野良犬の矜持   作:陰毛樽ないん?

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蹂躙

低い唸り声を上げ、辺りを見回しながら旧市街地内を徘徊し続けるディアウス・ピター。

その凄まじい戦闘力は、並の神機使いが挑めば一瞬で屠られてしまうくらい強烈なものである。

 

そんな怪物に自ら立ち向かって行こうとする者がいた。

彼の名は須逹ハッサク。

鎌状の武器、ヴァリアントサイズを使用する旧型神機使いだ ーー

 

「いやがったな…」

 

こちらに臀部を向け、餌場で食餌にありついているピターの背後から、気配を殺して接近するハッサク。

 

(そんじゃ、こちらも頂くとするかね)

 

神機の形状をどす黒い口《捕食形態》に変え、素早くピターの後脚に喰らいつこうとするが…

 

「 ーー ⁉︎」

 

それをまるで察知していたかのように、軽々と跳躍して攻撃をかわすピター。

そして空中で方向転換し、こちらに正面を向いて着地する。着地時の振動は地響きが起こるほどのものだ。

 

短く咆哮し、ハッサクに前脚を突き出すピター。

刃物のような鋭利な爪がハッサクに襲いかかる。

 

「つあっ‼︎」

 

ハッサクはそれをサイドステップでかわし、サイズの柄を伸ばして鎌の部分をピターの突き出した前脚に引っ掛ける。

そして前方に高く跳び上がり、ピターの巨体を軽々と跳び越えて一気に背後まで回り込んだ。

 

前脚に掛かった鎌部分から伸びた柄は、ピターの体躯を縦一直線になぞるようにくっついている。

ちなみにこのヴァリアントサイズは、伸びた柄の至るところに、鎌ほどではないが小さな刃が幾つも付いている。

この状態からやることは一つ。ハッサクは素早く行動に移った。

 

「食らいやがれっっ」

 

神機に力を込め、鎌ごと一気に柄を引き戻すハッサク。

無数の刃と鎌がピターの胴体を引き裂いていく ーー

 

「ヘヘッ、痛かったろ、今のは…わ‼︎」

 

ドヤ顔でふん反り返っていたハッサクだが、その表情が一瞬で凍りつく。

まるで何事も無かったかのようにこちらへ向き直したピターが、勢いよく地を蹴ってハッサクに飛び掛かってきたのだ。

 

ハッサクは大きめのサイドステップで突進を避けるが、ピターは先に着地した前脚で素早く地を蹴り、再びハッサクに向かって飛び掛かる。

 

「ぐっっっ‼︎」

 

神機から装甲を展開してピターの弾丸のような左前足パンチを防ぐが、あまりの衝撃に勢いよく足裏で地面を引っ掻きながら後退する。

 

「いちちち…なんつぅパワーだ!まともに食らったらヤベエぞ‼︎」

 

両腕の痺れを必死に堪えながら、神機を構え直すハッサク。一方のピターは余裕の表情で目の前の《獲物》を見下ろしていた。

 

「チクショ…バーストさえ出来れば、ちったあまともに戦えるってのによ‼︎」

 

悔しさのあまり、歯を食いしばるハッサク。

するとピターはおもむろにその場で腰を下ろし、地にへたり込む、いわゆる《伏せ》の姿勢になった。

 

「な、一体何のつもりだ、この野郎⁉︎」

 

ピターから猛烈に発散されていた殺気はとんと消え失せ、まるで犬のように尻尾まで振っている始末だ。

 

「どうぞ、お好きなように食えってか。なめやがって…‼︎

そんなに食われてえなら、遠慮なく頂くぜ‼︎」

 

神機を捕食形態に変形させ、捕食口を大きく開いてピターの顔面にかぶりつかせた。

そして、肉を引きちぎり神機がそれを飲み込むと…

ハッサクの身体が赤白く光り出した。《バースト状態》だ。

疲労の色が見え始めたハッサクの顔付きにみるみる生気が蘇ってきた。

 

「後悔するがいいぜ…この俺に《塩を送った》ことをな‼︎」

 

言い終わると同時に、先程までとは比べ物にならないほど疾い動きでピターとの距離を詰め、サイズを振りかざす。

右から左、そして左から右へ、交互に振り回してピターの顔面に連撃を浴びせてゆく。

そして真上に跳躍し、サイズを大きく振りかぶると…

 

「うりゃあああっっ‼︎」

 

渾身の力でサイズを振り下ろし、ピターの脳天に刃先を食い込ませた、はずだった。

 

「…⁉︎⁉︎」

 

驚愕するハッサク。無理もない、自信たっぷりの最高の一撃だったはずが、まさかの不発に終わった。

ピターの頭部に乗っかっただけのサイズは、ツルツルと顔面を滑り落ち、力無くハッサクの手元へと戻って行く。

 

「ち、ちくしょう…なんでだよ、なんで…」

 

完全に脱力し、項垂れるハッサク。

バーストも消滅し、いよいよ大ピンチになった。

 

