インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE 作:如月十嵐
「さてと」
ブルーティアーズを展開し、くすぶった煙をあげるレーザーライフルをセシリアはクローズする。目の前には苦労して開けた隔壁の穴が空いてる開いてる。直径二十センチ弱の穴。だが、セシリアにはそれで十分だ。
「秘密にしておきたかったのですが、そうも言ってられませんわ」
セシリアは古式ライフルを構えると、その穴にライフルの先端を突っ込み、三発発砲する。
「あの子達を助けてあげて。私の子供達」
セシリアの言葉と共に、三つの光がアリーナへと向かう。
その向かう先には、白の機士が立っていた。
限定形態移行した銀鋼。正式名称「特化試作第四世代IS白式」はその名の通り汚れ一つ無い白いISだ。それらは全て銀鋼のパーツが展開される事により化現した装甲により構成される。束曰く、「展開装甲」と呼ばれる試作技術との事だ。それによって一夏のガントレット装甲、脚部装甲、アーマー部分は純白となり、装甲の溝に鋼部分がラインのように走っている。背部は、アーム接続されたコンテナブースター戦の棺がそれぞれ四つの浮遊式スラスターユニットの形をなしまるで翼のようになっていた。
そして、最も特徴的なのは頭部であった。黒のバイザー型ハイパーセンサーは折りたたまれ、まるで一角獣の角にも似た白のブレードアンテナが一夏の頭に雄々しく伸びている。ブレードアンテナには小さく束自らが独自の造語で刻んだ『双眸見開き、世界を見よ』の言葉がある。一夏自身の信念であると同時に、束の、ひいてはIS同盟そのものの行動理念。
『やっちゃいなさい』
一夏はハイパーバイザーを確認し個人通信に視線で返すと、武装欄を呼び出す。この白式の武装は唯一つ。一夏は迷わずそれをコール。呼び出されたそれを、一夏は右手で握る。
近接特化ブレード「雪片参式」それはかつて、「オールドワン・オールワン」織斑千冬が振るった専用特化装備「雪片」の後を継ぐ装備である事が魂で感じれた。刀身五尺のそれを両手に構えると、一夏は異形を見据える。異形は動かなかった。まるで、一夏を興味深く観察するように。その距離は五十メートル。
一夏は迷わず突進する。この白式に許された時間は五分しかないのだ。短期決戦より他はない。その思いに応えるように雪片参式の刃が鋭く光る。ウィンドウに映るのは
バリアー無効化攻撃。一夏の斬撃は異形のエネルギーシールドを無効と化し、そのまま装甲部への直撃を与える。絶対防御は発動せず。この機体、やはり無人か。一夏は心中思いながら、後ろに引く。直後に異形の反撃の巨碗が掠る。遅いが、鈍いわけじゃない。それより重大なのは、シールドエネルギーを無効化して放った斬撃が牽制とはいえ、異形の装甲にせいぜいかすり傷程度にしかならなかった事だ。
『束ちゃんからの戦術アドバイス~。アレは徹底的に防御と持続力に特化している自立稼働型。エネルギーシールド量自体は普通なんだけど、零になるたびに全回復している。回復量ほぼ無尽蔵と考えた方がいい。何故無尽蔵かって? 「魔法」とでも説明しておこうかな? 冗談抜きでね。で、あの装甲も凄まじい堅牢性だよ。面の攻撃じゃあ、ミサイルの一発や二発直撃を受けてもどうこうないレベル。言っとくけど今回のいっくんには撃退なんて求めてないよ。それじゃあ宣戦布告にならない。破壊して、できれば欠片の一つもお土産に欲しいんだから』
『承知』
異形が両手を構え衝撃波を放つ。一夏はそれを空中に飛び上がって回避する。状況判断のためシールドエネルギーを確認して、少し驚く。形態変化前まで三十だったはずのエネルギー残量は千を超えている。五分限定の代わりに得れる力が、これだとでも言うのか。この状態に関する理屈は、深く考えない方が得策だろう。あの異形を破壊するのに必要なのは、一点に集中した最大威力の攻撃。ならば攻撃箇所は一箇所。鈴音がつけてくれた亀裂のみだ。一夏が雪片参式に念ずると、その刀身が割れ、鋭いエネルギー刃が姿を現す。一夏はまずこれを限界まで引き絞った。出来る刃は日本刀より鋭く、もはやレイピア。極端に言えば針に近い。この一点を異形の亀裂に突き刺す。
だが異形の一夏への猛攻は止まない。最初に不意打ちでくらった一撃からも、この異形は一夏を確実に殺す気でいる。飛び込むチャンスは一度だけ。重要なのは速度と、踏み込みと、間合いと……
「気合だぁっ!」
叩きつけるような叫び声。様子見からもわかった。あの異形の目的は一夏の抹殺と同時に、その情報収集である事が。故に、例え無意味な音でも確実に奴は拾うと一夏は考えた。その隙は一瞬にも満たないだろう。攻撃は絶え間なく続くだろう。だとしても……威勢くらいにはなる!
百式、全力加速。一夏は撹乱する直線的多角起動で稲妻のように異形に突進する。衝撃波が乱れ飛び、その内の一、二発が白式に当たるが、一夏はそれを白式化する事で回復したシールドエネルギーと急所を外す事で致命を防ぐ。
そのまま一夏が斬突を行おうとした瞬間、異形の姿が消える。一夏は構わず雪片参式を突き入れるが、手応え無し……ステルスではなく……本当に消えた?
