セマノブの顔面は、半分以上が血液で染まっていた。
呼吸も荒く、神機を構えて立つ姿勢もどこかおぼつかない。
彼の周囲で断続的に発生する、《地を蹴る音》。
後方から聞こえたと思えば、次は右側、そして左と、まるで彼を弄んでいるかのようだった。
音は次第にセマノブに近づいて行き…
ふとセマノブは真上を見上げる。そこには…
こちらに掌を翳し、歯を剥き出しにして笑うクヒ・ジダャがいた。。
『こういうのはどうだ⁉︎』
クヒはそのままセマノブの頭を掴み、力を込める。
セマノブは神機を振るうことも出来ないまま、地面を砕きながらその下半身を埋めていき…
腹の辺りまで地中に収まってしまった。
『ハッハハ!何とも滑稽な絵面だ。。
どうだ?岩盤浴ならぬ、《地球浴》の入り心地は?
感想を聞かせてみろよ?えぇ⁉︎』
踵でセマノブの額をグイグイと押すクヒ。
ギリギリと歯を食いしばっていたセマノブが…渾身の力を込めてブレードによる薙ぎ払いを繰り出すが。
姿勢が姿勢なだけに、まともに力が入るはずもなく。
クヒにあっけなく受け止められてしまう。
『そんな攻撃が当たると思ったのか?マヌケめ』
クヒは額を押していた踵でセマノブの顎を蹴り上げ…
彼の力が緩んだ隙に神機を取り上げた。
「ぐ…何をする」
『これ以上貴様の手に持たせておくと、何を仕出かすかわかったもんじゃないからな。。
こうするのさ』
神機を持つ手を横に振るい、放り投げる。
セマノブの神機は回転しながら放物線を描いて飛んで行き…地面に突き刺さった。
『さて、これで貴様は文字通り手も足も出なくなったわけだ。。
安心しろ、すぐには殺さん。じっくりと料理して、味わってやるからな…』
そう言うと、クヒはおもむろにセマノブの右腕を掴み…
勢いよく反対方向に捻る。
「ゔが、ぁああ…‼︎」
何とも言えぬ鈍い音が鳴り、セマノブの右腕は有り得ない方向に曲がった。。
『いい声だ。。貴様が男なのが少々残念ではあるがな。。
次は…もっといい声を出してくれよ?』
クヒはニヤニヤと気味の悪い笑顔を見せる。一方のセマノブの顔は苦痛に歪みきっている。。
今度は左腕を掴む。先程と同じ要領で捻ろうとして…
急にその動きを止めた。
『どうやら…貴様の死に際を見たい《観客》が、お越しになられたようだな?』
クヒはそう言って、後ろを振り返る。
セマノブも、そのクヒの目線を追っていくと…
見慣れた人物が、そこにはいた。
鋭く尖る鎌の根元には、折りたたまれた銃身。
新型神機を手にした
ーー須逹ハッサク。
『フン、物好きな人間もいたものだ。。
ほれ、もっと近くに来てみろよ…人間の死に際は、そうそうお目にかかれる代物ではないぞ⁇』
「俺は、そんなもの見たくない」
『何ィ⁉︎』
クヒは片目を狭め、ハッサクを睨みつける。
ハッサクは…静かにサイズをクヒに向かって突きつけた。
「お前の死に際ならば、何度でも見たいがな」
静かに歩み寄るハッサクに対し、クヒは…手で口を覆い、やがて大口を開けて笑い出す。
『クッ、ハッハッハッハ‼︎
何を言い出すかと思えば。。俺の死に際だと⁉︎
神機使いという人種は、冗談が得意な連中が多いみたいだな⁉︎』
「冗談かどうか、試してみやがれ…」
次の瞬間、クヒの目の色が変わる。
『試す、か。その必要はない…
貴様は俺に殺される‼︎
ただそれだけだッッ‼︎』
クヒが地を蹴って飛び出したかと思えば…
その姿が忽然と消えた。
セマノブの時と同様、周囲からの足音だけが不気味に聞こえ ーー
