思わず目を疑う3人。セマノブがなぜここにいるのか、ということもあるが、もっと驚いたのはそのセマノブとフォアが神機を構えて向かい合っていることに、だった。
2人の周囲にアラガミはいない。
この状況から、誰がどう見ても2人が戦っているようにしか見えないのである。
「なんで、なんであの2人がやり合ってるんだ⁉︎」
「んなこと俺が知るかよッ」
「でも、2人ともアラガミ化の兆候はなさそうだから、《介錯》ではないわね。ただの《組手》なのかしら…?」
「んなもん支部の訓練場で出来るだろ!何でわざわざ戦場でするんだ⁉︎」
「だから俺が知るかっつーの‼︎」
しどろもどろするハッサク達をよそに、セマノブとフォアはジリジリとその間合いを詰める。
先に仕掛けたのは、フォアだった。
「ふっっ‼︎」
スピアによる俊速の突きが、次々とセマノブに襲いかかる。
だがセマノブは突きという突きを軽くかわし続け、大きく横に身体を傾けた際に、ブレードによる薙ぎ払いを繰り出す。
フォアの方もその攻撃を跳躍して避け、空中から再びセマノブの顔面目掛けてスピアを突き出す。
だがセマノブも同じく跳躍し…
「だぁあッッ‼︎」
大きくブレードを振りかぶり、フォアに向かって振り下ろす。
しかし、フォアの手捌きで素早く取り回されたスピアによりセマノブの攻撃は受け止められ…
「フンッ‼︎」
ガラ空きになったセマノブの腹部にフォアの前蹴りが炸裂。
蹴りをまともに喰ったセマノブはそのまま地面に叩きつけられ…る直前に神機を地面に突き刺し、宙返りをして着地。
「へへ…やっぱやるなぁ、おめえ。
さすが隊長張ってるだけのこたぁあるぜ」
「抜かせ。。おだてたところで手加減などせんぞ」
不意のセマノブの発言にも、至って冷静なフォア。
そんな2人の様子を、離れた物陰から眺めているハッサク達にしばしの緊張が走る。
「おい…ヤベえって。止めた方がいいんじゃねえのか?」
「バカ言え。。あの2人のオラクル濃度を測ってみろよ。
基礎値だけでも、俺達のそれをはるかに上回ってんだ。
しかも、バーストしてない状態でのそれだからな…全く恐ろしい限りだぜ。。
ハッキリ言って、俺達が行ったところでどうにもならん」
「そうよね、邪魔になるだけかも、ね…」
ハッサク達がこそこそと話し合っている間に、睨み合っていたセマノブとフォアに動きがあった。
今度は先に仕掛けたのはセマノブだ。
鋭い踏み込みでフォアの眼前に迫る。
即座に構えるフォアだが、セマノブは目の前から消え…
不意にバック宙をするフォア。
直後、背後に回り込んでいたセマノブの斬撃が、フォアがいた場所を通り抜けた。
フォアは宙返りをしながら空中で神機を変形。
ちょうどセマノブの真上に来た時、ショットガンの銃口を
セマノブの頭部に向け…
「消えろ」
放たれる多数の散弾。
観戦していた3人は思わず目を瞑る。あの至近距離でショットガンを撃たれれば、まず無事ではない事がわかっていたからだ。。
だが…セマノブは、神機を前方に掲げて普通に立っていた。
セマノブは不敵に笑い、フォアは意表を突かれ、ハッサク達は度肝を抜かれていた。
「お、おい…セマノブの奴、一体どうやったんだ?
