野良犬の矜持   作:陰毛樽ないん?

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真打

マヅルの鮮やかな一撃を受け、あっけなく片腕を失ったヤクシャがゆっくりと立ち上がる。

そして、ニヤリと不気味な笑みを浮かべると同時に砲身を彼女に向け…広範囲に及ぶオラクル波を放射した。

凄まじい轟音が響き渡り、オラクル波が通り抜けた範囲の障害物は…綺麗さっぱり無くなっていた。

 

『クックック…この至近距離ではさすがの貴様でも躱しきれまい。…跡形も無くなったか?』

 

勝ち誇ったような笑いを上げるヤクシャだが、静観していたハッサクはまったく動じない。

それもそのはず、彼女のオラクル反応が…消えてはいなかったからだ。。

 

「こっちよ」

 

背後から聞こえる声に振り向くヤクシャ、その視界に飛び込んできたのは…

スナイパーに変形させた神機と、光り出す銃口。

 

次の瞬間、低い発砲音とともにヤクシャの肩鎧を細く長い1本の光線が通り抜ける。

堅牢なヤクシャの肩鎧にポカリと空いた直径10㎝程の穴。

その穴を中心に無数のひび割れが発生し…やがて、砕け散った。

 

「お次は…脳天を狙うけど、よろしいかしら?」

 

肩を抑え、唸り声を上げるヤクシャの頭部に銃口を向けるマヅル。

完全に一方的な戦いの様相を呈してきた。

 

『ああ…やれ。一思いに殺すがいい。俺は、貴様のような強者を待っていた。。

これで、ようやく解放される…』

 

「解放…?一体何の事だかわからないけど、

倒される事を望むアラガミなんて、初めて出会ったわ。。」

 

マヅルはスナイパーを構え直し、ヤクシャの眉間に標準を合わせる。

そして発砲せんとばかりに、トリガーを引きかけた時。

 

『かかったな、バカめッッ』

 

突然ヤクシャの口が大きく開き、レーザー砲を吐き出す。それは、砲身から放たれるものとほぼ同等の規模を誇り、まさにマヅルを飲み込もうとした。

 

しかし、隊長格の彼女にはそんな虚仮威しなど通用せず、軽々と飛び上がり回避されてしまった。

マヅルは前方宙返りをしながら空中で神機を変形、再びサイズに切り替えて刃先をヤクシャの頭頂部に突き刺した。

 

「そろそろ、楽にしてあげるわっ!」

 

刃を引っ掛けたまま、柄を伸ばしながら着地する。

すると、伸びた柄はヤクシャの身体を縦になぞるように張り付いた。

そして、そこから繰り出される攻撃はただ一つ。

 

「ふんッ‼︎」

 

マヅルが力を込め、伸ばした柄を引き戻す。

頭頂部に刺さっていた刃は引きの力により、ヤクシャの頭部に更に深く食い込み…その身を切り裂いていく。

 

(す…すげえ。。さすがマヅルさんだ、俺なんかにゃとても真似できねえ芸当だぜ)

 

物陰で息を潜めて観戦するハッサク、そんな彼に背後から接近する影…

 

 

 

「あ〜ら、やっぱり心配になって来たのね。

憧れの女性(ひと)だものね〜」

 

「カ…カボス⁉︎お前どうしてここに⁉︎」

 

急に声を掛けられ、驚くハッサク。

だが隠れているという都合上、あまり大袈裟なリアクションは出来なかった。。

 

「それはこっちのセリフでもあるわ。アンタこそなんでいんのよ?

まさか『華口隊長を助けに来た』なんて言わないでしょうね。。」

 

「言わねえよ、さすがに…

俺なんかが加勢しても何の足しにもならねえ。かえって足手まといになるのが関の山だからな。だが…」

 

「?」

 

「もしマヅルさんが倒れたりしたら、駆け付けてリンクエイドする事は出来る。

それくらいの役には立ちてえと思ってな」

 

カボスの方は見ず、マヅルの方ばかりを見つめながら語るハッサクに、カボスは渾身のため息を吐く。

 

「あの華口隊長が倒れる?何ワケのわかんない事言ってんの…そんな事ありえないわ。

あの人は、ウチのグロフォード隊長にも匹敵する程の実力者なのよ。。

現に、ヤクシャはもう虫の息なんだし」

 

カボスもハッサクの方は見ず、ヤクシャを見ながら淡々と語る。

だがハッサクの表情はどこか煮え切らない様子だ。

 

「このまま、無事に終わればいいがな。。」

 

 

 

サイズの刃がマヅルの手元に戻った時。既にヤクシャの身体は縦一文字に綺麗に裂け、だらしなく崩れ落ちていた。。

 

「ふぅ、意外と大した事なかったわね。

副隊長達も、どうしてこの程度の敵にやられたのかしら…」

 

