だが、セマノブは片手で神機を器用に回転させ、ハッサクの縦横無尽な攻撃を的確に跳ね除けていく。
「やるな、セマノブ…
だが、これならどうだ⁉︎」
今度は鎌の部分をわざとセマノブの神機に当て、そのままぐるぐると伸びた柄を巻き付ける。
何重にも巻いた後、鎌はセマノブの側頭部を通り抜けて後方へ飛んで行った。
「へへ…さすがのアンタでも、神機を封じられちゃあどうしようもねえだろ⁉︎」
ハッサクが不敵な笑みを浮かべ、神機に力を込める。
すると伸びていた柄が戻り始め、鎌部分がセマノブの後頭部目がけて襲いかかる。
神機で防御出来ないセマノブは、咄嗟に片手を後ろにやり ーー
「なっ⁉︎」
なんと、鎌の刃を素手で受け止めてしまったのだ。
これにはハッサクも驚愕せざるを得なかった。。
「バカな…岩盤でさえ容易く切り裂く程の刃なんだぞ⁉︎
それを素手でなんてッッ」
「オイオイ、そんなこともわかってなかったのか…
神機を普通の武器と同じように考えるんじゃねえ。コイツは生体兵器、要するに生き物なんだ。
俺たち同様、《意思》を持ってる」
キョトンとしているハッサクに、セマノブはさらに続ける。
「そしてその意思は、持ち主の精神と密接に繋がってる。つまり、使い手の考え方次第で神機の強さが左右されるってこった。
使い手が強気でバンバン攻めてりゃいいが、ちょっとでも弱気になりゃ神機本来の性能を発揮出来ねえ」
「じ、じゃあ…俺がアンタを斬れなかったのは…?」
「俺に刃が当たる瞬間、そして受け止められた瞬間、心に迷いが生じたろう?
それは、俺に対して《コイツは強いから勝てない。敵いっこない》ってハナっから決めつけてっからだ。
口では気丈に振舞ってても、本心が神機にまるまる表れるのさ」
「…」
「おそらく先日のピター戦でも同じような心境になってたハズだ…《コイツに勝てるんだろうか》っていう迷いがな。。
おめえの弱点はそこにある」
まさに図星の指摘である。ハッサクは何も言い返せず黙りこくってしまった。
急にセマノブが何かを閃いたような顔をする。
「技術は申し分ねえんだ。だから、おめえはまず精神面を鍛えなきゃなんねえな。
強い気持ちを持つには、《先入観》と《無知》を無くす事だ。何故かというと、この2つこそが《恐怖心》の大元になってっからな」
「恐怖心の原因が、先入観と無知?」
「ああ、そうだ。要するに噂や固定観念に惑わされず、何事に対しても正しい知識を身につければ何も怖いモンはない。そして、必然的に自信も生まれてくる。
少なくとも俺は今までそうしてきた」
セマノブの助言を聞いて、再び瞳を輝かせるハッサク。どうやらやる気が湧いてきたようだ。
神機を構えて対峙し直す2人。こうして、セマノブによる《講習》はこの後もしばらく続いたのだった。。
支部内のトレーニングルームで筋トレをし、汗を流すハッサクにヒロヒデが話しかけてくる。
「ご苦労なこったな。
そうそう、ハッサク、例のハンニバルがまた出たぜ。
今度はかなり近くだとよ。ここんとこ何日も居据わり続けてるらしい。。
で、支部長からも緊急討伐指令が降りてるんだが、受諾する部隊がいなくてよ…ウチのグロフォード隊長も、どうも乗り気じゃねえし」
「隊長は何かと損得勘定で物を考えるからな。
苦労に見合った実入りがなけりゃ見向きもしねえ。。
そういう人だ」
ベンチプレスをしながら返事をするハッサク。
ヒロヒデは軽く溜息を吐き、側の椅子に腰掛ける。
「ハッサク、おめえはあのハンニバルと闘る気なのか?