突然、ハッサクが後方にサイズを振り上げる。
サイズの刃には鮮やかな血糊がこびり付き…その直後、右腕を失ったクヒが姿を現した。
『な…にぃ…俺の、動きを…見切っただと?』
切り離され、空を舞う腕に向かってハッサクがプレデターを伸ばす。
プレデターは腕に喰らい付くなり、素早く飲み込んで…
ハッサクはバースト状態となった。
「もっとやる気出せよ。。
本当に、俺を殺してえのならな」
『…‼︎』
既に腕を再生させていたクヒが、低めの姿勢で構える。
その唇を真一文字に結び…先程までの興奮した顔付きとは
まるで違っていた。
『すまなかったな。正直、貴様を見くびっていたようだ…貴様の言う通り、その気になってやろう』
「ああ、期待してるぜ」
クヒが前方に掌を翳し、オラクル弾を放った。
狙いはハッサクの足元。
だが容易に見切ったハッサクは跳躍して躱す。
『果たして、空中ではどうかな⁇』
飛び上がったハッサクがふと見上げると、既にクヒが目の前にいた。
ハッサクは右拳、左拳と連続で振るってくるクヒの攻撃を、いずれも紙一重で躱していき…
5回目の拳撃を躱した時に、素早く鎌の刃を腕に突き刺し柄を伸ばす。
「てめえは、地べたに這い蹲る方が似合ってるぜ‼︎」
ハッサクは、叫ぶと同時に神機を振り上げ…
クヒの腕に鎌を刺したまま、思い切り振り抜く。
サイズの柄は、以前より長く長く伸び…クヒの身体を容赦なく大地に叩きつけた。
「しばらく寝ててもらおうかッッ」
伸びたサイズの柄を高速で引き戻したハッサクが、初めての新型とは思えないほど手際よく神機を変形させ…
アサルトの銃口を、倒れているクヒに向ける。
雨あられの如く降り注ぐオラクル弾の集中砲火。
その怒涛の連射砲はクヒの身体のみならず、奴のいる周辺の地面を、みるみる抉り取っていった。
「ハッサク…アイツ、いつの間に新型に…
しかも、まるで別人のような変貌っぷりじゃねえか。。
こりゃたまげたぜ」
ようやく攻撃の手を止めて着地したハッサクが、彼の戦いっぷりに感心するセマノブに対し銃口を向けた。
しかし、セマノブは慌てる素振りがない。
なぜなら、その銃口から放たれた弾は…
緑色の弾丸、回復弾だったからだ。
「サンキュー、ハッサク!
すげえっ、腕もすっかり治りやがった」
「感心してるヒマがあったら、さっさと神機を拾いに行ったらどうだ?
そこから自力で出られるのは知ってんだぜ」
「へへ…バレてたか」
セマノブは両手で地面を叩き、その力で下半身を地中から抜き取り脱出した。
『こ…この、生ゴミ共めが!』
アサルト連射弾で滅多撃ちにされ、もはや原型を留めていないクヒが…ゆらりと立ち上がって、こちらに近付いてくる。。
「ちったあ見れる面になったじゃねえか。
…まだ貰い足りねえってか?」
ハッサクは銃口をクヒの方へ向け、トリガーを引く。
絶え間無い銃弾を全身に浴びるクヒの身体は、さらにその造形を醜く変えていく。
「セマノブ、今だ!」
「おうっ」
つい先程まで死にかけていた人間とは思えぬ駿足で、刺さったままの神機に駆け寄り…その手へと取り戻す。
「今度はこいつをくれてやる!」
セマノブが神機を回収したのを確認したハッサクは、クヒへの攻撃を中止し、再び彼に銃口を向けると…
セマノブは、何故かキョトンとした表情になる。
「おい、もう回復弾はいいぜ。
体力もこの通り、すっかり元に戻ったんだしよ。
オラクルは攻撃用に残しておけ」
「何言ってんだ?