マヅルもどこか煮え切らない様子でヤクシャに近付き、コアを抜き取る為に神機を捕食形態に変えるのだが…

突如、彼女は脳内で何かを直感し、咄嗟に飛び退く。

 

「な…何なの…⁉︎こんな状態なのに、オラクル反応が無くなるどころか、むしろ強くなっている⁉︎

こんな事が…一体、なぜ⁉︎」

 

顔を引きつらせながらゆっくりと後退するマヅル、

一方のヤクシャは…まるで上から引っ張り上げられたた操り人形のように、頭、腕、脚をだらりと下げたまま宙に浮き上がった。

 

そして次の瞬間、ヤクシャの体内から無数の光が溢れ出し…風船のように弾け割れた。

 

「くっ⁉︎」

 

マヅルは装甲を構え、ハッサクとカボスは瓦礫に身を潜めて飛散する破片の直撃を免れたが…

 

装甲を解いたマヅル、そして瓦礫から再び顔を覗かせた2人がそれぞれ一斉に言葉を失った。

 

破裂したヤクシャのいた場所に、《人》が立っていたからだ。。

とてつもなく、信じられない光景だった。

 

『うぅ〜〜ん…やっと出られたあ〜!』

 

両腕を上げ思い切り背伸びをする謎の人物。

全身を薄暗い灰色で包まれた少年のような姿、ちなみに衣服らしいものは見当たらない。。

 

「あ…ああぁあ…!」

 

マヅルは声を震わせ、手足も小刻みに震わせている。

ハッサク達はそれ以上に震え上がっていた。それは、アラガミの中から人が出てきたから、だけではない。

 

「ア、アイツ…あんなにちびっこい奴なのに…オラクル濃度が、あのゲンを遥かに上回ってやがる…!」

 

ハッサクも声を震わせながら謎の少年を眺め続けた。

そんな彼の肩に恐る恐る手を乗せたのは…カボス。

 

「ねえ…あれって何なの…?人?」

 

「見た目はそれっぽいけどな…何せアラガミの中に入ってたくらいだ、《純粋な人間》ではねえだろうよ」

 

まるで時が止まったかのように、各々固まってしまった。

だがそれはマヅル、ハッサク、カボスだけで、例の少年は…のんびりと屈伸運動をやっている。。

 

このままでは埒があかないと踏んだマヅルは、息を呑み神機を少年に向けた。

 

「あなた…一体何者なの?」

 

そう訊く彼女の額には一筋の汗が流れ落ちる。

マヅルの声に気付いた少年はパッと顔を上げて、彼女を見つめた。

そして…ニッコリと笑った。。

 

『人間って面白いな〜〜。だってみんな同じような質問してくるんだもん。

まあいいや、教えてあげるよ〜。

ボクは、君たち人間さんの大嫌いな《アラガミ》で〜すっ』

 

やはりそうかと確信したマヅルは体勢を低くして神機を構える。

しかし少年の方は両腕を後頭部に回し、口笛まで吹いている始末。

 

「もう一つ訊いていいかしら…?

あなたはどうしてヤクシャの体内に入っていたの?

まるっきりわからないのよ…‼︎」

 

『どうしてって…居心地が良かったからさ♪』

 

「い、居心地が良かった…⁇」

 

少年は足元に落ちていた小石をコツンと蹴り、彼女の方を見る。

 

『キセイチュウって知ってるよね?他の生物の体内に潜んで成長するってやつ。ボクがまさにそれなんだよ』

 

もう一度息を呑むマヅル。そんな彼女の表情を不思議そうに見つめながら少年は更に続ける。

 

『最初はヤクシャの細胞の力が強かったから危うく体内で捕食されそうになったけど、養分を頂いているうちにボクの細胞の方が力をつけて来たからね。

そうなると喰われるどころか、逆にヤクシャの細胞組織を乗っ取って、自由に動かせるようになったんだよ』

 

「つまり、今までのヤクシャは全てあなたが動かしていたってこと⁇」

 

マヅルの問い掛けに、少年は首を横に傾け笑顔になった。

 

『当たりだよ〜。前にボクに挑んできた人達をやっつけた時は、ヤクシャ本来の力がまだあったから良かったけど、今回君と会った時にはもうこのヤクシャは抜け殻みたいなものだったからね〜。

あれからちょっと張り切って食べ過ぎちゃったかな〜』

 

「そういう事だったのね…

やけにあっさり倒せたと思った。。」

 

マヅルが下を向いて落胆していると…

視界に、不思議そうに下から見上げる少年の姿が不意に飛び込んで来た。

驚いたマヅルは咄嗟にバックステップで距離を取る。

少年はその姿を見てケラケラと笑っている。。

 

『ははは、人間さんって面白いな〜!

