カランッ♪
「いらっしゃいませ」
やあ、みんな♪僕の名前は食パンマン♪
かつてヒーローとして活動していた男さ!
「しょ、食パンマン!?」
うん?何処かで見た顔だな…?
あれ!?もしかして…
「君は…カバオ君かい!?久しぶりだね!」
「久しぶり!食パンマン!!ドキンちゃんと他の星に移住したって聞いたけど戻ってきたの?」
「うん、そうだよ♪」
「しかし驚いたよ♪仕事のついでにパン屋さんによったら食パンマンが出てくるなんて♪」
久しぶりの再会だからだろうか…僕たちの会話も弾む。
「だろうね♪かつてのヒーローがパン屋をやっているなんて誰も思わないよね♪」
そう、僕は今パン屋さんを営んでいる。
「へぇ~そうなんだ♪でもなんでパン屋さんを?」
カバオ君もやっぱりそこが気になるのか…
「色々…あったんだよ…」
「え!?どんなことがあったの?」
彼は目を輝かせながら僕にそう聞いてきた。
「聞きたいのかい?」
「勿論!」
「良いよ♪…そうだな、なら僕が他の惑星に移住した頃から語ろうかな…」
「食パンマン…また不採用だったの」
僕が他の惑星に移住してまだ間もない頃…
「ゴメンよ…ドキン…」
僕は…無職だった…
「ううん、仕方ないよ…」
僕は、ドキンと…
「パパー♪ママー♪」
僕たち二人の愛の結晶である息子と三人で暮らしていた…
「でも、はやく仕事を見つけないと…お金が…」
そう…僕たちにはお金がなかった…家はボロボロのアパート…コツコツ貯めていた貯金でなんとか食べていけたけど、それももうすぐ尽きようとしていた。
「うん…無茶しないでね…食パンマン」
彼女はそんな僕を支えてくれる…僕には出来すぎた妻だった…
「うん…」
だから僕は彼女と息子の為にも仕事を見つけなければならない…だけど…
「フム、前職はヒーロー?…うちではちょっと…」
「君、資格は?え…ない?」
「やる気はあります…それだけだとちょっと…ねぇ?」
ここでは僕の、ヒーローとしての肩書きも、実績も通用しなかった。
来る日も来る日も、面接して返ってくるのは不採用ばかり…やがて僕の心は荒んでいった…
そして…
「食パンマン!いい加減にしてよ!!」
最愛の人からの怒声…
「うるさい!酒を持ってこい…!!ヒクッ」
僕は酒に溺れていた…そうすることでしか苦痛から逃れる術を知らなかったから…
「パパァ!ママァ!」
息子の、鳴き声…しかし僕は…
「喧しいぞ!黙れ!!」
ただただ怒鳴り付けるだけだった…
そうした日々を続けるうちに…
「もう貴方のことなんか知らない!…結婚なんてするんじゃなかった」
妻と息子は出ていった…
それでも僕は酒を飲み続けた…借金までして…
やがてアパートからも追い出された…
それでも…僕は飲み続けた…
フラフラと当てもなくさ迷いながら…
そしてとうとう体の方にもガタが来たのだろう…
僕は意識を失った…
「…ウ…!?」
目を覚ますとそこは何処か懐かしい雰囲気のする部屋だった…
「此処は…?」
どこだろう?そう疑問に思ったとき…
「目が覚めたようだね」
え!?この声は…僕は思わず声のする方向を見ると…
「どうやら驚かせてしまったようだね…」
あ…あり得ない…だって…あの人は…もう!?
「ジャ、ジャムおじさん…!?」
ジャムおじさん…アンパンマンによって殺されてしまった…僕にとっては偉大な人だ…
「ジャムおじさん?誰じゃそれは?」
しかし、彼はどうやら別人のようだった…
「すみません…昔の僕の知り合いと似てたものですから…」
そうだ…彼はもういない…
「此処は…何処ですか?」
僕は彼にそう聞いた…
「ここはワシのパン工場じゃ…申し遅れたな…ワシの名はチャップじゃ」
チャップさんと言うのか…しゃべりかたといい、職業といいあの人にそっくりだ…
「助けて頂いたようでありがとうございます…僕の名前は食パンマンと申します」
「いい名前じゃな…しかし何故あんなところで倒れていたのじゃ?」
それは当然の疑問だろう…
「実は…」
僕は、チャップさんにすべて話した。倒れていた理由、かつてヒーローとして活動していたこと、妻と出会いこの星に移住したこと、就職先が見つからず酒に溺れていったこと、それが原因で妻子に逃げられたことまで…
チャップさんはただただ黙って僕の話を聞いてくれた…
「そうか…それは大変だったね…ところで…お腹は空いてないかい?」
そう言われると確かに…
「これをお食べ」
僕を見て感じ取ったのだろう…チャップさんは僕にそういってパンを差し出した…
「いただきます…」
僕はそう言いパンをひとかじりした…
美味い…だけどそれだけじゃない…これは…この味は…!?
