インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

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二十一話「貴方の隣にいる誰か」

 

 

 

 

 一夏が目を覚ましたのは、ベッドの上だった。

「……あれ、俺……」 

 確かに異形を倒したのは覚えている。が、それ以降が定かではない。元々かなり無理を押して戦ったので体に限界が来たのであろう事は検討がつく。一夏が頭を撫でると、そこには包帯が巻かれていた。周りはカーテンで仕切られているが、おそらく保健室であろう。

「気がついたか」

 言葉より早く、カーテンが開いて千冬が姿を現す。口が動くより早く行動する。千冬姉らしい。

「頭部の負傷は見た目ほど酷いものでもなかった。負傷も最低限だが、数日は痛みを覚悟しろよ」

「はあ……」

 開かれたカーテンの先には夕日が見える。どうやらもう放課後らしい。

 

「一夏、一つだけ答えろ」

 ボンヤリと考えていた一夏に、千冬は鋭い目で問う。

「あのIS……あの白いISは……束の手によるモノだな?」

 彼女には既に確信的なものがあった。それでもあえて一夏に聞くのは、一夏を試す行為なのだろうか。一夏は少し考え、頷く

「……ああ、そうだよ」

「そうか……」

 千冬は難しい顔で押し黙る。それを是と取るか、否と取るか。否と取られて退く一夏ではないが、それでも少しだけ緊張する。それを見て、千冬はフっと笑う。時折見せる柔らかい家族への顔だった。

「まあ、なんにせよ無事で良かった。さすがに肝を冷やしたぞ」

「姉さん……心配かけて、ごめん」

「ふん、そう思うならもっと鍛錬しろ。それに、心配はしていなかったさ。なにせお前は私の弟だ」

 千冬は一夏の頭を撫でる。気恥ずかしいが、それでも一夏は黙って受けた。

「では、後片付けがあるので私は行く。お前も、今日はゆっくり休め」

 千冬姉はそう言って部屋から出て行く。そしてそれと入れ替わりに、一人の少女が入ってくる……箒であった。

 

「あ~、ごほん」

 わざとらしく一つ咳払いして箒は一夏の側に寄る。

「だ、大丈夫か。一夏」

「ああ。問題ねえよ」

「うむ。なら、いい」

 箒が腕組みをしてふんと鼻息を鳴らす。そして少しだけの沈黙。一夏は少し思案して、言葉を紡ぐ。

「悪いな。箒」

「な、なんで謝るのだ!」

「カッコ悪いとこ見せちまってさ。バッチリ勝って、お前の機嫌もパリっと治してもらおうと思ったのに、このザマだ。正直情けない」

 それは半分冗談で、実際半分は本気でそう思っていた。しかし箒は怒ったように、もしくは恥ずかしがるようにブンブンと首を振る。

「そんなことはない! ……か、かっこよかったと……思う。ぞ」

「……」

 一夏は目を丸くして箒を見る。箒らしくない飾らない言葉でそう言われて、本当に驚いた。箒が心外なように怒る。

「そ、そんな目をしなくてもいいだろ!」

「いや……ありがとう。嬉しい」 

 故に一夏も、飾らない素直な本音で感謝した。箒はサっと振り返った。そういうところは、本当に分かりやすいな。

「先に部屋に戻る……ではな」

 そのまま、箒は出て行く。一夏はそれを見送ってから、箒の顔を思い出して少しニヤつく。

 

「モテる殿方というのは大変ですわね」

「ひょ!?」

 気づくと、目の前にはセシリア。一夏は変な声を出してしまう。

「保健室ではお静かに」

「あっはい」

「よろしい……お元気そうで何よりですわ。一夏さん」

「元気通り越して魂が口から飛び出そうになったわ。てか、セシリアいつのまにいたんだ」

「そうですわね。一夏さんがベッドから起き上がった時からでしょうか?」

「最初っから!?」

 どこにいたの!? どうやっていたの!?

