野良犬の矜持   作:陰毛樽ないん?

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試行

ハッサクの目の前に現れたのは、とうに去ったと思っていた、光谷セマノブだった。

少しの間ピターと睨み合った後、クルリと背を向けハッサクを介抱する。

 

「また随分と無茶したな…

まあ、生きてただけでも上出来だ」

 

「なんで来たんだ、もう俺らには関わらないでくれ…!」

 

相変わらず素直になれないハッサクの顔に、セマノブが回復柱のカプセルを押し付ける。

 

「ほらよ、みんなで使え」

 

「チ…気障なマネしやがって…

おい、後ろ、後ろだ‼︎」

 

痺れを切らしたピターが、セマノブの背後から猛然と襲いかかる。そして今にもその鋭爪が彼の首に届かんとしたその時 ーー

 

セマノブが素早く身を屈め、片手でロングブレード型神機を振り上げる。

同時に、大量の血飛沫が高々と空に舞い上がった。

 

「な…⁉︎⁉︎」

 

一瞬何が起こったのかわからなかったハッサクだが、状況を理解した時には言葉を詰まらせるしかなかった。自分の時は一滴の血すら出させることすら出来なかった。しかしこの男はそれをいとも容易くやってのけた。

 

一体、この男は何者なのか。

 

ピターは低く篭った唸り声を上げつつ、目を血走らせてセマノブを睨みつける。

そして、体を横に向け体当たりを繰り出してきた。

 

「ンなもん、喰らうかよ」

 

セマノブはギリギリのタイミングで後方に跳ねつつ、斬り上げを放つ。

ピターの脇に鮮やかな裂創が刻まれ、またもや大量の血飛沫が飛び散る。

かなりのダメージになったのか、ピターはその場でうずくまってしまった。

 

「バ…バーストもしてねえのに、なんつぅパワーだ。。

ハハッ、すげえ…!」

 

突然不自然な笑い声を上げるハッサクに、セマノブは鋭い視線を向ける。

 

「笑ってる場合か!さっさとお前の仲間を助けに行ってやれ」

 

「あっっ、ああ」

 

急いで倒れているカボスに駆け寄り、介抱するハッサクの耳にセマノブの声が飛び込んで来る。

 

「受け取れッッ‼︎」

 

なんとヒロヒデをハッサクのところへ投げ飛ばしてきたのである。しかも片手で。

さすがに受け止めきれずにハッサクはヒロヒデ共々地面に倒れてしまう。

 

「早く回復柱を使ってやれ。

神機使いならば、体力さえ戻れば骨折なんてすぐ治るはずだ」

 

ハッサクは黙って頷き、セマノブに貰ったカプセルを地面に投げつけると緑色の光柱が3人を包み込み、みるみる身体中の傷を癒していった。

 

「いいか、お前らはこのまま逃げろ。

巻き添えを食って死にたくなけりゃな」

 

「で、でも…アンタなら余裕そうだしさ、このまま見学させてもらうってわけには、いかねえか?」

 

ハッサクの問いかけに、刺すような視線を送るセマノブ。

 

「何言ってやがるんだ、ピターはこの程度でくたばるようなタマじゃねえんだよ!

まだまだ力を隠してやがる…下手すっとこの辺一帯、更地になっちまうかもしれねえ。

さっさと行け‼︎」

 

「す、すまねえ…‼︎」

 

ヒロヒデとカボスを担いで、走り去っていくハッサク。

その姿を見送った後、ピターへと視線を戻すセマノブ。

 

「オイ…いつまで寝てやがるんだ。

さっさと起きやがれ!見せてみろ、てめえの本気を‼︎」

 

セマノブが大声で叫ぶと、ピターがすっくと立ち上がり、両眼を紅く光らせる。

出血は既に止まり、傷跡だけが残っていた。

 

次の瞬間、ピターの首根っこから生えていたマント状の器官がグニャグニャと変形し始め、鋭利な刃を持つ翼のような形状に変化した。

それと同時に耳を劈かんばかりの咆哮を発するピター。セマノブの顔にはやる気が満ち溢れてきた。

 

「へへッそんじゃ、おっ始めようじゃねえか…!」

 

 

 

 

 

セマノブの指示通りに退却したハッサクが、先程避難していた廃倉庫に再びやってきた。

未だに目を覚まさない2人をそっと寝かせて、自らはグッタリと項垂れる。

 

「ん…ピターのオラクル濃度が急上昇しやがった…。

しかもただの怒り活性化の比じゃねえぞ、一体どうなってやがる…⁉︎」

 

目を見開き、冷や汗をかくハッサク。

 

「さすがに巻き添えを恐れて、他のアラガミは近くにはいねえようだ…

こいつらは…ここに置いておいても大丈夫だろう」

 

すると、自らの神機を堅く握りしめ、走り出すハッサク。もちろん、行き先はセマノブとピターの《戦場》だ。

やはりいても立ってもいられなかったのだ。。

 

 

 

 

発生させた翼の刃を存分に駆使し、セマノブを攻め立てるピター。

動きが先程までとはまるで違い、巨体とは思えぬ俊敏さを発揮する。

 

