをどうぞ!」

 ボイスレコーダーを一夏に向けて、瞳を輝かせる薫子に、一夏はボイスレコーダーを右手で奪い取って立ち上がると左手で天井を指さす。

「当然狙うは優勝だ! あ、ちょっと聞きたいんだけどクラス代表戦に優勝賞品ってあるの?」 

 一夏が尋ねると女子達がテンション高めに答える。

「あるよ! 一位には食堂の半年間デザートフリーパス!」

 すごいな。それ。というか一学年のクラスって確か4組までだろうに。実質二回勝つだけでそんな豪華賞品がもらえるのか。

「それってクラス全員か? 俺ももらえるかな?」

「当然っしょー!」

「よし、じゃあ優勝したらそのフリーパス使ってもう一回パーティーするぞ! 更にクラス以外のパーティー参加者のデザートは俺が奢る!」 

「キャー!」「太っ腹ー!」「大盤振る舞いー!」「傾奇者ー!」

 

 ひたすらにテンションボルテージを上げていく一夏と一同。一夏はスッキリした感じで薫子にボイスレコーダーを返す。

「こんな感じで」

「うん、ありがと! いや~君みたいにノリのいい人だと私達も記事書きやすくて助かる!」

 薫子は満足気に頷くと、次はセシリアの方を向く。

「あ、セシリアちゃんもコメントちょうだい!」

「はむ?」

 当のセシリアは、一夏の隣で焼肉サンドを口にくわえていた。他の女子がお菓子を食べてる中で、彼女だけ焼肉サンド……ホント君見た目に反して肉食ですね! セシリアはサンドイッチを優雅に咀嚼。食べ終わってから喋りだす。その辺りはかろうじて上品だ。口元についたタレを舌でチロリと舐める仕草が艶かしい。

「ふむ。私もコメントですか。どのような事を言えばいいのでしょう?」

「そうね。代表となった織斑君へのエールの言葉とか」

「なるほど……コホン。今回は負けたのもありますが、彼の後学のためにもということで、一夏さんに代表をお任せする事にしました。頑張ってくださいね」

 彼女はそう言って、一夏の頭をあやすように撫でる。ハイテンションの一夏も思わずこれには頭を隠す。

「セ、セシリア嬢。そのなんてゆーか、子供扱いみたいなのはやめてくれないか」

「ふふ、恥ずかしがっちゃって。それに私の事はセシリアでいいと言ったでしょう?」

「……やめてくれセシリア」

「はいはい」

 

 彼女は余裕の笑みで手をのける。模擬戦で勝ってから、彼女はこの調子だ。戦う前までは「対等の敵」もしくは「誇りをぶつけるに相応しい相手」と言った風な扱いだったのに、最近はどちらかというと「手のかかる弟」「やんちゃな教え子を見守る教師」みたいな感じになっている……あれ。おかしい。勝ったのに扱いが下がってる。

 といっても彼女も別に常にこのようなという訳でもなく、ISでの訓練授業中や、模擬戦をする時等は至って真面目で、一夏に対する態度も高潔なものなのだが、時々機嫌が良いのであろう時は急に甘やかしてくる。

 

 それが一夏は、なぜだか嫌いになれなかった。なぜだろう。すごいむず痒い感じなのにそれをされるのがとても嬉しい……いや、嬉しいはさすがに駄目だ。人として堕落してしまう気がする。だけど、悪い気はしなかった。懐かしい気持ちになれるからだろうか。

 こんなのを箒が見れば、ニヤニヤするな等と怒鳴り散らすだろうと思えば、存外このセシリアの行動には全く反応しない。というよりもちょっと一夏を哀れんでるような目をする時がある……逆に辛いのでむしろ怒鳴ってほしいくらいだ。

 

