インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

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二十八話「昼食会議」

 

 

 

 シャルルが他の女子達と一緒に食堂に行くのを確認してから、一夏は二組に向かう。そして鈴に目線で合図。鈴音はそれに気づくと、いつも一緒に食べているのであろうクラスメイトに断りを入れてこちらに向かってくる。一夏と鈴音は二人屋上へと向かう。

「悪いな。邪魔して」

「別に。たまにはこういうのも悪く無いわ。メンツは?」

「予想つくだろ」

「まあね」

 つまるところ、一夏、箒、セシリア、鈴音。

「察しの通りだ。転校生で意見が欲しい」

「なる。私も情報欲しいし、どこで話すの?」

「屋上だ。シャルが食堂に行ったのは確認している。屋上は必然的に人が減る」

「読み読みって訳ね。あ、でもお昼どうしよ」

「セシリアに人数分頼んでいる。あいつは食事選択のセンスが良い」

「あ、ちょっと分かるかも」

 

 二人が屋上に向かうと、既にそこにはセシリアと箒がテーブルに座っていた。テーブルの上には幾つかの菓子パンと飲み物。そしておにぎり。

「遅れた」

「いえいえ」

 二人は席に座ると、とりあえず一夏はカツサンドと抹茶オレを手に取る。セシリアにおすすめされてからのお気に入りである。鈴音は手元の焼きそばパンを掴んだ。

「そういえばこの四人で食事をするのは鈴音さんと初めて会った時以来ですわね」

「そういやそうね。いつものメンツみたいな気がしてたけど、案外一緒に食べないわね。そういやセシリアちゃん。今日の山田ちゃんとの模擬戦。ビックリしたよ」

「山田先生とは入学試験時にも一度手合わせしたのですが、その時は間が悪く私の不戦勝のような形になってましたの。授業という形でキチンと雌雄を決せれて良かったですわ」

 談笑するセシリアと鈴音だが、箒は黙って一人おにぎりを食べる。もうちょっとコミュニケーション能力を発揮すればいいのに。

 

「で、今日集まった理由だけど、転校生に男の子いたんだって? 私はチラ見しただけだから何とも言えないんだよね。それより箒ちゃんとマジ喧嘩してたラウラちゃんのが気になったし。箒ちゃん的にはどうよ。ラウラちゃんは」

 寡黙な口を開いて、鋭く冷静に箒は評価する。

「……強いぞ。いくら剣術柔術を極めようと、私は所詮アマチュアに過ぎない。しかし彼女はプロの戦闘者だ。心構えから違う」

 実際箒は、もしもあの訓練が射撃も含めた実戦的な訓練であれば手も足も出ないだろうと考えていた。あくまで拮抗したのは白兵戦のみの腕に過ぎない事である。だがそれが、余計に箒の関心をラウラに向かわせたのだが。 

「そうかあ。強いのかあ。そりゃあ是非とも手合わせしたいわねえ。見たとこ箒ちゃん似の負けず嫌いっぽいし今度鉢合わせたらお誘いしてみようかなあ」

 鈴音がニヒヒと笑って楽しそうに指をポキリと鳴らす。

「そういえば一夏さん。そのラウラさんと握手してましたが、お知り合いなのですか?」

「いや、初対面だよ。だが姉さん絡みで関係はちょっとある……あの態度。少なくとも、俺にとってそれは正当な恨まれ方なんだよ。それより俺は、シャルの方がやはり気になる。男でISに乗れるなんてあり得んはずだ」

「それ、あんたが言っちゃうの」

 ある意味当然な鈴音の突っ込み。

 

「俺の場合は俺自身の適正よりも、ISの……銀鋼の仕様に依るものが大きい。アレは男でも乗れるようにコアに専用の改造を施してるからな。デュノア社が独自に成功させたとも言えなくはないが……」

「まあ、IS云々は置いておくとしても実際シャルルさんはちょっと男性というには無理がある容姿ですわよね。中性的ではありますが……」

「私も確かに最初見た時は女かと思ったが……周りは男と疑っていなかったし、なにより先生方が男として認識していたからな」

「そう、そこなんだよ。実は授業中に技研の方にちょっと調べてもらっていたんだが、シャルの存在は一般にはまだ秘匿状態みたいなんだが、学園とフランス政府の公式承認を得ているんだよ。この二つの審査をフリをするだけで乗り越えるのは不可能だ。本来男のIS適正者なんて出れば世界がひっくり返る。男でも乗れるISが出来るのと、ISに乗れる男が現れるのじゃ話が違う。後者の方がよほどあり得ない」

 これは一夏自身がIS技研や束から聞いた話だ。ISとは女性しか乗れない。これはかの篠ノ之束でさえ覆せなかった絶対律なのだ。ISのコアを解析改造する事で男でも無理やり乗れるようにしてる銀鋼は、ある意味ISではなく、違うカテゴリとして数え上げられるようなものである。つまりシャルル・デュノアがもしも本当に男で、コア改造のされてないISに乗れるのならば、それは常識そのものの破壊者に等しい。

 

