こちらは、今まさにハッサク達チームクオーツが向かっている北国の大地、アラスカ。
透き通るように、どこまでも伸びる青空。
アラガミの跋扈による影響か、山の木々は疎らで…その間を通り抜ける寒風が、痩せ細った樹木を叩くように揺らしている。
ただ、広い大地を満遍なく照り付ける日光のおかげで、寂しい山々が少しだけ明るく映えた。
そんな陽気な気候とは裏腹に、湿りきった重苦しい表情をしているのは…
北国に相応しい、厚手の防寒着を纏った数人の男達。
全員がその腕に赤い腕輪を装着していることから、神機使いだというのが容易に判断できる。
その目線の先には…
彼等と向かい合うように立つ、異形のモノ達。
その者達は、造形や骨格は人間のそれと酷似しているが…
頭部及び顔面は、人間とは遠くかけ離れていた。。
集団の先頭に立つ2人は、それぞれコンゴウとボルグ・カムランを模した頭部を備える。
そして彼等より少し後ろ側には、プリティヴィ・マータの頭部を備えた者が、白銀のマントで胴体を包み悠然と佇んでいる。
『オイ、このお方の言葉が聞こえねえのか⁉︎
返事をしやがれってんだッッ』
コンゴウ顔の人型アラガミが、目の前の神機使い達を恫喝する。
しかし、当の神機使い達は…全員がその顔にたっぷりと冷や汗をかいているものの、口を真一文字に結んで言を発しない。
『落ち着け、ウゴン。。
焦っては得られるものも得られない。すぐムキになるのがお前の悪い癖だな』
『う、うるせえ、、ボルカ‼︎
テメエのその態度、いつもムカつくんだよ‼︎』
コンゴウ顔のアラガミ《ウゴン》が、ボルグ顔のアラガミ《ボルカ》に向かって吠える。
ボルカはやれやれといった表情をしながら、マータ顔のアラガミの方を向く。
『こいつらもまた、予想以上に口が堅いですね。
いかがいたしましょう…ヴァーナ様』
マータ顔のアラガミ《ヴァーナ》が、ゆらりと身体を動かしゆっくりと前に出る。
すると、つい先程までガニ股になり牙を剥き出しにしていたウゴンが…
すぐさま気をつけをして頭を下げ、後方へ退いた。。
『最後に…もう一度だけ尋ねましょう。。
貴方方が持っている《ソフト》を、我々に譲って戴けませんか?』
ヴァーナの口から発せられる言葉を受け、思わず生唾を飲む神機使いの面々。
ウゴンとは、また違った迫力を感じ取ったのだろう。。
だが、依然として押し黙ったままだ。
『何も言わないつもりですか?
…殺しますよ』
そう言い、ヴァーナは細い目を更に細める。
この押し潰されるような威圧感に耐えかねた、隊長らしき神機使いの男がついにその口を開く。
「さっきから貴様等が言っているソフトというのは、一体何の事だ?さっぱりわからん…」
『…ようやく口を利いてくれたと思ったら。。
またまた、すぐバレるような嘘を…
ボルカさん。例のアレを』
ボルカはヴァーナに向かって敬礼をした後、背中に背負っていた大袋を開け始める。
そして、中から出てきたのは…微塵も原型を留めていない神機の数々。
その何れもが、プレデターが格納される中枢部分だけが綺麗に残っていた。
「き、貴様等…!どこでそれをッッ」
その歪な造形の神機を見た瞬間、驚愕の声を上げる男。
ヴァーナは、ニヤリとほくそ笑む。。
『ほら…やはりご存知でしたね。
これらは私共が今までに訪れた支部の、神機使いのお方達から譲って頂いたものです』
「譲って頂いただと…⁉︎デタラメを言うなッッ‼︎
神機ってのはな、使い手にとっては命の次に大事な代物なんだ!おいそれと貴様如きに渡すわけがないだろう‼︎」
『命の次に、ねえ。。
あながち、それは嘘ではなさそうですね』
不気味に口角を上げるヴァーナの身体がふわりと宙に浮き…空中で脚を組んだ。
『少し、面白い話をして差し上げましょう。。
私共がここに来る前に訪れた、キーウ支部での出来事を』
神機使い達は揃って固唾を呑む。
ヴァーナは空中で脚を組みながら、更に腕も組む。
『私はキーウ支部の方々に同じ要求をしました。
やはり貴方方と似たような反応をされましたよ…
断固として応じようとしない。
ですので…』
そこまで言い、ヴァーナは少し間を置く。
神機使い達は…その次の言葉が容易に想像出来た。。
『つい殺してしまったのですよ。
心臓を串刺しにしてね…
仲間の一人が目の前で殺されたものですから、さすがの彼等も急に命が惜しくなったのでしょう。
すんなりと要求に応じて頂けましたよ。そう、それこそ掌を返したように。。』
「貴様…何という事を…!」
拳を強く握り締め、震わせる隊長の男。
しかし…同時に膝頭も震えていた。。
『この私が睨んだ場所にはほぼ必ずと言っていいほど、ソフトが存在しました。
そして、このアラスカの地にてソフトの反応を見つけたので、こうして訪問させて頂いた次第なのです』
「まさに招かれざる客っていうやつだな。。
帰れッッ‼︎貴様等なぞにくれてやる物など、一つも無い‼︎」
ヴァーナを指差し、咆哮する隊長。
対するヴァーナは…ゆっくりと地に降り立ち、踵を返し溜め息を吐いた。
『やれやれ…何度も同じ光景を眺めるのは、さしずめナンセンスというものですが。。
致し方ありませんね。
