野良犬の矜持   作:陰毛樽ないん?

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盲点

神機を再びスピアに戻したフォアと、顔面を破壊され活性化モードになったハンニバル。

両者の距離が3、4m程にまで縮まった時だった。

 

「っっつあ‼︎」

 

突然ハンニバルがクルリと背を向けたと同時に、鞭のような尻尾がフォアに襲いかかる。

しかし彼は軽く跳躍してかわし、スピアによる突き攻撃を繰り出す。

が、ハンニバルはこれを左腕の手甲で防いだ。スピアの刃先が手甲にめり込み、空中で動きが止まったフォアに…

ハンニバルの右腕が降り注ぐ。

 

「フン‼︎」

 

フォアはバースト中のみ使える空中ジャンプで右腕をかわし、神機を抜き取りつつハンニバルの頭上に舞い上がる。

そして。

 

「ハァッッ‼︎」

 

落下の勢いに乗せて全力でスピアをハンニバルの頭部に突き立てた。

 

スピアの刃はハンニバルの頭頂から顎下にかけてズブリと貫通し、勢い余って地面まで届いてしまった。

 

「あ…、あぁ…」

 

フォアの戦いぶりにただただ唖然とするハッサク。

自分の入る余地はないと確信していた。。

 

空中でスピアを抜き取り、着地するフォア。

ハンニバルはダメージのせいか踞って動かない。

 

「…妙だ」

 

「え…?何がです」

 

ふと呟いたフォアに向かって、すぐさま質問するハッサク。

 

「どうもあっさり攻撃が決まり過ぎている。

トルキスを全滅させた程の奴とはとても思えん…

怒り活性しても、オラクル濃度は並のハンニバルと同等ぐらいにしか上がらなかった」

 

「た、確かに…

ですが、まだ力を隠しているという可能性も⁉︎」

 

ハッサクの発言に、フォアは呆れ顔で首を横に振る。

 

「いいか、基本的にアラガミのオラクル濃度は怒り活性化して上昇した時に最高値を迎える。そしてそれ以上濃度が上昇することはありえんのだ。

従って、このハンニバルはこれ以上強くなる事はない。。

拍子抜けもいいところだ」

 

あからさまに面白くない顔をするフォアの通信機に、緊急信号が入る。

送ってきたのは、他でもない別働隊のヒロヒデ、カボスペアだった。

 

「何かあったのか…あちらにもわずかながらアラガミのオラクル反応があるな。。

須逹、援護に向かえ」

 

「え⁉︎…でも隊長は1人に…」

 

「この程度の相手なら私1人で十分だ!

それにあっちの方のアラガミはこのハンニバルより反応が弱い!お前が加勢して戦えば問題なく勝てるだろう。

早く行け‼︎」

 

「りょ、了解ッッ」

 

堰を切ったように駆け出していくハッサク。

そして、ようやく体勢を立て直したハンニバルがフォアと対峙する。

 

「かといって…私ものんびりはしておれんな。。

そろそろ決着をつけさせてもらうぞ‼︎」

 

 

 

 

 

フォアとハンニバルが交戦している摂社からはかなり離れた本殿に、怒号と銃声がこだまする。

 

「何なの!どうなってんのよ、これって⁉︎」

 

「んなこと俺が知るか‼︎ブリーフィングでは一体としか聞いてなかったんだからよ‼︎」

 

アラガミの猛攻に遭い、防戦一方になっているヒロヒデとカボス。

 

「痛っ…た!」

 

慣れない地形での戦闘で回避もままならず、地に足を取られたカボス。そこへアラガミが飛びかかるが ーー

 

「 ーー ⁉︎」

 

直後、アラガミの目の前を巨大な鎌が通過していった。

咄嗟にアラガミは空中からバック宙をして距離を置き、鎌が飛んで来た方向に向かって鋭い視線をやった。

 

「オイオイ…一体どうなってんだ、こりゃ⁉︎

なんで、ハンニバルがもう一匹いやがるんだ⁉︎」

 

鎌を戻し、姿を現したハッサクにカボスとヒロヒデが駆け寄る。

 

「ハッサク!どういうことなのか説明してよ‼︎

ハンニバルは隊長とアンタが戦ってるはずじゃなかったの⁉︎なんでそいつがココにいんのよ⁉︎」

 

「そんな大声出さなくても聞こえてるって…

俺にもわかんねえよ。でも隊長が現在ハンニバルとやり合ってるのは事実だ。。

これは、予想外の新手が来たと考えるしかねえだろう」

 

「へへ…たいそうな新手だぜ」

 