ただ神機を目の前に翳しただけで、弾丸を全て防いだってのか⁉︎」
問いかけるヒロヒデに、ハッサクは黙って首を横に振る。
「違うな。隊長が発砲した後、着弾までのほんの僅かな一瞬の間に神機を高速回転させて、あのスラッグ弾を一つ残らず弾き飛ばしたんだ…‼︎」
ヒロヒデとカボスは思わず息を呑む。彼等はまるで、悪い夢でも見ているような感覚だった。
一方のフォアは、神機を再び近接形態に戻してセマノブの方に身体を向ける。
「なぜだ…並の神機使いなら、今ので間違いなく蜂の巣になっていた。。
貴様、一体…‼︎」
「さあな。並以上だからじゃねえのか?」
互いに神機を構え直し、再び間合いに入らんとしたその時。
わずかなオラクル反応が2人に近づく。
その事にほぼ同時に気付いた2人が反応があった方を見ると…
一体のオウガテイルが草叢から姿を現した。
「フン…新たな観客か。それとも、ただの身の程知らずのゴミか。。
どちらでもよい、此奴は貴様にくれてやろう。さっさと喰ってバーストしたまえ」
「あ、そう?随分と気前がいいんだな。
…じゃあ遠慮なく」
素早く神機をオウガテイルに向けたセマノブが、プレデターを発現。凄まじい勢いで捕食口を展開させ、オウガテイルに何もさせないままその上半身のみを食いちぎり…飲み込んだ。
「俺だけバーストすんのもフェアじゃねーからよ、おめえにもやるよっ」
残った下半身を捕食口で咥え、フォアのいる方向に放り投げる。
フォアは飛んで来たオウガテイルの残骸をスピアで突き刺し…明後日の方向に投げ捨てた。
「ふ、隊長たる者が野良風情からお溢れを貰うようになったらお終いだな。。
私はこのままで充分だ」
「あらあら、余裕ぶっこいちゃってまあ」
再び対峙するセマノブとフォア。
フォアが挑発的な手招きをし、それを見届けたセマノブが一気に飛びかかる。
間合いに入ると共に、セマノブはブレードを振り上げる。
フォアはこれを装甲ではなくスピアの柄で防ぎ、続く連撃も次々と受け止めていく。
「バーストして、パワーとスピードが上がってもこの程度か。。やれやれ…期待外れもいいところだ」
バースト状態のセマノブの攻撃を難なく防ぐフォアを、ヒロヒデは思わず見とれていた。
「すげえ…さすが隊長だ。あのセマノブの攻撃を余裕で防いでいるぜ。しかも隊長はバーストもしてねえのによ。
この勝負、隊長の勝ちだな。なあ、ハッサク?」
またもや問いかけてくるヒロヒデに、ハッサクはまたもや首を横に振る。
「いや…わからねえぞ」
「え…?」
否定されたヒロヒデは目を丸くして首を傾げる。
「セマノブのオラクル濃度を見てみろ。バーストしてるにも関わらず、上昇率は通常時とさほど変わってねえだろ」
「た、確かに言われてみれば…」
「余裕があるのはむしろセマノブの方かもしれん。
もしあいつが力を爆発させりゃ、いくら隊長でも防ぎきれねえと思うぜ。だがかなり控え目に攻撃してる。。
今までの立ち合いで、手を抜いて勝てる相手ではないということはセマノブ自身がわかってることだ。
一体何を考えてやがる…」
ハッサク達が陰でそんな会話をしているとは露知らず、セマノブは攻撃を続ける。
だがさすがにバテてきたのか、攻撃スピードが次第に緩くなっていく。その隙をフォアが見逃すはずもなく…
「フンッ‼︎」
上から振り下ろされたブレードを横に向けたスピアで受け止め、勢いよく押し返す。
押し返された反動で大きく仰け反り、《死に体》となったセマノブに向かって猛烈な勢いで踏み込み、懐に入るフォア。
神機は、いつの間にか銃形態になっていた。
「終わりだ」
再び至近距離からの銃撃がセマノブを襲う。
今度は先程のように神機を回転させて防ぐ事は出来ない。
勝負あった…と思ったフォア、そしてハッサク達だが。。
「⁉︎⁉︎」
「へへ…なかなか美味えな、おめえの弾は」
またもやセマノブは一発も被弾せず、余裕の笑みを見せていた。
その手元には、咄嗟に発現させたプレデターが口をモゴモゴさせている。フォアの放ったオラクル弾を全て《喰った》のだ。。
「バカな。。プ、プレデターで、神機の弾丸を喰うなんて…
そんな話、聞いたことが…‼︎」
「へへ、驚いたか?
