インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

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二十三話「だからこそ、言える事」

 

 

 

「そりゃ修羅場になるな」

 鈴音の告白を聞いても、一夏はもう否定しなかった。一夏は人の好意に鈍感な所がある。それでも、何も感じない訳ではなかったし、何より知り続ける事を選んだのだ。それが、知れば辛い事でも。

「上等よ。それにおあつらえ向きに箒ちゃんもいるしね。正々堂々、勝負して勝つ」

 鈴音は拳を作る。それはどう見ても恋する乙女のそれではない。好敵手を見つけた顔だ。

「リアルバトルは勘弁してくれよ……せめてISバトルにしてくれ」

 ISバトルをするよりストリートファイトした方が危険性が増す人間もこの二人くらいのものだ。

「え、だめ?」

「……」

 さっきまでの恋色の甘い雰囲気は果たして何だったのか。しかし一夏が鈴音に好意を抱いたのはこういうサッパリした面に惹かれての事でもあるのだが。

 

「あんたの言うとおり、一年間いろいろと本国で勉強してきたからね。そうそう、実は私ね……告白もされたのよ。年上の男の人から」

 自信満々な笑顔で言う鈴音に、一夏はほお。と感心すると同時に、推測する。

「ああ、甲龍のフレームデザイナーか整備士にか?」

「え、何で分かったの?」

「見て分かった。あのISはお前という個性を活かすための最高の仕上がりだ。半ば専用機だったしな。製作者の想いがひしひしと伝わる」

 フレームデザイナーとは、言わばIS専門の設計士だ。コアへの依存を最小限にし、汎用性を重視して万人が最大の性能を引き出せるようにする量産機。量産フレームから搭乗者への個性付けを行うカスタム機。そして、フレーム設計そのものから個人のために行う専用機。これらの設計、調整を担うのがフレームデザイナーだ。その重要性はIS操縦者に並ぶとされ、男がISに携わる場合、このフレームデザイナーになるのが最もその根幹に近づける。実際フレームデザイナーには男性が多いという事実もある。

 余談だが、フレームデザイナー。そのトップは篠ノ之束と言われている。彼女がデザインしたISは少ないが、かの伝説たる「白騎士」や織斑千冬をモンド・グロッソ優勝へと導いた「暮桜」等、製作したIS全てが多大なる結果を残してる。一夏の銀鋼はフレームそのものは倉持技研。そこからの改良はIS技研のフレームデザイナーによるものだが、あの「白式」の部分は束によるものだ。

 

 閑話休題。

「ん。まあ、実際甲龍のフレームデザイナーの人なんだけどね。私より六つしか歳違わないのに、もう国家代表ISのフレームデザインしてる人なの。甲龍から浮遊非固定ユニットを取り外したのも、第三世代技術である空間圧縮を攻撃じゃなくて、瞬時加速の補助にしたのもその人の提案なの。実は甲龍の名前も、その人の、甲天って名前から一文字取ってる」

「もうガチガチじゃねえか」

 男尊女卑だろうが女尊男卑だろうが、真の天才というのは時代の流れには埋もれないのだと痛感する。

「言っちゃなんだけど見た目だけなら一夏の三倍くらいカッコいい人でさ、向こうでもその人気って言ったら、ここでのあんたレベルだったわよ……一年間お世話になったし、いろいろな事を教えてもらった。だから、告白された時、すごく嬉しかった。あの人の事を好きな女性なんてそれこそ何百何千っていて、その中から私を選んでくれた事が、何よりも誇らしく思えた。きっと、一年前に一夏にああ言われなかったら、分からなかった嬉しさだった」

「だろ?」

「でも、それで好きなのがあんただって分かった」

 鈴音は目を閉じる。

「天さんの事。好きって言えるかもしれなかった。でもそれは、なんていうかな。頼りになるお兄さんって感じで、恋じゃないんだと思う。だから、素直にそう言ったの。天さんは、分かってくれた。その気持を大切にしたほうがいいって言ってくれた。いつでも兄のように思って相談してくれって言ってくれた……それは、恋人同士になるよりも嬉しかった」

