インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

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二十六話「幻の再戦」

 

 

 一夏とシャルルは駆け足で学園の外を目指す。

「失礼。マダム」

 シャルルは前から突撃してくるかのように来た少女をソっと添えるように避けると、右腕を斜め上に向ける。すると袖からワイヤーが射出。ワイヤーは天井に吸盤のようにくっつくと、シャルルはワイヤーを巻き上げて跳躍。女子の群れを飛び越える。何あれかっこいい。

「悪いな。質問ならまた今度で!」

 一夏も勢いをつけると、壁を蹴って側面壁走りし女子の群れを突破した。廊下を走ってはならない校則はあるが、壁を走るなという法はない。そしてそのまま二人は学園を出る。ここまで来ればもうこちらのもので、そのまま更衣室へと逃れた。

 

「やるな。シャルル」

「シャルでいいよ。友達はみんなそう呼ぶ。織斑君もすごいね」

「そうでもないさ。後、俺も一夏で構わん」

 まだ言葉を交わしたのは二度目というのに、自然に一夏とシャルルは拳を突き合わせる。なるほど。少なくとも外見上や性格は、男と判断しても良い感じである。では中身はどうか。と言いたいが、さすがに着替え中の裸を覗くのは同性であっても趣味の悪い行為だ。それに一夏はゲイではない。強硬手段は後回しにし、自然な会話で見極めていけばいいだろう。

 そう思ってるといきなりシャルルは一夏の隣で服を脱ぎだす。何と大胆な行動! しかし、彼? が脱いだ後にあったのは黒い上下のインナーであった。上はTシャツ、下はハーフパンツのようになっている。シャルルはそのまま、その上にISスーツを着だす。

「え、そういうの中に着ていけるのか?」

「ああ、これはデュノア社で試験開発しているISスーツ用のインナーだよ。一々着替えるのに全部脱ぐのって面倒でしょ? このインナーはISスーツの機能を阻害しないで、むしろ補助の役割を果たしているんだ。下着の代わりにもなるし、ISスーツの着やすさも上がってる」

「すげえ。超便利じゃん」

 実際、一夏もISスーツを着替えるのに一度全裸になってしかもあの着にくい競泳スーツめいたアレを着るのは面倒この上なかった。この開発はかなりの名案ではないか。少なくとも男には非常に便利に見える。

 

「そうか。デュノアって何か聞き覚えがあったが、フランスのデュノア社か」

 フランスのIS企業で、世界的にも結構大規模だ。同盟側の企業でないので失念していた。

「ってことは、お前、デュノア社の御曹司ってやつか」

「ま、そんなところかな。そういえば、一夏はあの織斑千冬さんの弟なんでしょ」

「ああ、お陰でいろいろと楽もさせてもらってるし、苦労もしてる」

「はは。その辺りは同じだね」

 談笑しながら、一夏はISスーツへと着替える。全身を覆うこのスーツはやはり着るのが面倒だ。その間シャルルは一夏をジっと見るという訳でもなかったが、目をそらす訳でもなく自然と隣にいる。全裸のままシャルルの方を向けば、揺さぶりにはなるだろうがその場合変態なのは一夏だ。ただの疑念で犯罪者になるつもりはない。一夏は着替え終わると、二人揃って授業へと出向いた。

 

 無事授業に間に合った一夏とシャルはグラウンドで千冬の講義を受ける。彼女は端末を見ながらセシリアの方を向く。

「それでは今日からISに搭乗した上での実戦訓練を始める。のだが、その前に戦闘の実演をしてもらいたいと思う。オルコット、いけるか?」

「いつでも。ですが、何故私に? 正直な所、私の戦い方は皆さんの参考にならないと思いますが」

 千冬姉の言葉にセシリアは立ち上がるが、疑問を述べる。確かに、セシリアのあの空中に飛ばず狙撃戦で相手を狙い撃つスタイルは参考になるとは言い難い。そうはしなくても、ビット兵器のような特殊兵装をメインとした戦いからは見本に程遠いだろう。

「安心しろ。見本を見せるのはお前ではない。相手は……」

 千冬姉の言葉と同時に、一台のISが地面を滑るように滑空してこちらに向かってくる。そのISは生徒たちの目の前でスピンターンしてピタリと止まる。それに乗っているのは、何と山田先生だった。

「準備出来ました!」

「見ての通りだ」

「なるほど……納得です」

 セシリアはニヤリと笑って、ブルーティアーズを展開する。何が納得なのだろうか。

 

「山田先生。基本戦術に忠実に、生徒達も出来る範囲でお願いします。オルコット。お前は勉強だ。狙撃スタイルはせずに戦え。後ちゃんと飛べ」

「はい」「分かりました」

 二人は頷くと、空中に浮いてグラウンドのフィールド内へ。安全用のシールドが展開されると同時に、戦闘を始める。セシリアは空中に位置し、ブルーティアーズを展開。山田先生への牽制としながら、レーザーライフル「スターライトⅢ」で狙う。対して山田先生は地上で滑空しながらアサルトライフルを構える。多角的に動くビットの動きを先読みして避けながら、連続射撃でセシリアに攻撃の機会を奪う。だがその命中精度が凄い。山田先生の射撃は寸分違わずセシリアをロックし、シールドエネルギーを削っていく。地味ながらも見事な腕前にいつもは山田先生を茶化す生徒も感心顔だ。実際一夏もそうである。

