インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

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五話「食堂にて」

 翌日の朝。一夏と箒は一年生寮の食堂で朝食をとっていた。お互い揃ったように和食である。実際、IS技研で出ていた食事より一段上の味だ。

「ハフハフッ」「……」

 ガツガツガツ「……」

 ボリボリ「……」

 ゴキュゴキュ「……」

「ップフー。上手いな。これ」「もうちょい静かに食えんのか貴様は!」

 ヒュンっと風を切る手刀を一夏は最低限の動きでかわす。

「いや、これすごい美味しくて」「味の良さは認めるがもうすこし食い方があるだろう!」

 確かに夢中で食べていたこともあって、かなりうるさかったかもしれない。なにせ昨日はまともに食事できなかったから特に美味しく感じるのだ。

「さて、おかわりするか」

「まだ食うのか……」

「二杯目で納豆を食う」

「さいですか……」

 これには箒も呆れてモノを言えない。茶碗にご飯を入れて席に戻ると、箒がふと尋ねてくる。

 

「そういえば、来週あの女と戦うんだったな」

「ああ。そうだな」

「……勝てるのか?」

「負けるわけにもいかんだろ。何、ISの操舵に関しては俺も負けてない。起動時間は三百時間を超えてる」

 内二百五十時間はまともに機能した状態でないという事実は伏せておく。

「まあ……腕の方もなまってるかと思ったが、そうでもないみたいだしな」

「それは俺が言いたいよ。お前、本当強くなったよな。これでも割りと鍛錬はしてる方だったんだが」

 これは本当に予想外だった。箒もこれには上機嫌そうに笑う。

「軟弱なお前とは鍛え方が違う」

「最近の女は物理的に強くて怖いぜ」

 やれやれと一夏は首を振る。しかし箒は少しだけ残念そうにつぶやく。

「本当は、私がお前にそういうのを教えるつもりだったんだがな」

「ん? なんだ。だったら逆に、俺がお前にISの操縦って奴を教えてやろうか?」

 

「へ?」

 独り言として喋った箒は、まるで予想していなかったであろう一夏の言葉に変な声をだす。

「これでも一年ISに乗ってる。それも赤ん坊みたいなテスト機をな。教える事もいくらかあると思うぞ」

「ひ、必要ない!」

「強情張るのは勝手だけどな。幼馴染のよしみで言ってるんだから、これくらいの世話は焼かせろ」

「~~ッ!」

 彼女は何か言いたげそうな顔をして立ち上がると、一夏はそれを見上げる。

「どうするんだ。教えたほうがいいのか? それとも教える必要ないのか?」

「そ、それは……」

 

 その返事をする前に、ひょっこりといつの間にか現れた女子……おそらくクラスメイトの誰かが喜色満面に言う。

「え、織斑君がIS教えてくれるの!?」

「なっ!?」

 その声に他の女子たちも一斉に反応する。

「織斑君がISを教えてくれる!?」「ワンツーマンで!?」「手取り足取り!?」

 

 話のネタを二段ほどぶち抜きやがった! やいのやいのと集まる外野を見て、箒は怒ったように歩いて行く。

「先に行く!」

「待て! せめて誤解を解け! ……ああもう、嫌そういうわけじゃなくてですね。はい」

 遅刻ギリギリの時間まで、説明に追われる一夏であった。

 

 

 

(そういや、IS教えるとかさっきは大見得切っちゃったけど、考えてみれば俺対ISの実戦経験ゼロだわ)

 四時間目の授業を聞きながら、ボンヤリと一夏は重大な事を忘れていた。なにせ開発目的が目的だ。模擬戦を行うのも困難だったし、IS技研は政府公認とはいえ小さな地下組織だ。ISを二つもポンと用意できるはずがない。

 IS技研には今二つのコアがあるのだが、一つは一夏の銀鋼に、もう一つは現在研究が進んでる弐号機に使われていて、現状まともに戦闘できる状態ではない。何より、銀鋼がISという名の優れた機動兵器してまともに形になったのはつい最近の話だ。一夏がこれまで一度も使ってない機能もいくつかある。

(そういう意味でも、クラス代表決定戦前に実戦を経験できるのはいい事だ)

 

 チラリと、一夏はセシリアの方に目線だけ向ける。彼女は至って真面目に授業を聞いていた。ただ、初対面の時もそうだったが彼女の机には大事そうに細い布袋が立てかけられていた。アレは何なのだろう。まさか箒と同種で木刀だったりするのだろうか。

(口裏をあわせてくれたこともあるし、改めて試合前に礼の一つくらいは言ったほうがいいかもしれない)

 ISのフィッティングをブラジャーに例える女子校特有のネタに苦い顔をしながら一夏はそんなことを考えていた。

 