「保健室ではお静かに」

「あっはい」

「よろしい」

 

 セシリアはクスクスと笑う。本当にこの娘恐ろしい。今更、何故自分はセシリアに勝てたのか。という疑問が湧いてくる。もしかしていいように遊ばれてただけなのではないのだろうか。今も絶賛遊ばれているが。

「でも本当に、無事で良かったですわ。私も力添えした甲斐がありました」

「力添え? ああ、そうか。こっちに突入する部隊だったのか」

「いえ、違いますよ」

「? じゃあ何を……」

 そう考えて、一夏は一つ思い出す。あの絶体絶命の時、一夏と鈴音を助けた光る三つの球体を……あれが、セシリアの力添えだというのか?

「なあ、セシリア。もしかして」

「なんです?」

「……いや。何でもない。きっと、勘違いだ」

 それは少し都合の良すぎる考えというものだろう。アレは確かに一夏を助けるために存在した……奇跡とでも、思っておこう。

「そうですか」

 セシリアもそれに納得して微笑んだ。だから、それで良いと一夏は考える。

「では私もそろそろ行きます。ああ、一つ忘れてました」

 セシリアはポンと手を叩く。

 

「何だ?」

「ご褒美です」

 そう言って、セシリアは一夏の顔に近づき、ソっとその額にキスをする。あまりに突然の事で一夏は反応出来なかった。

「!?!?!?」

「それでは、ゆっくりおやすみなさい」

 セシリアは錯乱する一夏を放って、そのまま保健室から出て行く……本当に、彼女には底知れないモノを感じる一夏だった。

「しかしまあ、姉さんに箒にセシリア。見舞いはこれで終いかな」

 山田先生が来るならば、千冬姉と一緒にだろう。一夏はそう考えて、カーテンの閉まった隣を見る。そこにはきっと一夏と同時に倒れてしまったはずだった、鈴音がいる。一夏はそれを見ながら、立ち上がろうとして、

 

「オリムライチカってのはイルカ!」

「お邪魔……します……」

 対照的な二人の少女の声が聞こえたので、即座にベッドに戻る。しかしはて。と一夏は訝しげる。声に見当が全くつかない。顔を見れば分かるだろうと一夏はその二人の方を向く。

「オー、オマエがイチカかー」

「マカちゃん……静かに……」

 口調も対照的な二人は、見た目もかなり対照的であった。一人は口調が大人しげで、ハネっけの強いセミロングの髪でメガネをかけた少女。そしてもう一人は、小学生と見間違うほどかに小柄で、褐色の肌をしたショートヘアの少女。よくみたら、この子裸足である。

 どちらにせよ。一夏にとっては初対面の二人だ。

「えーと……すまん。誰さん?」

「オ、ソウカ。ショタイメンだったナ! 私はマカ・ジャだ!」

「摩訶邪?」

「マカ・ジャ! サンクミのクラスダイヒョウで、ストラスビアのコッカダイヒョウコウホだ!」

 三組のクラス代表……国家代表候補……ということはこっちは、

「更識簪……四組の、クラス代表……後、国家代表候補……」

「あー。そうか。そういうことか」

 なるほど。確かに彼女達にはここに来る意味が、ある。なにせ、本来一夏と鈴音の対戦の後に戦うはずだった残りのクラス代表なのだから。

「オマエラのトキにアンナドンパチシタから、トーナメントはチュウシだ! マカのハツジアイだったンダゾ!」

「マカちゃん……静かに……それに、彼が悪い訳じゃ、ない」

 簪と名乗った眼鏡の少女がなだめるが、一夏はそれを制して頭を下げる。

 

「いや、事情はどうあれ俺達の試合でおジャンになったのは事実だ。二組のクラス代表の方も兼ねて、俺が謝ろう。すまなかった」

「オー。ナライイ。マカ、スナオなヤツにはオコラナイ。サイナンだったナ。オマエも」

 マカと名乗る少女がご機嫌にベシベシと頭を叩きそのまま保健室を出て行く。簪の方はといえば、特に言うことも終わったのか、それとも単にマカの付きそいで来たのか黙ったまま保健室を出て行った。一夏は笑いながら、その心中は深く思考する。

 ストラスビアの代表候補に、更識の人間。なんという事だ。二組に鈴音、一組にもセシリアがいると考えれば、一夏というとびきりのイレギュラーを抜きにしても豪勢に過ぎる学年だ。しかも今回は加えて篠ノ之束の妹である箒までいる。なんだ。曰くつきの人間オールスターバトルでもする気か。偶然にしては出来たメンツだ。

 

