野良犬の矜持   作:陰毛樽ないん?

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意地

セマノブまであと数メートルのところで、なぜか立ち止まるピター。そして、のそのそと後退し始める。

 

『ククク、その手には乗らんぞ。狡猾な貴様の事だ、何か考えてるのだろう…

ここは安全牌で行かせてもらう』

 

ピターが低く構えて力を込め始めると、奴の周囲に夥しい数の光弾が作られ始めた。しかも、一つ一つが異様に大きい。

 

『果たして、この数の攻撃を防ぎきれるかなっ⁉︎

見ものだな‼︎』

 

あっと言う間に光弾の数は膨れ上がり、数え切れない程になった。

しかし、対するセマノブは依然として腰を下ろしたまま動かない。その様子をハラハラしながら見守るハッサク。

 

「オイオイ…やべえじゃねえか。いくらセマノブでも、あんな数の光弾をまともに喰らったら…跡形も無くなるぞ」

 

助けに行きたいのだが、やはり身体が動かない。

ここで飛び出していっても、何の役にも立たないのはわかりきっていた。。

 

 

 

『さらばだ、小僧‼︎』

 

ピターが叫ぶと同時に、無数の光弾が四方八方からセマノブ目掛けて飛んでいく。

それを確認したセマノブは素早く立ち上がって神機を抜き取り、捕食形態に変える。

 

「待ってたんだぜ!コイツをッッ‼︎」

 

セマノブの掛け声と共に捕食口《プレデター》が広く伸び、巨大な虫網のようになった。

その状態で、まるで団旗を振る応援団長のように、左右に大きく振り回す。

接触した光弾を次から次へと飲み込んでいった。

 

そして…無数に襲いかかってきた光弾を、一つ残らず食べ尽くしてしまったのだ。

 

『な…、バカ、な…!』

 

驚愕するピターに対し、不敵に笑うセマノブ。

大量のオラクルエネルギーを摂取し、巨大化したプレデターを振りかぶる。

 

「今度はこっちの番だ。。たっぷり味わえッッ‼︎」

 

振りかぶった神機を思い切り前方に振り抜くセマノブ。

その際に捕食口から吐き出されたオラクルが衝撃波となり、瞬く間にピターの巨体を貫通していった。

 

『ぐ、うおおぉぉお⁉︎』

 

一瞬の出来事に、反応が遅れたピターが改めて己の身体の状態に気付いた時。絶叫せずにはいられなかった。

 

ピターの右半身が、消えて無くなっていた。。

 

身体を支えているのは左前脚、左後脚のみになり、かなりバランスが崩れて、なんともみっともない姿になってしまった。

 

「帝王様ともあろうお方が、なんとも無様なお姿ですな〜!」

 

『おのれ…おのれぇぇえ‼︎』

 

余裕など微塵もなくなってしまったピターが不意に脇目をふる。

その先には…物陰から眺めているハッサクがいた。

 

「ゲ…気付かれたか⁉︎」

 

ニタリと笑い、ハッサクがいる位置に向かって全力で跳躍するピター。

セマノブもピターの謎の行動の目的に気付いた。

 

「しまった…!ハッサクの野郎、逃げろっつったのによ‼︎」

 

『グハハハッ!丁度いい、この雑魚神機使いを喰ってオラクル細胞を頂けば、この体を修復出来るぞ‼︎』

 

大口を開け、大量のヨダレをこぼしながら一直線にハッサクに飛び掛かる。

その牙がまさに届かんとしたその時 ーー

 

『ガ、ガ…ガ…』

 

ピターの身体が急停止し、大口を開けたまま硬直してしまった。

奴の身体に食い込むように、セマノブのプレデターがその身を長く伸ばしている。

そのプレデターが口に咥えているのは…身体が割れて外部に剥き出しになった、ピターの《コア》だった。

 

「勝負あったな。。

このままコアを噛み砕くか抜き取れば、てめえはお陀仏だ。最期に何か言い残す事はねえか?」

 

セマノブの問い掛けに、ピターが力無く呟く。

 

『…フン…、まさか、貴様のようなゴミに、してやられるとはな…。だが…これで、勝ったと…思うなよッッ』

 