「……」

 一夏は黙っていた。何がって、勝てる気がしない! なんて出来た人だ! すごすぎる! 実は人間じゃないのではないかその人は! 世の中にはそんな素晴らしい男がいるのか。鈴音はとんでもない選択ミスをしたのではないかと思ってしまう。

 

「ま、天さん実は代表候補生の女の子みんなにそう言って、五股くらいしてて、それがバレてエラい事になったんだけどね。私がIS学園の入学に遅れたのも、そのドタバタに巻き込まれてだし」

 

「おぃいいい! 天さんんん!」

 なんだそのオチは! 聞きたくなかったわ! でも、ちょっと安心してしまう一夏だった。彼もまた、一人の男だったのだ。一夏は心の中で彼に敬礼した。

「結局、今はあんたが私にとっての一番なのよ。光栄でしょ」

 はにかみながら言う鈴音は魅力的で、一瞬一夏は我を失いかけたがそれを理性で引き戻す。

「光栄すぎて荷が重い」

「半分持ってあげるわよ」

「持たせちまったら、そこがゴールになっちまう」

「もうゴールしても、いいんじゃない?」

「まだできねえよ」

 軽口を叩いて、一夏と鈴音は笑い合う。だがふと、鈴音が何かを察して笑うのを止める。

「……ねえ、一夏」

「なんだ?」

「今更だけど……この会話。聞かれてないよね」

 

 沈黙。その一寸後、一夏は布団から飛び降りて保健室の外を伺う。ドア開けっ放し。しかも割りとデカい声でかなり恥ずかしい会話をしていた。聞かれてたらスキャンダルどころの騒ぎではない。しかし幸いというべきか、見たところ人影はなかった。そもそもあれば、今頃こんな悠長な事態にはなってないだろう。

「見たところ大丈夫そうね」

 どうやら窓の方を確認してたらしい鈴音も、安心そうな顔をしていた。

「そりゃ良かった。バレたら大変な所だった」

 一夏はホっと一息ついてベッドに戻る。

「全く、お二人ともお気をつけくださいよ? 誰が聞いてるともしれないんですから。それでは私はこれで」

 セシリアがため息をついて保健室から出て行く。

「全くだな。不用心なもんだぜ」

「ほんと。私もさすがに迂闊だったわ」

 二人は笑う。

 

『ハハハハハハハっはあああああ~~!?』

 

 笑って、一夏と鈴音が形容しようがない顔で保健室のドアを見る。もう、セシリアはいない。

「……一夏。私としても、あんまり初対面に近い人にこういう事言うのはいけないと思ってるんだけど……セシリアちゃんってかなりアレだよね」

「言うな」

 二人は一度深くため息をついて、それぞれ寮の部屋へと帰っていった。

 

 

「引越し、ですか?」

「はい。引越しです」

 寮の部屋についた一夏を待っていたのは山田先生と、何故か荷物をまとめている箒だった。

「引越しと言っても、箒さんの方ですよ。部屋の調整が出来たので、急ではありますがお引越しなのです」

「本当に急ですね」

 あんな事故があった当日に引越しとは。

「確かに今日あんな事があっての引越しなんで、最もなんですが。やっぱり男女同室というのはよろしくないモノでして。その辺りの都合で……」

「あー」

 なら最初からちゃんと調整しとけばいいのに。という反論は、山田先生にするのは酷な話だろう。急ではあるが、至極最も。

 