俺はゴメンだぜ。。何しろあの武闘派のトルキスを全滅させたくらいなんだ、とても敵う相手じゃねえ」
「俺だってやりたかねえよ…
だがな、俺の事を散々見下してたあいつらをあっさり叩き潰したハンニバルを殺れば、少なくともあいつらの上を行く事が出来るんだ。。
こんなチャンス、見逃す手はねえだろうがよ」
バーベルを置いて一息つくハッサクを、呆れた表情で眺めるヒロヒデ。
すると、2人が持っている業務用携帯端末がほぼ同時に鳴り出す。
「何だ…?た、隊長からの呼び出しだ!お前は?」
「俺もだ…急ぐぞ!」
エントランスロビーに佇むフォアとカボス。
部屋の扉が開き、ハッサクとヒロヒデの姿が見えるなりカボスが顔色を変える。
「ちょっと!アンタたち、隊長の呼び出しだってのに何のんびりしてたのよ⁉︎ホント緊張感ないんだから‼︎」
「しょうがねえだろ、こことトレーニングルームは結構離れてんだから…
てか、そもそもなんでお前がキレてんだ。。」
怒り心頭のカボスに、すっかりテンションが下がったハッサクとヒロヒデ。隊長のフォアはただ静かに立ち尽くしている。
「…チームクォーツ、全員揃ったな。。
皆、ご苦労。今回集まってもらったのは他でもない。
既に知っていることとは思うが、最近この近辺を荒し回っている新種のハンニバル、《ハンニバル・ゲン》の討伐指令が支部長より下った」
「 ーー ‼︎」
3人に一気に緊張が走る。ついにこの時が来たか、といった気難しい表情だった。
すると、ヒロヒデが突然手を挙げる。
「隊長、その任務、引き受けられるのですか?」
ヒロヒデの顔は冷や汗で満ちている。出来れば行きたくないという魂胆が見え見えだった。
それを見透かしたように、フォアは冷たい視線を向ける。
「当然だ。他の部隊の隊長は誰一人として名乗りを上げる者はおらんからな。
これ以上ヤツを野放しには出来ん…誰かがやらねばならんのだ」
抑揚もなく淡々と語る隊長。ヒロヒデがハッサクに対して耳打ちの動作をする。
「オイオイ…どういう風の吹き回しだ。。
隊長だってあんなに嫌がってたのによ」
「俺が知るかよ…」
ふとフォアが、2人がコソコソ会話するのを制するかのように咳払いをした瞬間、2人はすぐさま気をつけの姿勢になった。
「とにかくだ。この任務、わが部隊で引き受けたからにはモタモタしておれん。
各々手短かに戦闘準備を済ませ次第、出撃する。
以上だ」
言い終わると同時に素早く踵を返し、去っていくフォア。
その後ろ姿を敬礼の姿勢で見送る3人…
フォアの姿が見えなくなるや、堰を切ったようにカボスが動き出す。
「さて、早く準備を済ませなきゃ!
アンタ達も急ぎなさいよ!」
早足で自室に去っていくカボスを眺めながら、ヒロヒデがふと呟く。
「アイツだけだ、ヤル気マンマンなのは」
「怖いもの知らずっていうか…ある意味羨ましいぜ」
ハッサクとヒロヒデ、それぞれのボヤキが終わると、2人もまた各々の自室へと向かっていった。。
かつては多くの参拝者で賑わったこの神社は、今や腹を空かせたアラガミが闊歩するだけの場所と化し、人間は誰一人として寄り付かなくなってしまった。
…神機使いを除いては。
広大な敷地を誇る、この見捨てられた《廃神社》に足を踏み入れたチームクォーツの面々。
もはや原型を留めていないほど損壊した鳥居をくぐる直前、隊長のフォアが振り向き集合をかける。
「よし、これより作戦の再確認をする。
今回の討伐対象であるハンニバル・ゲンは、ここより10時の方角約100m地点に反応がある。
逃亡される可能性も考慮して、部隊を二手に分けて攻めようと思う。
まず青戸と文枝がペアを組み、迂回して奴の背後に回れ」
「ゲ…またカボスとかよ、嫌な予感しかしねえぜ」
「何よ、何か文句あんの⁉︎アンタこそ、また足引っ張ったりしないでよね‼︎」
「いいじゃねえかお前ら、息ピッタリなんだしよ」
またいつもの調子で言い合うヒロヒデとカボスをなだめようとするハッサク。フォアはその様子をただ黙って、冷めた目で眺めている。。
「既にここは戦場だ、無駄な私語は慎め。
…そして、私と須逹が正面から奴を叩く。万が一取り逃がした場合はこちらから信号を発信する。
状況に応じて迎撃、追撃を行うように」
フォアの言葉に諌められ、我に返った3人は黙って耳を傾けていたが、ふとハッサクが手を挙げる。