言い終わると同時に、翼を振りかぶるピター。

最後の抵抗に出るかと思われたが、その翼は自らのコアに振り落とした。

その一撃でコアは完全に身体から分離され、ピターは絶命した。。

 

「ふう…殺されるよりかは、自ら死を…てか。

最後までプライドの高い帝王だったぜ」

 

足元に転がるピターのコアを拾い上げ、呟くセマノブ。

その手で、呆然と立ち尽くすハッサクに投げ渡す。

 

「そいつはお前がやったってことにすればいい。

正式な任務でやってきたお前らが、只の流れ者に手柄を持っていかれたとあらば…何かと面倒な事になるだろうからな」

 

「で、でも…そんなセコい真似出来ねえよ…」

 

俯くハッサクの肩をポンと叩くセマノブは。

 

「まあこれに懲りて、身分不相応な相手には下手にケンカ売らねえこったな。あの2人にもきちんと言い聞かせておい、てく、れ…、て、あら?」

 

突然体勢を崩すセマノブを、ハッサクが咄嗟に抱える。

どうやら戦闘の疲れによるものではないらしいが…

 

「本来なら、あの支部で偏食因子の補給をしてから出て行くつもりだったが…大急ぎでそんなヒマもなかったぜ。

悪いがハッサク、取ってきてくれねえかな?」

 

セマノブの頼みに、首を横に振るハッサク。

 

「そんな必要はねえ…

俺が支部まで連れてってやるから。訊きてえことも山ほどあるんだ。

それに、アンタにでっけえ借りも出来ちまったしよ」

 

「ハッサク…」

 

ハッサクの背に身体を預けたセマノブは、少々照れ臭そうだった。。

 

 

 

 

 

 

普段はほとんど利用者がいない支部内の医務室の一角に、黄色い声が響き渡る。

 

「痛いッッ‼︎怪我人なんだから、もっと優しくしなさいよ⁉︎」

 

「それほど騒げるんなら大丈夫なんじゃねえのか?」

 

ヒロヒデの慣れない包帯巻きに憤慨するカボス。苦戦した任務後にはお決まりの光景である。

その様子をドアの隙間から眺めるハッサク。その背後からセマノブがやってくる。

 

「とにかく、死人が出なくて何よりだ。

お前達、本当に良く頑張った」

 

セマノブはそう言うと、ハッサクの肩を軽く叩いて立ち去ろうとするが、ハッサクは急いで引き止める。

 

「どこへ行くんだ⁉︎言っただろ、アンタにはとんでもねえ借りが出来ちまったんだ。この借りを返さねえままトンズラされるのはゴメンだぜ」

 

「んなモン忘れてくれて構わんよ。それより、あの2人をちゃんと見舞ってやれ」

 

ハッサクの背中に手を添え、無理矢理医務室に押し込む。

ふうっと息を吐き、踵を返すセマノブの元へ1人の男がやってくる。

 

「光海セマノブ、だな。

顔を貸してもらおうか、話がある」

 

話しかけて来たのは、セマノブが初めてこの支部にやってきた時に出会った男だった。

男に促され、黙ってついていくセマノブ。

不意に人気のない場所で立ち止まった。

 

「一応名乗っておこう。私はハッサク達の部隊の長を務める、フォア・グロフォードだ。

その節は私の部下達が世話になった。ひとまず礼を言う」

 

凛とした表情で隊服をきっちりと着こなし、颯爽と立つ姿はまさに隊長の風格を纏っている。

一方のセマノブの顔は曇っていた。

 

「それはいいんだが…一つ聞きてえ。

ハッサク達が想定外の敵に出くわして死にそうになってたって時に、隊長のアンタは救援にも来ず一体何をやってたんだ?」

 

「救援要請は私の元へも届いた。だが、丁度私も任務の真っ最中だったのでな。。」

 

「な⁉︎フザけんなよ…任務と部下の命と、どっちが大事だと思ってやがるんだ⁉︎」

 

血相を変え、今にも掴みかからんとするセマノブを静かに目で牽制するフォア。

その鋭い眼光に、さすがのセマノブも一瞬たじろいでしまった。

 

「決して放棄出来ぬ任務だったのだ。

部外者の貴様には到底分かるまい…」

 

埒があかないと踏んだセマノブは、舌打ちをしてそっぽを向いた。

 

「…今度はこちらから質問させてもらおう。

その神機、貴様が初めての《宿主》では無いのだろう?

