インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

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十四話「二人の幼馴染」

 

 

「あの女は誰なのだ!」

「あの方、一体どなたですの?」

 昼休みの開口一番に言われたのは、そんな言葉だった。まあ、無理もないか。初対面から挨拶代わりに戦い始めたら、誰だって困惑する。特に箒の形相はかなり険悪だ。

「ああ、説明するする。とりあえず飯食いに食堂に行こう。本人もきっとそっちだろうし」

 一夏の提案を二人共承諾して、その他数人のクラスメイトも連れて食堂へと行く。まるで大名行列だ。王様気分は楽しいが、かといって調子乗り続けるのも如何なものだ。引き締める時は引き締めなければ。

「だから今日の昼飯はカツ丼だ。おばちゃん、カツ丼一つ!」

「あいよ!」

 食堂のおばちゃんは今日も忙しそうだ。ちなみに箒はきつねうどん。セシリアはチキンステーキとハンバーグのミックスグリル定食……ってちょっと待て!

「IS学園は女子校だろ! なんでそんないかにも男御用達みたいなメニューがあるんだ!」

「? いきなりどうしましたの?」

 セシリアがジュージューとおいしそうに音をたてるミックスグリル定食のお盆を持ちながら不思議そうに言う。この娘はカロリーとか脂肪とかそういうの怖く無いのか!? 

「お前、いや。これは失礼な言い方かもしれんが……太らないのか?」

「その分消費すればいいことなのでは?」

「いや、もういいわ。突っ込んでも無理そうなんで」

 

「ちょいちょい一夏。メニュー来てるわよ。何コントかましてるの」

 そう言ってきたのは、件の凰鈴音だった。その手にはラーメンを持っている。本場中国人のくせに、彼女が好きなのは超日本ラーメンなとんこつだ。一夏はおっとと、カツ丼を受け取ると、空いてるテーブルを探す。

「ああ、あそこがいいな。行こうぜ」

 一緒に来た十人程度に促して、テーブルに座ると鈴がいきなり話しかけてくる。

「本当久しぶりね。お互い連絡も取らないって決めてたのもあるけど」

「まあな。てかオレは入学してちょっと心配になったんだぞ。お前いないから」

「いやあごめんごめん。ちょっといろいろ手間取っちゃってねえ。まああれ? 万全のための致し方ない遅れね」

「何いいさ。景気良くすぐ戦えそうだしな」

「そうねえ。いやクラス代表替わってくれた子……相部屋になった子なんだけど、本当その娘様様。太感謝了」

 鈴音は目を閉じ手を合わせてその娘に感謝する。お互い会ってなかったのもあってか会話が弾む。

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」

 箒がかなり刺のある言葉で聞いてくる。他のクラスメイトも興味津々だ。一方セシリアは、上品にハンバーグを食べていた。

「……」

 いや、もう何も言うまい。

「凰鈴音。幼馴染で、同じ師、といってもこいつの爺さんなんだが、そこで武術を教えてもらった姉弟子だよ」

「幼馴染……?」

 箒が怪訝そうに聞き返す。

「ああ、ちょっとややこしい話になるんだが、入れ替わりなんだよ。お前が転校したのが確か小四の終わりだったらだろ? で鈴が来たのは小五の頭」

「ん? じゃあこの娘が篠ノ之箒?」

 鈴が箒を見て確認するように言う。

「ああ」

「へえ。この娘が」

 鈴は興味深げに箒を見る。箒は鋭く視線を返した。鈴がそれを見て微笑み手を差し出す。

「よろしく、箒ちゃん。話は聞いてるよ。実はちょっと会いたかったんだよね」

「会いたかった?」

 箒は尋ねる。ちゃん付けに関してなにも言わなかったのは、千冬姉をちゃん付けしてる時点で撤回は無駄だと悟ったのだろうか。

「うん……まあ、ね?」

 鈴が意味深な目で視線を送る。箒は表情を崩さないまま鈴の手を握る。

「こちらこそよろしく」

 挨拶しながらその目線で箒と鈴音は火花を散らす。

 

「あ、それとさ。その隣でガッツリお肉食べてる女の子は誰? 仲良さそうだけど」

 鈴の目線は一転、セシリアの方へと向く。他の誰もが鈴に興味を向ける中でセシリアは一人優雅な昼食を楽しんでいた。セシリアはその言葉に気づくと、まずグラスに水を注ぎ、一口呑む。そしてグラスをコトリと置いて、先程までミックスグリル定食にガッツいていた少女と思えぬお淑やかな表情を鈴に向ける。若干垂れ目だがその高貴な目に思わず鈴音は息を呑む。