「すみません、隊長…お言葉ですが、相手はトルキスを全滅させたハンニバル・ゲンなんです。
あまりなめてかからない方がよいかと…全員で一斉にかかった方がよいのでは?」
ハッサクの提言に、首を横に振り深く溜め息を吐くフォア。
「未熟者め…やはりお前はまだまだ甘いな。。
単純に一体に対して大勢でかかれば有利になるわけではない。複数の神機使いが一箇所に固まれば、多かれ少なかれ誤射や同士討ちが発生する。そして、敵が思いも寄らぬ程の強力な攻撃を繰り出してきた場合、回避もままならぬまま一挙に全滅させられる危険もある」
見事に論破されたハッサクは、言い返すことなど出来ずに俯いてしまった。
「他に意見は、ないようだな。。
よし、作戦開始だ」
フォアの号令と共に、ヒロヒデとカボスは神機を掲げて走り去っていった。
そしてフォアとハッサクは、神機を構えて壁伝いに歩を進めながらハンニバルの反応がある地点へと向かう。
刻一刻と敵との距離が縮まる中、不意にハッサクの口が開く。
「隊長、敵の《ハンニバル・ゲン》についてですが…
ゲンというのは?」
「…元素の、元だ。今現在最も多く出回っているハンニバル通常種の《元》になった、いわゆるプロトタイプのような種と考えられている」
「なるほど。。強さから考えて、今の奴が進化した個体だと思ってましたが、実際は逆だったと」
「だが決して油断はするな、なめてかかれば一瞬にして塵にされると思え。
…いよいよ反応が近付いて来たな。。
気を引き締めろ」
フォアの言葉に黙って頷くハッサク。神機を持つ手にも自然と力が入る。
摂社の端で、こちらに背を向け黙々と捕食に講じているハンニバル。2人の存在には気付いてはいないようだが。。
「いいか須逹、私が先に仕掛ける。
お前は後方支援にて奴の動きを制御しろ」
「了解」
フォアは気配を殺し、ジリジリとハンニバルに忍び寄る。
その様子を物陰から見守るハッサク。
ハンニバルの背後までやってくると、フォアはチャージスピアの神機を構え、オラクルを貯め始める。
フォアの神機が次第に光り輝いていくのを見つめながら、ハッサクは不思議に思っていた。
(すごいエネルギーの集約だ。あれが当たれば例えハンニバルでも一溜まりもないな。。
だが、いささか溜め過ぎのような気もする。あれほど神機からオラクルを迸らせていたら、いくら捕食に夢中になっているとはいえ、容易に感づかれるというのに…
まるで避けて下さいと言ってるようなものだ)
ハッサクがそんな事を考えていることなどお構いなく、フォアのスピアは一直線にハンニバルの背を襲った。
しかし、ハンニバルは捕食をピタリと中断して素早く真上に飛び上がった。
結果は、誰もが予想した《空振り》だ。。
「フン…かかったな」
フォアが小さく呟いた後、スピアの根元付近から黒い物体が飛び出してきた。それはやがて口のような形になり、空中のハンニバルに噛み付いた。
「 ーー ‼︎」
そして今度は、捕食口を噛み付かせたまま、伸ばした部分を引っ込める。その時の勢いに乗じてフォアも高々と飛び上がる。
空中のハンニバルの目の前に躍り出た瞬間、捕食口を戻し神機を変型させて銃形態にする。
そして銃口をハンニバルの鼻っ面に当てがい。。
「消えろ」
放たれる炸裂弾。ショットガンによる至近距離射撃は威力も高く、まともに食らったハンニバルは一瞬にして地面に叩きつけられた。
轟音と共に砂煙が舞い上がる。
スマートに着地したフォアに、ハッサクが駆け寄ってくる。
「さ、さすがです、隊長。
スピアのチャージはわざと避けさせて捕食する為の布石だったんですね。。
そしてあの流れるような神機の変型、コンビネーション…とても自分には真似できません」
賞賛の言葉を並べるハッサクに向かって、フォアは掌を向けて制する。
「お喋りはそのくらいにしておけ。
奴とてこの程度でくたばるタマではなかろう。。
…私は後方支援をしろと言ったはずだ。下がれ」
冷たくあしらうフォアに若干イラつきを覚えながらも、素直に後退するハッサク。
砂煙が収まると同時に、ハンニバルがゆっくり歩み寄ってきた。
その頭部は表面の組織が剥がれ落ち、欠けた陶器のようになっていた。
そしてその口からは溢れんばかりの真紅の炎に満ちている ーー 怒りによる活性化だ。
「いよいよ拝めるな…貴様の《実力》を!」