インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

3 / 36
二話「IS技研から来た男」

 

 

 

 とまあ、勇み足なのは入学式までで、今織斑一夏は精神的プレッシャーで朝食を机にコーディネートしそうになった。

(こ、これは……想像以上にきついぞ!)

 思わず口に出てしまいそうな力強い口調で思う。まず位置が悪い。なぜど真ん中最前列なのだろう。こういう時は窓側の後ろから二番目辺りを希望したい一夏であったが、最初から決まっている席に文句は言えない。現在彼の周りにいる女の数は三十名。内二九名は生徒。もう一名は今自分の前で自己紹介をしている副担任の教師だ。背の低い童顔な外見で、名前は山田真耶。回文になっているのは親の趣味であろうか。と、冷静に考える。

 なにせオリエンテーションの三倍だ。しかも、周りにそれを冷やかす男もいない。正真正銘、ここに男は自分一人しかいないのだ。分かりきっていた事実に今更一夏は心が折れそうになる。

「それでは皆さん、よろしくお願いしますね」

 返事をしたいが心理的にできる状況ではない。ならば周りの女子がとも考えたが、彼女らは全員自分の方を向いている。そんなに自分が物珍しいか! ……そりゃ物珍しいだろう。このIS学園は女性しか乗れないISを教える以上女学園だし、それに入りたいと願う少女が通う中学も割りと女学園が多い。故に男を余り知らない者が多いはずだ。それが一人放り込まれたとなれば、動物園の珍獣を見るような扱いにもなるだろう。

 

「……えーと。お、織斑君?」

「え? あ、はい!」

 心配そうに言われて、一夏は思考状態から戻り返事する。前を見ると、山田副担任が申し訳なさそうな顔で見てた。そんな捨て犬のような眼で見られても困る。そういえば彼女は副担任らしいが、担任はどこに行っているのだろう。正直誰でも構わないだが。

「えっと、自己紹介で、できるかな?」

「あっと。すいません。今すぐ」

 一夏は冷静を保ちながら立ち上がる。実は自己紹介時に何を言うかは、事前に八張長官と議論して決めていたのだ。

 

「日本政府防衛省IS技術研究所専属テストパイロット織斑一夏です。えーと、堅苦しい肩書きがついてますが、一応日本の国家代表候補相当扱いになります……」

 日本男児の心意気、このIS学園にしかと刻みつけやるのでそのつもりでお願いする! ……と、八張はメモに書いてたのだが、さすがにそれを言うのは恥ずかしかったので。

「……よろしくお願いします」

 なんとも無難な感じに紹介を終わらせた。これだと所属を自慢しているようにしか聞こえない。失敗じゃないのかこの説明は。それに国家代表候補相当扱いってなんだ。いや、確かに法律上での地位と扱いを示しているんだが。それをここで言ってどうなるのだろう。という感じだ。

 

 周りからはもう少し喋ることを求めてそうな視線を感じるが、これ以上言うことも無い(男の趣味を女性の前で暴露するような悪癖もない)ので黙って席に座ろうとするが、目線が物理的なプレッシャーでそれを阻止された。怖い。女尊男卑社会とか関係無く女子って怖い。今更ながらにもっとちゃんとオリエンテーションを受けていたほうが良かったと一夏は考える。

 

 前では山田副担任が打開策を持たずに半泣きの状態でいる。正直彼女が「ありがとうございます。着席していいですよ」の一言で全てが済むのだが、そうはうまくいかないようだ。

 

 その時ちょうど。ガラっと、教室の扉が開く音が開く。好機だ。おそらく担任の教師が来たのだろう。彼女がこの場を丸く納めてくれるはず……

「……」

「……」

 なんていうのは甘い考えだった。むしろ状況が悪化した。何故なら眼の前にいる担任とおぼしき女性は、

「……何をしている」

「……自己紹介をと」

 実姉、織斑千冬だったからだ。考えてみればIS技研への所属を決めてから顔を合わせていなかったので一年ぶりとなる。何せ千冬姉がIS技研への所属を許してくれるとは考えなかったので、技研に匿名の確保を依頼して半ば隠れ住んでたようなものだったからだ。

「何をしていた」

「……真実を知りに」

 意外なほどに冷静に、一夏は対応できた。千冬姉はジっとこちらをみてくるので、更に言葉を紡ぐ。

「知りたい事を知るためにIS技研に行って、知りたい事を勉強するために、この学園に来た……それだけです。千冬姉さん」

 真っ直ぐ一夏は千冬を見返す。彼女にはこれが一番効く。一切の小細工が効かない故に、鋭く実直な行為に眼を逸らせないのだ。

「……ここでは織斑先生だ。徹底しろ」

 彼女が無表情に言う。だがそれは、一夏がここにいることを暫定的にとはいえ許した証だった。

「はい。織斑教諭」

 この機を逃さず、一夏は音速で着席する。ちょうど目線が一夏から千冬に変わったからだ。今の会話で姉弟とバレただろうが、変わった苗字だ。今更ごまかすのも馬鹿らしいし、分かりきっていた事だろう。

