世界が終わってから一体何年になるのか ーー
一向に終わりの見えない《終わり》に、人々は辟易していた。
だだっ広い荒地にただ一つ置かれた、ちっぽけなテント。
そのテントから、1人の男が大きな欠伸をしながらのそのそと這い出てきた。
その手には、男の身長程もある巨大な武器を携えて。
男は武器を地面に突き刺し、両腕を伸ばして屈伸運動を始めた。
ラジオ体操のような、そうでもないような動きをしている最中、男の目の前に異形の怪物が現れる。
いや、目の前というより周囲といった方が妥当だろう。
怪物は、大きな骨格の頭部に、同じくらいの大きさを誇る尻尾で、前足がない奇妙な容姿をしていた。
頭部の色は白のものが大半だが、灰色のものや赤や黄色の個体もいる。
怪物達が一斉に飛びかかってきた時には、既に男はその場にはおらず、群の後方にすばやく移動していた。
男が武器に付いた血糊を振り払うと同時に、数体の怪物が倒れ伏していく。
残った怪物の内の一体が、尻尾からトゲのようなものを数本射出してくるが男は難なくそれをかわし、怪物に一撃を叩き込む。
怪物が低い声の断末魔を上げて倒れると、他の個体は後ずさりをしながら男から距離を取り、ついには背を向けて逃げ出していった。
怪物達が去っていったのを見届けた後、再び大きな欠伸をして倒した怪物の死骸に歩み寄る。
「こんな小物じゃ大して足しにはならんが、仕方ねえか…」
そうつぶやきながら武器を構えると、武器はみるみるうちに形を変えていき、どす黒い口のようなものになった。
その口を怪物の死骸に突っ込み、中から塊のような物体を取り出す。
その行動は、倒した怪物全てに行った。
「けっこう溜まったな。そろそろ最寄りの支部に売っ払いにいくか」
男はそう言い、同じような塊が沢山入った厚い装甲の箱を大型バイクの荷台に載せて颯爽とサドルに跨る。
しばらく走った頃だろうか。男の側方からいきなり爆音が響いてきた。
思わず音が鳴った方向を注目する男。
するとそこには、男と同じような武器を手にした青年と、彼に向かって次々と火の玉を放つ、背中から翼のようなものが生えた紅い人型の怪物がいた。
紅い怪物はスフィンクス像のような頭部を持ち、両腕は組んだ姿勢で、翼の先端から火の玉を発射している。
火の玉は着弾すると爆発する為、青年は高く跳躍してそれをかわす。しかし、怪物はそれを読んでいたかのように、空中の青年に向かってすばやく火球を撃つ。
青年は咄嗟に武器の一部を盾にしてこれを防ぐが…
着弾時の爆発で吹っ飛ばされ、あえなく地面に落下。
青年はふらつきながら急いで立ち上がろうとするが、既に怪物は目の前まで迫ってきていた。
翼を大きく広げて一直線かつ地面すれすれに滑空し、今まさに青年に激突するかと思ったその時 ーー
勢いよく飛び出してきた大型バイクのタイヤが怪物の脇腹を直撃。怪物はあっけなく跳ね飛ばされた。
男はバイクを降り、呆然とする青年にゆっくりと近づく。
「オイオイ、セクメト如きに手こずってんじゃねーよ」
男は武器を肩に乗せて青年に手を差し出すが、青年はその手を払いのける。
「チ、余計なマネすんなよな」
「素直じゃないヤツ…」
すっくと立ち上がり、ズボンについた砂をはたく青年を冷めた目で見ていた男だが、その視線はすぐに怪物《セクメト》の方へと向く。
セクメトは何事も無かったかのようにケロっとして立ち上がり、翼をこまねいてこちらを挑発している。
「ま、バイク如きじゃ倒せやしねえだろうな」
武器を構えてセクメトと対峙する男の肩を掴む青年。思わず男は青年の方を振り向く。
「余計なマネすんなって言ったハズだぜ…コイツは俺の獲物なんだ、手出しはさせねえ!」
「…出来んのか?」
「なめんなよっっ」
そう言うや否や、青年は武器を振り上げセクメトに突っ走っていく。セクメトは待ってましたと言わんばかりに翼で作り出した火球を発射する…が、青年はこれを先程よりも低めの跳躍でかわす。
セクメトの頭上まで来たところで、武器を真下に下ろしどす黒い口へと変形させる。
そして繰り出される《噛みつき》。
「ほう…」
感嘆の声を漏らす男を尻目に青年は颯爽と着地し、再び武器を構える。
青年の身体はまるで電球のように発光し、ほんのりと熱も帯びているようだ。
