インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

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二章「夢の守り人」
二十四話「五反田家」


 

 

 

 ゴールデンウィーク。長期休暇を利用して久しぶりにIS学園の外へと出た一夏は今、五反田家にいた。

「で?」

「ああ、鈴は元気だったよ」

 ゲームのコントローラーを握って波動コマンドを押しながら、一夏は隣の対戦相手……五反田蘭に応える。彼女はツレである五反田弾の妹であり、歳は一つ下。確か今はお嬢様中学に通って生徒会長をしていると大層立派で他人なのに一夏も家族のように鼻が高い。そんな彼女は自宅とあってかシャツとショートパンツとラフな格好だ。今更彼女にドギマギする一夏でもないし、この位の格好はもはやIS学園では日常茶飯事だ。気にせず一夏は画面を睨む。蘭は強敵だった。

「もう、一兄は鈍いなあ」

「何が」

「この状況で『で?』っていうのは元気かどうかじゃなくて関係が進んだかどうかに決まってるじゃん」

「進むと思ったのか?」

 一夏が聞くと蘭は専用のアーケードコントローラーで、一夏の数倍は滑らかな指の動きでスティックを三回転させながら呆れる。

「まあ、無理だよねえ」

「無理なんだよなあ」

 一夏のキャラが蘭の操るキャラに宇宙まで放り投げられてKOされる。前会った時はまだ一夏がやや強いくらいだったのだが、この三ヶ月ほどで抜かれてしまった。

 

「蘭、強くなったなあ」

「一兄や鈴姉に喧嘩じゃ勝てないもん。ゲームくらい勝たせてよ」

 蘭がニヒヒと笑う。その笑い方は鈴音譲りのものだ。一夏や鈴音にとって蘭は妹のような存在だった。実際蘭も、一夏の事は兄のように思ってるし、鈴音の事を姉のように思ってる。家族ぐるみの付き合い、というやつであった。

「一兄。お昼食べてくでしょ?」

「ああ。てか弾は結局駄目か。ゴールデンウィーク中なら会えると思ったんだけどなあ」

「あー、そうよねえ。あの馬鹿兄も、一兄が来てるんだから帰ってくりゃいいのにね」

 今頃イタリアにいるであろう彼の顔を、二人は思い返すように浮かべる。蘭も馬鹿兄とは言ってるが、これで兄思いな子だ。少し寂しい所もあるのかもしれない。実際さっきの口調も最後が少しだけ寂しげだった。

 

「蘭。飯食ったら買い物にでも出ようぜ。受験生の労いに何か奢るぞ」

「え、いいの? やった! 一兄とデートだ。後で写メして鈴姉に送る」

「やめろそれはシャレにならない」

「分かってるって! ほら、一兄早くお昼食べましょ」

 蘭はそう言って部屋を出て階段を降りて裏口を出る。この五反田家は食堂を営んでいるのだが、商売と生活が混ざらないように、出入口が完全に分離しているのだ。一夏も追いかけて食堂側に入る。昼時とあってそれなりに混雑だ。一夏は蘭と向かい合わせに座り、用意されていたカボチャ煮定食を食べる。この定食。ややメインのカボチャが甘すぎるが玉に瑕だがそう悪いもんでもない。一夏は店長であり料理の師である厳にペコリと頭を下げる。厳はニカリと歯を見せて軽くおたまを振り、ここの定番メニューである「業火野菜炒め」を作り始めた。

 

「そういやさ、一兄。会ったら話そうと思ってたんだけど」

 行儀よく揚げだし豆腐を食べてキッチリ咀嚼し終わってから、蘭は話し始める。その辺りのマナーは厳がしっかりしてるのでその賜物である。

「何だ?」

「私、来年IS学園受けるの」

 一瞬、思考が止まった。

「は?」

「よろしく先輩」

「……いやいやいや。おかしいだろ。蘭確かエスカレータ式のいいとこ通ってるんだろ?」

「IS学園も十分にいいとこだと思うけど」

「ISは筆記だけでは受からんぞ。適正とか調べたか?」

「調べたよ。Aって高いんでしょ?」

「……マジかよ。ってか、家族の許可は得てるのか? 蓮さーん。この子すごい事言ってますよー」

 ちょうど前を通りかかった蘭の母である蓮に一夏は聞く。歳よりも(実年齢不明だが)若く見える秘訣はその笑顔だという彼女は、その笑顔のまま頷く。

「ええ。蘭の好きなようにさせようって思って。一夏君、蘭の事よろしくね?」

「はあ~~~。いつも思うけど、五反田家って自由度高いよなあ」

 アメリカも真っ青な自由の家だ。

「いいじゃない自由。私好きだよ。馬鹿兄だって、反対はしないと思ってるし」

「ま、弾からすれば悪くない進路なのかもな……」

 なんだかんだで兄思いの妹に微笑ましくなりながらも、まだ五月だというのにもう来年への課題が出来たような気分になる一夏だった。

 

