野良犬の矜持   作:陰毛樽ないん?

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無情

ミッション中の現場と通信によるやりとりを主な業務とするオペレーター室にて、ハッサク達の戦況を見守る担当オペレーターとセマノブ。

作戦エリアに存在する神機使いやアラガミの、位置やオラクル反応がわかるレーダーモニターを眺めながら歯がゆそうな表情を浮かべるセマノブ。

 

「信じられねえ…ハッサクの奴、オラクル濃度をあそこまで引き上げられるとはな。。

だが、もっと驚くべきはハンニバル・ゲンの方か。

逆鱗の損壊によるオラクル濃度の上昇率が並のハンニバルより数倍でかい上に、怒り活性化でさらに跳ね上がりやがった…!」

 

モニターを食い入るように眺めていたセマノブが、ふとオペレーターの方に視線をやる。

 

「なあオペレーターのお嬢ちゃん、俺がこのミッションになんとか参加出来る方法とか、ねえのかな⁉︎

このままだとハッサク達が殺されちまう…!」

 

「え…そう言われても…進行中のミッションへの介入権限を持つのは隊長格以上の隊員に限られますし、第一あなたはここの所属隊員でもな」

「んなことは分かってんだ!何か他のアプローチの仕方はねえかって訊いてんだよ‼︎」

 

言葉を遮り、突然大声を出すセマノブに顔を引きつらせ今にも泣きそうになるオペレーター。

セマノブもハッと我に返り、下を向く。

 

「いや…すまなかったな。。

あんたに当たり散らしても仕方ねえのによ…」

 

「いえ、こちらこそ、お力になれなくてすみません…」

 

何故か謝るオペレーター。セマノブと同じように、下を向き項垂れてしまう。

 

「グロフォードとかいう隊長はハッサク達から離れた場所で他のアラガミとやり合ってるみてえだし、ハッサクと一緒にいた神機使いの反応が一人分、さっきから消えたままだ。。

おそらくヒロヒデって奴だろうが、やられちまったって事か…?ちくしょう、一体どうなってやがるんだ⁉︎」

 

壁を殴り苛立ちを募らせるセマノブと、その様子を怯えながら見つめるオペレーター。

するとその時、別のミッションから帰還した神機使い達がオペレーター室の受付カウンターの前を通りかかる。

 

「なあリーダー、なんでミッションリタイアなんかしたんだ?俺達の腕なら、あんな奴ら一掃出来たはずだ」

 

「アホかお前、俺達がいたあの廃神社エリアはクオーツの部隊が交戦してるハンニバル・ゲンがいるんだぜ⁉︎

もし下手に接近して、こちらの存在を感づかれてみろ。

みすみす奴の餌食になるのは目に見えてるぜ」

 

「それもそうか。。さすがリーダー、頭いいぜ」

 

ヘラヘラと談笑しながら去って行こうとする神機使い達の目の前に立ちはだかったのは…セマノブだった。

 

「なんだよお前…何か用か?」

 

「悪いが、あんたらの会話を聞かせてもらった。

ハッサク達の部隊がいるエリアにさっきまでいたそうだな。。」

 

神機使い達は互いに顔を見合わせ、リーダーと思しき人物が一歩前に出る。

 

「ああ、そうだぜ。あのハンニバル・ゲンの近くまで来ちまったから、やむなく撤退してきたんだ。

こちとらやり合う気はサラサラねえのに、向こうから襲ってきて、殺されたりしたらシャレにならねえからな」

 

「で、お前達が相手をしていたアラガミはどうなった?」

 

「さあな、倒しきる前に撤退したもんだからよ、その後はどこへ行ったかは知らねえな。。

どこかで食事会でもしてんじゃねーの?」

 

両掌を上に向けて、ヘラヘラと笑う浮かべるリーダーの男。しかし次の瞬間、その笑いが消えて無くなった。

セマノブに胸倉を掴まれていたからだ。。鬼気迫るセマノブの表情は、まさに恐怖の一言だった。

 

「そのアラガミ達がどうなったか教えてやろうか…

全て、クォーツの隊長の所へ行ったんだ!ハッサクからの救難信号を受けて、駆けつけようとした隊長の所へな!

おかげで隊長の奴は足止めを食らって身動きがとれねえ状況だ‼︎」

 

「ま…まさか…⁉︎」

 

「ウソじゃねえ。。俺は今までずっとモニタリングしてたんだ!