ピターは伏せていた姿勢からようやく腰を上げ、低く構えて唸り始める。

すると、ピターの額の前辺りで光り輝く球体が作られ出した。

次の攻撃の為の準備だと、ハッサクは容易に気付いた。

 

「へ…お遊びはこれまでってか。

まあでも、十分に時間は稼げたろう。好きにしろや」

 

その場に座り込み、頭を垂れるハッサク。

そして…直径1mほどまで大きくなった光の弾がハッサク目掛けて飛んで来た。

 

「っっるあ‼︎」

 

今にも命中といったところで急に弾は反れ、明後日の方向に飛んで行ってしまった。

不思議に思ったハッサクがふと顔を上げると…

神機を手にしたヒロヒデの姿が目の前にあった。

光弾はヒロヒデが弾き飛ばしたのだ。

 

「おいこら、諦めるなんてねえだろハッサク‼︎」

 

「ヒ、ヒロヒデ…‼︎」

 

ヒロヒデが差し伸べた手に掴まり、立ち上がるハッサク。

そしてヒロヒデはすぐさまピターの方へと向き直る。

 

「これで貸し借りナシだぜ、ハッサク」

 

「ああ、すまねえな」

 

ヒロヒデから回復錠を受け取り、早速服用するハッサク。

よし、と息を吐きヒロヒデと共に再びピターと対峙するが…

状況が良くなったとはとても言えなかった。

 

「勝算はあるのか?ヒロヒデ」

 

「んなもんあるかよ…正直、こうして向かい合ってるだけでも膝が笑ってらぁ」

 

突然ピターは後方へ宙返りしながら飛び退き、2人と距離を置く。

これが何を意味するのか2人にはすぐに分かった。

 

「突っ込んできやがるぞ…‼︎」

 

「ああ、わかってる‼︎」

 

そしてピターが地を蹴り走り出した直後、凄まじい轟音共にピターの身体が煙に包まれ、その巨体が横に逸れた。

 

「!…あれは、まさか」

 

「へへ、やるじゃねえか、カボス」

 

2人の視線の先には、大口径のブラストを構えたカボスが少し離れた高台に陣取っていた。

 

「まったく…だらしが無い男共ね‼︎何ボサッと突っ立ってんのよ⁉︎

私達の目的はコイツを倒すことじゃないでしょ⁉︎」

 

「あ、ああ…、そうだったな」

 

そう言い、ハッサクは懐からスタングレネードを取り出す。

 

「これが最後の一本だ‼︎当たれッッ」

 

スタングレネードの閃光は対象の視界に入らなければ意味がない。

その為、ピターの真正面に投げつけたのだが…

 

「‼︎なっっ⁉︎」

 

グレネードが炸裂する前にピターが跳躍。

直後に前足を思い切り振るい、グレネードを弾き飛ばしてしまった。

 

「いやッッ、こっちに⁉︎」

 

不運にも弾かれたグレネードはカボスの目前に迫り、

炸裂。

カボスは防ぐことも出来ず、視界を奪われてしまった。

 

「ううう!目が、目が‼︎」

 

「しまった‼︎カボスッッ‼︎」

 

ハッサクとヒロヒデの2人とカボスを結ぶ直線上にピターがいるため、駆け付けることが出来ない。

己の無力さを呪う2人…

 

2人がまごまごしている間に、ピターは例の光弾を作り出し…発射。

当然狙いはカボスである。

 

「きゃああぁああッッ‼︎」

 

幸い直撃は免れたものの、高台の足場を粉砕されて力無く転げ落ちるカボス。

その際に身体中を打ち付けた為か、気を失ってしまった。。

 

「ちきしょうッッ‼︎よくも、よくも‼︎」

 

「待てっ‼︎ヒロヒデ‼︎」

 

怒り狂ったヒロヒデがバスターブレード型神機を振りかざし、我を忘れてピターに突っ込んでゆくが…

その攻撃が届くまでに尻尾の一撃がヒロヒデを容赦なく襲う。

 

「く…あ、あ…」

 

強烈に瓦礫に叩きつけられたヒロヒデ、確実にどこかを骨折しているだろう。彼も立ち上がれそうにない。

 

ピターがより大きな光弾を作り出し、ハッサクに標準を合わせている。どうやら全員を動けなくしてから、ゆっくりと《晩餐》をするつもりのようだ。

 

もう助けに入ってくれる人間もいない。

ハッサクは今度こそ死を悟った。もうどうしようもない。万策尽きた ーー

ハッサクは救えなかった2人に対し、罪の意識を感じながら、静かに目を閉じた。。

 

 

 

ーーーーーー

 

いくら待っても光弾はハッサクに当たらなかった。

恐る恐る目を開けると…

どこか見覚えのある後ろ姿が、自分とピターの間に割って入っていたのだ。

そして、思わず叫ぶハッサク。

 

「セ…セマノブ…⁉︎」

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