ウゴンさん、お願いしますよ』
『お任せくださいッッ』
背を向け離れていくヴァーナと入れ替わるように、筋骨隆々の体躯を持つウゴンが前に出る。
ウゴンの、全身から溢れ出す殺気を感じ取った神機使い達は…揃って《得物》を構えた。
『おうおう…そちらさんは随分とやる気みてえだな。
面白え。。ちょっくらお手並み拝見してやるぜ』
「ほざけッ!エテ公めが‼︎」
隊長のすぐ後ろにいた神機使いが、真っ先に飛び出しロングブレードを振り下ろす。
その刃は寸分の狂いも無く、ウゴンの額を捉えた。
『なんだ、そりゃ』
ウゴンが、呆れたような口調で言い放つ。
確かに刃は額に当たったが、その身に刃は1ミリたりとも食い込んでいなかった。。
『話にならねえな…くたばれや!』
ウゴンはその巨体に似合わぬ素早さで、斬り掛かってきた神機使いの側方に回り込んで頭を掴み…
下方向に振り抜く。
「 ーー ッッ‼︎」
有無を言わさず、一瞬の内に神機使いの頭は地中に飲み込まれ…動かなくなった。
「貴様ぁああッッ‼︎」
激昂した神機使い達が、左右からウゴンに飛びかかる。
左からスピア、右からサイズの一撃が降り注ぐが…
ウゴンはそれに合わせて両腕を振り上げる。
その直後…天高く舞った、スピアとサイズの刃。
一瞬何が起こったのか理解出来ず、硬直する神機使いの背後に回り込んだウゴンが、丸太のような腕を突き出す。
「…ゔッッ‼︎」
ウゴンの腕は、神機使いの腰から腹部にかけて見事に貫通。
血塗れの腕が引き抜かれると同時に、貫かれた神機使いは力無く倒れ伏した。
「うおああッッ‼︎」
スピアを破壊された方の神機使いが、銃形態に変形させブラスト弾をウゴンに撃ち込む。
しかし、ウゴンは前腕部を翳しブラスト弾を防御。
炸裂音だけが響き、弾はあっけなく消え去ってしまった。
『フン…お次はこっちの番か?』
ウゴンが掌を神機使いに向けて翳した直後。
突然、風が吹き抜ける音と地面が抉れる音が鳴り響き…神機使いは吹き飛んだ。
「なっ⁉︎おい…!大丈夫かッッ」
隊長がすぐさま吹き飛んだ神機使いの元へ駆け寄るが…
彼は既に白目を剥きグッタリとしていた。。
「く…!こうなったら止むを得ん‼︎
全員でかかるぞ‼︎」
隊長の号令に合わせるように、神機使い達は雄叫びを上げて一斉にウゴンへと突撃していく。
ウゴンの表情には、焦りなどこれっぽっちも無かった。。
青空の下に広がる、真っ赤な血の海。
そこは、まさに地獄絵図と化していた。
倒れている神機使いは皆、身体のどこか必ず一箇所以上は欠損し、見るも無残な姿となっている。。
『へっへっへ…あっけなく片付いたな。。
おいボルカ、タイムは⁉︎』
『1分06秒といったところか…
まあまあじゃないか?私ほどではないが』
『チッ…1分以上かかっちまったか。ちょいとばかし腕が鈍ったかな。。
てーか、一言多いんだよてめえ』
両手をパンパンと叩きながらヴァーナの元へ戻ろうとするウゴンが、ふと視線を横へ向ける。
そこには、ウゴンの一撃を受けて左腕を失った神機使いが、血塗れの顔を引きつらせながら尻もちをついていた。
『まーだ生きてやがったのか。
すぐ楽にしてやるぜ』
『ウゴンさん!お待ちなさいッッ』
神機使いに向かって振り上げたウゴンの拳が、ピタリと止まる。
ウゴンは、その姿勢のままヴァーナの方を見る。
『その者は生かしておきましょう。
なぜなら…ここで起きた惨状、そして我々の恐ろしさをアラスカ支部の人間共に伝える《メッセンジャー》が必要ですからね』
『承知しました、ヴァーナ様。。
では、いつもの《アレ》をやるので?』
ヴァーナは何も語らず…不気味な笑顔だけを浮かべた。
それを見届けたウゴンもまた、不敵な笑みを浮かべて神機使いの方へ視線を戻す。
『ま、そういう事だ。ゴミムシ君…
運が悪かったな。。』
ウゴンはそう言うと、右手の人差し指、中指、親指の腹を合わせて…神機使いの腹部目掛けて突っ込んだ。
「 ーーーー ッッ‼︎‼︎」
声にならない声を上げ、神機使いはのたうち回る。
貫通こそしていないが…そう錯覚してしまうほどの凄まじい激痛だった。。
『今、俺達《寄生種》の卵をてめえの身体に植え付けてやった。
孵化する前に手を打たねえと、取り返しのつかねえ事になるぜ⁉︎』
「あ…あわわわわ…」
転げ回っていた神機使いが、その動きを止めた。
この後の自分の末路を想像した彼は…一気に絶望の表情へと変わる。
『支部へ戻ったら、《上の者》へ伝えなさい。
直ちに我等にソフトを差し出すようにと。。
さもなくば…このアラスカの大地を永遠に葬る、とね…』
ヴァーナの言葉を、神機使いは歯をガタガタと震わせながら聞いている。
次にウゴンが、彼に顔を近づけて言う。
『さっさと行けよ。
アラスカ支部の科学者様は、大層ご立派だと聞いたぜ。
もしかしたら…助けてくれるかもよ⁇』
「う…うわぁあああッッ‼︎」
神機使いはすぐさま立ち上がり、絶叫しながら走り去っていく。
その後ろ姿を眺めながら、ヴァーナを除く寄生種アラガミ達が笑い声を上げる。
もはや騒音とも取れるその声は、ただでさえ木々の少ない野山に盛大にこだました。。