インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

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十七話「決戦! クラス対抗戦」

 クラス対抗戦、試合当日。第二アリーナ第一試合。組み合わせは一夏と鈴音。男性IS操縦者というだけでなく、イギリスの代表候補生を負かして代表となった期待のホープである一夏と、入学を遅らせてギリギリまで調整を行った中国の若きエース(どうやら、一夏の想像以上に鈴音は優秀らしい)鈴音の試合というだけあり、アリーナは全席満員。それどころか通路まで見ている生徒で埋め尽くされている。更にまだいるという観戦者は、リアルタイムモニターで観戦するらしい。

「結局、鈴のISは本番まで見ず仕舞いだったな」

 銀鋼の展開を確認して、一夏はハイパーセンサーのバイザーを下ろす。その後、特訓に鈴音は現れず箒、セシリアと共に実戦での特訓を積んだ一夏であるが、彼のバイザーには収集した鈴音の情報が出ている。

 

 戦闘待機状態のIS一機を確認中。操縦登録者名凰鈴音。搭乗ISの種別・カスタム機。ISネーム「甲龍」。正式登録機体である事をデータベースより問い合わせて確認済み。戦闘タイプ・近接格闘型。特殊兵装は不明。されど装甲を排し、小型化に成功した特殊兵装を搭載することで機動性と攻撃力を有してる模様。

 

 この情報はいつも一夏が事前に調べあげている。そしてその情報から考えられる最も有効な武装をIS技研に打診し、追加武装として送ってもらうのだ。技研は実際国内でIS学園ともそう離れてはいないので、すぐに届けられる。この追加武装の柔軟性が銀鋼の長所の一つとも言える。初期装備の多さから、後付武装のための拡張領域が銀鋼には一つしかない。だが、その一つにIS技研が開発した特化仕様兵装を相手に合わせて搭載することで、より有利な戦況で戦う事が出来るのだ。もちろん、今回も一つ搭載した。推測の範囲ではあるが、鈴音の戦闘スタイルを考えれば必ず力となるはずだ。

 一夏はあらかじめコンテナから武器をコール。上部コンテナ二つを八連装ミサイルポッド。下部コンテナ二つから六連二十ミリガトリングキャノンを展開し、ピットゲートから出撃する。

 

 視線の先には鈴音とそのIS、甲龍(シェンロンと読むらしい。願いとか叶えてくれたり、腕が伸びたりしそうだ)が待っている。一夏はその見た目にまず驚いた。おそらくフレームは中国製量産機。二色の紫でリカラーされているのだが、スラスター、特殊武装の類である非固定浮遊ユニットが一切無い。腕は一夏の銀鋼と同じくガントレットタイプで格闘打撃を邪魔しない。転じて脚部装甲は鋭く、かつ大型だ。まるで爪先立ちをしているかのような脚部装甲が、地面から既に少し浮いている。腰には超大型の青龍刀が折りたたまれて懸架されている。柄の両方に刃がついたそれは大型のブーメランのようにも見えた。

 鈴音は拳の腕もそれなりだが、所詮一夏にも劣る程度である。故の武装であろう。彼女はあまり武器を使わない主義であったが、だからといってISに乗る以上、武装の扱いも鍛錬したのだろう。

 最大の注意点は脚だ。的が第二世代量産機。そして上空に位置していないという限定条件がつくが、彼女は素足の一撃で絶対防御発動領域の斬脚を振るえる。その一撃はもはや兵器の類だ。もしも中国開発局にその気があるなら、彼女の脚部装甲にはその威力と有用性を更に高める何かが搭載されているはず。非固定浮遊ユニットが無い事からも、脚部に甲龍の技術が詰まっているのは目に見えた。

 

「それでは、両者規定の位置まで移動してください」

 促されて両者前へ。距離は二十メートルと言ったところか。ハイパーセンサーの通常回線で一夏と鈴音は言葉を交わす。

「……一夏。本当に容赦ないよね」

 鈴音の声はちょっと震えていた。一夏のミサイルポッドとガトリングキャノンを見ての事だろう。そう、鈴音には分かり易すぎて逆に怖い弱点がある。彼女は遠距離から弾幕で押し切られると、弱い。当たり前だが、深刻な弱点だ。

「手加減して欲しかったのか?」

「いやー、そういう訳じゃないけど。さすがにその重装っぷり見ちゃうとね。ほら、私のISは私に似て華奢で可憐だからさ」

 鈴はぴょんと飛び跳ねた。確かに、背にも腰にも非固定浮遊ユニットのない鈴音のISはある意味量産機よりも貧弱に見える。

「寝言は寝ていえ。こんな距離なんてお前にとっちゃ無いも同然だろ」

 実際、試合開始直後にもしも彼女がゼロ距離を詰めて一夏を蹴れば、それだけで決着がつきかねない。そういう所は、前回のセシリア戦に似ていた。今回は立場が逆だが。

「どっちせよ。悔いのない戦いにしたいね。久しぶりの決闘で、約束した初めてのIS戦なんだからさ」

「ああ。そうだな。全力でいくぜ」

 