 そうしてる間に、千冬が手に持つクラス名簿用の端末をパンっと、手で叩く。

 

「一組諸君、私が織斑千冬だ。お前たちをまず一端の乗り手にするのが私の仕事だ。一年で私の教えた事を習得しろ。無理は何一つ言わん。出来る事を言うので、出来るようにしろ。以上だ」

『キャーッ!』

 女子たちの黄色い歓声が次々に上がる。罵ってくれだの、お姉さまと呼ばせてだの。時代が変わってもそこらへんは普通に女子なのだな。

「相変わらずの馬鹿ばかりだな……」

 千冬姉は呆れるが、まあそれも当然といったところだろう。しかしそんな彼女にも女子たちは黄色い声は止まない。それを止めるように、バシっと彼女は強めに端末を叩く。

「黙る時は黙れ。今はその時だ」

 ピタリと声が止む。生徒たちの素直さもさることながら、千冬姉の気迫が侍のそれだ。さすがは公式戦無敗の日本代表IS操者。

「ではSHRを終わらせ、さっそく授業に入る。基礎知識故に、すぐ分かるはずだ。分かったら返事をしろ」

『はいっ!』

 何とも、威勢の良い事だ。

 

 

「……ふう」

 一時間目終わりの休憩時間。一夏は椅子に座ってのんびりとしていた。入学式当日から授業なんて普通に考えれば鬱憤ものだが、このIS学園の性質を考えれば当然だろうし、生徒に文句の一つもでない。一夏も知りたい事は山ほどあるのだ。足踏みしてる時間は必要なかった。

(しかしこれ、どうにかならんか)

 彼の周りには今、クラス学年を超えて、上級生すらも見物人が出る人だかりができていた。有名人なのは自覚している。かの織斑千冬の弟で、なおかつ史上初のIS男操者なのだ。興味惹かれるのはわかるし、最近の世俗上男を知らない箱入り娘な女子も多い以上、珍しがるのも分かるが……モノには限度があるとはこのことだ。

 IS登場以後、急速に作られた女尊男卑社会……最もこれには何らかの「悪意」と「作為」があるというのがIS同盟での通説だが、それでもそんな世界で住んできた彼女たちにとって、対等な男である一夏はやはり、モラルやマナーを超えて気になるということだろうか。

(五反田は元気だろうか……)

 よくツルんでいた中学時代の同級生を思い出す。羨ましいと言っていた彼もまた。彼なりの道を突き進んだがゆえの苦労を今頃していることだろう。自分だけが弱音を吐くわけにもいかないのだ。

 

(だったらそろそろ声くらいかけるべきだろうか)

 一夏が決心してその方を向くと、既にそこには、目的の人物がいた。その少女は突如自分の方を向かれて驚くが、それでも気丈に声をかける。

「……久しぶりだな」

「……そうだな……六年ぶりくらいか? 箒」

「それくらいになるな」

 目の前にいるのは六年ぶりの再開となる幼馴染。篠ノ之箒だった。昔、剣道場にかよっていた頃に知り合ったその道場の子だ。あの頃と変わらないポニーテルの髪。千冬姉ほどではないが、どこか鋭さを思わせる目線や風格も変わってない。彼女がここに来て直接話しかけてきたのは、このままで埒が開かず、またどこかに移動したところで会話が丸聞こえなのは分かりきっての事なのだろう。

「……何かないのか」

「何かって言われても……ああ、剣道の全国大会で優勝したらしいな。記事で見た」

「……!」

 そう言われて、彼女は口をヘの字にして顔を赤らめる。分かりやすい表情変化だ。昔からそうだったし、それが彼女の可愛さだと思う。

「髪型も昔のままだな。見てすぐ分かったよ」

「よく覚えているもんだな……」

 呆れてるようで、少し嬉しそうに箒は言う。そりゃあ覚えているだろう。

「いろいろとあるからな」

 

 そこで休憩時間が終わるチャイムが鳴る。ちょうどいいくらいのタイミングだ。

「じゃ、また後でな」

「あ、ああ」

 フイっと顔を逸らして、箒は自分の席に戻っていく。それと前後して、他の生徒達もガヤガヤと戻っていく。

 

 箒は昔から変わらない。それが確認できただけでも、有意義な休憩時間だったのかもしれない。変わってほしくない事が変わるという辛さを知ってしまった一夏には、尚更そう感じさせた。




ほとんど原作をなぞってるだけみたいになってしまいすんませんという感じでした。とはいえこれを全部抜くのも変な感じなので。一応。というわけで。最初の内は物語を進めるために毎日更新を目指していきますのでよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。