「これで、この勝負もらったな…!」
青年は口元に笑みを浮かべ、先程までとは比べ物にならない程鋭い踏み込みで一気にセクメトとの距離を詰める。
そして ーー
「ちゃあっ‼︎」
手にした鎌状の武器を一気に薙ぎ払い、セクメトの脚を引き裂く。
そして素早く鎌を突き出すと、柄の部分が伸び、刃はセクメトの肩を掻き切りながら後方へ行った。
滑らかな連続攻撃にセクメトは思わず片膝をつき項垂れる。
しかし青年は攻撃の手を緩めはしない。武器の柄の角度を少し変えると…
「その首、貰ったぜええっ‼︎」
青年が叫んで力を入れると、伸びていた柄が縮み始め、セクメトの後方にあった刃が再び奴に襲いかかる。
このまま首をはねて勝利…となるはずだったが、甘かった。
もう少しというところで、セクメトは頭から真っ赤な湯気のような気体を噴き出しつつ青年の方に飛びかかってきたのだ。
「バカな…!いつの間に怒り活性化して…っ
ダメだ、この状態ではガードも出来ねえ、やられるっっ」
セクメトが翼で溜めた炎の塊を青年に叩きつけかけた時。
「ずあっっ‼︎」
セクメトの側頭部に突き刺さる鈍い一撃。
間一髪で男の武器が見事に命中していたのだ。
突然の不意討ちにセクメトは吹っ飛ばされ、青年は戻ってきた武器の反動で吹っ飛ばされた。
「ま、また邪魔しやがって…そんなに自分の手柄にしてえのか⁉︎」
「助けてもらっておいて、そういう言い草は心外だな。俺が入らなきゃ今頃お前はアイツの食事になってんだぜ」
「ケッ…‼︎」
青年はあからさまに不機嫌な表情を浮かべるが、すぐに驚嘆の表情へと変わる。
いつの間に、男の身体も発光していたからだ。
「お、おめえ…いつの間に⁉︎どうやって喰ったんだ⁉︎」
「あ?さっきに決まってんだろうがよ」
信じられないといった目をする青年を置いて、体勢を立て直しつつあるセクメトへと歩み寄る男。
セクメトが立ち上がると同時に、武器の切っ先を奴に突きつける。
「さて…《この状態》は長くはもたねえからな。さっさと終めえにするぜっ」
男は武器を構え、セクメトは火球を撃つ姿勢に入った途端。
セクメトの両翼が鈍い音を上げて砕け散った。
もう男はセクメトの目と鼻の先にいる。武器を振り上げた状態で。
そして渾身の力で武器を振り下ろす。
ーー 会心の一撃という言葉がまさに相応しい程、鮮やかな縦一文字の裂傷を残してセクメトは崩れ落ちた。
再び呆然として一部始終を眺めていた青年に男が歩み寄り、肩を軽く叩く。
「コアはお前さんにやるぜ。さっさとしねえと消えちまうぞ」
その言葉に促され、青年はセクメトの身体にどす黒い口を突き刺し、例の塊を抜き取った。
「じゃあな、いい暇つぶしになったぜ」
「おい…!ちょっと、待ってくれ」
バイクに乗り込み、去ろうとする男を慌てて呼び止める青年。
男は怪訝な表情で青年の方へ振り返る。
「アンタ、この辺じゃ見ねえ顔だが、何処の所属なんだ?」
「何処でもねえさ、俺はフリーだ」
「の…野良か⁉︎」
驚愕する青年だが、すぐに落ち着きを取り戻し、男の身の回りの品々を観察し始めた。
「その箱には、もしかしてコアがたっぷり入ってるんだろう?そんで、今まさに買い手を探してる最中だと見た」
「ああ、その通りだ。だが俺はこの辺りの地理には疎くてな。売り捌く為の支部を探していたところだ」
男から事情を聴くと、青年の顔が一気に綻ぶ。
「なら丁度いい。俺がいる支部がすぐそこにあるからよ、そこで売ったらいいんじゃねえかな?
話は俺からつけておくから」
半ば強引に推し進められた感はあれど、男も満更でもない様子で青年についていくことにした。
「そうそう、俺の名は
「
「ヘンな名前…」
「おめえに言われたかねーよ」
とは言いつつも、ようやく笑顔になった2人が早速支部に向かおうとした時だった。
『ギ…ギギ…この…ゴミ…共、が…!』
「ムッ⁉︎」
何かを感じ取り、咄嗟に振り返る男、セマノブ。
動かなくなったセクメトの亡骸がこちらを睨みつけながら、《何かを言っているように》聞こえたからだ。
「どうした?セマノブ」
「いや…気のせいだったようだ」
僅かに残るモヤモヤを押し殺し、青年ハッサクの後をついていくセマノブだった。