 更識。暗部に対する対暗部用暗部の一族。その当主は代々楯無を名乗るといい、そして現在の更識楯無はこのIS学園の生徒会長にして自由国籍特権によるロシア代表という凄まじい地位であったはずだ。いずれ一夏も相まみえるだろうとは思っていたが、先にその血縁者に会う事になるとは思っていなかった。おそらく妹だろう。

 そしてストラスビア。ストラスビアとは、現在世界で最も新しい国連に国として認められた国家であり、IS誕生後に生まれた国家だ。その誕生の経緯はISとも深く関わっていると同時に、人々に、主に女性に不都合な真実を突きつけるものとなったのだ。

 

 ストラスビアはISの発表直後に起こった事件。所謂白騎士事件を契機として、とある南半球の島で起こった独立運動とそれに伴う紛争の末に成立した国だったのだが、この紛争が問題だった。アラスカ条約締結により、研究を公でも行えるようスポーツ競技用として設定されたISだが、実質的には兵器なのだ。その装備、性能からも、戦場でこそ発揮されるモノである。軍にあるIS部隊は全て「軍所属のアクロバットチーム」という名目であるが、実際には各国の虎の子の兵器だ。 

 だが、この紛争では。後に「解体紛争」と呼ばれるこの紛争にはISは一切用いられず旧来の兵器のみで戦われ、そしてISという絶対的兵器の存在がありながら、それ無くして紛争が決着したのだ。独立体制側にはアメリカ等の比較的とはいえISをそれなりに保有する国がいながらである。

 

 この紛争は暗に「実はISは兵器としては非常に使いにくいのではないか」「ISが存在しても世界は変わらず、またISが存在せずとも世界は変われるのではないか」という誰も思っていながら、白騎士事件のショックで誰もが口に出さなかった事を事実として再確認させた紛争なのである。

 結局それらの議論は、さる人権保護団体「ISによる平和と女性権利保全連合」の過剰な封殺によって半ばタブー化されてしまったものがある。付け加えるならば、「ISによる平和と女性権利保全連合」の最トップ陣の過半数が男性で有ることは余り知られていない事実だ。言うまでもなく、IS連合にとっては目に見える最大の仮想敵。束は取るに足らぬとしているが、決して無視出来ない存在である。

 そのストラスビアに、篠ノ之束が直々にコアを一つ提供したのは有名な話だ。それに伴って日本も量産機である打鉄のフレームを、多種ある追加武装パッケージ毎提供したのもある。これは当時第二世代機としてようやく完成したばかりの打鉄の宣伝も兼ねた作戦であり、実際それは堅実なフレームである打鉄の良いアピールになった。

 

(こりゃ、まだまだ波乱の予感だな……)

 一筋縄で行くなどとは思ってなかったが、ここまで波乱と混沌の申し子になろうとは思わなかった。しかし、決めたのだ。世界をその双眸で見続けると、どのような真実でも、決してその目を逸らしたりはしないと。それが一夏の力だと。

「だから戦う。俺との過去とも、決着をつける」

 一夏は声に出して言う。言霊にして、その決意を再び刻み付けるつもりで。

「……そういうのは、口に出すの良くないと思うわよ。一夏」

 ドキリ。と心臓の音が直に聞こえた。後ろを振り向くと、そこには鈴音がいる。鈴音は……イタズラっぽい笑みでこちらを見ていた。

「よくもまあ何人もお見舞いされちゃって。モテモテね。一夏」

「嫌味か」

「当たり前でしょ」

 鈴音は笑って、一夏のベッドにあった椅子に座る。

「二人っきり。久しぶりだね」

「そうだな、一年ぶりか……約束は両方しっかり守ったぞ」

「うん。ありがと……あんたの言うとおり、一年でいろいろ勉強できたわ」

 お互いがお互いを確認するように、一夏と鈴音は言葉を交わす。

「そうか。で、変わったか?」

「いろいろ変わったけど、でも結局、結論は変わらなかったわ」

 鈴音は一夏を見て、恥ずかしそうに微笑む。

 

「私、やっぱりあんたのことが好きみたい」

 

 




露骨なヒロインアピール。そして簪の先行登場とオリキャラのチラ見せです。簪とオリキャラ「マカ」にはそれなりに出番がある予定
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