『試合開始!』

 

 鳴り響くブザー。同時に一夏はガトリングガンの倫理トリガーを引いて弾幕を張りながら、上昇しながらのバックブーストをかける。鈴音の攻撃は超速だが直線。そしてこのガトリングガンの弾幕は、無視して突っ切るには余りにダメージが大きすぎる。

 対して鈴音は真上へと加速。弾幕を飛び避ける。最大の接近チャンスである初動を回避に使った。その時点でもう、彼女に次の接近の機会は与えない! 一夏は距離を取りつづけながらミサイルポッド一六発を射出し、鈴音の方へとガトリングキャノンの弾幕を向ける。鈴音は一夏へと接近加速。自殺行為だ。射撃で削り切る。

「!」

 

 しかし、鈴音の加速スピードは一夏の想像レベルを遥かに超えていた。ミサイルを抜け、ガトリングキャノンを向けようとするわずか数瞬。時間としては零コンマニ秒で彼女は約百メートルの距離を詰める。短距離とはいえ、否、短距離だからこそこの加速スピードは通常のものではない。一夏が素早く対応しようとする所を、彼女の蹴りが襲う。スラスターを利用した加速回転蹴り。その瞬間に一夏は、彼女の脚部に鋭いブレードが輝くのを見る。下部コンテナ武装指向性強制排出。

 一夏は勝つために、否。負けないために彼女の攻撃に対して臆面もなく武装を犠牲にする。両手に持っていたガトリングキャノン二丁を前方へと飛ばして後退。鈴音の蹴りの一撃は、そのガトリングガン二丁をまるで木でも斬るように両断した。一瞬でも反応が遅れれば、今頃一夏のシールドエネルギーは消し飛んでいただろう。予想外だったのはあの加速。一夏はその正体を知っている。

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)ISの格闘特化技術の一つだ。まずスラスターからあらかじめ、膨大な量。それこそ内部で貯めこむには不可能な量のエネルギーを放出する。そのエネルギーを空間圧縮によって極限まで圧縮。そして圧縮されたエネルギーをスラスターに取り込み、その内部でエネルギーを爆発させる事で常識を超えた加速を行う技。非常に強力な技ではあるが、難点も多い。まずはエネルギーの高速かつ強力な圧縮技術。これがなければ発動に時間がかかり、加速の意味が薄れてしまう。そしてもう一つは圧縮エネルギーの爆発にスラスターが耐えられるかどうかであり、堅牢かつ専用のスラスター機構を必要とする点だ。なので瞬時加速は通常ISでも使えるが、使いドコロが難しく、使えても一回が限度という難儀な技なのだ。

 だが、おそらく甲龍は恒常的な瞬時加速の使用を可能とした構造をしていると考えていい。先ほどのタメの無い高速発動からして、彼女に搭載された第三世代兵装は、空間圧縮兵器の類であろう、本来はそれを衝撃波として飛ばす見えない砲弾。いわゆる「衝撃砲」として使うための技術なのであるが、彼女のISはそれを瞬時加速の高速圧縮、衝撃ブーストに使用しているのだ。そしてスラスターの堅牢性は、見るまでもない。彼女の脚技の威力を殺すどころかむしろ飛躍的に上げているあの脚部装甲は、それ専用の構造がなされてると考えられ、結果的に瞬時加速の爆発にも容易に耐えれるようになっているのだ。

 

 瞬時加速を利用して目標に音速で接敵。そのまま彼女自身の持ち味を活かした蹴りで一撃必殺。再び次目標への加速を繰り返すヒットアンドアウェイ機体。それが鈴音のIS。「甲龍」のコンセプトとおもわしかった。非固定浮遊ユニットがないのは、おそらくエネルギーを脚部に集中させる意味合いと、エネルギーシールドの範囲を狭め、より凝縮して使用する事にあるのだろう。

 

 音速を超える加速を叩きだす瞬時加速を使うのであれば、このアリーナのような限られた戦場ではどこであろうとも彼女の射程範囲だ。IS用に開発された小型ミサイルでは初速が足りず彼女を追い切れない。更に言えば肉弾戦等論外だ。彼女が極限まで近接型に尖ってる以上、汎用型の銀鋼では秒殺がオチだ。そもそも銀鋼の格闘能力は、一夏自身の技量に頼っている。技量そのものが上回ってる鈴音にどうこうというレベルではない。

 

 一考の末一夏が下部コンテナより新たな武装をコールしたのと、鈴音の再加速による接近は、同時であった。




最初の見せ場。クラス代表戦突入です。主に違うのは甲龍の武装。というより彼女のはほとんど別物になってます。瞬時加速を利用した一撃必殺機体という原作の百式に近い機体です。

またこれに伴い瞬時加速の設定もいろいろ弄ってます。原作の矛盾を直すってわけではないのですが、どうも瞬時加速の原理が難しかった感があるので分かりやすい感じに変更しています

次回は原作定番イベントです

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