ハンニバルはハッサクの顔をまじまじと見つめた後、低く構えてにじり寄ってくる。

3人の表情が一気に引き締まり、一斉に神機を構える。

 

「いいか、ハンニバルには違いねえがオラクル反応はこちらの方が薄い…

つまり隊長が戦ってる方の奴よりは弱えはずなんだ。

3人で一斉にかかりゃ問題ねえ」

 

3人が互いを勇気付けるように顔を見合って頷き、再びハンニバルに目線を戻す。

…奴は、もうそこにはいなかった。

 

「 ーーウッ⁉︎」

 

「疾いッッ‼︎」

 

ハンニバルは丁度3人の間に入るように現れ、野太い尻尾を豪快に振り回す。

3人はそれぞれ装甲を展開してこれを防御、カボスとヒロヒデは踏みとどまったものの、バックラー装備だったハッサクは受けた衝撃が強く後方へ吹っ飛ばされてしまった。

 

これを機と見たハンニバルは追撃を仕掛けようとハッサク目掛けて飛びかかる、が。

 

「待ってたぜ、こっちへ来るのを!」

 

空中で体勢を戻したハッサクが飛びかかってくるハンニバルの腕に鎌を打ち込む。

鎌の柄がグングンと伸びて巻き付き、鎌の刃先が腕に突き刺さる。

すかさずプレデターを発動し、奴とすれ違いざまに《捕食》した。

 

「ヨシ…計算通りだ」

 

再び距離を取るハッサクとハンニバル。

ハンニバルは伸びた柄を掴み引き千切ろうとするが。。

 

「ケ、無駄だぜ。そんなモンで千切れる程、俺の神機はヤワじゃねえ。

それに今はバーストしてるんだ。。そう簡単にゃ外させねえぞ…」

 

両者がハッサクの神機を通じて引っ張り合い、綱引きのような状態になっている時、不意にハッサクの叫び声が響き渡る。

 

「カボスッ!今だッッ‼︎」

 

「任せなさい‼︎」

 

ブーストハンマーを掲げたカボスがハンニバルに向かって背後から飛びかかり、強烈な一振り《ブーストインパクト》を叩き込む。

ハッサクと引っ張り合うのに夢中になっていたハンニバルはカボスの攻撃に気付かず、まともに一撃を受けて吹き飛んだ。

そしてその先には。

 

「ついでにコイツも…食らっときな‼︎」

 

バスターブレードを振りかぶって力を溜めていたヒロヒデが、タイミングを見計らって神機を振り下ろす《チャージクラッシュ》を炸裂させた。

またもやまともに攻撃を受けたハンニバルは、鈍い衝撃音と共に地面に倒れ伏した。

 

「やったぜハッサク、どうだ俺のパワーは⁉︎」

 

「ちょっと!ヒロヒデの攻撃が決まったのは私の一撃があったからよ‼︎もっと私に感謝なさいよ⁉︎」

 

戦闘の真っ最中に、またいつもの調子になる2人。

ハッサクの表情は…やけに神妙だ。

 

「まだだ…終わりじゃねえ。。

見ろよお前ら…。ハンニバルのオラクル濃度は全然減ってねえだろ」

 

「あ…そういえば。。」

 

「そう、ね…」

 

3人が生唾を飲み恐る恐るハンニバルの方へ視線をやると…

奴は、何事もなかったかのように立ち上がっていた。。

 

「そんな…私の、渾身の力を込めたブーストインパクトだったのに…⁉︎」

 

「俺だって、あのチャージクラッシュは全力でやったんだぜ⁉︎なのにアイツ、まるでダメージなんか受けてねえじゃねえか‼︎

チクショウ…どうなってんだ⁉︎」

 

「お前ら、ちゃんと前見てろ‼︎」

 

驚愕の言葉を漏らすカボスとヒロヒデに、ハッサクの怒号が降りかかる。

しかしその時にはハンニバルは猛スピードでこちらとの距離を詰めていた。そして両腕を内側に畳む動作の直後、鋭い裏拳が両側にいたカボスとヒロヒデにそれぞれ直撃。今度こそは防御が間に合わず、2人は大きく仰け反って吹き飛んで行った。

 

「キサマ…‼︎」

 

逆上したハッサクが神機を横に向けて再び柄を伸ばし、柄についている細かい刃を大きくして鋭く尖らせた。

そしてそのままハンニバル目掛けて斬りかかっていく。

 

「 ーー⁉︎⁉︎」

 

