野良犬の矜持   作:陰毛樽ないん?

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交錯

24時間、利用者が絶えることがない支部内の大食堂。

その一角に、ハッサクとセマノブが向かい合ってテーブルに座っている。

 

「で?聞きたいことって何だ、ハッサク」

 

質問を投げかけるセマノブに、ハッサクはコップの水を一口飲み、目を合わせる。

 

「単刀直入に言う。隊長と何があった?どう考えても普通じゃなかった。。

何であんなことしてたんだ?先にふっかけたのはどっちだ?そもそも何でアンタがあの場に居たんだ?」

 

矢継ぎ早に質問を繰り出すハッサクに、セマノブは横を向いて大きく鼻息を漏らす。

 

「おいおい、ちょっと質問が多すぎるぜ…

ちゃんと答えてやっから落ち着け」

 

セマノブも、水を一口飲み椅子の背もたれに体を預ける。

 

「まあ、俺なりのやり方でお前らの任務にお邪魔させてもらったわけだが。もちろん、別な任務でな。

そしたら討伐対象のアラガミは、既にあのグロフォードとかいう隊長が蹴散らしちまってたからよ、これ幸いとばかりにお前らの元へ向かおうとしたワケよ」

 

「…」

 

「その時、急に呼び止められたんだ、隊長さんに。そして俺にこう言った。

『貴様を生かしておくのは危険すぎる、今のうちに排除しておく』ってな。

完全に意味不明だったがよ、とにかく先に仕掛けてきたのはあっちの方だってのは確かだ。。

で、ああなったってワケ。おわかり?」

 

「つまり、喧嘩売ったのは隊長だったってのか…?

にわかには信じられんが…」

 

腕を組み考え込むハッサク。セマノブはコップに手を伸ばし一口、二口、と水を飲む。

 

「ま、信じる信じないはおめえ次第だがよ、隊長さんの腕は確かなモンだぜ。ちゃんと言う事聞いてりゃ、まず死ぬなんてこたあねえハズだ」

 

「ああ…性格にちと難があるがな」

 

苦笑いを浮かべる2人が座るテーブルに、各々が注文した料理が運ばれてくる。

ハッサクの方は至って普通の分量だが、セマノブの方は悠に5人前くらいの量がある。。

 

「ようやく来たな。さあ食おうぜ!

…確認するが、ホントにおめえの奢りでいいんだな⁇」

 

身を乗り出しハッサクの顔を覗き込みながら言うセマノブ。

ハッサクは、唖然としていた。。

 

「へ⁉︎…あ、ああ。。どんどん食っていいぜ。。

ハンニバル・ゲン討伐任務の報酬が予想以上だったからな。。

…て、聞いてねえし」

 

ハッサクが言い終わる前に、既にセマノブは食べ始めていた。。

 

 

自分のペースで黙々と食べ続けるハッサクをよそに、セマノブは既に食べ終わり、水をぐびぐびと飲んでいる。

そしてまた身を乗り出してハッサクを凝視した。

 

「そういやあよ、俺が受けた別任務…よその部隊の連中が放棄したミッションを引き継いだんだが、その連中のこと何か知ってっか?」

 

ハッサクもセマノブと目を合わせ、食器を皿に置く。

 

「ミッション放棄…多分、チームシトリンの部隊だろう。

あいつらはトルキスのような特攻系とは違って慎重派な連中だからな。。気になるのか?」

 

「いや…身勝手な理由でミッション放棄しやがったからよ、アタマに来たから説教してやったんだが。。

あのリーダーって呼ばれてたのが隊長なのか?」

 

「違う違う…あの人はただの」

 

「あんな下郎が隊長なワケないだろう…」

 

ハッサクの言葉を遮るように野太く低い声が2人の耳に飛び込んできた。

思わずその方向に目線を向ける2人、そこには…

 

「お前は、、カ、カゲマサ…!」

 

「!…俺の名を…そうか、貴様はあの時倒れていた神機使いだな。。

ちゃんとあの“女”には礼を言ったか?命を救ってくれた“女”にな」

 

「ぐ…」

 

やけに女という部分を強調するカゲマサに、ハッサクはあからさまに不快感を露わにする。

そんな彼の心境を知ってか知らずか、カゲマサは更に続ける。

 

「俺が割込む前、少し貴様らの戦いを見ていたのだ。

まったくド素人過ぎてヘドが出たぜ…フルバーストしてまで、あの体たらくだとはな。。

この支部の神機使いも随分と堕ちたものだ」

 

「てめぇ…言わせておけば調子に乗りやがっ」

 

さすがに我慢しきれなかったハッサクが思い切りテーブルを叩き、椅子から立ち上がる。

しかし、それより先にセマノブの方が既に席を立ちカゲマサを睨みつけていた。

 

「なんだ?何か文句でもあるのか?」

 