ハッサク達は命の危険を顧みずに、あの恐ろしいゲンに挑んでるってのに…それに引き換え、てめえらは戦ってすらいねえのに、ただ強くて勝てそうにねえから逃げただと⁉︎腰抜け共が、恥を知れ‼︎

てめえらがミッションを丸投げなんかしなけりゃ、こんな事にはならなかったんだッッ‼︎」

 

「なんだと…⁉︎薄汚ねえ野良犬の分際で、俺達に説教するつもりか!」

 

リーダーの男がセマノブの胸倉を掴み返し、激しい罵り合いになる。周りは完全に凍り付き、まさに修羅場の状況だ。。

 

「や、やめてください…‼︎

ケンカはやめて…‼︎」

 

振り絞りながらもどこか弱々しい声が響き渡ると、掴み合っていた2人が動きを止め、声がした方を見る。

そこには、両目を潤ませ震えているオペレーターの姿があった。。

 

「こんな所で言い争っても、何の解決にもなりません。。

今は祈りましょう…チームクオーツの無事を…‼︎」

 

唇をきゅっと噛んで耐えていたオペレーターだが、とうとう耐え切れず…一筋の涙が溢れた。。

そして、掴み合っていた2人はようやくその手を離す。

 

「チ…付き合ってらんねえぜ、行くぞお前ら!」

 

リーダーの男が号令をかけると、他の神機使い達もその後を追ってぞろぞろと立ち去っていった。

彼等が去った後、オペレーターが踞って顔を両手で覆っていると…ふと頭に違和感を覚えた。

 

「これは…」

 

「いいから取っときな。せっかくの綺麗な顔が台無しだぜ」

 

セマノブからもらったハンカチを顔に当てがい、涙を拭き取ったオペレーターが、またもや顔を覆った。

今度は別の意味があるらしい。。

セマノブはあまりオペレーターの方を見ないようにしながら、話しかける。

 

「なあお嬢ちゃん、良い方法を思いついたんだが…。

さっきの奴らが放棄したミッションって、今はフリーになってるのか?」

 

「え…?あ、ちょっと調べてみます」

 

急ぎカウンターのミッション管理用PCを操作し始めるオペレーター。

そして顔を見上げて目を見開くと。

 

「ありました!確かにフリーミッションで再びオーダーに並んでますね。ただ例のハンニバル・ゲンが付近にいるとのことで、難易度はとんでもないことになってますが。。」

 

「それでいいんだ、そいつを見りゃ誰も受けたがらないだろうからな。

…俺以外は!」

 

「え…今なんて」

 

オペレーターが目を丸くしていると、セマノブは颯爽と荷物を肩に担いで靴紐を直し始める。

 

「言葉通りの意味だ。俺がそのミッションを引き継ぐっていうな。

フリーなら、確か支部の所属かどうかは関係無い。つまり野良の俺でも受けられたはずだ。

早速、受注手続きを頼む」

 

「…わかりました。では!」

 

オペレーターは手慣れた動きでPCを操作し…

再びセマノブの方へ顔を向ける。

 

「出撃許可がおりました!

…本当に、行くんですか?」

 

「厳しい事を言うようだが…ただ、じっとして腐ってても何も変わりゃしねえんだ。

祈ってるだけで何か解決した事なんてあったか?

その答えは、今まで数々のミッションを見届けてきたお前さんが一番よく知ってるはずだ。。

…ほんじゃ、行ってくらあ‼︎」

 

オペレーターに向かって軽く敬礼をした後、猛スピードで駆け出していったセマノブ。

その後ろ姿を見つめながら、オペレーターはただ静かに、胸の前で両手を握り合わせた。

 

「どうか…お気をつけて…」

 

 

 

 

 

 

普段は周囲を欝蒼とした木々に囲まれ、昼間でも薄暗い廃神社の本殿付近にはひときわ明るい光が沸き起こっていた。

ゲンが放つ炎が主な要因だというのはあえて言うまでもないが。。

 

「当ててみろよッ⁉︎え⁉︎」

 

次々にゲンが吐き出す火球を軽々とかわしていくハッサク。バーストレベル3のスピードにご満悦のようだ。

 

次に飛んできた火球を前進しながら避け、すれ違い様にゲンの土手っ腹に一撃を浴びせる。

 

『ぬぅっ…』

 

そして振り向いたゲンの眉間に再び斬撃を見舞う。

その攻撃によって鼻っ柱と口先がパックリと裂け、なんとも滑稽な顔面になった。

 

『グ…おのれ、青二才の分際で…!