だが、その一撃はハンニバルにあっさりと受け止められてしまう。

再び捕食をしようとプレデターを出すが…

それが届く前にハンニバルは身体を捻り、その勢いを尻尾に乗せてハッサクの脇腹に叩きつけてきた。

カウンター効果も相まって、ハッサクは地面に身体を打ち付けながら転がっていった。

 

「なんつぅ重い一撃だ…!アバラ、イッちまったかな。。」

 

苦悶の表情を浮かべながら、脇腹を抑えて立ち上がるハッサク。

するとどこからともなく緑色の光弾が飛来し、ハッサクに直撃。傷がみるみる癒えていった。

 

「ハッサク!大丈夫⁉︎」

 

「これは…回復弾か!サンキュー、カボス」

 

3人の中で唯一、銃形態も使えるカボスに感謝するハッサク。神機を構え直してハンニバルと対峙するが、どうも表情が浮かない。

 

「こいつ、ホントに変な奴だ。。確かにオラクル反応は隊長と戦っている個体に比べて低いのだが…

俺達が弱いだけなのか?…いや、3人の力を全て注ぎ込めば隊長一人分は悠に凌いでるはずだ。。なのになぜ…」

 

動きを見せず、思慮に浸っているハッサクの通信機が不意に鳴り出す。

慌ててスイッチを操作して通話モードにすると。

 

“ハッサク!聞こえてっか⁉︎”

 

「⁉︎セマノブか⁉︎」

 

突然のセマノブの通信に驚きを隠せないハッサク。

インカムを付け直し、ハンニバルとさらに距離を置く。

 

「なぜアンタが…ていうか、それはオペレーターの通信回線じゃねえのか⁉︎」

 

“ああ、そうだ。ちょいとオペレーターのお嬢さんに頼んでよ、今だけ特別に喋らせてもらってんだ!

それより、よく聞け!おめえらが今戦ってる相手、そいつがハンニバル・ゲンだ‼︎”

 

「な…⁉︎⁉︎」

 

その名を聞いた途端、瞬時に凍りつくハッサク。

セマノブの声はでかく、普通に音漏れしていた為にカボスとヒロヒデの耳にも入った。

2人も、ハッサクと同じような反応を見せた。。

 

「ちょ…待てよ。。

そんなハズは…第一、こいつは隊長が相手してる奴よりオラクル反応がはるかに弱えんだぜ⁉︎

これをどう説明するんだ⁉︎」

 

“お前らは戦いに夢中になってて気付いてねえだろうが、奴は攻撃する瞬間と攻撃を受ける瞬間のみ、一気にオラクル濃度を高めてるんだ!

お前らの攻撃がてんで効かねえのも、奴の攻撃の一つ一つが重いのもそのせいだ!”

 

「そ、そうだったのか。。

道理でおかしいとは思ってたが…こりゃあヤベエってことだな、とてつもなく」

 

ハッサクの神機を持つ手は汗まみれになっている。

顔は冷や汗でびっしょりだ。。

 

“助けに行ってやりてえのは山々なんだが…この前のピターの時のようにはいかねえんだ。。”

 

「な、何でだよ⁉︎理由でもあるのか⁉︎」

 

“ああ…そのミッションは俺だけじゃなく、この支部のほぼ全ての部隊がモニタリングしてる。そんな中で所属隊員でもねえこの俺が向かっていってみろ。

恐らく懲罰査問会どころの騒ぎじゃなくなるぜ。

俺自身はどうなろうと構わんが、お前らに迷惑を掛けるような事はしたくねえ”

 

申し訳無さそうな口振りで言うセマノブ。

だがハッサクは悲観する様子もなく、ふぅっと軽く息を吐いてまた表情を引き締めた。

 

「そうかい。そいつは残念だ」

 

“すまねえな、ハッサク…”

 

「そうじゃねえ。

俺が奴をぶっ倒すところを間近で見せられないことがだ‼︎」

 

ハッサクは勢いよく言い放ち、通信を切った。

その表情は再び自身に満ち溢れたものになっている。

 

「カボス‼︎アラガミ弾は持ってるか⁉︎」

 

「え、ええ、ハッサクが来る前に、奴には何度か捕食攻撃を当てたから。。

でもこんなの撃ったところで効きそうな気は全くしないわ…」

 

「違う。撃つ相手はゲンじゃなくてこの俺だ」

 

「何でアンタに?…ま…まさか⁉︎」

 

カボスがようやく意味を悟った時、ハッサクの顔から不敵な笑みがこぼれた。

 

「そう、《リンク・バースト》だ‼︎

こいつに、賭ける‼︎」

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