インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

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十六話「三角関係」

「な、なな……」

 先程から場所は変わって一年寮。夕食を食べて一夏と箒は部屋に戻り……鈴はそれについてきていた。いたのだが。

「ど、同居人ですってー!?」

 鈴音の驚き最もだ。普通、学生が男女で相部屋だとは思わないだろう。いや、確かアメリカの大学ではそういうのもあるという話を聞いた事がある。腐っても自由の国は違うな。

「えっ。なに。っていうか、ここで二人で生活してんの?」

「まあ、そうなる。一応、一時的な措置なんだけどな。個室が用意されるまでの。俺としても見ず知らずの相手よりは勝手知ったる仲の方が……」

「だったら……」

 鈴音がうつむいて何かを決心するような顔をする。ああ、やはり回避は無理か。IS操縦には若干の自信がある一夏もこの逃げ場の無い状態では無理だ。

「だったら、私が同居人でもいいわよね! 箒ちゃん! 私と部屋代わって!」

「な! ふ、ふざけるな! 何故私がそんなことをしなければならん!」

 当然箒もこの調子だ。二人共退く気はなさそうな感じだ。さらに言えば、今回は一夏の手で止めるに難い。

 

「いや、箒ちゃんって男女七歳にして同衾せず。とかそういう事言いそうなタイプじゃん? それなら私が代わった方がいろいろいいと思ってさ。私そういうの気にしない方だし。いや、大丈夫。私の部屋の同居人の子、超いい子だから仲良く出来ると思うよ」

「そういう問題じゃない! これは私と一夏の問題だ! 部外者は関係無い!」

「……ふ~ん」 

 鈴音は興味と、少しだけの嫉妬を乗せた目を一夏に向ける。

「愛されてるわねえ、あんた」

 皮肉いっぱいの言葉だったが、箒はそれを額面通りに受け取ったのか顔を真赤にする。

「そ、そういうのではない! とにかく、部屋を出て行くのはそっちだ! 自分の部屋に戻れ!」

 

「じゃあ、当の一夏に聞くわ。どっちがいい?」

「えっ!?」

 まさかこの状況で話を振られるとは思わなかった一夏は面食らう。鈴音の表情は真剣だ。そして箒もその言葉に一夏を睨む。

「実際、あんたのための特別措置なんでしょ? あんたの判断で決めれるんじゃないの?」

「いや、それは実際無理だろっていうか……鈴、ここはお前が退いてくれないか? 代われって言って代われるもんじゃねえよ。部屋割りは」

 一夏は迷った末、鈴の方を説得する事にした。困難ではあるが、やはりいきなり部屋を代われというのは無茶というものだ。しかし鈴音は納得できないのか、一夏を訝しげな目で見る。

「……」

「な、なんだよ」

「いえ……いいわ。ここは私が出てくわ。いきなりで悪かったわね」

 

 絶対に悪いとは思ってないだろうが、これ以上押しても無理だと悟ったのか鈴音は頭を下げる。その素直さが逆に不気味だが、鈴音は小さく呟く。

「でも、約束は忘れないでよね……」

 約束。その言葉に一夏はズキリと心を痛ませる。彼女とは二つの約束をした。その内これは、重い方だ。

 

 重い、想いだ。

 

「俺は……」

「いいのよ。でも私、諦めるつもりないから」

 鈴は言うと部屋を出る。そして一度だけ振り返って一夏に叫ぶ。

「クラス対抗戦! 負けないわよ! ていうか絶対勝つ!」

 それは彼女なりの景気付けか、落ち込んではないという強がりか。どちらにせよその転換の速さが鈴音の強さである。一夏もそれには答える。

「ああ、もちろんよ」

「私が勝ったら、一つ何でも言うこと聞いてもらうわよ!」

「おう……って、え?」

 なんだか、また勢いに乗せられて肯定してはいけないことを肯定してしまった気がする。

「ま、あんたが勝ったら勝ったでご褒美あげるから、頑張りなさい!」

 鈴音はそれだけ言って、自分の部屋に戻っていった。地味に、負けても彼女がなんでも言うこと聞く訳ではない辺り不利な条件をつけられた気がする。

 

「どうしよっかな。全く」

 鈴は普段こそお気楽な感じで、時には弱音もほどほどに吐く娘なのだが、いざ戦闘となれば阿修羅すら凌駕する戦闘力と精神を発揮する。それに何かが懸かれば尚更だ。彼女は追い詰められるほど燃える性質なのだ。

「まあ素手ならともかく、ISなら勝ち目もあるか。頑張ろう」

 一夏は一人気合を入れて振り返ると、箒と目があった。

 

 彼女は、何だか機嫌が悪そうに見えた。

「あ、あー。箒さん?」

「……私はもう寝る」

「あっはい。おやすみなさい」

 やはり安請け合いにああいうのを聞いてしまうのは箒にとってはあまり気のいいものではなかっただろうか。まあ、箒にまで似たような条件を課せられなかっただけマシと考えるべきなのかもしれない。