「紹介遅れましたわ。私、イギリスの代表候補生。セシリア・オルコットですわ。以後お見知りおきを」

「あ……どうも。セシリアちゃん」

 ギャップにちょっと気圧される鈴音。まあ無理も無いか。このセシリア・オルコット。高貴なのはいいがどうも世間体一般とズレてるところがある。その両面で彼女の魅力たらしめている。

 

「そうだ一夏。放課後さ。久しぶりに一緒に特訓しようよ。私が素手を見たげるから、IS教えてほしいんだけど」

「教えてほしいってお前本当に代表候補生かよ……まあ、特訓なら一緒に……」

「放課後は私が一夏と特訓する事になっている。敵の施しは不要だ」

 そういえばそうであった。地味に二人で特訓するという事が確定になってる辺りが彼女らしい。

「私も一夏さんの指導者として特訓は必要だと考えています。専用機持ちとしても、クラスメイトとしても私の方がやりやすいでしょうし」

 セシリアもそれの乗っかかる。確かにそうかもしれないが、彼女はいつのまに指導者の地位になったのだろうか。

「ふうん。じゃあ私もそれに更に乗っかるわ。放課後よね。そっち行くから待っといてね。じゃあね、一夏!」

 鈴音は言うとラーメンのスープを飲み干して出て行ってしまう。二人で特訓する事を前提としていた箒。当然のように指導者側になってるセシリア。じゃあ全部まとめてとりあえず一緒にやろうという鈴音。随分と各々の性格が見える言葉だった。

「……」

 その鈴を、箒はジっと見つめて拳を握るのに、一夏は気づく事がなかった。

 

 

「あれ? セシリアだけか?」

 放課後、第三アリーナで練習をしようとしていた一夏は不思議そうに言う。そこにいたのは、ブルー・ティアーズを装着し、ハイパーセンサーを使って例のライフル銃を弄っているセシリアの姿だけだった。

「ええ、箒さんも鈴さん? も来てませんわよ」

「てっきり三人で待っているものかと」

「そういえば、箒さんを教室を出てから見てませんね。てっきり訓練機を貸りに向かったのかと思ってましたが」

「俺もそう思ってた。それに鈴もいないってのもおかしい話だ。あいつ、いろんな意味で足が速いんだが……あ」

「どうされました?」

「そういやあ、特訓するとは言ったが、どこで特訓するかなんて鈴には一言も言ってねえや」

「そういえば、ということは、第一か第二アリーナの方に間違って?」

「その可能性は大いにあるな。俺たちの校舎から一番近いのはそりゃここだが、あいつはそこらへんまだ分かってない」

「だとすれば面倒ですね。携帯端末で連絡しようにも着替えちゃいましたし」

「……しょうがない。箒がいないのも気になるし、俺たちで探そう。着替え直しは面倒だが、あの二人で鉢合うと何か嫌な予感がする」

「確かにそんな気、しますわね。急ぎましょうか」 

 二人は意見を一致させると、ピットへと戻っていった。

 

 

 そして、ほぼ同時刻。二人の想像通り、どこで特訓するかのを聞き忘れたのでとりあえずウェアに着替えず第一アリーナまで来た鈴を待っていたのは、箒だった。彼女もまた制服のままで、その肩には細い布袋がかかっているのが見える。

「あれ、箒ちゃん? わざわざ出迎え? 一夏は?」

「……特訓なら、第三アリーナだ」

「マジで? やっぱちゃんと場所を聞いときゃ良かったなあ。ってあれ? じゃあなんで箒ちゃんここにいるの?」

「……お前がここに来ると思ったからだ」

「そりゃご明察」

 鈴音が箒を見る。実はもうこの時点で鈴音は箒の意図が半分以上読めていた。箒は肩の布袋を手に持つと、スルリと中のものを抜き取る。それは彼女がいつも使っている木刀だった。彼女は布袋を後ろに放り捨てる。同時に、鈴音もカバンを後ろへと投げ捨てた。二人がその目を交錯する。箒は木刀を構えぬまま、鈴音に堂々言い放ち、鈴は答える。

 

 

       「立ち会いが所望」「願っても無いこと」

 




つなぎ回。どうもメインの話と話の繋ぎが不得手なところが見えてしまい力不足を通関します。
次回より箒VS鈴戦が三話に渡って展開……とはなりませんのであしからず

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