そうそう、自己紹介がまだだったね。ボクの名前はクヒ・ジダャ。君は〜⁇』

 

「華口マヅルよ…

あなた、他のアラガミと違って聞き分けが良さそうだから。。おそらく無駄だろうけど…一つ、お願い聞いてもらってもいいかしら?」

 

『ん〜〜?なあに〜〜⁇』

 

またもや首を傾けて近付くクヒ。マヅルは離れたい気持ちをグッと抑えて踏み止まる。。

 

「出来れば、他の場所へ行って貰えないかしら?

どこか遠くのところへ…だって、この辺の《食べ物》は殆ど食べ尽くしちゃってるでしょう?」

 

かつてない程のオラクル濃度を有したアラガミが目の前にいる。隊長として情けないと思いつつも、避けられるものなら極力戦闘は避けたかったのだ。

しかし、彼女の希望も虚しく…クヒはブルブルと首を横に振る。。

 

『それは無理かな〜。だって、まだ《探し物》が見つかってないんだもん』

 

「さ、探し物…?」

 

顔中がいつの間に冷や汗まみれになっているマヅルの周りを、クヒは腰で手を組んで歩き回る。

そして再び彼が正面に来た時、マヅルの口が開いた。

 

「探し物って一体何なの…⁉︎」

 

『それは言えないよ〜〜。でもまあ、少なくとも君では無さそうだから、もう帰っていいよ。じゃあね〜〜♪』

 

クヒはニッコリと笑って手を振るが、マヅルは厳しい表情になり彼を睨みつける。

 

「そうはいかないわ…アラガミを目の前にしてすごすごと引き下がったのでは隊長の名折れ。。

ましてや、あなたは副隊長達の仇でもあるのよ。

あなたが引いてくれないなら…覚悟してもらうしかないわね…‼︎」

 

マヅルは神機を構え、臨戦態勢になる。

クヒの方も…さすがに目の色が変わった。

 

『そっか…ヤクシャの中から解放してくれたから、君の事だけは食べないでおこうと思ってたのにな〜…

君がその気なら、ちょっとだけなら遊んであげてもいいよ〜』

 

「遊ぶですって…⁉︎

ふざけるのも、いい加減にしなさいッッ‼︎」

 

素早く神機を銃形態に切り替え、レーザー弾を撃ち込む。

正確な狙いにより飛んで行った弾は、間違いなくクヒに命中した、ハズだったが。。

 

『うわぁ〜、面白いな〜。キャッチボールだね。

ボク、キャッチボール大好きなんだ〜』

 

なんと、高速のレーザー弾をいとも簡単に受け止めてしまっていたのだ。

弾は彼の手の中で圧縮され、球状の形になっている。

信じられない出来事に、マヅルは唖然としている。

 

『じゃあ、次はボクが投げる番だね。

いくよ〜〜‼︎』

 

弾丸を持つ手を軽く振りかぶり、そして振り抜く。

危機を感じたマヅルが素早くサイドステップで軌道上から離れた直後。

 

「うッぐッッ‼︎」

 

地面への着弾と共に凄まじい爆発が起こり、周囲に砂埃が舞い、着弾地点にはちょっとしたクレーターが出来上がっていた。。

いくら自分の攻撃を《返却》されただけといっても、この恐ろしい破壊力にマヅルは言葉を失った。

 

『あれ〜⁇もしかしてドッヂボールの方だった⁇

てっきり受け止めてくれると思ってたのにな〜♪』

 

「じょ…冗談じゃないわ…あんな物…!」

 

掌を上に向け、ニタリと不敵な笑みを浮かべるクヒ。

その手に怪しい光がジワジワと溜まっていく。

 

『今度はこっちから行くよ〜♪

…軽くね。。』

 

そう言った直後、クヒが軽く手首を捻る。

想像以上のスピードに、避けられないと判断したマヅルは装甲を構える。

 

「ぐく……あぁぁああッッ‼︎‼︎」

 

一旦は装甲で受け止めるが、物凄い圧力で押し飛ばされ…

背後の壁に背中から激突してしまった。

 

「な、なんて、力なの…!」

 

膝を震わせながら立つマヅルに、クヒがゆっくりと近付く。

その目は、まるでダンボールの中の捨て犬を眺めているようだった。。

 

『ごめんね〜〜。軽くやったんだけど、少し強かったかな⁇』

 

「ば、化け物め…!」

 

歯を喰いしばるマヅルの目の前で、クヒはちょこんと三角座りをする…

 

『もう終わりかな?誘ったのは君なんだからさ、もうちょっと楽しもうよ〜…

次は、何して遊ぼうか⁇』

 

そう言う彼の目は、本当の少年のように澄んで輝いていたが…マヅルにはわかっていた。

その奥底に、ドス黒い殺意が隠れていることを。。

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