「はあ……」

 とりあえず、今日は自分も寝よう。まだ九時だが、想像以上に今日は疲れてしまった。一夏は首を二三度傾げてから、ベッドへと潜り込んだ。

 

 

「それで、箒さんとも鈴音さんとも顔を合わせづらくて私の所にと」

「まあ、そんな感じだ」

 翌日、昼休み。一夏はセシリアと共に屋上で食事をしていた。一夏はコロッケパンとカレーパン。セシリアは今日は珍しくチョコ系の菓子パンを食べていた。飲み物は互いに抹茶オレである。

 どうにも昨日の今日で箒と鈴音と一緒に昼食を取るのは気が引けていた。実際箒はまだ不機嫌だし、鈴音は一組に近寄りもしない。一夏が悪いのだから自業自得と言ってしまえばそれまでなのだが、一夏もそこは十五歳の男子高校生。いろいろと、ナイーブなところだってある。

「頼っていただけるのは嬉しいことですわ。ですが、私からアドバイスできるような事はありませんよ?」

「何か助言が欲しいわけじゃない。ただ、事情を詳しく言わずとも察してくれたらそれでいい」

 その点においてセシリアは優秀を通り越して畏怖の領域だ。今日も一夏が昼休みにそれとなくセシリアの方を見たら、彼女の方から昼食に誘ってくれた。たまにその察し方が怖いと思う事もあるが、今回は有難かった。

 

「私実は、恋というのはしたことが無いのですが……貴方達を見てるととても楽しそうに見えますね」

 悪戯っぽく微笑むセシリアに一夏はよしてくれと首を振る。

「言っとくが、泥沼だぞ?」

「貴方がパっと決めてしまえばそれで解決とはいかないのですか?」

「それで済むなら苦労はしない。それに場所も考えろ。万が一付き合って、丸く収まったとしよう。それが学園にバレたらどうする?」

「いやあ、楽しいお祭になると思いますよ?」

「シャレになんねーよ!」

 これ以上ないくらい楽しそうな顔でセシリアが言うので一夏は全力で否定する。

 

「それで、昨日も言ってましたしのでそれとなく明言はしませんでしたが……一夏さんは好きなんですよね? お二人のこと」

「ぐっ」

 そしていきなり核心を突いてくる。そう、一夏は……

「笑えよ。どっちかも選べずに優柔不断なこのヘタレを」

 一夏は自虐的に毒づく。幼馴染二人を好きになり、そのどちらかを選ぶことも出来ず、かといって両方を切り捨てる事もできないなんて、男の風上にも置けない。だがセシリアは笑う。

「私も昼食をカツサンドにするか焼肉サンドにするか迷う時くらいありますわ。そして今日のようにチョコパンを食べる時だってあります」

「おい待てそこまで軽く見られてもいやだぞ。てかそれは何の比喩だ」

「別に私がチョコパンだとは言ってませんよ」

「聞きたくも無かったよ!」

 というかお前はチョコパンみたいな甘い性格してない! パンで例えるなら肉増々サンドだ! それもすごく濃い味付けの!

「安心してください。私貴方の事は好きですけど、恋愛感情とかじゃないですので」

 地味にすごい告白をされた。

「そう言われるのは嬉しいけど……どういう感情なのかがちょっと怖い」

「ふふ、今は秘密にしておきます」

 セシリアは人差し指を口に当てて微笑む。一々仕草が艶っぽくてドキドキしてしまう。誘われてるというよりはからかわれてる感じだ。

 

「どちらにせよ、私から言えるのは、まずは月末のクラス対抗戦で鈴さんに勝つ事でしょうね。鈴さんは勝敗でスッパリ禍根を洗ってくれそうなタイプですし。箒さんも勝てば一夏さんを悪くは思わないでしょう」

「そうだな……」

 それが今一夏に出来る最善の事なのだろう。抹茶オレを一気飲みして、一夏は黙った。

 

 放課後、生徒玄関前廊下に張り出された広告があった。表題は『クラス対抗戦リーグ表』

 

 第一試合は、一組・織斑一夏と二組・凰鈴音の試合だった。

 




三話に渡って何をやってたかと言えば、このオリジナル設定の説明付となります。

「箒・鈴音は一夏に惚れている」は原作通りなんですが
「一夏も箒・鈴音の両方に惚れている」
「セシリアは別に一夏に恋愛感情はない(好きではある)」という二点が加わります。

なにも全員が全員惚れてる事がハーレムとは限らない訳で、この作品ではそれぞれのヒロインが一夏に抱く好意の形が違う。という設定になっています。
 

次回よりクラス対抗戦です。激戦執筆にご期待ください

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