インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

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十五話「剛脚柔剣」

「一夏さん。これは確認として聞いておきたいんですが」

「何だ?」

 一夏とセシリアの二人は制服に着替えなおして第一アリーナへと向かっている。セシリアはゆったりとした歩調で一夏がそれに合わせているが、内心一夏は焦れていた。

「あのお二方……今決闘をなされてると考えてよろしいんでしょうか」

「!」

 だが、セシリアの核心。一夏の最も心配している事を突かれて彼は立ち止まる。

「何故……」

「今朝の出来事を見れば、まず鈴さんの方の大体の調子はわかります。それに箒さんも私は実際見てないのですが、古武術に長けているのですよね? そして昼食の時ですが、あの二人露骨に火花を散らしておりました。どういう意味でかは私にも推察が二つあって断言は出来てませんが、あの二人はほぼ確実に今戦っているとみるべきでしょう。それもISではなく、生身で」

 ただ昼飯を楽しんでいるだけかと思いきや、しっかり観察していたのか。淡々と言うセシリアに一夏は黙るが、軽く頷く。

「まずそうだろうな。鈴の奴も箒に喧嘩をけしかけていたし、二人揃って強者との戦いは拒まないタイプだ。分かってはいたんだが、まさか昼の今でいきなりやり始めるとは俺の予想外だ。まあ、勘違いである可能性もあるし、そうであってほしいんけどな」

 

「あの二人の実力差は?」

「純粋な実力ならば圧倒的に鈴だ。というより、あいつは『強すぎる』一対一のあいつが負ける姿が正直想像できん。俺でも鈴に決闘で勝ったのは一度も無い。あいつは生身でISを潰せると本気思ってるような人間だからな。実際シールドエネルギーを破れるであろう技をいくつか習得してる。俺がお前に使った掌打とかな」

「では」

「だが、箒とは相性が悪い」

 一夏は早歩きで歩き出す。セシリアもそれに黙って歩調を合わせた。

「鈴はそれこそ、前に鋼の壁があればそれを蹴りで粉砕するような『剛』の戦い方だ。対して箒は徹底的に『柔』に特化している。あいつの家の、篠ノ之流自体がそうなんだが、箒は更に発展させて柔軟なスタイルになっている。例え鋼を砕く一撃も、水や砂を捉える事は出来ない。そういう意味で相性は鈴が不利だ。実際、かなりいい勝負をするだろう。だがそれが問題だ。あの二人の実力ならエスカレートして片方病院送りになりかねん」

「二人共お綺麗ですのに、どうも血の気が多いですね」

 美人なのに一癖も二癖もあるお前には二人も言われたくないだろうが。と一夏は思うが、彼女の言うとおりである。

「全くだ。そう悪い性格でもないんだし、人並みに淑やかさがあれば文句ない可愛さなのにな。もったいない幼馴染共だ。だから彼氏いないんだよ」

 呆れてものも言えないなと首を振る一夏に、セシリアはクスリと笑って呟く。

 

「でも、そんなお二人だから好きなんでしょ?」

 

 一夏は焦るように振り向き、形容しがたい表情をセシリアに見せる。セシリアはわざらしく顔に疑問符をつける。

「あら、独り言が聞こえてしまいましたか?」

「……今の。聞こえなかったという事にしていいですかねセシリアさん?」

「では特別に。今回は私の戯言という事で。この胸の内に」

 セシリアはその右手を心臓に当てる。怖い。この娘怖い。箒や鈴音とは別の意味で、一夏は彼女の底知れない実力を知ってしまうのだった。 

 

 

 鈴音の放った蹴りの一撃。それは掠るだけでも裂傷を付けそうなほどの勢いと切れ味を持つ事を直感で悟る。箒はそれを木刀で受け、しかしそのままでは木刀毎へし折って来るのを予知し、そのまま手を離し受け流す。回転する木刀。そして箒は彼女の蹴りきった脚に手を添える。勢いに力を貸すのだ。それによって鈴音のバランスは崩れる。

「シッ!」

 しかし鈴音は力を加えられバランスを崩した状態から、後方宙返り。一旦箒との距離を取る。箒が空中の木刀を手に取り彼女に振り下ろしたのはその一寸後だった。

 

 強い。鈴音は表情にも口にも出さず思う。まるで柳か何かを相手にしてるかのようだ。攻撃しても手応えがまるでない。なのに、彼女の攻撃には鈴音に回避を選択させるだけの威力がある。箒は手足全てを使って、木刀という武器を自由自在に操る。そして木刀は彼女の手足のように攻めと受けを行う。まるで彼女の五本目の手足。

