インフィニット・ストラトス Re:IMAGINE   作:如月十嵐

9 / 36
八話「青い雫」

「来ましたか」

 そこにいたのは青い騎士。否、青い貴族か。セシリア・オルコットは余裕のある笑みで一夏と銀鋼を迎える。彼女は地面に立ち、浮いていなかった。

「待たせたな」

「いえ。待つ事は得意ですので」

 彼女は言うと、手にもつ巨大な銃器で愛嬌を示すように振る。検索すると、あれが彼女の通常主兵装。六七口径大型レーザーライフル「スターライトⅢ」らしい。英国製量産機の機体に青いリカラー。そして背にはマント。もしくは羽を思わせる四つのフィン状兵器が見える……いや、六つだ。わかりにくいが、腰についてる二つも同等兵器と見ていいだろう。おそらくはあれが英国の第三世代特殊兵装「ブルー・ティアーズ」なのだろう。実験兵装の名をそのまま機体の名前にしているのだ。しかしどんな兵器かは、さすがに検索には引っかからない。これは実際に戦って見るしかない。

 そして何と、一番驚くべきは彼女の腰にあの例の古式ライフルが付けられている事だ。さすがにIS戦にまで持ち込んでくるとは予想外だった。せっかくの統一された青の兵装の中、あれだけが一人、古の匂いを出している。

 

 アリーナステージは直径三百メートル。IS同士で戦うにはこれでも狭いくらいだ。既に試合開始の鐘はなっているので、いつ攻撃をしてもおかしくはない。しかし彼女は攻撃はおろか、レーザーライフルを構えようともしていない。

「一つ、謝っておきたい事があるのです」

「? 何だ?」

「私の戦い方は、少し独特なものです。貴方が実戦に求めていたIS戦闘とは異なるものになるかもしれません。ですが、それが私の戦い方なのです。事前にこの事を了承してくださいますでしょうか?」

 わざわざ自分の戦法に断りを入れるとは、一体いかなる戦いをしてくるのだろうか。不満よりもむしろ俄然興味が湧いた。

「構わんさ。オーソドックスだけがISならば、そんな凡百なモノは世界を変えられない」

「ありがとうございます。それでは……」

 彼女が射撃状態に移行。兵器のセーフティロックをセンサーで確認する……来るか。

「狩りを始めましょう」

 そう言った瞬間、彼女はスラスターをフルスロット。全開で

 

 バックした。

 

「!!!????」

 バック? 後ろに? 全力で? 引き撃ち等ではなく、攻撃もなく全力でバック? 一夏の頭を疑問符で埋め尽くすが、即座に頭を切り替える。事前に言われたではないか。独特だと。ならばここで動揺するのは愚策。かといって、彼女にとっておそらくもっとも辛いだろう近接を狙って全力で追うのは危険だ。ここは牽制を兼ねて射撃兵装だ。

 すぐさま、一夏は武装コンテナを展開コール。すると四つの内上部二つのコンテナの上面ハッチが展開。八連追尾ミサイルポッドがそれぞれ顔を表す。一夏はこれを、後退するセシリアに目視ロックで全弾十六発を射出した。

「行きなさい。我が子達」

 それに対してセシリアは背部の四つのフィン型スラスター兵器を展開し飛ばす。フィン型スラスター兵器達はまるで意思があるかのように多角的直線軌道で舞うと、各々がレーザーを射出。なるほど。ブルー・ティアーズ。その正体は自在に動かせる全距離対応兵装。いわゆるビット兵器という奴か。ビット達は一夏の放ったミサイルを的確に撃ちぬいては爆破していくが、ビットが四つに対してミサイルは十六発。ビットの防御網を抜けて二発のミサイルがセシリアを襲う。しかしセシリアはあらかじめ、それを残していたのだろう。レーザーライフルを構えると、威力を絞って二発。無駄の無い射撃を行う。それだけでミサイル二発は爆散した。

 

 そうこうしてる間に、セシリアのISはアリーナの後端までたどり着いてしまう。後ろに引くという有用な近接攻撃への回避手段を早々に捨ててしまったのだ。一夏は近づきたいのは山々だったが、ミサイルを撃破したビット達は今度は一夏へと攻撃を仕掛けていた。しかしこれがおかしい。どうも、当てる気がない。わずかに後退すれば見きれる程度の射撃。何らかの意図がある。

 そう思ってると、ビット達は突如攻撃をやめて一夏から離れる。そしてセシリアの前方五十メートル辺りの位置で、彼女を守る騎士のように空中に浮かぶ。

「な、何がしたいんだ?」

 意味がわからずに一夏が呟くが、その後のセシリアの行動で、一夏は彼女のいう「少し独特な戦法」の正体が分かった。

 

 おそらく布陣をしいていたのであろう彼女は、それが完成すると同時に、うつ伏せになったのだ。同時に、彼女についていた残り二つのビットが浮き上がって彼女に覆いかぶさるように展開する。あの二つは防御用ビットなのだろう。そして彼女は、レーザーライフルを真っ直ぐこちらに向け、あまつさえ後付したのであろうバイポッドを展開し地面に根ざした。

 ここで、一夏は理解する。なんという少女だ。空中機動を主とするISの戦闘倫理からは到底思いつかない。彼女は、狙撃戦をしようとしているのだ。最後列まで下がったのは、狙撃手にとって一番の盲点となる後ろを潰すと同時に、ハイパーセンサーの範囲を前面に集中させたいから。ビット兵器が一夏を直接襲わなかったのは……おそらくだが、彼女は一撃で仕留めたいのだ。

 

 一夏の頭を、レーザーライフルによってヘッドショットで撃ちぬく一撃で。

 

 ISには絶対防御という機能がある。操縦者の命を守るために、ありとあらゆる攻撃を防ぎきる。故に、例え大口径レーザーライフルの頭部へ直撃と言っても、一夏は死なないだろう。だが同時に、絶対防御はシールドエネルギーを致命的に消費するという欠点がある。基本的にIS戦闘はシールドエネルギーの削り合いだ。これを0にしたほうが勝利する。シールドエネルギーはISそのものの稼働にも使っているからだ。

 現在の銀鋼のシールドエネルギーは600。まあ全開状態である。消費していたとしても数値に出ないほどの稼働自然減少量くらいだろう。これら全てを、彼女は狙撃の一撃で仕留めるつもりなのだ。

 異端も異端。ISでこのような戦い方をする人間がいるとは思わなかった。考えてみればそもそも彼女は先程からまるで「飛んでない」。自在飛行が長所のISを飛ばしてないのだ。長所を潰してまで、自分が最も得意とする戦法を使っているのである。

 だがそれは同時に、もしも一夏が彼女に近づき一撃を見舞いできれば、そのまま追撃で勝利するということだ。現在位置からセシリアまでの距離……二百十メートル。この死のロードをくぐり抜ける事が、一夏の勝利条件。

 

 意図を察せたであろう一夏の表情をハイパーセンサーで見て、セシリアは嗤う。

「獲物が賢ければ賢いほど、狩りは楽しくなる。さあ、踊ってください。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる銃歌で!」




ブルー・ティアーズ戦。その1 ブルー・ティアーズの見た目は、装飾がじゃっかんシンプルになっているくらいでそこまで原作と差異はないです。

一番の変更点は彼女の戦闘スタイルになります。ISでする必要があるのかというツッコミが来そうですが、ハイパーセンサーとビット・レーザー兵器の有効活用を考えた結果の戦法。という事になっています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。