「山田先生は元代表候補だ。その基本に忠実なスタイルと確かな腕から、今もIS学園として講師をしている。以後、より敬意を払うように」

『は、はい!』

 やはり普段の山田先生の扱われ方は信頼され慕われているとはいえ、少し下に見られている所があった。千冬姉はそれを思って、彼女の確かな技術を生徒に見せたかったのだろう。

「さて、同時に座学も行なっておこう。デュノア、今山田先生が使っているISについて説明してみろ」

「はい」

 シャルルは空中の戦闘を見ながら、ハッキリとした口調で喋る。

「山田先生のISはデュノア社製の『ラファールリヴァイヴ』です。フランスでは試験機ラファールからの第二世代機の開発が遅れていたのですが、逆にそのことが後発のメリットを産む事となり、文字通り再誕。ラファール・リヴァイヴとして正式採用となりました。簡易操縦性と汎用性が長所で、世界でも幅広くフレームとして採用されています。最大の特徴は拡張領域による選択可能装備の幅広さで、独自のマルチパスシステムから、第三世代武装であっても装備可能となっています。その事から試験兵装の実験搭載機体として使われる事も多く、そのシェアの広さは研究機関に重宝される事も要因の一つです」

「うむ。そのくらいでいい。学年トーナメントでは、個人機を持たない生徒は打鉄、もしくはラファール・リヴァイヴでの参加となるが、拡張領域の自由使用が認められている。その選択次第では個人機と渡り合う事も不可能ではない。どの装備が使用出来るか、各人しっかりと把握し、自らの長所に合ったモノを選ぶこと」

「はい!」

 

 説明が終わって、皆の目線はセシリアと山田先生の方に戻る。セシリアは防戦一方。躱すのをやめると、空中に停滞し、防御ビットを用いて射撃を防ぐ。しかし停滞は余り良い選択ではない。山田先生は射撃をしながら、左手で腕部グレネードランチャーをコール。そのままセシリアに発射する。グレネードの射出スピードは遅いが、止まっているセシリアに当てるのは簡単だし、その広範囲爆発はピンポイントで攻撃を受け止める防御ビットでは対応不可能だ。空中で爆発するセシリアとブルーティアーズ……

「はっ!」

 

 ……が、爆風から突如現れるセシリア! しかもその加速スピードは瞬時加速のそれである。まさかセシリアが空中停滞していたのは瞬時加速の準備行動? 彼女は待っていたのだ。自らが演出した隙をつく攻撃を。セシリアは山田先生へと加速しながら手持ちの武器をレーザーライフルからショートブレード「インターセプター」に切り替え。アサルトライフルとグレネードランチャーを構えていた山田先生に切り込む。

「ひゃあ!」

 山田先生は突然の事態に驚くも、冷静に対応。アサルトライフルをクローズして近接ブレードをコール。セシリアのインターセプターを受け止めるが、セシリアは笑顔のままだ。攻撃ビット四つが立ち止まった山田先生に一斉射撃。

「あわ!」

 声は慌てているが、その対応は素早く大胆だった。致命に至らないビットレーザーの射撃を無視し、ダメージ覚悟のゼロ距離グレネードを放とうとする。が、セシリアはそれを何と回転後ろ回し蹴りで山田先生の左腕を蹴る事でその軌道をズラし、そのまま回転して左手にスターライトⅢをコール。山田先生の腹部にレーザーライフルの砲塔が押し付けられる。

「チェック……」

 しかし、セシリアがレーザーライフルを倫理トリガーを引くより早く、彼女の頭部が爆発した。山田先生の右腕にはいつのまにか左腕と同じ腕部グレネードランチャーがあったのだ。先ほどので瞬間的に切り替えたのだろう。素早い状況判断は彼女が一手上手だったようだ。山田先生の勝ちである。

「だ、大丈夫ですかオルコットさん!?」

 勝利が確定してから、山田先生は気づいたようにセシリアの安否を気遣う。しかし彼女はヒョイっと顔を上げる。

「大丈夫です。入学試験の戦いをこのような形でやり直せて良かったですわ」

 セシリアは山田先生の手を取り立ち上がる。頭をブルブルと振るが、異常はなさそうだ。

 

 それを見て、千冬姉がパンと手を叩いて気を引き締め直す。

「山田先生、ありがとうございます。オルコット、お前も未熟だがなかなか面白い戦い方だった。さて、手本としては先程ので十分だろう。これより訓練に入る。個人機体を持っているのは織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。織斑、ボーデヴィッヒ、凰は格闘を。オルコット、デュノアは射撃のグループリーダーとなり相手をしろ。他の生徒は格闘と射撃訓練のどちらを行うかで分かれて、その中で出席番号順に並ぶこと。いいな?」

「機体は格闘訓練の人は打鉄。射撃訓練の人はラファール・リヴァイヴです。それぞれ分かれて使用してくださーい」

「はい!」

 生徒たちは素早くチーム毎に分かれると、訓練を開始した。

 


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