受け渡し弾に決まってんじゃねえか。。
お前がリンクバーストすりゃ、もう勝ったも同然だぜ」
ハッサクはそう言い、セマノブに向かって受け渡し弾を発射する。
しかし、通常の神機使いならば喜ぶはずの受け渡し弾を…セマノブは弾き飛ばしてしまった。
「な…⁉︎お前、一体何を考えてやがるんだ⁉︎」
思わぬ行動を取るセマノブに、ハッサクは目の色を変えて怒鳴るが…
当のセマノブは全く悪びれる様子もない。
それどころか…ブレードの切先をハッサクに向け、刺すような視線を送りつける。
「それはこっちの台詞だ。
そういえば、おめえには言ってなかったが…俺にはリンクバーストが出来ねえ《理由》がある。
だから、そいつは俺には撃つな」
「は?そりゃどういう意味だ…」
煮え切らない様子のハッサク。
次の瞬間、彼は後頭部に突如として閃光のような激痛を覚える。
そして訳も分からないまま、気付けば地に伏していた。
頭の痛みを堪えながら、体を捻り上空を見上げると…
ちょうど自分の真上から降ってくる物体を発見。
それがすぐにクヒ・ジダャだとわかり、咄嗟に迎撃態勢に入ろうとするが…時既に遅し。
まるで鉄骨のようなクヒの膝頭がハッサクの腹部に深々とめり込み、胃袋の中身を吐き出させた。
「ハッサク‼︎」
『邪魔をするなっ‼︎』
ハッサクを助けようと駆け出したセマノブに向かって、クヒはオラクル光を漲らせた手を振るう。
すると、地面が割れ砕ける音と共に…セマノブの足元に《く》の字型の巨大な空洞が出来上がった。
『ほとほと気に入らん奴らだ…
勝ったも同然だと?笑わせやがって。。
たったあれだけのやり取りで、この俺を上回っていると思い込んでいるのか⁉︎』
ハッサクの猛攻を受けたにも関わらず、その身体を綺麗さっぱり元通りにしたクヒが、余裕の表情を取り戻す。
その足で、ハッサクの頭を踏みつけながら。。
「が…がが、あぁあ…」
側頭部を踏み付けるクヒの力は次第に強まり、ハッサクは苦悶の表情を浮かべる。
神機を持つ腕はもう片方の足で押さえつけられている為、反撃もままならない。。
「ハッサク…!チクショォ…‼︎」
セマノブは、動けなかった。
前に出ようものなら、今度こそクヒの砲撃の餌食になるから…
ではない。
下手にクヒを刺激すれば、間違いなくハッサクが殺されると確信していたからだ。
『貴様、よほどこの男の命が惜しいと見えるな。
どうだ?ここは一つ取引をしないか?』
「と、取引だと⁉︎」
クヒはニヤリと笑い、その首を縦に振る。
『貴様の神機をこちらに投げ渡すのだ。
俺はその神機さえ手に入れば、それでいい。。
こんなクズの1匹や2匹、すぐに返してやろう』
「く…!」
歯を食いしばるセマノブ、すぐには要求を飲めなかった。奴を信用出来なかったからだ。。
だが、クヒはその心境を察しているかのようだった。
『もし断るなら、即刻この小生意気な鼠の頭を煎餅に変えてやるだけだがな…』
ハッサクの頭を踏む足に一層力を込め、グリグリと擦り付けるクヒ。
ハッサクの悲鳴も聴くに堪えないほど大きくなっていき…
セマノブも思わず目を逸らしてしまう。
「…!わかった。。おめえの言う通りにする。
約束は守れよ」
『いいから、さっさと神機を投げろッッ‼︎』
セマノブは軽く舌打ちをした後、神機を振りかぶり…高々と投擲した。
ブレード部分を剥き出しにしたセマノブの神機は、2度、3度と回転しながら飛び、クヒの側に突き刺さった。
『よーし、いい子だ。。
これで此奴の必要性も無くなったわけだ。
楽にしてやるぞ…』
クヒはハッサクを解放するどころか、その力はより一層激しくなり、本気で踏み潰しにかかった。
ハッサクはもはや声すらも出ず、苦悶の表情で歯を食いしばっている。。
「てめえ…!言ってた事と違うじゃねえかッッ⁉︎」
『別に違わないだろう、ちゃんと返してやるよ。
…首から下だけをな。。
ハーッハッハッハ‼︎』
クヒは大口を開けて高笑いをする。
対するセマノブは、はち切れんばかりの怒りに満ちていたが…急に、したり顔に変わっていった。
『ん…?なぜ貴様まで笑う?
気でも触れたのか?』
「いや。おめえのその勝ち誇ったような笑いに、怒りを通り越して…逆に哀れに思えてきたからよ」
『なにぃ⁇哀れだと』
そこまで言った次の瞬間、クヒが振り返ると。
大きく捕食口を開いた漆黒のプレデターが、彼の目と鼻の先まで迫ってきていた。
『こ、これは…!一体、』
クヒは咄嗟に攻撃態勢に入る。
が、それより早くプレデターの牙が襲いかかり…
クヒの頭部を《丸かぶり》した。
口をモゴモゴさせてゆっくりとクヒの頭を噛み砕いた後、
ゴクリと飲み込み…
首を失ったクヒの身体は、その場に力無く倒れ伏した。
《腹ごしらえ》を済ませたプレデターはその身を退いていき、戻った先は…
ハッサクの神機だった。
「やったな、ハッサク!