「先生。準備出来ました」

 そこに箒が荷物を持ってやってくる。ボストンバッグ一つで荷物が収まる鈴音は極端だが、箒の私物もかなり少なそうに見えた。

「あ、箒さん本当ごめんなさい。これ鍵です。じゃあ、私は今日の後処理がありますので」

 山田先生はあせくせと小走りに行く。本当に忙しそうである。

「一夏」

 箒が気まずそうな顔をして一夏を見る。一夏としても、突然の事で何と言えばいいか分からない。

「ああ、なんか急だが。まあ、短い間だけどありがとうな」

「な、なんでそんな別れみたいな言い方をするのだ」

「いや、まあ、そうなんだが」

「……世話になったのは私も同じだ。そ、そうだ。一夏。夕飯は食べたのか?」

「いや、帰ってからお前と寮食堂に行こうかと」

「感謝とか、そういう訳では無くて、単純に、たまたま、偶然だが、チャーハンを作っておいた。テーブルの上に置いてるから、冷めない内に食べろ」

「お、マジか」

 一夏はパっと顔を明るくする。幼い頃からの食生活か、チャーハン好きな一夏である。単純でありながら奥深い、料理した人間の技量に左右されるメニューだ。

 

「今すぐ食べよう。そうしよう」

 一夏は部屋に入る。箒が叫ぶ。

「手洗いうがいは忘れるな!」

「分かってるって」

 一夏は律儀にしっかりとうがい手洗いをすると、テーブルに座る。そこには確かに、ラップがかかったチャーハンがあった。それを取ると、まだホカホカの湯気と、美味しそうな匂いが漂う。見ると、荷物を持ったまま箒も前に座っていた。出て行く前に感想を聞きたいと見える。

「ほう、かなりの腕と見える」 

「見て分かるのか?」

「剣道の『見』と一緒さ」

 箒の料理は初めてだが、これは期待できると見た。

「いただきます」

 側に置いてたレンゲを使って、パクリと一口。ゆっくり咀嚼し、飲み込んで、一夏は一人その味の感想を言う。

 

「……味がしねえ」

「へ?」

「味がしないぞこれ……いや、逆にすごいな。なんだこれ」

「ちょ、ちょっと待て! いくらなんでも無いというのはおかしいだろ!」

 箒が怒ってレンゲをひったくって食べる。そして一言。

「味がない……」

「だろ。調味料入れ忘れたんじゃないのか?」

「確かに調味料は入れなかったが、ごま油とネギと卵とチャーシューが入ってるのだぞ。素材の味で十分活きるはずだ」  

「それじゃあ薄味だが、それでも味がないのはおかしいな。すごいぞこれ。なんか科学反応が起こってるんじゃないのか」

「事故だ! いや、これは誰かの陰謀だ!」

「しょぼすぎる陰謀だなおい」

 一夏は言いながら、塩を取り出してそれをパッパとかけて食べる。

「ああ、これで十分食える」

 実際塩ライスであったが、無いよりは百倍マシだった。そのまま一夏は食べ終えて、手を合わせる。

「ごちそうさま」

「……次は大丈夫だ。こんな失敗はしない」

「ああ、わかってるよ」

 確かに彼女の料理下手というより何かの事故みたいなものだろう。一夏は箒を見る。箒はそれに耐えられなかったのか、立ち上がる。

 

「じゃあ、出て行く」

「ああ。そうだったな。チャーハンありがとうな」

「礼を言われるのことじゃない!」

 箒は恥ずかしそうに言ってドア前に立つ。一夏も立ち上がる。

「……」

「……ん。何か、他にあるのか?」

「一つ、言いたい事があった」

 

 箒は今度は、一夏を真っ直ぐ見据える。

「六月の学年個人別トーナメントだが……私が勝ったら!」

「勝ったら……?」

「……」

「……」

 一夏を言葉を継ぐ事も出来たが、敢えてしなかった。彼女の口から直接言われるのが大事だと思ったからだ。

 

「や、やっぱり何でもない! さらばだ!」

 

 結局、箒は顔を真赤にして走り去っていってしまった。一夏はそれを見て、少しだけ後悔したような顔をして。

「お前が優勝したら、俺はお前と付き合う決心だろうが何だろうが、つけた方がいいんだろうな」

 そう、一人呟いた。

 

 




原作一巻分終了。一章分としては後エピローグとおまけ的な設定集とかを乗せる予定です。来週には原作二巻編へと突入予定。
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