なら今度はこっちがプレゼントする番だな。とは言っても、おめえのオラクルをそのままお返しするだけだが…よ‼︎」
言い終わると同時に、後ろに引いていたプレデターを思い切り前方に突き出す。
プレデターの口が開き、閃光とも言える放射状のオラクル波が飛び出し…フォアの側面をかすめていった。
「ぐ…ぐくくッ!」
目を見開き、戦慄するフォア。
もしまともに喰らっていたらと思うと…フォアの顔には脂汗がどっと溢れ出す。
「ちぇ〜…幅を狭くしすぎたかな。ちょっと角度がずれちまったぜ。。」
とは言いながら、鼻息を吹き神機を肩に担ぐセマノブ。そんな彼を歯を食いしばって睨みつけるフォア。
しかし、驚愕しているのは彼だけではなかった。
ハッサク達も…震えを隠せずにいた。
「あ、あれは…。一緒だ、ピターの身体を半分も削ぎ落としたあの時の攻撃と…!」
「なんだと⁉︎今の技って、さっきカゲマサがゲンに対して使った技じゃねえか!セマノブも使えるってのか⁉︎」
突然、ハッサクが何かに気付いたようにハッとした表情をする。
「そうか…!わかったぞ。。
相手のオラクル攻撃をプレデターで喰らうには一定量のオラクルが必要だ。そしてあの攻撃自体も多量のオラクルエネルギーを必要とする。
だから、あえてオラクル濃度を抑えていやがったんだ…!」
セマノブがゆっくりと歩み寄り、神機をフォアの鼻っ面に突きつける。
「おめえの言った通り、終わりは近えようだな。
もうここらでやめにしようぜ。やっぱ俺達が殺し合ったって、何の利益にもならねえ」
終戦提案をするセマノブを、キッと睨みつけたフォアがスピアを振り上げ、セマノブの神機を思い切り払い退ける。
「うぉおッ…と⁉︎」
その勢いでセマノブはバランスを崩し、なんと尻もちをついてしまった。
その隙を逃さず、フォアは勢いよく踏み込んでスピアの刃先をセマノブの喉元目掛けて…
突きつけた。
「やっべえ、油断しちまったぜ。。
やっぱ強えなあ、おめえ。さあ、とどめを刺せよ」
「…断る」
神機をすっと引き、いつもの落ち着いた表情になるフォア。
セマノブもすっくと立ち上がり、自らの尻や足をパンパンとはたく。
「貴様、さてはわざと転んだな?
一体何のつもりだ。。」
「うへぇ…バレてたか」
軽く舌を出し、後ろを振り返るセマノブ。
その目線の先には…ハッサク達がいた。
「お〜い!終わったぜ。おめえらも、いつまでもコソコソしてねえでこっちに来いよッ」
セマノブの声を聞き、互いの顔を見合わせる3人。
「へへ、俺達のこともとうにバレてたらしいな…」
フォアとセマノブの元に駆け付けたハッサク達。
すぐさまセマノブに肩を貸そうとするハッサクだが…
「俺はいいから、隊長さんの方に行ってやんな。
俺とやり合う前に散々アラガミと戦ってたんだ。体力の消耗は激しいはずだぜ」
セマノブに促されたハッサクは黙って頷き、フォアの元へ駆け寄る。
他人の手は借りんとばかりにハッサクを遠ざけようとするが、ハッサクは無理矢理フォアの脇に頭を通す。
「支部へ帰りましょう、隊長。
こんなところにいつまでも長居は出来ない」
ハッサクの進言に、力無く頷くフォア。相当疲弊している様子だ。。
そして、ふとハッサクが振り返り、セマノブを見る。
「アンタも一緒に来てもらうぜ。
また色々と聞きてえ事が出来ちまったからな」
「…やれやれ」
ハッサクは正面を向き直すと、フォアと共に立ち去っていった。そして、その後に続くヒロヒデとカボス。
残されたセマノブは、頭をボリボリと掻きながら難しそうな表情を浮かべていた。。