「へへ、そうこなくちゃな」

 

ピターが左翼を伸ばして斬りかかるが、セマノブは軽く跳躍してかわし、背に乗る。

しかしピターは素早く翼の向きを変え、両翼でセマノブを挟み込むように攻撃してきた。

だが彼はそれも紙一重で避けて宙返りをし、ピターの眼前に躍り出る。

 

「ほんじゃ、俺もちょっぴり頂いちまおうかなっと!」

 

神機を捕食形態に変えてピターの顔面に喰らいつく。

肉を剥ぎ取り飲み込むと…バースト状態へと移行した。

 

「よっしゃあ、やっぱ大物の肉は味わいが違うぜ‼︎」

 

意気揚々と構えるセマノブに、無数の光弾を発射するピター。全てを弾き返すのは困難と判断したセマノブは、再び跳躍し、ピターの真上に行こうとするが。

 

ピターもそれに合わせて跳躍。クルリと前方に体を回転させ、その勢いを利用してまるで鞭のような尻尾をセマノブに叩きつけた。

 

装甲を構える暇もなく尻尾の直撃を受けたセマノブはそのまま瓦礫に激突、砂埃が舞い上がった。

 

「いちちち…バーストしてなけりゃ骨の1、2本は持っていかれたかもな」

 

腰を摩りながらも、普通に立ち上がるセマノブ。

 

『生きてたか…!このくたばり損ないめ』

 

「…⁉︎」

 

ハッとするセマノブ。今の《声》は、確かにピターの口から発せられたように聞こえた。

先日のセクメトの時と同じ…やはりアラガミの声が聞こえる。

 

「とうとう俺もヤキが回ったかな…」

 

そう小さく呟き、神機を持つ手に力を込める。

顔付きも先ほどまでとは違い、真剣そのものになった。

 

『貴様なぞ喰っても美味くはなさそうだが、殺さんと気が済まん…!』

 

「ああ…俺も同感だ」

 

人間とアラガミとの奇妙な《会話》の後、先に仕掛けたのはピターだった。

今度は複数の光弾を作り出し、直線ではなく側方に撃ち出す。

光弾は弧を描きながら滑空し、セマノブを左右から挟むように襲いかかる。

 

セマノブは襲って来る光弾を次から次へと弾き飛ばしてゆく。弾き飛ばすのに夢中になっていたのが仇になった。

足元が怪しく光り出していたのに、気づかなかった。

 

「うわっっ‼︎」

 

咄嗟に飛び退けるセマノブ。

その直後、彼がいた地面から紫色の光柱のようなものが噴き出した。まともに食らっていれば消し炭になっていただろう。

だがもう次の危機は迫っていた。

跳び上がったセマノブに合わせてピターも跳び上がり、自慢の翼刃を浴びせかけてきた。

完全に不意を突かれたセマノブは左脚を斬り裂かれ、力無く地に落下する。

 

「チキショ…なんてこった。。」

 

激しい痛みをこらえて立ち上がるセマノブだが、ピターは攻撃の手を緩めはしない。

今度は左の翼刃を翻し、叩きつけるように繰り出してくる。

セマノブは装甲で防ぐが、中途半端な角度だった為に攻撃を受け止めきれず、右腕を負傷してしまう。

 

「こりゃあ、いよいよヤベえか…」

 

神機を左手に持ち替え、右腕をだらんと下げて苦痛の表情を浮かべるセマノブに、ピターがゆっくりと近づく。

 

『ククク、死は近いようだな。。

どうだ?ジワジワと痛めつけられるのは?恐怖だろう』

 

最初に見せたような余裕の笑みを浮かべ、セマノブの顔を眺め続けるピター。

セマノブは神機を地面に突き刺し、その場でどっしりとあぐらをかいた。

 

『どうした?もう諦めたのか?』

 

「ああ、そうだ。。

やっぱアンタは強えな。さすが帝王って呼ばれてるだけはあるぜ。俺の負けだ…さあ、好きなようにしろよ」

 

座り込むセマノブと、余裕で佇むピター。

この両者の様子を、少し離れた物陰から見守る者がいた。

…ハッサクだ。

 

「セマノブの奴、ピターを目の前にして何を座り込んでやがるんだ?

しかもピターの方は背中からヘンな翼まで生えてやがるし、セマノブは怪我してるみてえだな…

助けに行った方がいいのか?」

 

助けには行きたいが、思うように足が動かない。

ピターから鮮明に刻まれた《恐怖心》が、ハッサクの身体を縛り付ける。

 

「クッソ…俺って奴は、なんて情けねえんだ…!」

 

 

 

しばらく睨み合いを続けた後、セマノブの方へ向かってゆっくりと歩き出すピター。

 

『もう貴様の顔は見飽きた。そろそろ食わせてもらうぞ』

 

「出来ればそうして欲しいね。

一思いに、ガブリとな」

 

『ならば望み通りにしてやろう‼︎』

 

咆哮し、セマノブに向かって一気に駆け出すピター。

両翼を全開にし、仕留めに掛かった ーー

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