「うんうん。ありがとう。後、さっきの頭撫でられて恥ずかしそうな顔した織斑君の写真もバッチリとっといたんで、後は全員集合の写真。一枚もらえるかな!」

「なんか今すごく後々面倒な事になりそうな事を言ってたが、ええいままよまま! せめて集合写真の方はバッチリしたのを撮ってくれ!」

「お任せお任せ! よし、じゃあみんな寄って寄ってー!」

 薫子の言葉に誰もが押しくら饅頭をするように一夏の側へと寄せ合う。セシリアは落ち着いた様子で一夏の右隣の席で座ったまますまし顔をし、箒はむすりとした顔で左隣に立つ。一夏はとりあえず腕を組んで、キリリと目を鋭く光らせ「底の知れない戦闘者」を演出した。さっきの言動の後、周りが全員女子では説得力の欠片もないが。

「それじゃあ撮るよー! 1.41421356237は~?」

「……ルート2?」

「正解ー!」

 パシャリ。無闇に人を考えさせる写真の撮り方だ。それでもみんな笑顔だ。もはやここのメンツは箒を除いて、箸が転がっても笑ってしまうだろう。

 

「その写真、もらえるのか?」

「当然。希望者みんなに配るから」

「そりゃ楽しみだ……よし、続きだ続き! のほほんさん! コーラを何かとカクテルで頂戴!」

「ではこの抹茶オレとで……」

「センスいいねえセッシー」

「うおー! やめろー! どうなってもしらんぞー!」

「一夏。イッキだイッキ。男を見せろ」

「そういうところでいきなり悪ノリするの勘弁してもらえませんかね箒さん!?」

 

 結局、織斑一夏クラス代表就任パーティーは夜十時まで続き、最終的に参加者は六十人近くになっていた。

 

 

 

 翌日

「うげー」

 登校早々、一夏は机に突っ伏し声にならないうめき声を上げていた。パーティーに疲れてではない。精神と、主に舌と胃的なものでだ。

「全く、軟弱な奴だな」

 一夏を見て箒が言う。抹茶オレコーラを一口飲んで一夏の顔に吹いた人間が言ってはいけない言葉の堂々第一位を早々に言う強者ぶりだ。

「そうですわね。もう少しシャンとしたほうがいいですわ」

 セシリアがそれに続く。抹茶オレコーラという悪魔の飲料を発明したイギリス人特有のメシマズブラックジョークはやめて頂きたい。

 

「おはよう織斑君! 昨日はすごかったね!」

「おはよう谷本さん……」

 一夏は顔だけ上げてクラスメイトに挨拶する。

「あらら、さすがにグロッキー? じゃあさ、今朝仕入れた新情報を教えてあげる。二組に転校生が来たんだって」

「転校生? この時期に?」

 このIS学園に転入してくるのは通常の条件では不可能だったはずだ。確か、国の推薦が必要なはず。つまり

「そう、その娘中国の代表候補なんだって」

「……中国?」

 一夏は耳をピクリとさせて体を起こす。

「二組で、中国で、代表候補?」

「なんだ。気になるのか?」

 箒の問いに、一夏は急に腕を伸ばし始めて準備運動をするかのように答える。

「ああ、ちょっとな」

 もしやという期待に、一夏は気を張り詰め直す。

 

「私の存在を危ぶんで、でしょうか? まあどちらにせよクラス代表は一夏さんな訳ですが」

 英国代表候補のセシリアが顎に手を当て考察するように言う。

「代表戦は来月だ。誰が来るにしろ、特訓だな。私も特訓には参加するぞ……教えてもらうためにもな」

「? まあ、近距離の箒さんと遠距離の私。特訓にはちょうどいいのかもしれませんね」

 言ってる間にやいのやいのとまた人が集まってくる。特に昨日の今日ではそれも仕方ないというべきか。

「織斑君頑張ってね!」

「今専用機って一組と四組にしかないらしいから、きっと楽勝だよ!」

 四組にも専用機持ちがいるのか。そりゃ手合わせしたいな。そう一夏が思ってると、

 