「分かりやすいのは、昼食に誘う事か」

 授業後、周りの誘いを断りながら一夏はセシリアを探す。寮食堂とは別に学食もあるとは、本当に食には最高に至れり尽くせりだ。これだけでIS学園に来た甲斐がある。

「金髪碧眼で目立つかと思ったが、そうでもないな……」

 このIS学園は世界で唯一のISを教える教育機関だ。それ故に世界中から生徒が集まる。クラスの半分が外人なんてよくある事だし、実際少し外人のほうが多いだろう。故に金髪碧眼の少女なんていうのはどこにでもいる。人に聞いても良かったが、そんなことをただでさえ集まる人が更に人だかり、その上に余計な噂まで立てられそうなのは目に見える事だったからだ。

 

 

「前言撤回を要求します」

 

 ふと、芯の通った。しかし気品の強い声が聞こえる。覚えが確かなら、これはセシリアの声だ。どこに? と一夏が見渡すとすぐにそれは見つかった。そこには少し野次馬ができている。見れば、セシリアと上級生の女性二人が口論になっているようだった。リボンの色が赤であることから、相手が三年生である事が分かる。床には、彼女が持ち歩くときは肩にかけている布袋が見える。

「いやさ、そっちが勝手にマジになってるんじゃん」「そーそー。何本気で怒っちゃってるのよ」

 三年の女子の方はどうして事になってるか理解出来ないという顔だった。対してセシリアの方は凛としていながらもその目に怒りの炎を燃やしている。

「人の大切なモノを小馬鹿されて怒らない人間もいませんわ。前言撤回と謝罪を要求します」

「そんな大事なものなら博物館にでも飾っとけばいいんじゃないの?」「そういう時代じゃないのくらい、貴方が一番わかってるでしょ?」

 

 一体何の事を言ってるのだ? 原因となってる何かがが分からない。

「……これだから目先のモノしか見えてない奴は……」

 ボソリとセシリアが呟く。完全に喧嘩を売ってる。二人の女子がセシリアを睨みつける。

「なんですって!」「貴方、私達を馬鹿にしてるの!?」

「されたから仕返しただけですわ。貴方達が謝れば私も非礼を侘びますのでそのつもりで」

「貴方ねえっ!」

 一人の女子がセシリアの胸ぐらを掴む。よくわからんが、とりあえずこれ以上はマズい。

 

「ちょい待ち! その喧嘩、待っただ!」

 一夏が叫ぶと、その声に野次馬たちがまるで海を割くように一夏の前を開ける。モーゼも今なら役に立つ。一夏は三人に近づくと、とりあえず掴みかかってる手を優しく握る。

「女の子同士がそういう喧嘩、あんまり良くないと思うぜ。織斑教諭がこの騒ぎ聞きつけたら、どういう事になるかね」

「……うっ」

 千冬姉の怖さを知ってるのか、掴みかかった方の女子生徒が苦い顔をする。一夏はもう一方の女子生徒にも目を向ける。

「こんな公衆の場で騒ぎを起こすのは、どっちにせよ良い事じゃない。ここは両方場を納めて謝る。って風にはならないかな?」

「ううっ」

「当然、セシリア嬢もな」

 一夏はセシリアの方を見ると、彼女は冷めた表情で言う。

「私はただ前言撤回と謝罪がいただければそれで構わないのですが」

「先輩方、ここは年上の余裕を見せてほしい」

「な、なんで私達が……」

「お願いします」

 一夏は頭を下げる。今話題の男IS操者に頭を下げられては彼女達も反論出来ないだろう。地位を利用した行動だが、それで場が収まるなら利用するべきだ。

 

「わ、分かったわよ。さっき言った事は言いすぎたわ。ごめんなさい」「わ、私もごめん」

「はい。私の方もついカっとなって申し訳ありませんでしたわ。先輩方」

 

「はい。これで終い。喧嘩両成敗。散った散った」

 とりあえず場を収めて、一夏は両手でパッパッと外野を散らす。キャイキャイと女子が黄色い声を自分に送るが、知ったことではない。どうせ今でも珍獣だ。だったら名奉行だろうが正義のヒーローだろうが王子様だろうがドンと来いだ。

 女性陣が散ったのを見てから、一夏はセシリアをもう一度探そうとして、

「ちょっと」

 彼女に肩を叩かれる。

「ん」

 手間が省けた。昼飯でもどうだ? と言おうとしたが、さっきの今だ。状況が悪い。そう考えてるとセシリアの方から切り出す。

「貴方も今日は今更ここで昼食は取りにくいでしょう。場所を移しませんか?」

 何と、逆に誘われるという珍事が発生した。

 




実験的に二話分割。本来は次回の話とで一話だったものを、分割しての投稿となります。セシリアの設定を掘り下げるためのちょっとしたオリジナル展開です。
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