「ああ…腐るほどな」

 

セマノブは般若の如き形相をしながら、ずいずいとカゲマサに詰め寄る。

 

「ハッサクから話は聞いたぜ。おめえ、前にこの支部にいたんだってな。そんときゃ大層なご活躍だったらしいじゃねえか。。

実際にゲンをやったのもおめえだな?ハッサク達が3人がかりでかかっても倒せなかったゲンを、あっさりやっちまったおめえの腕は確かにすげえと思うぜ。

…だがな…」

 

いきなりカゲマサの胸倉を右手で鷲掴みにするセマノブ。

しかしカゲマサは…一切表情を変えず、微動だにしない。。

 

「例え誰であろうと、ハッサク達をコケにすることは許さねえ。。必死に努力して戦った者を…馬鹿にすんじゃねえッッ‼︎‼︎」

 

今までにない程の大声を出しカゲマサを一喝するセマノブ。周囲の客が何事かとばかりに、セマノブ達へと視線を向けてきた。。

 

「偉そうな事を言いやがって…

じゃあ、貴様は一体何をしてた?ゲンと戦うどころか、クオーツの隊長とドンパチやってたそうじゃないか」

 

「ぐ…、、」

 

負けじと反論するカゲマサ、その表情には余裕で溢れている。セマノブは思わず、口を噤む。

 

「本当にそいつらの事が心配なら、グロフォードの奴の制止を振り切ってでも駆けつけられたハズだ。。

だがそれすらもしなかった貴様に、他人を説教する資格なんてあるのか?ん?」

 

「ンだと…!」

 

セマノブは胸倉を掴む手に一層力を込める。

そしてカゲマサは、掴むセマノブの手首を握る。

 

「…くどいぞ、さっさとこの汚らしい手を離せ。。

もっとも、野良犬の貴様には前足と言った方が妥当かな⁇」

 

「この野郎…もう我慢ならねえ…!」

 

カゲマサを思い切り引っ張ろうとするが、ビクともしない。

さらに、自らの手首を掴むカゲマサの握力を実感したセマノブは…

 

(コ、コイツ…なんつぅ力だ…‼︎)

 

次の瞬間、セマノブの脳裏に警鐘が鳴り響き、咄嗟に掴んでいた手を離す。

と同時にカゲマサも手を離し、胸倉付近をはたく。。

 

「フン…俺は貴様らと、こんなくだらん事をしに来たわけじゃない。

お前らに、一つ面白い事を教えてやろうと思ってな」

 

「面白い事…⁉︎」

 

声も出せずしばらく固まっていたハッサクがようやくその口を開く。セマノブも落ち着きを取り戻し、神妙な顔つきでカゲマサを見る。

 

「貴様らが話していたチームシトリンの連中…

つい先程殺られたようだ。やったのは…反応から見ておそらくヤクシャの類だろう」

 

「あ、あいつらが殺されただって⁉︎⁉︎」

 

「なぜあなたがその情報を知っているの?」

 

「⁉︎」

 

突然後ろから降りかかる声。セマノブとハッサクが咄嗟に振り返ると、そこにはセミロングの髪にカチューシャをつけた、しなやかな女性が立っていた。

そして右手首にはキラリと光る赤い腕輪。神機使いには違いなさそうだが…

 

「この情報はまだ極秘機密事項で、知っているのは支部長と担当オペレーター、そして全滅した部隊の隊長である私だけ…なぜ知っているのか、教えてもらおうかしら?」

 

両手を脇腹に当て、カゲマサに歩み寄る女性。

凛としたその表情には、一点の曇りも感じられない。

 

「極秘機密事項、か…くだらんな。そんなモノ隠すだけムダだろう。

俺ぐらいになるとオラクル探知の感覚が研ぎ澄まされて、今誰がどこで何をやっているのか、手に取るようにわかるんだよ。。もっとも、体内にオラクル細胞が流れている神機使いやアラガミに限ったことだが」

 

「なるほど…便利なカラダをお持ちのようね」

 

鼻で笑い、その場を去ろうとするカゲマサにセマノブが詰め寄る。

 

「…オイ!たったそれだけの事を俺達に言いに来たってのか⁉︎」

 

「ああ、そうだ。こんなところでノンビリ飯なんか食ってるくらいだから、どうせヒマなんだろ?