 鈴音の蹴りの一撃が一つでもクリーンヒットすれば、箒は負ける。というより、重傷を負うだろう。いくら決闘とはいえ、それはさすがに彼女に悪いし、何より学園にいれなくなってしまうので最初から除外していた。故に木刀を叩き折る事を主眼に彼女は戦っていた。それがこうだ。むしろ自分は翻弄されるばかりである。

 

 もう一つ恐ろしいのは、彼女は鈴音が常軌を逸した実力を持つ者である事。避ける事を前提にして攻撃してる事だ。あの木刀の一撃をくらえば、痛いで済まない。しかも攻撃箇所が先程から頭、首筋、鳩尾。急所ばかりだ。受けから転じた斬りと、ここぞと放つ突き。そして剣術と同等の実力を持っていると思わしき柔術。

「さすがは、一夏の幼馴染」

 鈴音は声に出して言う。箒もそれを聞いて、フっと一息つく。

「それはお前もだろう。一夏の幼馴染として不足無し」

 

 箒が木刀を構える。小気味よい子だ。彼女が一夏の最初の幼馴染。一夏の最初のライバル。一夏の最初の……否、甘い考えはこの場では捨てよ。嫉妬、羨望、今は斬り捨てよ。鈴音は自らに命じ、脚で地面を叩きテンポを取る。

 

 これで決める。そう考えていた二人の考えを中断させたのは、一発の銃声だった。重く、鋭い火薬が炸裂する音。突然の音に二人がハっと音の鳴る方を見ると、そこにいたのは一夏と、ライフル銃を高く掲げるセシリアだった。その銃口から煙が見える。

「そこまでだ二人共。後、まるで幼馴染っていうのを強者の称号みたいな怖い言い方するのやめろ」

 一夏が二人を見る。時間切れ。というべきか。箒は木刀を、鈴音は脚を降ろす。一夏はそれを確認してから、隣のセシリアに怒鳴る。

 

「いきなり撃つなよ! めちゃくちゃビビったわ!」

「空砲ですわ。弾は込めてません」

 セシリアは銃をクルリと手元で回転させると布袋に入れる。

「そういう問題じゃねえ! 日本だぞここ!」

「IS学園はどの国でもなく、どの法にも縛られないんですよ? 一夏さん。ちゃんと校則の本読みました?」

「それは決闘や発砲を容認するための措置じゃない!」

「まあまあ、そう怒らない」

 セシリアがよしよしと一夏をなだめる。一夏はセシリアにこれをされると反論できなくなる。もう何言っても看破されそうな気持ちになるのだ。

 

『……』

 鈴と箒はそれをジト目で見る。一夏はその視線に気づくとコホンと咳払いした。

「とにかく、いきなり決闘を始めるな……心配するこっちの身にもなれ」

 一夏は心底からの本音で言う。それは実際、二人としても言われると後ろめたさがあった。二人の実力が拮抗したからいいものの、一つ間違えば大惨事は間違い無かったのだ。

「ま、どちらにせよ今日の特訓は中止ですわね」

「そうだな……なんか疲れた」

 一夏は首を振る。当然これは箒と鈴音の事と同じくらい、セシリアの事についてもなのだが、彼女はそれを知ってか知らずか微笑んだままだ。

「では私は先に部屋に帰りますので、御三人方。また明日」

 そう言ってセシリアはスタスタと帰ってく……やっぱり知っててやってるんだろうか。

 

「い、一夏」「あー、一夏?」

 そこにオズオズと、箒と鈴音がやってくる。申し訳なさそうな顔をしてるが、それなら何故決闘をしたのだろうか……強者の性と言われたらそれまでだし、一夏も納得できてしまうのがちょっと悲しい。

「別にそんな顔しなくてもいいぜ。ただ、お前ら二人が些細な事で喧嘩して病院送りはさすがに俺も見たくないんだよ。それだけだ」

「すまない……」「ごめん」

「あ、謝るなよ……」

 いつも強気な二人にこうもシュンとされると、なんというか、モニョる。どうやってか二人の調子を普段に戻す方法はないものか。

 

「とりあえず二人共、別に怒ってるとかそういうのじゃないからさ。な?」

「うん……あ、そうだ一夏。せっかくだしさ。晩御飯の後、寝る前に一夏の部屋見せてよ。遊びに行く」

「ん。ああ、いいぜ」

 鈴が己の気持ちを切り替えようとして言った言葉だ。肯定してやろうと思って頭を縦に振ってから、一夏はミスに気づいた。当然、鈴音の隣で箒が、げ、という顔をする。鈴音は二人の顔を見比べて不思議そうな顔をする。

「ん? あれ? 私、そこまで駄目な事言った?」

 




乱れる恋模様は次回も続きます。
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