『いっくん。構えて、事実だけ受け入れて。今奴は……ここには存在しない』
束の言葉に冷静さを取り戻し、一夏は雪片参式を上に振り上げ弧を描く。長刀を以って見えざる敵に反応する際の構えだ。当然、敵に反応出来る事を前提としている。束の言葉が続く。
『奴は今、次元跳躍してる。簡単に言えば、別次元に逃げてるんだよ。理屈は考えないで。また魔法になるから。今理解しなきゃならないのは三つ。一つは、奴は今、この世にすらいないってこと。二つは、奴が消えてられる時間は短くも長くも出来ず、常に一定だということ。そして最後』
束の最後の言葉と、一夏が反応するのは同時だった。
『出てきたその瞬間に、少しの隙が出来るって事!』
「そこだあッ!」
一夏はその構えのまま、高速百八十度旋回。目の前には拳を振り掲げる異形。だが、一夏の方が数瞬速い! 一夏は異形の右腕を鋭く縦一文字に斬りつけ、切り落とす。そして、そのまま雪片参式を亀裂へと突き刺す。だが、まだ浅い。しかもこのまま突き入れ続ければ、異形の反撃をくらう。食らい続けながらの捨て身の攻撃も無くはないが、一夏はそれを選ばない。反撃の前に行動不能にさせる。
零落白夜出力全開。エネルギー変換率九十%オーバー。
もはやエネルギーの刃を通り越し、キャノンとも呼べるエネルギーの奔流が雪片参式から放出。異形の内側を徹底的に焼きつくす。一夏はそれを確認して、雪片参式から手を放し後退。異形は振り上げていた両腕を糸の切れた人形のように落とした。一夏達の勝ちである。
『状況終了~! いっくんおつかれちん。破片だけお願いね』
束はそう言って、個人通信を切る。一夏は安堵のため息をつく。
「……はぁああ」
勝てた。自分一人の勝利ではない。それでも、被害を最小限に抑える事が出来た。それだけで十分だった。
「一夏!」
鈴音が駆け寄ってくる。脚部装甲がもう崩壊寸前だというのに元気な事である。
「大丈夫なの?」
「まあな。機体に助けられたようなもんだ」
「それは……まあ、私も同じかな」
鈴音が少し気恥ずかしげに脚で地面を叩く。確かに捨て身だったと予測できるがあの装甲に亀裂を入れるのだから、とんでもない脚部だ。鈴音の実力を加味しても凄まじいモノがある。
「ま、俺たちはやりすぎたくらいだ。後の処理は先生たちに任せて撤退しよう……」
その前に、欠片の一つも適当に回収しておかなければ。一夏が考えたその時。ハイパーセンサーが高熱源反応を感じ取る。位置は……異形の残骸から!
「なっ……!」
「嘘でしょ……!?」
一夏と鈴音が驚愕の声を上げる。異形が再起動したのだ。胸部には雪片参式が深々と突き刺され、そこからエネルギーが漏れだすように緑色の光が漏れている。そこからは火花も盛大に舞っている。だが、奴はまだ動いているのだ。そして、残った左腕が今まさに一夏と鈴音の方に向けられている。衝撃波……否。砲塔が切り替えられて、そこからは粒子が舞う。荷電粒子砲だ! この距離、この状態……避けられない!
「くっ!」
一夏が行動するより早く、荷電粒子砲は発射される。果たして白式のシールドエネルギーはこの直撃を耐えれるか。一夏がそう考えたが……一夏に荷電粒子砲は直撃しなかった。
「え……?」
一夏と鈴音が守ったもの。それは三つの光輝く球状の何かだった……何を言ってるかは分からないが、それが事実だ。異形の荷電粒子砲を、三つの輝く球体が三角形にフォーメーションを組むとそこにエネルギーシールドが発生し、二人を守ったのだ。
「どういう……」
一夏は呆然とするが、その後ろを鈴音が走り異形へと向かう。
「一夏! 焔十字!」
彼女は二言だけ叫ぶ。だが、それは一夏の考えを切り替えさせ行動に移すには十分だった。このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。次攻撃へのチャージに移ろうとする異形に、鈴音と一夏は最後の突貫を仕掛ける。
「ラァッ!」
鈴音の左斬脚が、異形に突き入れられた雪片参式を蹴り突く!
「シャッ!」
一夏の右拳が、異形に突き入れられた雪片参式を殴り突く!
「ハヤッ!
鈴音のサマーソルトキックが、異形に突き入れられた雪片参式を蹴り上げ、後転!
「ハッ!」
一夏の重連掌打が、異形に突き入れられた雪片参式を殴り抜き、跳躍!
「ァアアアッ!」
そこに鈴音が左足のみの瞬時加速! そのまま異形に突き入れられた雪片参式を蹴り抜く! その度重なる異常な負荷に、雪片参式は真っ二つにへし折れながら、異形を貫通! 鈴音は後退し、一夏と並び立ち掌に拳を合わせる。
『焔十字ッ!』
二人の叫びと共に、異形は爆発四散! 南無阿弥陀仏!
「今度こそ……終わりだ」
白式の展開を終了。破損した銀鋼に戻っていきながら、一夏は爆散した時に飛び散った異形の破片をソっとコンテナに紛れ込ませ、呟く。
「そう……ね」
鈴音が応える。しかし、それが正真正銘の限界であり、二人はその場に倒れ伏すのであった。
一巻分作成終了につき、更新再開。VS乱入者戦終了です。