ハッサク達が所属するチームクオーツの部隊がハンニバル・ゲンの討伐任務を終えて帰還している最中、別な場所で別部隊のミッションが行われていた。
「おいリーダー、いくら溜飲が下がらねえからってここまで張り切らなくてもいいんじゃねえか?
もうこの辺で…」
「うるせえッ‼︎あんな野良犬野郎にコケにされて、黙っていられるかってんだ‼︎
俺達が腰抜け共だと…⁉︎なめたクチ利きやがって、まったくアタマにくるぜッッ」
そう言うと、目の前にいたシユウの頭部をブラストのエミッター弾で吹き飛ばすリーダーの男。
この者達こそが、先ほど支部にてセマノブに腰抜け呼ばわりされ一喝された部隊である。
よほど我慢ならなかったのか、あの後すぐにミッションを受注し隊員を引き連れ出撃し…今に至る。
だが躍起になってアラガミを蹴散らしているのはリーダーだけで、他の隊員はさもやってられないとばかりに後をついてくるだけである。。
「リ、リーダー…ちょっと、報告すべきことが…」
「あぁ⁉︎一体何だ‼︎つまらん事だったらテメーのドタマをブッ飛ばすぞ⁉︎」
大声を出して凄むリーダーに圧倒され、隊員は思わず目を逸らしてしまう…
「例のハンニバル・ゲンなんですが…その…チームクオーツが、無事討伐を果たしたとの速報が。。」
「な…なにぃ⁉︎あの、ゲンをか⁉︎
そうか、グロフォード隊長だな。奴を倒せるのはあの人ぐらいしかいまい」
「それが、違うそうなんです」
いそいそとシユウのコアを抜き取っていたリーダーが、ピタリと動きを止め隊員の方を振り向く。
「グロフォード隊長はゲンと交戦していません。
交戦したのは須逹、文枝、青戸の3人で、実力的に考えて須逹がやったのかと…」
「須逹、だと…?バカな、何かの間違いだ。。
かつてヴァジュラの前で小便漏らしてた、あの《負け犬ハッサク》がゲンを倒せるはずが…」
ワナワナと震えるリーダーは次の瞬間、空を眺めたまま動きが止まってしまった。不思議に思った隊員達がリーダーの前に回り込み、顔を覗き込む。
「リーダー…?どうかしましたか」
「空から何か降ってきやがった…
隕石、か?距離はそう遠くないのに、音は全くしなかった。。」
隊員とは目を合わせず、ブツブツとつぶやいていたリーダーのオラクル探知レーダーが、新たなアラガミの反応を捉える。
他の隊員達も同じく反応を捉え、リーダーに駆け寄る。
「こ、こいつは…俺がさっき見た隕石の落下地点とほぼ同じ場所じゃねえか…⁉︎アラガミだったのか‼︎」
そう確信すると神機を握り締め、やる気を漲らせるリーダー。そんな彼にひとりの隊員が近付く。
「ですがリーダー!この個体の反応は過去に検知されたことがありません。おそらく新種かと。。
ここは下手に手を出さず、一旦支部へ戻り上層部へ報告した方が賢明と思われますが」
提案をする隊員を、リーダーは非常に冷めた目で眺める。
まるで汚い物でも見ているような目だ。。
「バカか、そんなことしてみろ。またあの野良犬に腰抜け…いや、今度はクズ呼ばわりされるぜ。
丁度いいじゃねえか、俺達の力を見せつける格好のチャンスってわけだ。
反応を見る限り、ゲンほど厄介な奴じゃなさそうだしな。コイツを殺れば、一気に隊長に昇格間違い無しだッ‼︎」
たちまち不敵な笑みを浮かべて、走り去るリーダー。
取り巻きの隊員達は互いの顔を見合わせ、深く溜め息を吐いてリーダーの後を追っていった。。
ようやく反応がある地点に到着した隊員達は、障害物に身を潜めて捕食中のアラガミの様子を伺っているリーダーに近寄る。
リーダーは、明らかに不愉快そうな表情をしていた。。
さもそのはず、新種であることを期待してわざわざ足を運んで来たのに、目の前にいたのはなんてことのない、中型種のヤクシャだったからだ。
「チ…期待ハズレもいいところだぜ、ただのヤクシャだとはな。。
オラクル濃度もゴミみてえなモンだしよ。いいか、お前らは絶対手出しすんじゃねえぞ…俺が一瞬で片付けてやる。
俺にはハイドアタックのスキルがあるんだ。。」
そう言いつつ、ブラストの銃口を上空に向けてバレットを撃ち出す。
放たれた弾丸は一定距離を進んだ後、ピタリと停止してその場に留まった。
一見不可解な行動だが、隊員達はリーダーが何がしたいのか、すぐに察知した。
息を潜めて様子を伺う隊員達、一方のヤクシャは相変わらず黙々と食事を続けている。。
その間、上空に留まったバレット弾がみるみる大きさを増していく。
「そろそろだな…アレが奴の足元に落ちてドカンと大爆発、木っ端微塵ってワケよ。。完璧だ」
最初はサッカーボール程の大きさだった弾が、いつの間にか直径2mを超える大玉になり、そして…