「その情報、古いよ」

 教室の入り口から否定の声が聞こえる。とても、聞き覚えのある声だ。声に合わせて、一夏の脳内が「通常運行」「回送」「合体」から「戦闘状態」へと切り替わる。

「二組も専用機持ちが代表になったの。そう簡単には優勝させないわ」

 腕を組み、片膝を上げてドアの前に立っていたのは、

 

「鈴……お前鈴か!」

「にひっ、だったらどうするのよ。一夏」

「決まった事よ!」

 一夏は席から直上に跳躍。空中でクラスメイト達の包囲網を抜けると、彼女に飛び蹴りをかます。

「シャリャアッ!」

 空中からかかる一夏を、彼女は鈴音は予め上げていた片膝で、素早く蹴る。

 

 瞬間、一夏が真反対に吹っ飛んだ。

 

『!』

 クラスの誰も驚く。飛び蹴りを行った一夏が次の瞬間に吹っ飛んでいた。しかも箒とセシリアは見ていた。いや、見えなかった。彼女の蹴りがまるで見えなかったのだ。ただスパァン! という小気味よい音だけが聞こえただけだ。彼女の蹴った脚は、膝から先が消えるほどの速度だったのだ。一夏はふっ飛ばされながらも空中一回転で窓ガラスを叩き割る前に着地する。

「鈴!」

 一夏は突貫。鈴との距離を一気に詰めると、拳の連打で彼女を撃ちぬこうとするが、彼女はそれを片足のみで捌ききる。

「一夏! 久しぶりねっ!」

 鈴の回し蹴り。それを一夏は飛びよけ、腰のチェーンスタッフをヌンチャクで構え鈴の頭上を叩く。廊下側に引く鈴。

「お前が二組の代表候補だって? 前任者は!」

「替わってもらったのよッ!」

 棍にした一夏の薙ぐ一撃を鈴は指一本のみで止める。一夏は持ち替えて短棒二刀流にすると逆手に構え鈴を襲う。鈴はそれを素手で受けきると弾き飛ばした。

 

「本当に代表候補になるとはな!」

「あんたこそ! 本当に男でIS乗っちゃうなんてねえ!」 

 ラッシュの速さ比べを行うがごとく、一夏の両拳と鈴の右足が舞う。お互いがその隙をついて一撃を放つが、両者の力は互角にぶつかり合い、衝撃波が飛んで教室の窓ガラスを響かす。

(少しは出来るようになったわね……)

(いつまでも昔のオレではないぞ……)

 心中の想いを拳と脚で伝え、両者は退く。そこにちょうど、千冬姉が現れる。よいタイミングだ。

「あ、千冬ちゃんだ。お久しぶりでーす」

 鈴は先ほどとは打って変わって気の抜けるような声で言う。彼女は初対面だろうが異性だろうが目上だろうが、誰にでもちゃん付けをする。しないのは家族と師匠くらいだろう。千冬は彼女を見ると、無愛想に言う。

「……織斑先生だ。それとSHRの時間だ。さっさと教室に戻れ」

「はいさーい織斑先生。んじゃ一夏、お昼、食堂でいるから来なさいよー」

 そう言って鈴は二組へと帰っていく。古今東西。千冬姉にあのような態度をとれるのは世界に二人しかいない。すなわち、篠ノ之束と凰鈴音だ。前者が前者である事を考えれば、鈴音の凄まじさが分かる。

 

 凰鈴音。彼女は一夏の二人目の幼馴染で姉弟子に当たる。中国四千年の至宝「凰元帥」の孫娘にしてその後継者と認めた徒手空拳ならぬ徒足空脚最強の少女なのだ。




パーティーを兼ねたギャグ回。それぞれのキャラの明るい面での性格を出して行きたいと思ったのと、のほほんさんや薫子のような準サブキャラの顔見せも含めて。

後半の一夏の鈴との戦闘はただの挨拶です。喧嘩どころか小手調べでもありません。単純に久しぶりに会えた相手に挨拶をしてるだけです。一見バトルマニアだらけにも見えるかもしれませんが、いわゆる作中での暴力描写の代わりみたいなものと思って見ていただければと思います。
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