丁度いい遊び相手を紹介してやったんだ、感謝しろ」

 

相変わらず憎まれ口を利くカゲマサに、ハッサクも同じく彼に詰め寄っていく。

 

「あいにくだな、てめえの指図なんざ受ける気は毛頭ないんでね。そんなに言うんなら、てめえがそのヤクシャを殺ればいいんじゃねえのか?」

 

ハッサクの問いかけに、カゲマサはさもだるそうに首を横に振る。

 

「…やはり浅い奴らだ、俺が出向く程の相手ならわざわざ貴様らに教えたりはせん。。

そもそも俺と貴様らは立っている土俵が違うという事を、しかと認識しておけ」

 

そう吐き捨てると、踵を返し去っていくカゲマサ。

その後ろ姿を恨めしそうに睨むセマノブ、ハッサク。

 

カゲマサの姿が見えなくなると、ハッサクは女性の方を向いて深々と頭を下げる。

 

「お久ぶりです、マヅルさん」

 

「ハッサク君ね…久しぶり。まだ生きててくれて嬉しいわ」

 

「またまた、縁起でもないことを」

 

互いに表情を緩ませクスクスと笑い合う2人。

セマノブは全く間に入れずキョトンとしている。

 

「それよりマヅルさん、さっきの話…シトリンの副隊長達がやられたってのは…」

 

「そうね。ホントは口外御法度なんだけど、もう吉居が知ってるくらいだし…隠しても意味ないわね」

 

一息ついてマヅルが椅子に腰掛けると、ハッサクとセマノブも続いて椅子に座る。

 

「さっき吉居も言ってたけど、副隊長達をやったのはヤクシャよ。本当に、どこにでもいるような…」

 

「でも、おそらくただのヤクシャじゃないんでしょう?見た目は普通でもハンニバル・ゲンのように、恐ろしい力を秘めていたりとか…

そうでなきゃ、辻褄が合わない!」

 

ハッサクの見解に、ゆっくりと頷くマヅル。

その表情が次第に暗くなっていくのをハッサクは見逃さなかった。

 

「これは当時のミッションを担当していたオペレーターの娘の話なんだけど、まさに悪夢のようだったって言ってたわ…

完全に不意を突いていたハズの副隊長の一撃があっさり避けられ、直後にヤクシャのたった一度の反撃で部隊はほぼ壊滅状態、残った副隊長と隊員も数分ともたずにやられたって…」

 

「そ、そんな…あの副隊長、イヤな奴でしたけど腕はマヅルさんにも迫るほどでした。。

それが、簡単に倒されるなんて…‼︎」

 

ハッサクの顔も青ざめてゆく。セマノブは相変わらず会話に入れないが、空気を読んで同じように俯いている。。

 

「私のせいよ!私がしっかり監視してなかったから。。

あのヤクシャが空から降って来て、それを確認した副隊長が落下地点に向かった時。隊員の一人が私に無線で報告してきたわ。

でも私はその時、『危なくなったらすぐ撤退しなさい』ぐらいの忠告しかしなかったの。。そこまで危険な相手とは夢にも思っていなかった…」

 

「…」

 

マヅルは下唇をぐっと噛む。その瞳は赤く充血し、己の責任を深く反省しているようにも見えた。

ハッサクは何も言葉が思い浮かばず、下を向き続けている。。

 

「マヅルさん、とにかくもう済んでしまったことです。

気持ちを切り替えましょう…

その異常なヤクシャはもちろん放ってはおけませんが、詳細が判明するまで無闇に手を出すのは野暮かと。

やはりここは《上》の判断を待つのがいいと思います」

 

淡々と語るハッサクの口調はいつになく冷静で落ち着いている。そんなハッサクを、セマノブは目を丸くして眺めている。

 

「そうね。私とした事が、いつまでもくよくよしてちゃ隊員達にも示しがつかないものね。。

ありがと、ハッサク君!

…しばらく見ない間に、随分と大人になったわね。。」

 

「いえ…そんな…」

 

マヅルがニッコリと微笑むと、ハッサクは恥ずかしさのあまり目を逸らしてしまった。

顔を赤くするハッサクを、セマノブはさらに目をまん丸にして見続ける。

 

「私も負けてられないわ。もっと強くならなくちゃ。。

じゃ、またね!今度お茶でもしましょう」

 

席を立ち足早に去っていくマヅルをぼーっと眺めるハッサク。そんな彼の肩を肘でつつくセマノブ。

 

「へぇ〜〜…おめえら、そんな関係だったのか」

 

「バ…、違えよッッ」

 

ハッサクはさらに顔を赤らめる。セマノブはその様子を目を細くして見つめるのだが、その顔は笑っていた。

 

「俺がクオーツに入る前は、シトリンに所属してたんだ。当時マヅルさんは副隊長だったんだが。俺の事を結構気にかけてくれててよ、ヴァリアントサイズの使い方も彼女に教わった。いわば、師匠みてえなもんだな。

…て、聞いてねえし」

 

いつの間に、1杯目と同じような分量の2杯目を注文していたセマノブが脇目も振らずに料理にがっつく。

ギリギリまで皿に顔を近づけて食べるその姿は、まさに犬のようだ。

 

「ほ、報酬が…トホホ。。」

 

思わず涙目になるハッサク。もう金輪際セマノブには奢らないと、心に誓ったという。。

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