誰に譲り受けた?」

 

「てめえ、なんでその事を…」

 

面食らった様子のセマノブを、流し目で見つめるフォア。

そして、ゆっくりとセマノブに向かって歩き出す。

 

「答えたくない、か…まあいい、いずれ分かる事だ。どちらにしても、腕は悪く無さそうだな。

どうだ?明日も分からぬ野良犬生活なぞやめて、私の元で働いてみる気にはならんか?」

 

「ケッ…!その質問なら即答してやるぜ。。

ノー、だな‼︎」

 

吐き捨てるように言うと、フォアにクルリと背を向けて立ち去ってしまった。

そんなセマノブの後ろ姿を、フォアはただ黙って眺める。。

 

 

 

「あ、セマノブ、どこに行ってたんだ?」

 

「ん?ああ、ちょっとな…」

 

丁度医務室から出てきたハッサクがセマノブを見つけて声をかけた。

 

「それより…あいつらはどうなんだ?」

 

「お陰さまですっかり元通りだぜ。

相変わらずお互いをイジリ合ってるしよ…まるで夫婦漫才だぜ、ありゃ」

 

「そうか、まあ元気で何よりだ」

 

ようやく笑顔が戻った2人のところへ、髪を金髪に染めたガラの悪そうな神機使い達が近づく。

 

「おやおや…誰かと思えば、負け犬のハッサクくんじゃないか?」

 

「また怪我したのか〜?いい加減死んじまったらいいのによ。てめーの治療に使われる支部の経費がもったいないぜ」

 

「アッハハハハッ‼︎」

 

ハッサクの顔を見るなり罵詈雑言を吐く。

しかしハッサクは歯を食いしばって俯き、黙りこくってしまった。

その様子を見かねたセマノブがガラの悪い神機使いに詰め寄る。

 

「な、なんだよ…オメェは?」

 

「てめえら…ハッサクはな、仲間を助ける為に…!」

 

再び鬼気迫る表情を見せるセマノブ。

あわや一触即発といったところで、ハッサクがセマノブの腕を掴む。

 

「いいんだ、セマノブ…。

俺が負け犬だってのは本当だ。。事実、あのピターに手も足も出なかったんだからよ」

 

ハッサクの掴む力は異様に強く、セマノブも素直に引き下がる。

 

「…へへ…やっとわかったか、マヌケヤローが!」

 

「ゴミはゴミらしく隅っこで縮こまってりゃいいんだ‼︎」

 

「ハハハハハ…」

 

耳障りな高笑いを残して去っていく神機使い達。

怒りのやりどころがないセマノブは、足元に転がっていた空き缶を思い切り蹴飛ばした。

 

「あいつら…いつもああやって俺のこといじめてきやがるんだ。。」

 

力無く呟くハッサクの胸倉を、両手で鷲掴むセマノブ。

 

「あそこまで言われて、おめえは悔しくねえのか⁉︎

うんと強くなって、見返してやろうという気持ちにはならねえのか⁉︎

どうなんだ、おい⁉︎」

 

怒号を浴びせ、ハッサクの首を激しく前後に揺するセマノブ。

ハッサクの方はただ、されるがままだ。。

 

 

 

「ハッサク…?ちょっと、アンタ達なにやってんの⁉︎」

 

異変に気付いたカボスが医務室から飛び出し、2人を引き離す。

 

「ハッサク、大丈夫?」

 

カボスの問い掛けに、噎せながら頷くハッサク。

 

「光海セマノブさんね、ハッサクからあなたのことは聞いてるわ。

はじめましてでこんなこと言うのも何だけど、むやみにハッサクをいじめるのはやめてくれる⁉︎コイツだって、好きで負け犬やってるんじゃないんだから‼︎」

 

「おい…お前が一番言うことキツイぜ…」

 

セマノブに向かって食ってかかるカボスを、複雑な表情で見つめるハッサク。

セマノブは深く溜め息をつき、踵を返し背を向ける。

 

「すまなかったな、ハッサク」

 

ハンドバッグを肩に担ぎ、セマノブはすごすごと立ち去っていった…

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