「こりゃもう、実際に見て確かめるしかないでしょ。どうせシャルルって子は一夏と相部屋になるだろうし。お風呂の時にでもチラっとナニを確認しちゃえばいいのよ」

「ナニって言うな。ナニって」

「まあ、一夏さんにはやりにくい話でしょうがそれが一番確実でしょうね。しかしアレですわね。男性か女性か分からない方のお風呂を覗くというのは……下品な話ですけど……ウフフ、興奮しそうでわね」

「ナニ言ってるんですかセシリアさん」

「羨ましいと言ってるんですよ」

「言わなくていい!」

「ホントセシリアちゃんのマイペースには恐れ入るわ……」

 笑うセシリアにツッコむ一夏と呆れる鈴音。

「ナニって何だ? ……あっ」

 そして、今更分かって一人顔を赤らめる箒の四人の昼食は、和やかに続いた。

 

 

「一夏。改めてよろしく」

「ああ。こちらこそだ。同室者がいないとやはり暇でな」

 夕食後、自室で一夏とシャルルは落ち着く。予想通りというべきかやはりというべきかシャルルは同室者となった。確認は格段に容易になった訳だが、その選択を一夏は常に迫られるようになったとも言える。夕食はシャルル等と一緒にとったのだが案の定女子達の質問攻めだった。しかしその時一夏が思ったのは、シャルルの対応である。シャルルは女子生徒たちにいっそセクハラとも取れるくらいの強烈なアピールを受けたのだが、その返しがこうである。

「花のように可憐なマダムが、そんな事を軽はずみに言ってはいけません。僕が本気になったら、貴女も火傷ではすみませんよ?」

 である。

 ……隣で聞いてた一夏は胸焼けしそうになった。それを真顔で言うか! 生まれついての貴公子。という風なシャルルに言われると、それがイヤミに聞こえないのだから恐ろしい。それでいて、彼の目には半分本気の。狼のように獲物を狙う視線が女性陣を虜にさせてしまったようだ。どうやら昼間も似たようなものだったというのだから感服する。

 

「ここは楽園だね。王様にでもなったような気分だ」

 下はスェットのパンツ。上は例のインナースーツというラフな格好でベッドに腰掛けるシャルが夢心地に呟く。

「この環境でそれを言えるなら、お前はIS学園に向いてるよ」

「一夏はその風だと、まだ慣れないのかい?」

「どうにもな。どんなにここが秘密の花園であろうとも、結局手は出せない訳だし」

「確かに。ここでそれは生殺しだ」

 一夏の冗談にシャルが同意する。初対面こそ女子の雰囲気と断言した一夏だったが、その判断に迷いが出る。シャルルの思考感覚は完全に男だ。この感覚は、付け焼刃でどうにかなるものではない。

「そういえば一夏は、放課後にISの特訓をしてるって聞いたけど、そうなのかい?」

「ん? ああ。データ取りがあるしな」

 今日はシャルルの引越しを手伝うために休んだが、明日からはまた再開しなければならない。さらに言えば来月末には学年トーナメントがある。薫子に大口を叩いた以上、一夏は優勝前提の特訓を積む必要があった。何せ強敵はいくらでもいる。シャルルだって、その一人となるだろう。

「僕も参加していいかな。データ取りもそうだし、いろいろと手伝える事もあると思うよ」

「おお、それは歓迎だ。俺も実はシャルのISをしっかり見てみたかったんだ」

 特殊な改造点がないかの確認も含めて。である。

 

「じゃあ明日も大変そうだし、僕はもう寝るよ。おやすみ一夏」

 言って、シャルはうつ伏せにベッドに倒れ伏す。自然な流れだったので一瞬反応できなかった一夏だったが、すぐに違和感に気づく。

「ああ、おやすみ……って、え? シャル。シャワー浴びないのか?」

「シャワー? 昨日浴びたよ」

「昨日浴びたって……毎日浴びないのか?」

「毎日浴びる方がおかしくない? ……あ、もしかして臭う?」

「いや、そんなことはないが……」

「じゃあ大丈夫だよ。でも日本人は確か清潔好きなんだよね。明日は浴びるよ。でも今日は眠いから寝る。シャワーの順番とかは基本的に一夏優先でいいよ。おやすみ」

「お、おやすみ」

 そのままうつ伏せに黙るシャルル。自分の前で風呂に入るのは覗かれる心配があるから用心をしているのか? と考えたが、すぐにその疑念は振り払われる。用心するなら、そもそも今目の前で寝るのが余程不用心な話である。欧州の人間は個人差もあるが風呂の習慣が薄いと聞くが、一夏としてはちょっとカルチャーギャップである。

 

(本当に、どっちなんだ?)

 

 疑念は尽きない。今無理矢理に確認もできるが、それはさすがに一夏の良心が許さなかった。機会を待つしか無い。考えても仕方ないだろうと、一夏は一人シャワーを浴びに行くのだった。 

 




PSO2とドラゴンクラウンで更新が遅れました。執筆速度はかつてほどでないにしろ、改善していこうと思います。

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