 

 結局夕方まで蘭と買い物をした後、一夏はそのまま寮の部屋に帰ってきた。今は既に一人部屋。気兼ねなくくつろげる場所だ。

「学年末個人トーナメント。か」

 カレンダーを見ながら、一夏は考える。まだ一ヶ月と半分ほど先だが、そろそろ考える必要がある程度には重大な行事だ。一週間かけて行われる全生徒参加の学年別トーナメント大会。一学年で約百二十名。それを三つの学年全てでトーナメントするのだから、相当大規模なイベントだ。一年は基礎を知った者達による先天的才能評価。二年はそこから訓練した成長能力評価。そして三年はほぼ今後の将来がかかった実力評価。その試合には国家の重鎮や企業スカウトマンも来るというのだから大規模だ。実はIS技研からも八張長官が来てくれる。技研の女性職員を見極めるために毎年参加してるという。一夏にとっても重要な実力を見せるチャンスだ。

(何にしても頑張らないとな)

 クラス代表決定戦は例の襲撃で中止。どころかやはりというべきか重大機密事項としてその関係者には箝口令が敷かれ、誓約書も書かされた。密かにデータやサンプルをIS技研や束に送ってる事がバレれば、一夏もタダではすまないだろう。最も、この二つは既にこの事実を知る者達なので情報が漏れる心配というのもないのだが。

 

「ま、まずは晩飯かな」

 一夏は部屋を出て寮食堂へと向かう。その途中、見知った顔に会う。彼女は一夏を見るとパっと顔を明るくする。

「お、織斑君じゃん」

「あれ、黛先輩じゃないですか。ここ一年寮ですよ」

「後輩に用があってねー。後、薫子でいいよ」

 新聞部副部長の薫子は楽しげに話しかける。

「織斑君には今度また学年トーナメントに向けてのインタビュー欲しいからさ。よろしく頼むよ。この前のクラス代表戦のインタビュー記事。滅茶苦茶好評だったし」

「ああ、あれに関してデカい事言っといてあんな事になんだか申し訳ないです」

「いいのいいの! 織斑君が悪い訳じゃないんだからさ。事故はしゃあないよ。それに規模としては学年トーナメントの方が何倍もデカいしね。一年はまだ経験が浅いから番狂わせが少なくてね。やっぱ二年三年に比べて盛り上がり欠けるのよ。織斑君がトーナメントの台風の目になれば話題沸騰間違いなし!」

 グっとサムズアップして薫子が笑いかける。確かに、代表決定戦があんな事になった分、一年にはもっと派手さと士気の向上が必要なのかもしれない。そのために一夏が貢献出来るのならば、それに越した事はないのだろう。

 

 ……そうか。それだ。一夏の脳内に、名案が思いつく。己の体を張る行動だが、それ以上の盛り上がりを期待できる。

「……薫子先輩。記事に一切誇張表現を加えない事を条件に、トーナメントが盛り上がる超特ダネを提供してもいいですよ」

「え!? 何々!?」

 薫子が興奮気味に一夏に近づく。一夏は周りに人がいないことを確認して、薫子に囁く。

 

「一年の学年優勝者の言う事を、俺は何でも一つ聞きます。何でもです」

「な、なんだってー!?」

 薫子が「な」を大声で言い、すぐに制して「なんだってー!?」を小声で言う。

「え、つまり織斑君。自分を賞品にしちゃうの!?」

「それくらいした方が盛り上がると思うんですよ。でも、賞品が俺じゃ役者不足ですかね」

「いや、そんなことない! むしろそれ、二年と三年にも拡大してほしいんだけど!」

「それはさすがに無理っす。一年に限定するのは、俺が優勝すれば無しっていう風にも出来るからなんで」

 一夏の発言意図に気づいて薫子はポンと手を叩く。

「おお、なるほど。自分を賞品にするのは、絶対優勝するという決意表明に繋がってる訳ね。優勝できるもんならしてみろっていう一年生徒への挑戦にもなるわけだ」

「そゆことです」

「確かにこれを一面出せば盛り上がり間違いなし……一年にしか関係しないとはいえ、二年三年も確実に食いつく……でも織斑君。いいの? 私が言うのも何だけど相当リスキーだよ」

「リスクを支払わずに得れる刺激なんて、つまらないと思いませんか?」

 一夏がニヤリと笑うと、薫子は満面の笑みで黙って手を差し出す。一夏はその手を握る。

 

「言ってくれるね傾奇者! よしきた先輩に任せんしゃい! 一面独占! 織斑一夏衝撃インタビュー! 事実誇張一切無し! 書こうじゃないの! 今すぐ! はどうせ無理だし、万全の記事を書いて最高のタイミングで発表するわ。それでいい?」

「お願いします」

 

 

 




いろいろ遅れましたが本日より二巻分内容の更新。始まります
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