この味はかつて…僕たちがヒーローとして活動していた頃に味わっていた…
ジャムおじさんのパンの…
「ウウッ!ウッ…」
僕の目から涙があふれ出した…
「どうしたんじゃ!急に泣き出したりして…」
僕はチャップさんの心配を他所に、ただただ泣き続けた…
「ごめんなさい…いきなり泣き出したりして…」
「大丈夫かね?」
「ええ…チャップさん一つお願いがあります…」
「次から次へと急に…何かね…」
チャップさんは呆れながらも僕のお願いを聞いてくれるようだ…
「僕を…雇ってください!!」
僕は土下座をして彼にそう頼み込んだ。
「おい!?とにかく頭を上げてくれ!!」
チャップさんは驚き、慌てたように僕にそう言った…
それでも僕は頭を上げなかった。
「全く…雇うのは構わんが何故ワシのところで働きたいのか理由を教えてくれんかね?」
チャップさんはそう僕に聞いてきた…
「チャップさんのパンを食べて思い出したんです!僕が尊敬し慕っていた…偉大な人を…!僕はいまはただのクズだ…過去は変えられない…だけど未来は変えられる!一からやり直したいんです!偉大なあの人のようにみんなを笑顔に…そして僕を助けてくれたチャップさんのように…!だから…お願いします!」
僕はひたすら思いの丈をぶつけた…
「ワシの教えは厳しいぞ…それでもいいのか…?」
チャップさんは僕にそう言った…答えは勿論…
「よろしくお願いします!」
その日から、僕はパン職人の道を歩んだ…
その道は勿論厳しかった…何度も心が折れそうになった…それでも僕は働き続けた…毎日、毎日…
そして年月がたち…
「今は独立してパン屋を開いたというわけさ!」
「へぇ~そうだったんだ」
カバオ君は相当話に引き込まれたらしい…話し手としても嬉しいことだ♪
「でも…それじゃあ…」
彼は気まずそうな表情を浮かべそう言った…そう言えばまだ言ってないことがあるんだった…
「貴方~♪」
おっ!ちょうどいいところに来た!
その声を聞いたカバオ君は間抜けな顔になる。
スゴく面白い表情だ♪
「ドキンちゃん!?あれ!?どうして??」
カバオ君は大分困惑してるようだ。
「実はパン職人を続けていくうちに戻ってきてくれたんだ♪」
「なんだそうだったのか♪良かった~」
カバオ君は自分のことのように嬉しそうにそう言った。相変わらず優しい子だ…だけど…
「ところで…仕事のほうは大丈夫かい?」
僕がそう言うとカバオ君は自分の左手に着けている腕時計を見て、顔色が真っ青に変わっていった…
「いけない!もうこんな時間か…そろそろ僕は行くよ!!…息子さんにも合いたかったけど…」
「息子はバイキンマンのもとで働いてるから今日はいないよ」
「そうなんだ…凄いな~♪」
そういってもらえると嬉しい♪僕とドキンにとって自慢の息子だから…
「またパンを買いに来るよ♪それじゃ!」
「うん♪是非来てね!ありがとうございました~♪」
カバオ君が笑顔でそう言ってくれたのが嬉しくて、僕も笑顔で見送った。
そう…かつて人々から尊敬されたヒーローとしての僕はもういない…
だけどみんなを笑顔にしたい気持ちはあの頃と変わらない…
だから僕は戦い続ける!
僕がかつて尊敬し、未だ目標として僕の道を照らしてくれる偉大な人達と同じパン職人として…
Fin
以上で今回の話は終了です♪
ちなみにチャップはケチャップから取ってます♪