こうまで上手くいくとはよ」
「なに、セマノブがクヒの注意を引きつけてくれてたからさ。
だから無抵抗のフリをして、こっそりプレデターを奴の背後に忍ばせるのも、容易だったんだ」
笑みを浮かべ、軽く拳を付き合わせる2人。
だが、その笑顔は瞬時に消え去ることになる。
ーー クヒの体は、普通に立ち上がっていた。
「オイオイ…マジか。。」
「不死身かよ、こいつは」
クヒの身体は、仁王立ちになり細かく震えている。
おそらく再生するのだろう。
「ちくしょう…鎌でぶった斬っても、銃で滅多撃ちにしても、プレデターで食い千切っても死なねえのか…‼︎」
決定的な危機を感じたハッサクは、神機を銃形態に変え、セマノブに向けた。
「こうなっちまったら、もう俺に勝ち目はねえ。
セマノブ、お前が使う例の衝撃波に賭けるぜ。
だから…アラガミ弾を受け取ってくれ。頼む‼︎」
ハッサクの必死の懇願にも、セマノブは首を縦に振ろうとはしない。
「やめとけって。
…死ぬのはクヒじゃなくてハッサク、おめえになるかも知れねえんだぜ⁉︎」
「相変わらず言ってる意味が全くわからねえが…
とにかくもう、これしか手はねえ。。
俺は撃つぜ」
クヒの頭部が再生されたのを見届け、息を飲むハッサクがセマノブに向かって銃口を向けた。
セマノブも同じく、クヒの復活を固唾を飲んで見つめている。
「くそ…
…わかった。。だが、受け渡し弾を俺に撃ち込んだら、すぐに逃げろよ!いいな⁉︎」
「了解ッッ」
承諾の返事と共に、ハッサクはトリガーを引き…受け渡し弾は発射された。
セマノブも、今度は跳ね返したりせず、素直に受け渡し弾をその肉体に受け入れる。
「来た!
…ぐ、、、やっぱりか…!また始まっちまった‼︎
《アレ》が…‼︎」
セマノブに命中し、リンクバーストしたのを確認したハッサクは、言われた通りに彼に背を向けて一目散に駆け出す。
その直後だった。
「ハッサク!避けろーーッッ‼︎‼︎」
セマノブの怒声を拾ったハッサクが、ふと後方を振り返ると…
プレデターが、捕食口を全開にして迫って来ていた。
もちろんそれはセマノブの神機から放たれたものである事は明白だった。
そしてそれは、クヒではなく自分を狙っているという事も。
「なんでだよ…どういうこった‼︎」
プレデターとハッサクの距離はみるみる縮まり…
ハッサクは堪らず跳躍するが、すかさずプレデターもその後を追う。
「チクショウ…‼︎仕方ねえッッ」
ハッサクはアサルトの銃口をプレデターに向け、まさに発砲せんとした時。
プレデターの動きが突如として停止した。
そして、口を開けたまま地面へと落下していく。
不思議に思ったハッサクは、伸びてきたプレデターの《身体》を目で辿っていくと…
プレデターの身体は途中で千切れ、その切れ目を手に持つ者がいた。
…クヒ・ジダャ。
『フン…思い余っての同士討ちか。
貴様等が死ぬのは一向に構わんが、この俺の手で息の根を止めんと気が済まんのでな…』
クヒが、ゆっくりと掌を翳す。
狙いは、セマノブだ。
「く…!」
『今度は外さんぞ。確実に貴様の顔面を捉えてやる。
神機もこんな状態で、防御もままならん今のうちに…消しておく』
クヒの掌に着々と溜まっていくオラクルエネルギー。
パチンコ玉程のサイズから始まり、一気にサッカーボールぐらいにまでなった時。
急にクヒが振り返る。
『 ーー ⁉︎』
クヒの目の前に迫っていたのは、彼によって引き千切られたはずのプレデターの頭部。
クヒの身長よりも大きく開いた捕食口が、覆い被さるようにクヒに襲いかかった。
『うぐ…ぐぐぐ…』
クヒは内側から両手でプレデターの顎を抑え、口を閉じさせまいと踏ん張る。
『こ…こんな物…こんな、もの…‼︎』
クヒは、気付く。
プレデターの喉奥に、光る塊がある事に。
しかし、その時にはもう手遅れだった。
『う…うわぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ‼︎‼︎‼︎』