まさか貴様のような下郎に、とっておきを使う事になるとはな。。』

 

ゲンが仁王立ちになり、両腕を開き掌から炎を発生させる。そして炎は形を変え、まるで刀剣のようになった。

 

「へ!それがお前のとっておきか⁉︎笑わせやがって…

んなもん、フツーのハンニバルだって使ってらあ」

 

『俺がそのフツーのハンニバルとはわけが違う、という事も十分知っているはずだが?』

 

「ほぅ…!じゃあどう違うのか、ぜひ教えてもらいたいね‼︎」

 

言い終わると同時に、鋭い踏み込みで間合いを詰めて鎌で斬りかかるハッサク。ゲンは片方の火の剣で攻撃を受け止め、もう片方の剣でハッサクの胴体を狙うが。

 

剣はハッサクの身体に届く前に止まってしまった。

ハッサクの神機から発現したプレデターの顎が、見事に剣を食い止めていたからだ。

両方の剣を止められたゲンだが、焦るどころか不敵な笑みを浮かべる。

 

『なかなかの反射神経だ。ならば、これはかわせるかな⁉︎』

 

ゲンの口に炎が溢れ出す。すぐに危機を察知したハッサクだったが、2本の剣を止めている最中の為に思うように身体が動かせない。

そんなハッサク目掛けて、容赦なくゲンの口が開く。

 

「うぉおああっ‼︎」

 

特大の火球が至近距離で放たれたにも関わらず、ハッサクが受けたのは比較的軽い火傷で済んだ。

咄嗟に神機を引っ込め、装甲を構えたからだ。

だが直接的なダメージは小さいにしろ、衝撃を受けた両腕には強烈な痺れが残った。

 

『あれをよく防いだな。。だがこの攻撃は絶対にかわせん‼︎』

 

ゲンは剣を肩付近に掲げて高々と跳び上がる。

そして、ハッサク目掛けて急降下してくるのだが…

 

「ハッ!何かと思えば…やっぱりやることはフツーのハンニバルと変わらねえじゃねえか‼︎」

 

迎撃の姿勢を取るハッサクだが、次の瞬間彼は目を疑う。

剣だけを残し、ゲンの姿が消えていたのだ。。

 

「何⁉︎…き、消え」

 

『ここだ!』

 

瞬時にハッサクの背後に回り込んだゲンが、彼を羽交い締めにする。

腕はまだ痺れが残っている為、思うように神機を扱えない。必死に抵抗するハッサクだが、圧倒的なゲンの腕力を前に振りほどくことは叶わず。。

 

「バカが…!俺の動きを止めてあの剣を突き刺させようって魂胆だろうが、このままくっついていればてめえだってタダじゃ済まねえんだぜ⁉︎」

 

ハッサクは余裕のない挑発をするが、ゲンにはそんなものは効かない。

 

『おあいにく様だな。アラガミがその程度で死なないのは知っていよう…それにあの剣は俺の攻撃だ。自分の攻撃で自分が受けるダメージくらい調節出来る。

そんなことより我が身を心配したらどうだ?』

 

「ク…‼︎」

 

『あの剣がまともに刺されば即死、まあよくて瀕死といったところか。。

どうなるのか、見ものだな』

 

ハッサクの耳元で不気味な声を出し、羽交い締めにする腕に一層力を込めるゲン。

ハッサクはたちまち苦悶の表情に変わる。

 

「クッソォォオオッ‼︎カ、カボスーーーー‼︎」

 

声を振り絞り、助けを求める。

しかしカボスは神機を銃形態で構えたままで、動きを見せない。

 

「ごめんなさいハッサク!さっきので攻撃用オラクルを使い切ってしまったの…‼︎

Oアンプルも全部使い切ってしまったし…」

 

「な…なんだってえええ⁉︎」

 

まさに絶望といった表情になるハッサク。

すると、しばらく空中で動きを止めていた剣が再びハッサクに向かって動き始めた。

 

まともに喰らえば命はない。

悪足掻きとはわかっていても、ジタバタと身を捩らせるが…

 

「ーーーーー!!!」

 

燃え盛る炎の剣は、ゲンの身体ごとハッサクを貫いた。

剣が後方の地面に突き刺さったのを確認したゲンが、ようやくハッサクを解放する。

 

ハッサクは無言のまま…地に倒れ伏した。。

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