ヤクシャ目掛けて急降下していった。
直後、ヤクシャがいる地点を中心に凄まじい爆発が起き、大量の砂埃が辺りに舞い散る。
砂埃の事まで計算に入れていなかったリーダーと隊員達は、目を瞑り鼻と口を手で覆い激しく咳込む。
滲みる目を擦りながら、ヤクシャがいた場所を見る。
予想通り、跡形もなく消え去っていた。
「ゴホ、ゴホ…!…へ、へへ。やってやったぜ、ざまあみやがれってんだ‼︎」
噎せながら勝利を噛みしめるリーダーの背後から隊員の声が聞こえてきた。
「リーダー!まだやってません。。
奴の反応が…我らの、真横に移動しています…‼︎」
「な、なんだとッ⁉︎
あの攻撃を、よ、避けられたってのか⁉︎」
「あ、あそこに‼︎」
隊員の一人が指差すその先には、瓦礫の高台に陣取ったヤクシャが悠然と立ち尽くしている。
そして、右手に備えた砲身を神機使い達に向かって構え…
球状のオラクル弾を撃ってきた。
一見、なんでもないただの砲撃と思った神機使い達は、装甲を構えて受け切るつもりでいたのだが…
「マ…マズイ!お前ら、避けろーーッッ‼︎」
リーダーの怒声が響き渡り、すぐに着弾予測地点から飛び退く面々。
直後、リーダーが使った弾と同レベルの大爆発が発生し、その爆風が追い風となって、空中にいた隊員達を勢い良く吹き飛ばしていった。
吹き飛ばされた隊員達は、それぞれ壁や瓦礫に叩きつけられ、ほぼ全員が気絶してしまった。。
残ったのは、リーダーと隊員1人のたった2人である。
「な…なんてこった。。こんな事が…‼︎」
まさかの展開に、半ば放心状態になるリーダーの目前に隊員が踊り出る。
そして、ゆっくりと歩み寄ってくるヤクシャと対峙した。
「リ、リーダー…!あなたは支部に戻って、応援を要請して下さい!
コイツは私が食い止めます、全滅だけはなんとしてでも避けねば…‼︎」
「だ、だが…!」
想定外の苦境に、一気に弱気になってしまったリーダー。
しかしその高いプライド故に、退却などという惨めな真似は出来なかった。。
そんなリーダーの方に振り向いた隊員、その目は異様に血走っている。
「早く行って下さい‼︎この個体のオラクル濃度は初めより格段に上昇している…‼︎
正直、とても我々の手に負える相手ではなくなっています‼︎」
「チ…チキショーーッッ‼︎」
隊員とヤクシャに背を向け、一目散に走り出すリーダー。
その背中に、空気を切り裂くような断末魔の叫びが突き刺さる。
それはヤクシャのもの…ではない。
恐る恐る顔を横に向け、そして後方を見る。
たった今まで会話をしていた隊員が…もはや、物言わぬ肉片と化していた。。
血塗れになった砲身を舐め回しながら、ゆっくりとリーダーに向かって歩き始めるヤクシャ。
さすがのリーダーも命の危険を存分に感じたのか、腕輪に備わっている救難信号装置を作動させた。
「俺ともあろう者が、何とも情けねえ。
だがよ、例え俺がここでくたばっても、中国支部の優秀な神機使いが必ずてめえをぶっ殺しに来るだろうぜ…」
リーダーが喋り終わるのを待っていたかのように、ヤクシャは砲身を彼に向け、標準を合わせる。
そして銃口は光り出し、その光はみるみる大きくなっていく。
「だがよ…もちろんただではやられねえ!
とことん抵抗させて貰うぜッッ」
そう言い、ブラストを構えて力を溜め始める。
ヤクシャの砲身と同じく、銃口に光が集まり球のような形状になっていく。
「喰らえ、クソヤローーーッッ‼︎」
リーダーの絶叫と共に球状の光が筒状の光線のようになり、ヤクシャに向かって一直線に放たれてゆく。
一方のヤクシャも、銃口で溜めていたオラクルエネルギーを解放。同じように、筒状の光線となってリーダーに向かって伸びる。
そして二つの向かい合う光線が両者の間で激突、衝突面から周囲にオラクルの飛沫が飛び散り、凄まじい押し合いとなった。
「うぉおお、クソッタレ…!」
リーダーが神機に一層力を込めると…光線のオラクル濃度が増し、ヤクシャの光線をジワジワと押し返し始めた。
だが…ヤクシャの顔にはまだまだ余裕が溢れている。
確実に押し返して行き、衝突面がいよいよヤクシャの手元に届かんとした…その時。
さすがにバテたのか、ほんの一瞬だけリーダーの力が緩む。
だが、このアラガミはその《一瞬》を見逃さなかった。
一気にオラクル細胞を自ら活性化させ、その爆発力を砲身に込める。
すると、ヤクシャの手元まで来ていた衝突面があっという間にリーダーの目の前まで迫っていき…
「な…、な、なにぃいい⁉︎⁉︎」
一瞬の閃光の後、大爆発が巻き起こる。
しばらくして、何かが空から降ってきた。
それは…リーダーの腕輪と、それを装着していた腕 ーー