光の塊は一瞬のうちに膨張し、破裂。
次の瞬間、クヒを巻き込んでの大爆発を引き起こした。
クヒはその身を黒く焼き焦がしながら、地を何度も転がり…
そして、動かなくなった。
「…や、やったのか?セマノブ」
「…」
呆然と立ち尽くすハッサクが、倒れているクヒに恐る恐る近付くセマノブに問い掛ける。
彼は、首を縦に振った。
「今の被爆で、こいつの全身の細胞組織がズタズタに破壊されたらしいな。これでもう再生は出来ねえだろう。
オラクル反応も、もう風前の灯火だ」
「そ、そうか…」
ハッサクも同じくクヒに近付いていく。
そして間合いに入るや否や、トドメを刺さんとサイズを振り上げた途端…
クヒの目が急に開いた。
「⁉︎」
驚いたセマノブとハッサクは、咄嗟に飛び退いて距離を置くが。
クヒは、何もしなかった。
と言うより、出来なかった。
『へ、へへへ…
君達って強いね。。負けちゃったよ』
「笑ってやがる…口調も戻ってるしな」
セマノブは、クヒが完全に戦意を失くしたと確信し再び近付く。
クヒの全身には無数のひび割れが発生し…少しずつ欠落しながらその肉体を縮めていく。。
『安心していいよ…ボクにはもう、反撃する余力なんか微塵も残ってないから。
こうして呼吸をして、喋るだけで精一杯だ。。』
ウソは言ってないと見たセマノブが、片膝をついてしゃがみ、クヒの顔を覗き込む。
「教えろ、なぜ俺の神機を欲した?
何が目的だったんだ?さっぱり見えてこねえ…」
『…何度も言うけど、君は知らない方がいい。
知れば、更に死期が近付くと言っていいかもね。
いや…君の方から近付いていくって言った方が、妥当かな』
「…俺の方から、死に近付く、だと…」
セマノブは下を向いてしばらく考え込んだ後、再びクヒに視線を戻した。
「もう一つ訊きたい。おめえと似たようなアラガミってのは、他にも存在すんのか?」
『もちろんさ。もっともボクはヤクシャを完全に取り込めずに、中途半端な力で出てきちゃったから、こうして負けちゃったんだけどね。。』
「中途半端、か…」
セマノブは深く溜め息を吐き、髪をワシャワシャと掻き毟る。
そして、クヒの身体は既に半分以上が崩れ落ち、原型を留めていない。
呼吸も絶え絶えになり…もはや消滅する寸前である。
『じゃあね…いっぱい遊べて、楽しかった』
「ま…待てッッ‼︎」
静かに目を閉じるクヒの元へ慌てて駆け寄ってきた、ハッサク。
クヒは一度閉じた目をゆっくりと開き、彼の顔を見る。
「最後に一つだけ、どうしても知りてえ。
…マヅルさんに一体何をした?あの人の口に手を入れた時、何かをしたんだろ⁉︎言えッッ‼︎」
「ハッサク‼︎」
血相を変えてクヒに迫るハッサクを、セマノブが後ろから羽交い締めにする。
ハッサクは手足をバタつかせながら、鬼の形相でクヒを睨み付けている。。
『いいよ。教えてあげる…
仕込んだのさ、《卵》をね』
「た、卵だと⁉︎」
『ボクみたいに他の生物の体内で養分を貰い、成長していく《アラガミの卵》さ。
一旦孵化してしまえば、死へ向かってまっしぐらってワケ』
「クソ…‼︎」
ハッサクは目を堅く瞑り、歯を食いしばる。
強く握り締めた拳からは、爪が食い込んだのか…血が滴っていた。
『早くなんとかしないと、手遅れになっちゃうかもね…
ハハハハ、ハハ…』
セマノブを力任せに振り払ったハッサクが、クヒに向かって握り締めた拳を思い切り振り上げるが…
その瞬間、クヒの肉体は既に崩れきって粉微塵となり…
風に乗って消え去っていった ーー
「 ーー ‼︎」
クヒの完全消滅を見届けたハッサクは、勝利の余韻に浸ることも無く…すぐさま踵を返して走り去っていった。
「やれやれ…一難去って、なんとやら、か」
セマノブも、神機を肩に担いでハッサクの後を追う。
気持ち良すぎる程の快晴が、今の彼にとって憎たらしく思えてくる程だった ーー